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精霊の守り手編
熟練度カンストの侵入者2
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真横から突き出されてきた無数の刃を、俺がどうにかこうにか弾き飛ばす。
折れた相手の切っ先が飛び散った。
ガリガリと機械仕掛けのような音を立てて、がらんどうの騎士人形が襲いかかってくる。
「やっぱりぃ……!」
俺はフラグだよなーなんて思いながら、手にしたバルゴーンを振り回す。
形状は小剣。狭い屋内でも、これならば攻撃範囲に壁や柱が入ることは避けやすい。
「いひぃー!?」
脇から突き出された刃物が、サマラを掠める。
俺の小剣が刃を削り落としてなければ、当たっていたんじゃないか。
「ごめん、ユーマ! 宝物庫の中、ぜんぜんシルフさんがいないの! だから私、何もできないから……!」
「だ、大巫女様、ゼフィロス様を呼んだら……」
「うむ、それはみんな死ぬから駄目な」
俺は止める。
「そうだね、それだと、みんな死んじゃうから……ここは、任せたよ、ユーマ」
「うむ」
迫る騎士人形の胴を真っ二つに切り裂く。
中身は案の定の空っぽである。
これはどういう原理で動いている?
俺は連中の攻撃を捌きながら、騎士人形の動きを観察する。
……ふむ。
松明の明かりに照らされて、鎧がギラギラ照り輝いている。動く度に舞う埃が光を受けて、ちらちらと反射……。
「お」
おかしな反射をするものが見えた。
これはピアノ線か?
外側から伸びてる糸で、何者かがこの人形を操っている。
つまり、こいつは操り人形でしかないから、鎧をいくらやっても動き続けるってことか?
何とかして糸を切断しなければならないだろう。
だが、この足じゃちょっと糸の高さへの跳躍はきついな。
「サマラ!」
「は、はいぃ!」
「俺が指示したら、飛び跳ねてこいつでその辺りを振り回せ!」
「へっ!?」
「返事!」
「は、はいっ!」
俺は、騎士人形から叩き落した剣をサマラへ蹴ってやる。
彼女がそれを拾う間に、俺はバルゴーンを次なる形へ変化させた。
形状は、双剣。
こいつは防御に特化した型なのだ。
ギルド戦の時、この形態で長時間粘ったことを思い出す。
懐かしい。
ちなみに、糸を切る役割をリュカに振らない理由は、彼女の背丈の問題だ。どちらかというと背が低い方である俺よりも、さらに頭一つぶんくらい小さい。
ジャンプしたとしても攻撃が届かない可能性があるからな。
彼女は松明担当だ。
「よし、今っ!」
俺が声を発する。
手にした双剣で、繰り出されてくる騎士人形の武器を薙ぎ払った時だ。
「はいぃっ!」
裏返った声で叫びながら、サマラが跳躍した。
両手で握った剣を、精一杯振り回す。すると、切っ先に何かが引っかかった音がした。
目の前にいた騎士人形が、ぐらりと揺らいでバランスを崩す。
うーむ、切れるところまではいかないか。
この世界の武器は、切れ味が本当にひどいな。
いや、盗賊たちが使っていた、この国のものと思われる曲刀はそれなりに斬れたから、鋳造物と鍛造物で極端に精度が違うのかも知れん。
「剣、捻って!」
「はっ、はい!」
着地したサマラ、剣にはピアノ線のようなものが巻き付いているようだ。
それを俺の指示どおり、ぐりっと捻る。結構な力を使うようだ。
「ぬぎぎ、か、硬いー!」
「まかせて!!」
豪腕系女子リュカ現る!
彼女は松明をサマラと交換すると、受け取った剣を思いっきりぐりりっと捻った。
どこかで、ギュルルルッというような音が聞こえて、騎士人形がぎゅっと一箇所に集まり始める。
糸が全部繋がっているのか……?
だが、ちょうどいい。
俺は、リュカが腕力に物を言わせて束ねた糸目掛け、双剣を叩き込む。
「ひゃっ」
バルゴーンの切れ味は極めて鋭い。
何かが斬れた音も何もなく、唐突にリュカの剣は手応えが消えたようだ。
彼女は力んでいた分の力を自分で受けて、よろけた。
すぐ後ろいたサマラが、その胸のクッションで受け止めて転ぶことは無かったか。
目の前にいた騎士人形たちは、全てばらばらになって崩れ落ちる。
松明の光で照らしてみると、サマラが剣で巻きつけた糸は一本ではない。複数の糸だった。
まあ、これで宝物庫を守る仕掛けをクリアしただろう。
俺たちは少しの休憩の後、再び歩みを進めることにした。
「ユーマ、動くガイコツが!」
「ぬおー!」
「けっ、剣士様、こっちからは動く死体が!」
「うおおー!」
「ユーマ、槍が飛び出してきた!」
「ぐおー!」
…………。
大変疲れた。
常に、奇襲されることに備えて気を張っておく。
これは実に実にくたびれることなのだ。
「もう、無いよな……?」
「さすがに無いかも?」
リュカの言葉も自信なさげである。
さて、外ではそろそろ、気絶させた兵士に気付かれる頃では無いか。
だが、追っ手が宝物庫に入ってくる気配を感じない。
連中にとっても、宝物庫は危険なのかもしれないな。
「あっ……! 感じます! 祭器がこっちに……!」
突然、サマラが走り出した。
明かりも無いと言うのに、暗闇目掛けて一直線だ。
「サマラ危ないよ!」
松明を持ったリュカが追いかける。
俺もゆったり追いかける。
それほどの距離ではなかった。
少し進んだ所に、行き止まりがある。
そこは、壁だった。だが、松明で照らせば明らかに分かる。
透明な壁だ。
俺であれば、プラスチックの壁だとすぐに理解できる。
だが、リュカとサマラには不可解なものとしか思えないようだった。
「ガラス……? でも違うよね、これ。ひんやりしてないし、なんか、音もポコポコって」
「はい。ガラスなら、剣をぶつければ割れますけど……えいっ」
サマラが手にした騎士人形の剣を振るう。
剣が当たったプラスチックの壁だが、当然、ガラスみたいに割れることはない。
これはしかも、防弾プラスチックとかそういう類ではないか。傷一つついていない。
となれば、俺の出番である。
熱を加えればなんとかなりそうな気がするが、プラスチックを燃やしたら有毒ガスなんかが出そうである。
バルゴーンを、通常の片手剣モードにする。
俺が最大の威力を発揮する攻撃は、この抜刀だ。
機動性に欠けるのと、どうしても待ちの型であるため、使いづらいシーンも登場する。
そのため、最近はあまり使っていなかったのだが。
”ソニック”
「っ!」
俺がこの抜刀術につけた名前だ。
全ての動作と、それが生み出す結果のイメージ。これを単語の中に詰め込んでいる。
だから、俺がこの言葉をイメージすることで、精神は抜刀に特化される。
鋭く呼気を吐きながら繰り出した一撃。
鞘の中で加速されたそれが、プラスチックの壁を切り裂く。
軽いものが割れるような音がして、ゆっくりと目の前の壁が、斜めに崩れていった。
「切り口は鋭いので、注意すること」
「はーい」
「はいっ」
みんなで俺が空けた隙間から入っていく。
奥にあったのは、小さな燭台だった。
炎を象っているのだろう。
うねる模様に加工された金属が組み合わされている。
中央部に、松明を据えられる構造だ。
「狼の部族は、支えの祭器を。鹿の部族は、松明の祭器の加工を。それぞれ伝えているんです」
鹿の部族の祭器は、その都度作るようだ。
作り出す技術そのものが祭器なのかもしれないな。
俺はこの燭台を回収する。
適当な布で作った袋に入れて、担ぐのである。
「荷物は私が持つね」
「よし、リュカ任せた」
では、脱出である。
松明を掲げていくと、向こうからも松明がゆっくり近づいてくる。
「何者だ! 賊か!」
誰何してきた。
警備の兵士たちが追いついてきたらしい。
ゆっくり動いているのは、宝物庫の仕掛けを警戒してのことだろう。
明かりを消すように、サマラに指示をする。
「はい。ヴルカン……!」
サマラの胸元がぼうっと光り、現れた炎の小人が、松明の火を吸い込んだ。
すると、松明の明かりは嘘のように消えてしまう。
「なにっ、明かりが消えたぞ」
「どこだ、どこにいる!」
俺は松明を受け取ると、兵士たちの横に向かって、思いっきり放り投げた。
落下する音。
「こ、こっちか!!」
「よし、囲むぞ! あちらから回り込め!」
暗闇というのは、人を不安にするものである。
しかも、そこが訳の分からない危険な仕掛けに満ちた暗闇であれば、なおさらだ。
きっと、あれらの仕掛けを無効化することが出来る人間もいるのかもしれない。そうでなければ、この宝物庫は使い勝手がわるすぎるだろう。
だが、俺たちが侵入してすぐ後を追ってきた連中だ。
多分、その担当者を連れてくる余裕が無かったのだ。
俺たちは、騒ぐ兵士たちの後ろをそろりそろりと抜ける。
金属の装備などしていないから、動く音が小さい。
連中が騒ぐ音も、都合がいい。
ついでに、ちょっと声を出しておいた。
「気をつけろ! 仕掛けが動いてるぞ!」
「な、なに!? みんな気をつけろ!!」
ハッタリである。
ちょっと調子に乗った。すまない。
だが、仕掛けのほとんどを解除しているなんてのは、俺たち三人しか分からない事だ。
おっかなびっくりの兵士たち、これで腰が引けててしまった。
彼らをよそに、俺たちはさっさと出口へと急ぐ。
出口から覗き込んでいた兵士は四人ほど。
俺はバルゴーンを呼ぶと、大剣モードに変えた。
そして、切っ先を前に向けて突っ走る。
「当たるなよ!!」
「な、なんだ!? 何かこっちに!」
「うおわーっ!!」
上手いこと兵士たちの鼻先を駆け抜ける。
連中、突然馬鹿でかい剣が飛び出してきたので、驚いて飛び退いた。
俺の後ろに続く、リュカとサマラ。
「風が来た! シルフさん!」
即座に、リュカが魔法を使った。
シルフが俺たちの姿を覆い隠す。
よし、このままトンズラである。
「リュカさん!」
「なあに、ユーマ」
「無理して走ったので、そろそろ走れない」
「仕方ないなあ」
リュカが俺の肩を支えた。
そんなわけで、
「賊だ! 賊が出たぞ! 宝物庫だ!」
「まだこの辺りにいるのではないか!? 探せー!」
「賊は仕掛けを突破したらしいぞ。恐ろしい奴だ……」
なんて騒ぐ兵士たちの横を、ゆったりと抜ける。
かくして、祭器は取り戻された。
だが、俺たちはディマスタンに居づらくなったわけである。
何人かに目撃されたしな。
ちょっと休憩して、すぐにでも出立をせねばならないのだった。
折れた相手の切っ先が飛び散った。
ガリガリと機械仕掛けのような音を立てて、がらんどうの騎士人形が襲いかかってくる。
「やっぱりぃ……!」
俺はフラグだよなーなんて思いながら、手にしたバルゴーンを振り回す。
形状は小剣。狭い屋内でも、これならば攻撃範囲に壁や柱が入ることは避けやすい。
「いひぃー!?」
脇から突き出された刃物が、サマラを掠める。
俺の小剣が刃を削り落としてなければ、当たっていたんじゃないか。
「ごめん、ユーマ! 宝物庫の中、ぜんぜんシルフさんがいないの! だから私、何もできないから……!」
「だ、大巫女様、ゼフィロス様を呼んだら……」
「うむ、それはみんな死ぬから駄目な」
俺は止める。
「そうだね、それだと、みんな死んじゃうから……ここは、任せたよ、ユーマ」
「うむ」
迫る騎士人形の胴を真っ二つに切り裂く。
中身は案の定の空っぽである。
これはどういう原理で動いている?
俺は連中の攻撃を捌きながら、騎士人形の動きを観察する。
……ふむ。
松明の明かりに照らされて、鎧がギラギラ照り輝いている。動く度に舞う埃が光を受けて、ちらちらと反射……。
「お」
おかしな反射をするものが見えた。
これはピアノ線か?
外側から伸びてる糸で、何者かがこの人形を操っている。
つまり、こいつは操り人形でしかないから、鎧をいくらやっても動き続けるってことか?
何とかして糸を切断しなければならないだろう。
だが、この足じゃちょっと糸の高さへの跳躍はきついな。
「サマラ!」
「は、はいぃ!」
「俺が指示したら、飛び跳ねてこいつでその辺りを振り回せ!」
「へっ!?」
「返事!」
「は、はいっ!」
俺は、騎士人形から叩き落した剣をサマラへ蹴ってやる。
彼女がそれを拾う間に、俺はバルゴーンを次なる形へ変化させた。
形状は、双剣。
こいつは防御に特化した型なのだ。
ギルド戦の時、この形態で長時間粘ったことを思い出す。
懐かしい。
ちなみに、糸を切る役割をリュカに振らない理由は、彼女の背丈の問題だ。どちらかというと背が低い方である俺よりも、さらに頭一つぶんくらい小さい。
ジャンプしたとしても攻撃が届かない可能性があるからな。
彼女は松明担当だ。
「よし、今っ!」
俺が声を発する。
手にした双剣で、繰り出されてくる騎士人形の武器を薙ぎ払った時だ。
「はいぃっ!」
裏返った声で叫びながら、サマラが跳躍した。
両手で握った剣を、精一杯振り回す。すると、切っ先に何かが引っかかった音がした。
目の前にいた騎士人形が、ぐらりと揺らいでバランスを崩す。
うーむ、切れるところまではいかないか。
この世界の武器は、切れ味が本当にひどいな。
いや、盗賊たちが使っていた、この国のものと思われる曲刀はそれなりに斬れたから、鋳造物と鍛造物で極端に精度が違うのかも知れん。
「剣、捻って!」
「はっ、はい!」
着地したサマラ、剣にはピアノ線のようなものが巻き付いているようだ。
それを俺の指示どおり、ぐりっと捻る。結構な力を使うようだ。
「ぬぎぎ、か、硬いー!」
「まかせて!!」
豪腕系女子リュカ現る!
彼女は松明をサマラと交換すると、受け取った剣を思いっきりぐりりっと捻った。
どこかで、ギュルルルッというような音が聞こえて、騎士人形がぎゅっと一箇所に集まり始める。
糸が全部繋がっているのか……?
だが、ちょうどいい。
俺は、リュカが腕力に物を言わせて束ねた糸目掛け、双剣を叩き込む。
「ひゃっ」
バルゴーンの切れ味は極めて鋭い。
何かが斬れた音も何もなく、唐突にリュカの剣は手応えが消えたようだ。
彼女は力んでいた分の力を自分で受けて、よろけた。
すぐ後ろいたサマラが、その胸のクッションで受け止めて転ぶことは無かったか。
目の前にいた騎士人形たちは、全てばらばらになって崩れ落ちる。
松明の光で照らしてみると、サマラが剣で巻きつけた糸は一本ではない。複数の糸だった。
まあ、これで宝物庫を守る仕掛けをクリアしただろう。
俺たちは少しの休憩の後、再び歩みを進めることにした。
「ユーマ、動くガイコツが!」
「ぬおー!」
「けっ、剣士様、こっちからは動く死体が!」
「うおおー!」
「ユーマ、槍が飛び出してきた!」
「ぐおー!」
…………。
大変疲れた。
常に、奇襲されることに備えて気を張っておく。
これは実に実にくたびれることなのだ。
「もう、無いよな……?」
「さすがに無いかも?」
リュカの言葉も自信なさげである。
さて、外ではそろそろ、気絶させた兵士に気付かれる頃では無いか。
だが、追っ手が宝物庫に入ってくる気配を感じない。
連中にとっても、宝物庫は危険なのかもしれないな。
「あっ……! 感じます! 祭器がこっちに……!」
突然、サマラが走り出した。
明かりも無いと言うのに、暗闇目掛けて一直線だ。
「サマラ危ないよ!」
松明を持ったリュカが追いかける。
俺もゆったり追いかける。
それほどの距離ではなかった。
少し進んだ所に、行き止まりがある。
そこは、壁だった。だが、松明で照らせば明らかに分かる。
透明な壁だ。
俺であれば、プラスチックの壁だとすぐに理解できる。
だが、リュカとサマラには不可解なものとしか思えないようだった。
「ガラス……? でも違うよね、これ。ひんやりしてないし、なんか、音もポコポコって」
「はい。ガラスなら、剣をぶつければ割れますけど……えいっ」
サマラが手にした騎士人形の剣を振るう。
剣が当たったプラスチックの壁だが、当然、ガラスみたいに割れることはない。
これはしかも、防弾プラスチックとかそういう類ではないか。傷一つついていない。
となれば、俺の出番である。
熱を加えればなんとかなりそうな気がするが、プラスチックを燃やしたら有毒ガスなんかが出そうである。
バルゴーンを、通常の片手剣モードにする。
俺が最大の威力を発揮する攻撃は、この抜刀だ。
機動性に欠けるのと、どうしても待ちの型であるため、使いづらいシーンも登場する。
そのため、最近はあまり使っていなかったのだが。
”ソニック”
「っ!」
俺がこの抜刀術につけた名前だ。
全ての動作と、それが生み出す結果のイメージ。これを単語の中に詰め込んでいる。
だから、俺がこの言葉をイメージすることで、精神は抜刀に特化される。
鋭く呼気を吐きながら繰り出した一撃。
鞘の中で加速されたそれが、プラスチックの壁を切り裂く。
軽いものが割れるような音がして、ゆっくりと目の前の壁が、斜めに崩れていった。
「切り口は鋭いので、注意すること」
「はーい」
「はいっ」
みんなで俺が空けた隙間から入っていく。
奥にあったのは、小さな燭台だった。
炎を象っているのだろう。
うねる模様に加工された金属が組み合わされている。
中央部に、松明を据えられる構造だ。
「狼の部族は、支えの祭器を。鹿の部族は、松明の祭器の加工を。それぞれ伝えているんです」
鹿の部族の祭器は、その都度作るようだ。
作り出す技術そのものが祭器なのかもしれないな。
俺はこの燭台を回収する。
適当な布で作った袋に入れて、担ぐのである。
「荷物は私が持つね」
「よし、リュカ任せた」
では、脱出である。
松明を掲げていくと、向こうからも松明がゆっくり近づいてくる。
「何者だ! 賊か!」
誰何してきた。
警備の兵士たちが追いついてきたらしい。
ゆっくり動いているのは、宝物庫の仕掛けを警戒してのことだろう。
明かりを消すように、サマラに指示をする。
「はい。ヴルカン……!」
サマラの胸元がぼうっと光り、現れた炎の小人が、松明の火を吸い込んだ。
すると、松明の明かりは嘘のように消えてしまう。
「なにっ、明かりが消えたぞ」
「どこだ、どこにいる!」
俺は松明を受け取ると、兵士たちの横に向かって、思いっきり放り投げた。
落下する音。
「こ、こっちか!!」
「よし、囲むぞ! あちらから回り込め!」
暗闇というのは、人を不安にするものである。
しかも、そこが訳の分からない危険な仕掛けに満ちた暗闇であれば、なおさらだ。
きっと、あれらの仕掛けを無効化することが出来る人間もいるのかもしれない。そうでなければ、この宝物庫は使い勝手がわるすぎるだろう。
だが、俺たちが侵入してすぐ後を追ってきた連中だ。
多分、その担当者を連れてくる余裕が無かったのだ。
俺たちは、騒ぐ兵士たちの後ろをそろりそろりと抜ける。
金属の装備などしていないから、動く音が小さい。
連中が騒ぐ音も、都合がいい。
ついでに、ちょっと声を出しておいた。
「気をつけろ! 仕掛けが動いてるぞ!」
「な、なに!? みんな気をつけろ!!」
ハッタリである。
ちょっと調子に乗った。すまない。
だが、仕掛けのほとんどを解除しているなんてのは、俺たち三人しか分からない事だ。
おっかなびっくりの兵士たち、これで腰が引けててしまった。
彼らをよそに、俺たちはさっさと出口へと急ぐ。
出口から覗き込んでいた兵士は四人ほど。
俺はバルゴーンを呼ぶと、大剣モードに変えた。
そして、切っ先を前に向けて突っ走る。
「当たるなよ!!」
「な、なんだ!? 何かこっちに!」
「うおわーっ!!」
上手いこと兵士たちの鼻先を駆け抜ける。
連中、突然馬鹿でかい剣が飛び出してきたので、驚いて飛び退いた。
俺の後ろに続く、リュカとサマラ。
「風が来た! シルフさん!」
即座に、リュカが魔法を使った。
シルフが俺たちの姿を覆い隠す。
よし、このままトンズラである。
「リュカさん!」
「なあに、ユーマ」
「無理して走ったので、そろそろ走れない」
「仕方ないなあ」
リュカが俺の肩を支えた。
そんなわけで、
「賊だ! 賊が出たぞ! 宝物庫だ!」
「まだこの辺りにいるのではないか!? 探せー!」
「賊は仕掛けを突破したらしいぞ。恐ろしい奴だ……」
なんて騒ぐ兵士たちの横を、ゆったりと抜ける。
かくして、祭器は取り戻された。
だが、俺たちはディマスタンに居づらくなったわけである。
何人かに目撃されたしな。
ちょっと休憩して、すぐにでも出立をせねばならないのだった。
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