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Part 7-2
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時空研究室の室長であるフーアは、背丈は170あるかないかの、歳は外見から察するに、まどかの父親と同じくらいの男性だった。
鷲鼻に引っかかっている四角いメガネの奥には、青い瞳が好奇心旺盛な光を帯びている。
「お前さん達か。はるばる地球からやって来たのは。ようこそ、イリア・テリオへ!」
鳳乱と獅子王が挨拶した後、彼はまどかたちと握手をし、今自分が作業していたモニターの前に椅子を並べて(一体のアンドロイドも手伝った)、「掛けなさい」と、手で促した。
大きな部屋の壁三面を、それぞれ天井まである巨大なモニターが一つずつ埋めていた。そこは、到底理解し得ない文字や数字、宇宙図などがいっぱいに映し出されている。
部屋に等間隔に並べられた大きな4つの机には、いくつものパネルや計器が設置され、明滅している。
きょろきょろと周りを観察する五人を楽しげに見ながら、フーアは口を開いた。
「まあ、話は簡単なんだよ」
彼は短い髭の生えた、四角い顎を撫でた。
「とりあえず、これを見てごらん」
彼は自分の机のパネルをタッチして、何かを入力した。
ぱっぱっと画面が切り替わり、静止したところに馴染みのある宇宙図、太陽系の画像が目の前の宙に浮かび上がった。
『地球は青かった』
まどかの頭に、ガガーリンのセリフがよぎった。
本当に、その球体は青く、ぼうっと光を発して闇に浮かんでいた。
鼻の奥がツーンとした。慌てて指で目頭を押さえる。
地球がこんなに美しかったなんて。
こんなに遠く離れて、始めて分かった事実。
まどかの両肩を温もりが包んだ。鳳乱の手だ。まどかは軽く瞼を閉じて、深呼吸をした。そして、愛しい人が側にいることに感謝する。
地球の姿に心動かされたのはまどかだけではないだろう。
浮かび上がるその画像の向こうに、やはり泣きそうな顔をした吉野がいた。
「話を始めても、いいかな」
フーアがメガネの上から透かし見て、確認する。
「お願いします」
有吉が低い声で答えた。
「これが君たちの太陽系。太陽の周りを回っている惑星群だ。そしてこれが、そこからかなり離れている我々のエクスピダル系。エクスピダルと言う恒星の周りを10の惑星が囲んでいる。エクスピダルは太陽とほぼ同じエネルギーを持っている。そしてイリア・テリオがここ。エクスピダルから0.00001584光年の距離があるんだが、これが地球と太陽の距離とほぼ同じだ。つまり、イリア・テリオは条件だけで言えば、お前さん達の地球と似ているかもしれん。ユランはほんの少しだけ、エクスピダルに近い」
フーアは一つ一つ、画像に浮かぶ惑星群の星を指してみせる。
「それで、だ。この太陽系とエクスピダル系の宇宙空間の間には、目に見えない幾層もの幕が重なり合っている。オーロラのようにな。エネルギーの層だ。時空がゆがみ、強い力が常に移動している。法則がなく不安定だから、こいつらが邪魔して地球までの距離を割り出すのがなかなか難儀だ」
フーアはコントロールパネルに戻って、二、三カ所、軽く指で叩いた。そして再び向き合う。
すぐに、太陽系とエクスピダル系の間に色とりどりの波打つオーロラが現れた。
「まあ、これはイメージだがな。実際見えないんだから。お前さん達が来た時は、本当に偶然にこの幕が全て、同じ場所が一部だけ開いたんだ。お前さん達はその隙間を縫ってなんの障害もなく、ユランについた。……本当に神業としか思えん」
彼はまたくるりと顎を撫でた。
「そしてお前さん達が通った後、またこの幕は閉じ、漂っている。つまりお前さん達が帰るには、またこれがスッと開いてくれればいいってことだ」
フーアは甲を合わせた両手を顔の前で内から外へ動かし、カーテンから顔をのぞかせる仕草をしてみせた。
「そして、お前さん達は『日本』に帰りたい。そうだな?」
彼は手を伸ばし、またパネルを叩く。海に囲まれた日本列島が現れた。
「ずいぶん小さな島だな」
獅子王が後ろから呟く。
そう。この頼りない小さな島が今は一番恋しい。
鳳乱はずっと両肩に手を置き、まどかを守るようにして立っている。まどかには彼がどんな顔をしているのか分からない。いや、見たくなかった。
「私から言えることは、この地球と日本の動力、エネルギーの強さ、磁場なんかのあらゆる情報と、お前さん達の服が記憶しているエネルギーなんかを分析した結果なんだがね、お前さん達を帰す事はバーシスの技術では可能だ」
皆が息をのんだ。
フーアは大きく頷く。
「……しかし、時代、場所を限定するとなるとかなり正確な計算が必要だ。それはあの時空の#幕__ヴェール__#を含めてだ。あれは流動的だ。いつ時空の隙間が出来るか予想は難しい。しかし、不可能ではない。法則は必ずある。その法則を計算するのが私のチームの仕事でもあるのだが。十日後かもしらんし、十年後かも知らん。まあ、でも今までの記録からすると、二、三年おきに一、二度は隙間は出来るみたいだな。極めてランダムだが」
「ええっ、最低でもあと二年は帰れないってことぉ?」
みちるが落胆の声を上げる。吉野が彼女の背に手を当てて宥めた。
「でも、ランダムなら、今おっしゃったように、もっと早い時期とかあり得ますよね?」
「可能性は無いことも無い。しかし、断言はできんし、まずこちらの式が完成せんことには」
山口はがっくりと肩を落とす。
「今、日本での俺たちの存在って、どうなってるんですかね」
有吉が軽く手を挙げた。
まどかには、その質問の意味がよく分からなかった。
フーアが有吉に体ごと向く。
「存在しないことになっているな。お前さん達はこっちに来た時点で、地球ではまるで生まれていないかのようにその存在が無い。それは何故かは分からん。本当に神が居るなら神の仕業かもしれん。その点では、お前さんたちが行方不明になって、大騒ぎになっているとか、そういう心配はないだろう」
それは喜んでいいところなのか、悲しむところなのか。
「お前さん達が帰る日時設定は、ユランに呼ばれた日でいいのかな。希望があれば、なるべくそれに沿うようにするが」
「いや、その日でいいです。変にいじくって存在が消えたままとか、嫌だから。もとのあの日に帰れれば、丸く収まる気がする。勘だけど」
吉野は間髪を入れずに答えると、一同、頷いた。
「ああ、それから時間の進み方はあまり地球と変わらないようだ。少しこちらの方が遅いかもしれんが、二、三年なら大した差はないだろう。ただ、注意して欲しいのは、肉体の老いは止められない。ヴェールが開き、お前さん達の帰る日が今日から一年後だとする。帰る地点は『二十五歳』地点だが、肉体はここで過ごした一年分、歳を取っている。『二十六歳』の体で『二十五歳』の地点に戻ると言うことだ。わかるかな」
「うぅ……その上、老けて帰るの?」
みちるはこぼす。
「まあ、そう思って、ここに薬を用意しておいたから。細胞の活動を少し弛める薬だ。若返りはさすがに出来んが、スピードを緩めるのは可能と言うわけだ。二週間に一粒飲みなさい。三、四ヶ月分ほど老化が遅くなる。嫌なら飲まなくてもいい。それはお前さん達の自由だ」
「体に特に副作用は?」
「その薬を使う者があまりおらんでね。データは少ないが今のところは何も報告されとらん。ああ、女性は月のものの間隔が少し長くなる」
そりゃ、そうだろう。
「まあ、その薬は細胞に栄養を与えて細胞自体の寿命を長くし、体の代謝のサイクルを少し遅らせるだけだ」
「へー、そんな薬があったら延命治療とか楽そうだな」
山口がケースに入ったカプセルの粒を目の高さにかざしながら言う。
「いや、それでもいつかは死ぬ時が来る。それに延命したところで大した期間じゃない。苦しみが長引くというデメリットもあるだろう。我々は薬を飲んでまで死を遠ざけようと思わんでな。あまりこの薬の需要が無いんだよ」
突然、まどかの頭上で、鳳乱の声が響いた。
「老いや死を恐れるものは、今まで自分に課せられたものをきちんとこなして来なかった、あるいは日々何の感謝もせずに過ごして来た者たちだ。その時その時、違う色の糸で丁寧に織られて出来た織物の美しさはそれは素晴らしいのにな。雑に織ればその出来がどんな代物になるか自分で分かるだろう。そう言う輩(やから)が、死を恐れる」
フーアは深く頷いた。
「私の出来る話は今はこれで全てだ。また何か分かればすぐに伝えよう。お前さん達がなるべく早く帰れるよう、全力を尽くす」
「急いでくれるのは嬉しいけど、正確じゃなきゃ困りますよ」
有吉が笑いながら返す。
疲れを見せていた皆の顔も、その言葉にほころんだ。
「フーア、時間を取らせたな。助かったよ。今日はこれが最後の仕事か?」
鳳乱は自分よりも遥かに年上の学者に、砕けた口調で話しかける。
鳳乱ってバーシスではどんな人物なんだろう。ふと、まどかにそんな疑問が湧く。
「おお、こんな時間か。そうだな。今日はもう上がるよ。お前さん達もユランからの旅で疲れたろう。飛んでいる時間は二、三時間でも、宇宙は波動があるから、なかなか慣れない体には負担になる。ここ一週間くらいはのんびりさせてもらった方が良いな」
「そのつもりだ」
鳳乱は言い、五人に移動するよう促した。まどか達は、人の良い、優秀な学者に礼を言ってドアの方へ向かった。
「ああ、鳳乱……」
フーアが鳳乱を呼び止めた。肩越しに振り向く彼に「その子か。なかなか別嬪だな」と、外したメガネでまどかを指して言う。
「噂ばかりが飛んでいるから、今日の残業分は彼女を見ただけでも稼げた、ということになるかな」
「……余計なお世話だ。畜生、シャムの奴……」
鳳乱は少し目元を赤く染め、苦虫を嚙みつぶしたような顔をした。
(エステノレス長官といい、フーアといい、何なんだろう)
まどかは訳が分からず、それでも鳳乱に手を取られるままに部屋を出た。
鷲鼻に引っかかっている四角いメガネの奥には、青い瞳が好奇心旺盛な光を帯びている。
「お前さん達か。はるばる地球からやって来たのは。ようこそ、イリア・テリオへ!」
鳳乱と獅子王が挨拶した後、彼はまどかたちと握手をし、今自分が作業していたモニターの前に椅子を並べて(一体のアンドロイドも手伝った)、「掛けなさい」と、手で促した。
大きな部屋の壁三面を、それぞれ天井まである巨大なモニターが一つずつ埋めていた。そこは、到底理解し得ない文字や数字、宇宙図などがいっぱいに映し出されている。
部屋に等間隔に並べられた大きな4つの机には、いくつものパネルや計器が設置され、明滅している。
きょろきょろと周りを観察する五人を楽しげに見ながら、フーアは口を開いた。
「まあ、話は簡単なんだよ」
彼は短い髭の生えた、四角い顎を撫でた。
「とりあえず、これを見てごらん」
彼は自分の机のパネルをタッチして、何かを入力した。
ぱっぱっと画面が切り替わり、静止したところに馴染みのある宇宙図、太陽系の画像が目の前の宙に浮かび上がった。
『地球は青かった』
まどかの頭に、ガガーリンのセリフがよぎった。
本当に、その球体は青く、ぼうっと光を発して闇に浮かんでいた。
鼻の奥がツーンとした。慌てて指で目頭を押さえる。
地球がこんなに美しかったなんて。
こんなに遠く離れて、始めて分かった事実。
まどかの両肩を温もりが包んだ。鳳乱の手だ。まどかは軽く瞼を閉じて、深呼吸をした。そして、愛しい人が側にいることに感謝する。
地球の姿に心動かされたのはまどかだけではないだろう。
浮かび上がるその画像の向こうに、やはり泣きそうな顔をした吉野がいた。
「話を始めても、いいかな」
フーアがメガネの上から透かし見て、確認する。
「お願いします」
有吉が低い声で答えた。
「これが君たちの太陽系。太陽の周りを回っている惑星群だ。そしてこれが、そこからかなり離れている我々のエクスピダル系。エクスピダルと言う恒星の周りを10の惑星が囲んでいる。エクスピダルは太陽とほぼ同じエネルギーを持っている。そしてイリア・テリオがここ。エクスピダルから0.00001584光年の距離があるんだが、これが地球と太陽の距離とほぼ同じだ。つまり、イリア・テリオは条件だけで言えば、お前さん達の地球と似ているかもしれん。ユランはほんの少しだけ、エクスピダルに近い」
フーアは一つ一つ、画像に浮かぶ惑星群の星を指してみせる。
「それで、だ。この太陽系とエクスピダル系の宇宙空間の間には、目に見えない幾層もの幕が重なり合っている。オーロラのようにな。エネルギーの層だ。時空がゆがみ、強い力が常に移動している。法則がなく不安定だから、こいつらが邪魔して地球までの距離を割り出すのがなかなか難儀だ」
フーアはコントロールパネルに戻って、二、三カ所、軽く指で叩いた。そして再び向き合う。
すぐに、太陽系とエクスピダル系の間に色とりどりの波打つオーロラが現れた。
「まあ、これはイメージだがな。実際見えないんだから。お前さん達が来た時は、本当に偶然にこの幕が全て、同じ場所が一部だけ開いたんだ。お前さん達はその隙間を縫ってなんの障害もなく、ユランについた。……本当に神業としか思えん」
彼はまたくるりと顎を撫でた。
「そしてお前さん達が通った後、またこの幕は閉じ、漂っている。つまりお前さん達が帰るには、またこれがスッと開いてくれればいいってことだ」
フーアは甲を合わせた両手を顔の前で内から外へ動かし、カーテンから顔をのぞかせる仕草をしてみせた。
「そして、お前さん達は『日本』に帰りたい。そうだな?」
彼は手を伸ばし、またパネルを叩く。海に囲まれた日本列島が現れた。
「ずいぶん小さな島だな」
獅子王が後ろから呟く。
そう。この頼りない小さな島が今は一番恋しい。
鳳乱はずっと両肩に手を置き、まどかを守るようにして立っている。まどかには彼がどんな顔をしているのか分からない。いや、見たくなかった。
「私から言えることは、この地球と日本の動力、エネルギーの強さ、磁場なんかのあらゆる情報と、お前さん達の服が記憶しているエネルギーなんかを分析した結果なんだがね、お前さん達を帰す事はバーシスの技術では可能だ」
皆が息をのんだ。
フーアは大きく頷く。
「……しかし、時代、場所を限定するとなるとかなり正確な計算が必要だ。それはあの時空の#幕__ヴェール__#を含めてだ。あれは流動的だ。いつ時空の隙間が出来るか予想は難しい。しかし、不可能ではない。法則は必ずある。その法則を計算するのが私のチームの仕事でもあるのだが。十日後かもしらんし、十年後かも知らん。まあ、でも今までの記録からすると、二、三年おきに一、二度は隙間は出来るみたいだな。極めてランダムだが」
「ええっ、最低でもあと二年は帰れないってことぉ?」
みちるが落胆の声を上げる。吉野が彼女の背に手を当てて宥めた。
「でも、ランダムなら、今おっしゃったように、もっと早い時期とかあり得ますよね?」
「可能性は無いことも無い。しかし、断言はできんし、まずこちらの式が完成せんことには」
山口はがっくりと肩を落とす。
「今、日本での俺たちの存在って、どうなってるんですかね」
有吉が軽く手を挙げた。
まどかには、その質問の意味がよく分からなかった。
フーアが有吉に体ごと向く。
「存在しないことになっているな。お前さん達はこっちに来た時点で、地球ではまるで生まれていないかのようにその存在が無い。それは何故かは分からん。本当に神が居るなら神の仕業かもしれん。その点では、お前さんたちが行方不明になって、大騒ぎになっているとか、そういう心配はないだろう」
それは喜んでいいところなのか、悲しむところなのか。
「お前さん達が帰る日時設定は、ユランに呼ばれた日でいいのかな。希望があれば、なるべくそれに沿うようにするが」
「いや、その日でいいです。変にいじくって存在が消えたままとか、嫌だから。もとのあの日に帰れれば、丸く収まる気がする。勘だけど」
吉野は間髪を入れずに答えると、一同、頷いた。
「ああ、それから時間の進み方はあまり地球と変わらないようだ。少しこちらの方が遅いかもしれんが、二、三年なら大した差はないだろう。ただ、注意して欲しいのは、肉体の老いは止められない。ヴェールが開き、お前さん達の帰る日が今日から一年後だとする。帰る地点は『二十五歳』地点だが、肉体はここで過ごした一年分、歳を取っている。『二十六歳』の体で『二十五歳』の地点に戻ると言うことだ。わかるかな」
「うぅ……その上、老けて帰るの?」
みちるはこぼす。
「まあ、そう思って、ここに薬を用意しておいたから。細胞の活動を少し弛める薬だ。若返りはさすがに出来んが、スピードを緩めるのは可能と言うわけだ。二週間に一粒飲みなさい。三、四ヶ月分ほど老化が遅くなる。嫌なら飲まなくてもいい。それはお前さん達の自由だ」
「体に特に副作用は?」
「その薬を使う者があまりおらんでね。データは少ないが今のところは何も報告されとらん。ああ、女性は月のものの間隔が少し長くなる」
そりゃ、そうだろう。
「まあ、その薬は細胞に栄養を与えて細胞自体の寿命を長くし、体の代謝のサイクルを少し遅らせるだけだ」
「へー、そんな薬があったら延命治療とか楽そうだな」
山口がケースに入ったカプセルの粒を目の高さにかざしながら言う。
「いや、それでもいつかは死ぬ時が来る。それに延命したところで大した期間じゃない。苦しみが長引くというデメリットもあるだろう。我々は薬を飲んでまで死を遠ざけようと思わんでな。あまりこの薬の需要が無いんだよ」
突然、まどかの頭上で、鳳乱の声が響いた。
「老いや死を恐れるものは、今まで自分に課せられたものをきちんとこなして来なかった、あるいは日々何の感謝もせずに過ごして来た者たちだ。その時その時、違う色の糸で丁寧に織られて出来た織物の美しさはそれは素晴らしいのにな。雑に織ればその出来がどんな代物になるか自分で分かるだろう。そう言う輩(やから)が、死を恐れる」
フーアは深く頷いた。
「私の出来る話は今はこれで全てだ。また何か分かればすぐに伝えよう。お前さん達がなるべく早く帰れるよう、全力を尽くす」
「急いでくれるのは嬉しいけど、正確じゃなきゃ困りますよ」
有吉が笑いながら返す。
疲れを見せていた皆の顔も、その言葉にほころんだ。
「フーア、時間を取らせたな。助かったよ。今日はこれが最後の仕事か?」
鳳乱は自分よりも遥かに年上の学者に、砕けた口調で話しかける。
鳳乱ってバーシスではどんな人物なんだろう。ふと、まどかにそんな疑問が湧く。
「おお、こんな時間か。そうだな。今日はもう上がるよ。お前さん達もユランからの旅で疲れたろう。飛んでいる時間は二、三時間でも、宇宙は波動があるから、なかなか慣れない体には負担になる。ここ一週間くらいはのんびりさせてもらった方が良いな」
「そのつもりだ」
鳳乱は言い、五人に移動するよう促した。まどか達は、人の良い、優秀な学者に礼を言ってドアの方へ向かった。
「ああ、鳳乱……」
フーアが鳳乱を呼び止めた。肩越しに振り向く彼に「その子か。なかなか別嬪だな」と、外したメガネでまどかを指して言う。
「噂ばかりが飛んでいるから、今日の残業分は彼女を見ただけでも稼げた、ということになるかな」
「……余計なお世話だ。畜生、シャムの奴……」
鳳乱は少し目元を赤く染め、苦虫を嚙みつぶしたような顔をした。
(エステノレス長官といい、フーアといい、何なんだろう)
まどかは訳が分からず、それでも鳳乱に手を取られるままに部屋を出た。
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