5 / 6
5
しおりを挟む
それは明らかに夢だった。
私の目の前に立つ、全長六メートルの巨大なダビデ様。股の付け根のソレには、ちゃんとモザイクがかかって適切な配慮がなされていた。誰のための配慮かは私にはわからない。夢なんてそんなものだ。
ダビデ様が私を見下ろして険しい表情をする。
私はダビデ様のそんな表情に、なぜかとても寂しい気持ちがした。
「ダビデ様……、なんで私にそんな顔をなさるのですか? 私はあなたのおっぱいを五年間も無心で描き続けてきたというのに……」
私はダビデ様の目を見て言った。
ダビデ様は物憂げな表情をして、私に返す。
『なぜ? それはお前が一番よくわかっていることだろう?』
「私が?」
『そうだ。自分の胸に手を当てて、よく考えてみよ』
ダビデ様に言われ、私は仕方なく、そっと自分の胸に手を当てた。
理由はすぐにわかった。
「……私が、おっぱいに対して不誠実だったから」
ダビデ様はうなずいた。
『そうだ。無我夢中でおっぱいを描いていた日々のことを思い出してみよ。あの時、あの時間、お前は誰よりもおっぱいに対して誠実だった。しかし、今のお前はおっぱいに対して嘘をつこうとしている』
「……おっぱいに……嘘を」
私はそう言って、うつむいた。
ダビデ様はそんな私の顔を覗き込むようにし、暖かな視線を送る。
『大葉菜津。お前が彼に真摯であろうとする限り、彼もまたお前に真摯であろうとするだろう。おっぱいを真摯に愛するように、彼もまた真摯に愛すればよいのだ』
ダビデ様は言った。
すると、ダビデ様の姿がどんどんと薄くなっていく。
「待ってください! ダビデ様! 私はまだ……!」
やがて、ダビデ様は完全な闇の中へと消えていった。
「ダビデ様! ダビデ様ぁぁぁ―――!」
その瞬間、私はベッドの上で目覚めた。
部屋はまだ暗かった。
薄目をして時計を見てみると、まだ時間は午前三時だった。
(ひどい夢だった)
……色んな意味で。
私は頭を抱えてうつむいた。
こんな夢を見てしまったのは、きっと寝る前にずっとダビデ様のおっぱいを描いていたからだろう。
ひどく喉の乾きを感じた私は、部屋を出て一階のリビングへ向かった。冷蔵庫の中に入れてあった麦茶をコップに注いで飲む。
それから両親を起こさないよう、足音を殺しながら自分の部屋へと戻った。
部屋に戻ってみると、私の目の前に大量のスケッチブックが入った箱が見えた。
私は明かりをつけて、その箱のスケッチブックを一冊手にとった。
スケッチブックには、中学の時に描いた石膏スケッチがあった。
ページにぎっしりとスケッチされた石膏のおっぱい。
(……下っ手くそ)
量感の表現も、陰影の表現の仕方もまるでなっていなかった。
私は過去の自分の絵に、思わず笑ってしまった。
けれど、スケッチブックに描かれたおっぱいは、とても生き生きとしていた。
好きなものをひたむきに描いている、躍動感のある絵だった。
今の私に、こんな心の底にある感情を動かすような絵は描けるだろうか。
(真摯に愛せよ、か)
私はスケッチブックを机に置き、下手くそなおっぱい画に修正を加えていった。
私の目の前に立つ、全長六メートルの巨大なダビデ様。股の付け根のソレには、ちゃんとモザイクがかかって適切な配慮がなされていた。誰のための配慮かは私にはわからない。夢なんてそんなものだ。
ダビデ様が私を見下ろして険しい表情をする。
私はダビデ様のそんな表情に、なぜかとても寂しい気持ちがした。
「ダビデ様……、なんで私にそんな顔をなさるのですか? 私はあなたのおっぱいを五年間も無心で描き続けてきたというのに……」
私はダビデ様の目を見て言った。
ダビデ様は物憂げな表情をして、私に返す。
『なぜ? それはお前が一番よくわかっていることだろう?』
「私が?」
『そうだ。自分の胸に手を当てて、よく考えてみよ』
ダビデ様に言われ、私は仕方なく、そっと自分の胸に手を当てた。
理由はすぐにわかった。
「……私が、おっぱいに対して不誠実だったから」
ダビデ様はうなずいた。
『そうだ。無我夢中でおっぱいを描いていた日々のことを思い出してみよ。あの時、あの時間、お前は誰よりもおっぱいに対して誠実だった。しかし、今のお前はおっぱいに対して嘘をつこうとしている』
「……おっぱいに……嘘を」
私はそう言って、うつむいた。
ダビデ様はそんな私の顔を覗き込むようにし、暖かな視線を送る。
『大葉菜津。お前が彼に真摯であろうとする限り、彼もまたお前に真摯であろうとするだろう。おっぱいを真摯に愛するように、彼もまた真摯に愛すればよいのだ』
ダビデ様は言った。
すると、ダビデ様の姿がどんどんと薄くなっていく。
「待ってください! ダビデ様! 私はまだ……!」
やがて、ダビデ様は完全な闇の中へと消えていった。
「ダビデ様! ダビデ様ぁぁぁ―――!」
その瞬間、私はベッドの上で目覚めた。
部屋はまだ暗かった。
薄目をして時計を見てみると、まだ時間は午前三時だった。
(ひどい夢だった)
……色んな意味で。
私は頭を抱えてうつむいた。
こんな夢を見てしまったのは、きっと寝る前にずっとダビデ様のおっぱいを描いていたからだろう。
ひどく喉の乾きを感じた私は、部屋を出て一階のリビングへ向かった。冷蔵庫の中に入れてあった麦茶をコップに注いで飲む。
それから両親を起こさないよう、足音を殺しながら自分の部屋へと戻った。
部屋に戻ってみると、私の目の前に大量のスケッチブックが入った箱が見えた。
私は明かりをつけて、その箱のスケッチブックを一冊手にとった。
スケッチブックには、中学の時に描いた石膏スケッチがあった。
ページにぎっしりとスケッチされた石膏のおっぱい。
(……下っ手くそ)
量感の表現も、陰影の表現の仕方もまるでなっていなかった。
私は過去の自分の絵に、思わず笑ってしまった。
けれど、スケッチブックに描かれたおっぱいは、とても生き生きとしていた。
好きなものをひたむきに描いている、躍動感のある絵だった。
今の私に、こんな心の底にある感情を動かすような絵は描けるだろうか。
(真摯に愛せよ、か)
私はスケッチブックを机に置き、下手くそなおっぱい画に修正を加えていった。
0
あなたにおすすめの小説
ちゃんと忠告をしましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。
アゼット様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
聖女は聞いてしまった
夕景あき
ファンタジー
「道具に心は不要だ」
父である国王に、そう言われて育った聖女。
彼女の周囲には、彼女を心を持つ人間として扱う人は、ほとんどいなくなっていた。
聖女自身も、自分の心の動きを無視して、聖女という治癒道具になりきり何も考えず、言われた事をただやり、ただ生きているだけの日々を過ごしていた。
そんな日々が10年過ぎた後、勇者と賢者と魔法使いと共に聖女は魔王討伐の旅に出ることになる。
旅の中で心をとり戻し、勇者に恋をする聖女。
しかし、勇者の本音を聞いてしまった聖女は絶望するのだった·····。
ネガティブ思考系聖女の恋愛ストーリー!
※ハッピーエンドなので、安心してお読みください!
双子の姉がなりすまして婚約者の寝てる部屋に忍び込んだ
海林檎
恋愛
昔から人のものを欲しがる癖のある双子姉が私の婚約者が寝泊まりしている部屋に忍びこんだらしい。
あぁ、大丈夫よ。
だって彼私の部屋にいるもん。
部屋からしばらくすると妹の叫び声が聞こえてきた。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる