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4章
4-2 5年ぶりの再会(2) 見慣れれば優しくて知的なお顔
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アルバートと再会して、私はしばらく涙を流し続けていた。
しかし、他の修道士達が大聖堂から出ていく姿が見え、新人修道士であるアルバートにはあまり自由に動ける時間がないことに、私は気付いた。シスターよりも修道士の方がずっと制約の多い生活をしているのだ。
彼は自分の時間を削って私と一緒にいてくれている。
そう思った私は涙を拭いて尋ねた。
「アルバート様。どうして修道士に?」
アルバートは、私に一度うなずいてから答える。
「次兄のフェルナンの薦めです。レオノールとフェルナンの継承争いが表面化する中で、レオノールが私に危害を加えるかもしれないと案じてくれたのです」
「……なるほど、フェルナン様が」
確かに、教会に入って聖職者になってしまえば、レオノールはうかつにアルバートに手を出すことは出来ない。もしも彼が聖職者に手をかけたという風評が広まれば、教会は次男のフェルナンを支持することになるだろう。
「とにかく、また会えて良かったです。四年前、内戦が始まるかも知れないと知らされた時から、私はずっとあなたの無事を案じていました」
私は言った。
「それは私もです。オーレリア……いえ、シスター・オーレリア」
アルバートが微笑みながら返した。
「ところで、ブラザー・アルバート。お時間は大丈夫ですか? 男子修道院の方はもうじき夕方のお祈りの時間でしょう」
「はい。そろそろ修道院に戻らなくてはなりません」
「でしたら、もう修道院に戻りなさい。レディを残して先に去ってはいけないなどという、貴族の男子のマナーを律儀に守る必要はありません。あなたはもう、ブラザーなのですから」
アルバートは笑った。
「そうですね。では、先に失礼いたします。シスター・オーレリア」
「ええ。時間がある時に、また会いましょう。ブラザー・アルバート」
私が笑顔でそう言うと、アルバートは、また、と一言だけ言ってその場を去っていった。
彼の長衣を着た後ろ姿をじっと見つめながら、私は胸がばくばくと高鳴りしていくのを感じた。
(……やった……、やったああああああああ!)
アルバートの姿が見えなくなった後、私は女子修道院の方へと走っていった。
「――レーア様。先に謝っておきます。無礼なことを言って申し訳ありません」
ファリンダが、椅子に腰かける私を見下ろしながら言った。
「レーア様、馬鹿なんですか?」
呆れ顔で言って、溜め息をつくファリンダ。
それから彼女は私の修道服を太もものあたりまでめくり、怪我をした私の膝に水をかけて傷口を洗った。
「いくらアルバート様に五年ぶりに再会出来たのが嬉しかったからと言って、夜道で走って転ぶなんて、子どもですか? ……いや、孤児院の子達ですらしませんよ。そんな馬鹿な真似」
私は黙ってファリンダの説教を聞いた。
怪我の手当てまでさせてしまっている以上、何も否定できない。
「……それで、次にお会いする約束は取り付けたのですか?」
ファリンダは聞いた。
私は天井に視線を向け、彼女の視線をかわした。
「ちょっと、レーア様。何をやっているんですか」
再び溜め息をつくファリンダ。
「相手は一日中、ほとんど休むことなく労働と修養をしている修道士ですよ? いつかまた会えたらなんて言ってたら、いつまで経っても会えないじゃないですか」
「……だって、会えただけで嬉しすぎて、そこまで考えが回らなかったのだもの。仕方ないじゃない」
私の言い訳めいた発言に、三度溜め息をつくファリンダ。
「ほんっと、レーア様は恋愛事に関してだけはダメダメですね」
そう言いながらファリンダは私の膝の処置を終え、捲くった修道服を元に戻す。そして、いつものように私のベッドに腰かけた。
私はそんな彼女を見ながら言った。
「……どうすればいいと思う、ファリンダ?」
「知りませんよ。私はアルバート様に一度もお会いしたことがないのですから、私に意見を聞かれても困ります」
「アルバートがどうこうじゃなくて、一般的な意見を聞いているの。他のシスター達からブラザーとの恋愛の相談を受けたりすることくらいあるのでしょ?」
ファリンダは人差し指を頬にあて、考える仕草をした。
「そりゃあまあ……、ないわけでもないですけど」
ファリンダは言った。
私は椅子から飛び上がり、ベッドに縁に座るファリンダの隣に腰を下ろした。
「……それで? いつもはどんなアドバイスをしているの?」
私は言った。
すると、ファリンダは私の顔をじっと見た。
「あの、一つだけお聞きしていいですか?」
「なに?」
「レーア様はこの先、アルバート様とどういう関係になられたいのですか?」
真剣な顔をして聞くファリンダ。
そんな彼女の表情に、私は真面目に答えなければならないと思い、胸にそっと手を当てて考えてみた。
けれど。
「……よくわからない。ずっと一緒に居たいとは思うけれど、教会を出て彼と結婚したいとは思えない。きっと、それは彼を不幸にするだけだもの」
「もしかして、レーア様は、ご自分のお顔のことを気にされているのですか?」
そう言って、ファリンダは私の痘痕に手を触れた。
「それも……まあ、理由の一つね。否定はしない」
ファリンダは私の頬を両手で触れる。
「私はレーア様のお顔が大好きですよ。お優しくて、知的で」
「それはあなたが、いつも一緒に居て私の顔を見慣れているからでしょう?」
私は言った。
ファリンダは微笑む。
「そうですね。でもそれを言い返せば、見慣れれば優しくて知的なお顔っていうことじゃないですか?」
そう言ったファリンダの顔を見て、私は姉のメリッサのことを思い出した。私が顔のことで誰かから馬鹿にされた時、いつだってメリッサお姉様はそんな言葉で私をなぐさめてくれた。
「レーア様は私が知っている中で一番素敵な女性です。私の憧れなんです。だから、もっと自分に自信を持ってください」
「ありがとう、ファリンダ」
私は笑った。
ファリンダも笑った。
「では、レーア様。頑張って、まずは毎日必ず、挨拶程度でもかまいませんから、アルバート様とお話をするようにしてくださいね?」
「えっ……いや、あの……私、書庫の仕事が……」
私は言った。
ファリンダは聞き流した。
「してくださいね?」
私は答える。
「……はい」
「よろしい」
シスター・アメルの真似をして言った後、ファリンダは自分の額を私の額にくっつけて笑った。
しかし、他の修道士達が大聖堂から出ていく姿が見え、新人修道士であるアルバートにはあまり自由に動ける時間がないことに、私は気付いた。シスターよりも修道士の方がずっと制約の多い生活をしているのだ。
彼は自分の時間を削って私と一緒にいてくれている。
そう思った私は涙を拭いて尋ねた。
「アルバート様。どうして修道士に?」
アルバートは、私に一度うなずいてから答える。
「次兄のフェルナンの薦めです。レオノールとフェルナンの継承争いが表面化する中で、レオノールが私に危害を加えるかもしれないと案じてくれたのです」
「……なるほど、フェルナン様が」
確かに、教会に入って聖職者になってしまえば、レオノールはうかつにアルバートに手を出すことは出来ない。もしも彼が聖職者に手をかけたという風評が広まれば、教会は次男のフェルナンを支持することになるだろう。
「とにかく、また会えて良かったです。四年前、内戦が始まるかも知れないと知らされた時から、私はずっとあなたの無事を案じていました」
私は言った。
「それは私もです。オーレリア……いえ、シスター・オーレリア」
アルバートが微笑みながら返した。
「ところで、ブラザー・アルバート。お時間は大丈夫ですか? 男子修道院の方はもうじき夕方のお祈りの時間でしょう」
「はい。そろそろ修道院に戻らなくてはなりません」
「でしたら、もう修道院に戻りなさい。レディを残して先に去ってはいけないなどという、貴族の男子のマナーを律儀に守る必要はありません。あなたはもう、ブラザーなのですから」
アルバートは笑った。
「そうですね。では、先に失礼いたします。シスター・オーレリア」
「ええ。時間がある時に、また会いましょう。ブラザー・アルバート」
私が笑顔でそう言うと、アルバートは、また、と一言だけ言ってその場を去っていった。
彼の長衣を着た後ろ姿をじっと見つめながら、私は胸がばくばくと高鳴りしていくのを感じた。
(……やった……、やったああああああああ!)
アルバートの姿が見えなくなった後、私は女子修道院の方へと走っていった。
「――レーア様。先に謝っておきます。無礼なことを言って申し訳ありません」
ファリンダが、椅子に腰かける私を見下ろしながら言った。
「レーア様、馬鹿なんですか?」
呆れ顔で言って、溜め息をつくファリンダ。
それから彼女は私の修道服を太もものあたりまでめくり、怪我をした私の膝に水をかけて傷口を洗った。
「いくらアルバート様に五年ぶりに再会出来たのが嬉しかったからと言って、夜道で走って転ぶなんて、子どもですか? ……いや、孤児院の子達ですらしませんよ。そんな馬鹿な真似」
私は黙ってファリンダの説教を聞いた。
怪我の手当てまでさせてしまっている以上、何も否定できない。
「……それで、次にお会いする約束は取り付けたのですか?」
ファリンダは聞いた。
私は天井に視線を向け、彼女の視線をかわした。
「ちょっと、レーア様。何をやっているんですか」
再び溜め息をつくファリンダ。
「相手は一日中、ほとんど休むことなく労働と修養をしている修道士ですよ? いつかまた会えたらなんて言ってたら、いつまで経っても会えないじゃないですか」
「……だって、会えただけで嬉しすぎて、そこまで考えが回らなかったのだもの。仕方ないじゃない」
私の言い訳めいた発言に、三度溜め息をつくファリンダ。
「ほんっと、レーア様は恋愛事に関してだけはダメダメですね」
そう言いながらファリンダは私の膝の処置を終え、捲くった修道服を元に戻す。そして、いつものように私のベッドに腰かけた。
私はそんな彼女を見ながら言った。
「……どうすればいいと思う、ファリンダ?」
「知りませんよ。私はアルバート様に一度もお会いしたことがないのですから、私に意見を聞かれても困ります」
「アルバートがどうこうじゃなくて、一般的な意見を聞いているの。他のシスター達からブラザーとの恋愛の相談を受けたりすることくらいあるのでしょ?」
ファリンダは人差し指を頬にあて、考える仕草をした。
「そりゃあまあ……、ないわけでもないですけど」
ファリンダは言った。
私は椅子から飛び上がり、ベッドに縁に座るファリンダの隣に腰を下ろした。
「……それで? いつもはどんなアドバイスをしているの?」
私は言った。
すると、ファリンダは私の顔をじっと見た。
「あの、一つだけお聞きしていいですか?」
「なに?」
「レーア様はこの先、アルバート様とどういう関係になられたいのですか?」
真剣な顔をして聞くファリンダ。
そんな彼女の表情に、私は真面目に答えなければならないと思い、胸にそっと手を当てて考えてみた。
けれど。
「……よくわからない。ずっと一緒に居たいとは思うけれど、教会を出て彼と結婚したいとは思えない。きっと、それは彼を不幸にするだけだもの」
「もしかして、レーア様は、ご自分のお顔のことを気にされているのですか?」
そう言って、ファリンダは私の痘痕に手を触れた。
「それも……まあ、理由の一つね。否定はしない」
ファリンダは私の頬を両手で触れる。
「私はレーア様のお顔が大好きですよ。お優しくて、知的で」
「それはあなたが、いつも一緒に居て私の顔を見慣れているからでしょう?」
私は言った。
ファリンダは微笑む。
「そうですね。でもそれを言い返せば、見慣れれば優しくて知的なお顔っていうことじゃないですか?」
そう言ったファリンダの顔を見て、私は姉のメリッサのことを思い出した。私が顔のことで誰かから馬鹿にされた時、いつだってメリッサお姉様はそんな言葉で私をなぐさめてくれた。
「レーア様は私が知っている中で一番素敵な女性です。私の憧れなんです。だから、もっと自分に自信を持ってください」
「ありがとう、ファリンダ」
私は笑った。
ファリンダも笑った。
「では、レーア様。頑張って、まずは毎日必ず、挨拶程度でもかまいませんから、アルバート様とお話をするようにしてくださいね?」
「えっ……いや、あの……私、書庫の仕事が……」
私は言った。
ファリンダは聞き流した。
「してくださいね?」
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「……はい」
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