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2章
2-4 仕事がない!(2) 祈り、働け
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朝食が配膳担当のシスター達によって運び込まれる。食堂はすでに百人以上の同じ黒と白の修道服を着たシスター達であふれていた。
そこへ、シスター・アメルが三人のシスターを引き連れて食堂へとやって来る。シスター・アメルは歩きながら私の姿をちらっと見た後、私達が座っているのと反対側の席へと腰を下ろした。
やがて配膳が終わり、全てのシスターが席に座ると、誰が指示するわけでもなく、食堂はしんと静まり返った。
そして、シスター・アメルと二人のシスターが立ち上がり、午後の労働の分担を発表し始める。
分担の発表は、まず仕事内容をシスター・アメル達が言った後、担当するシスターの名前を何人かまとめて呼び、呼ばれたシスターが「はい」と言って答える、という流れに従って進められていった。
そして、ひとしきりシスターの名前を呼び終わった後、
「――では、誰か質問のあるシスターは?」
シスター・アメルがいつもの淡々とした調子で、食堂にいるシスター達に尋ねた。
再び、しんと静まりかえる食堂。
その時、静寂を割るようにして、私は声をあげながら手を挙げた。
「はい! シスター・アメル! 私の名前が呼ばれていませんが、私は何の仕事をすればよろしいですか?」
食堂にいるほとんどのシスターが、私に注目をした。
シスター・アメルは溜め息をついた。
「シスター・オーレリア。本日、あなたに仕事はありません。あなたはまだここに来たばかりですから、しばらくはこの修道院での生活に慣れることに集中なさい」
「しかし――」
そのまま私が言葉を続けようとした時、隣にいたシスター・アーニャが私の修道服を引っ張った。そして彼女は鋭い視線を私に送り、そのまま黙って席につくようにうながした。
「……いえ、申し訳ありません。シスター・アメルの仰られるとおりにいたします」
私は言った。
「よろしい。では他に質問もないようですので、食前の祈りをささげましょうか。――シスター・マドレーヌ、祈りの言葉を」
「はい!」
シスター・アメルに名前を呼ばれ、シスター・マドレーヌが元気よく立ち上がる。すると、シスター・マドレーヌは、ちらっと一度私に目をやって、勝ち気な笑みを私に向けた。
そして、シスター・マドレーヌはそっと両手を組み、まぶたを閉じて祈りの言葉を暗唱しはじめる。
そんな彼女の仕草を見て、私も他のシスター達と同樣に、机の上で両手を組んだ。
「我が主よ、今日もお恵みをいただき感謝いたします。この食事を祝福し、この食物が我らの心と体の糧となりますように。あなたの慈悲と恵みが、今日飢えている他の者達にも等しく与えられますように。……コグ・オーラ・エ・ラボーラ」
『コグ・オーラ・エ・ラボーラ』
食堂にいるシスター達が、その聖句を一斉に口ずさんだ。
コグ・オーラ・エ・ラボーラ、
……それは古い言葉で『私は祈り、そして働きます』という意味だ。
この大陸で信仰されている宗教では、労働は祈りと等価値とされている。たとえ祈りをささげられなくても頑張って働いている人には、必ず主の恵みが与えられるという考えなのである。
「どうしてそんなに働きたいのかね……?」
私のベッドに腰かけて、シスター・アーニャが修道服のすそを上下させてぱたぱたとあおいだ。
私は椅子に座りながらテーブルにひじをつき、そんなシスター・アーニャの姿をうらめしそうに眺める。
「シスター・アーニャはどうしてそんなに働きたくないんですか?」
「そりゃもちろん、手が荒れるからよ」
からからと笑うシスター・アーニャ。ベルゾーニ公爵夫人ですら修養のために花壇の整備をしているというのに、この人はまったく働く気がなさそうだった。
「それはそうとね、シスター・レーア。シスター・アメルに口答えするのはよろしくないよ。あれはまずい」
「口答えだなんて! 私はシスターとしての責務を果たすために、何か仕事がしたかっただけです」
私が言うと、シスター・アーニャは私の言葉を鼻で笑った。
「シスターの責務……ね」
「何かおかしいことを言いましたか?」
少なくとも、私は言った気がなかった。
「いえ。別に」
ふふふ、と含み笑いをして見せるシスター・アーニャ。
「……ただね、シスター・レーア。貴族には貴族のプライドとルールがあるように、聖職者には聖職者のプライドとルールがあるのよ。どんなに規則を破ったって、そこだけは絶対に尊重しないといけない」
「私、規則破りをするつもりはないんですけど……」
私は言った。
すると、シスター・アーニャは微笑みながらベッドから立ち上がり、部屋から出ていこうとした。
「あの、シスター・アーニャ。どこへ行かれるのですか?」
「森に絵を描きに行くのよ。あなたも一緒に来る?」
「……いえ、遠慮しておきます」
「そう。それじゃあね、シスター・レーア。また夕食で」
シスター・アーニャが去っていく
一人部屋に残された私は心細くなってしまったのを感じた。
私はまだシスター・アメルに教育係を付けてすらもらっていなかった。わからないことがあっても、質問できる先輩シスターがいないのだ。
シスター・アーニャの誘いを断ってしまったことを、私は少しだけ後悔した。
とはいえ、シスター・アメルから悪い手本だと言われており、他のシスター達からあまり良く思われていないらしいシスター・アーニャと仲良くしすぎることは、不良シスターの道を突き進むことに他ならない。
部屋にいても特にやることもなかったので、私は仕方なく女子修道院の近くを散歩してみることにした。
そこへ、シスター・アメルが三人のシスターを引き連れて食堂へとやって来る。シスター・アメルは歩きながら私の姿をちらっと見た後、私達が座っているのと反対側の席へと腰を下ろした。
やがて配膳が終わり、全てのシスターが席に座ると、誰が指示するわけでもなく、食堂はしんと静まり返った。
そして、シスター・アメルと二人のシスターが立ち上がり、午後の労働の分担を発表し始める。
分担の発表は、まず仕事内容をシスター・アメル達が言った後、担当するシスターの名前を何人かまとめて呼び、呼ばれたシスターが「はい」と言って答える、という流れに従って進められていった。
そして、ひとしきりシスターの名前を呼び終わった後、
「――では、誰か質問のあるシスターは?」
シスター・アメルがいつもの淡々とした調子で、食堂にいるシスター達に尋ねた。
再び、しんと静まりかえる食堂。
その時、静寂を割るようにして、私は声をあげながら手を挙げた。
「はい! シスター・アメル! 私の名前が呼ばれていませんが、私は何の仕事をすればよろしいですか?」
食堂にいるほとんどのシスターが、私に注目をした。
シスター・アメルは溜め息をついた。
「シスター・オーレリア。本日、あなたに仕事はありません。あなたはまだここに来たばかりですから、しばらくはこの修道院での生活に慣れることに集中なさい」
「しかし――」
そのまま私が言葉を続けようとした時、隣にいたシスター・アーニャが私の修道服を引っ張った。そして彼女は鋭い視線を私に送り、そのまま黙って席につくようにうながした。
「……いえ、申し訳ありません。シスター・アメルの仰られるとおりにいたします」
私は言った。
「よろしい。では他に質問もないようですので、食前の祈りをささげましょうか。――シスター・マドレーヌ、祈りの言葉を」
「はい!」
シスター・アメルに名前を呼ばれ、シスター・マドレーヌが元気よく立ち上がる。すると、シスター・マドレーヌは、ちらっと一度私に目をやって、勝ち気な笑みを私に向けた。
そして、シスター・マドレーヌはそっと両手を組み、まぶたを閉じて祈りの言葉を暗唱しはじめる。
そんな彼女の仕草を見て、私も他のシスター達と同樣に、机の上で両手を組んだ。
「我が主よ、今日もお恵みをいただき感謝いたします。この食事を祝福し、この食物が我らの心と体の糧となりますように。あなたの慈悲と恵みが、今日飢えている他の者達にも等しく与えられますように。……コグ・オーラ・エ・ラボーラ」
『コグ・オーラ・エ・ラボーラ』
食堂にいるシスター達が、その聖句を一斉に口ずさんだ。
コグ・オーラ・エ・ラボーラ、
……それは古い言葉で『私は祈り、そして働きます』という意味だ。
この大陸で信仰されている宗教では、労働は祈りと等価値とされている。たとえ祈りをささげられなくても頑張って働いている人には、必ず主の恵みが与えられるという考えなのである。
「どうしてそんなに働きたいのかね……?」
私のベッドに腰かけて、シスター・アーニャが修道服のすそを上下させてぱたぱたとあおいだ。
私は椅子に座りながらテーブルにひじをつき、そんなシスター・アーニャの姿をうらめしそうに眺める。
「シスター・アーニャはどうしてそんなに働きたくないんですか?」
「そりゃもちろん、手が荒れるからよ」
からからと笑うシスター・アーニャ。ベルゾーニ公爵夫人ですら修養のために花壇の整備をしているというのに、この人はまったく働く気がなさそうだった。
「それはそうとね、シスター・レーア。シスター・アメルに口答えするのはよろしくないよ。あれはまずい」
「口答えだなんて! 私はシスターとしての責務を果たすために、何か仕事がしたかっただけです」
私が言うと、シスター・アーニャは私の言葉を鼻で笑った。
「シスターの責務……ね」
「何かおかしいことを言いましたか?」
少なくとも、私は言った気がなかった。
「いえ。別に」
ふふふ、と含み笑いをして見せるシスター・アーニャ。
「……ただね、シスター・レーア。貴族には貴族のプライドとルールがあるように、聖職者には聖職者のプライドとルールがあるのよ。どんなに規則を破ったって、そこだけは絶対に尊重しないといけない」
「私、規則破りをするつもりはないんですけど……」
私は言った。
すると、シスター・アーニャは微笑みながらベッドから立ち上がり、部屋から出ていこうとした。
「あの、シスター・アーニャ。どこへ行かれるのですか?」
「森に絵を描きに行くのよ。あなたも一緒に来る?」
「……いえ、遠慮しておきます」
「そう。それじゃあね、シスター・レーア。また夕食で」
シスター・アーニャが去っていく
一人部屋に残された私は心細くなってしまったのを感じた。
私はまだシスター・アメルに教育係を付けてすらもらっていなかった。わからないことがあっても、質問できる先輩シスターがいないのだ。
シスター・アーニャの誘いを断ってしまったことを、私は少しだけ後悔した。
とはいえ、シスター・アメルから悪い手本だと言われており、他のシスター達からあまり良く思われていないらしいシスター・アーニャと仲良くしすぎることは、不良シスターの道を突き進むことに他ならない。
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