熟練度カンストの魔剣使い~異世界を剣術スキルだけで一点突破する~

あけちともあき

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第二部 新王の後見人編

熟練度カンストの護衛人

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 その後。
 まだだ、まだ勝負はついていないぞとかかってくる戦士たちがいるので、お腹が空いている俺は適当に彼らをあしらったのである。
 一人は棒で武器を落としたあと、拾わせてまた武器を落として拾わせて武器を落として……。
 で、最後に頭を叩いて気絶させた。
 もう一人は突き縛りで戦ってみて、そいつの槍での攻撃を全部つんつん突っついて止めてやった。
 で、最後には頭を叩いて気絶させた。
 最後の一人は面倒になってきていたので、いきなり襲いかかって頭を叩いて気絶させた。
 用意していたアウシュニヤ最強の戦士(笑)とやらが、あっという間に壊滅してしまい、ソハンたちはお通夜状態になった。
 わざわざ上から目線で「お主の力を試してやろう」的なことを言って、手勢を瞬殺されたのだから大変恥ずかしいのだろう。

「つっ、強いなお主……!!」

 ようやく我に返ったソハンが言った。
 俺は深く頷くと、ご飯を所望する。サマラも空腹を訴える。

「諸々の話は飯を食いながらでもできるだろう。まずは食事にしよう」

 なぜか俺がこの場のイニシアティブを握る形になり、食事の開始となった。


 運ばれてきた料理は、鳥肉、羊肉をメインとしたたっぷりの野菜と香辛料が使われたものである。
 豪勢な陶器の皿には、大きな硬い葉っぱが敷かれ、そしてその上には……おお、おおおお……!
 白いお米が!!
 長粒種の米だな、あれは。粘りがない奴だ。
 そしてフォークやスプーンは無い。
 水が入った容器が持ってこられて、肉を斬るためのナイフが用意されて、それだけだ。

「水……? 飲むの?」

 サマラが首を傾げながら水を手にした。
 俺はハッとする。

「いや、サマラ。この国ではあれだ。こう、指で飯を食うのだ。それでこれは指を洗うための水だろう」

「そんな国があったんですか!? でも知ってるなんてユーマ様すごい!」

「フフフ。フィンガーボウルという文化があちらにもあったからな」

 俺たちが水で指先を洗い出したので、どうやらマナーを知らない俺たちをコケにするつもりだったらしい長兄は、露骨に顔をしかめた。
 なんと人間の腐った奴だ。

「へえ、こっちにもお米があるんですねえ」

「なにっ、サマラ知っておるのか!!」

「知ってますよ? アタシたちが狩りをした獲物を取引してた村には、作ってるところがありましたもん。これ淡白で、お肉と合わせると食べ物のかさが増えるから重宝するんですよね」

 むしゃむしゃ食べ始める。
 手づかみだが、まあ良いだろう。
 俺も適当に手で摘んでもぐもぐ。
 うむ……。粘りは無いがコメの味だ。
 美味い。
 できればお茶碗と箸がほしいな。
 香辛料の効いた肉を食い、野菜をむさぼって、ミルクの入った甘いお茶を飲んだ。

「ユーマ様、この国の北辺りだと、ちょうどアタシたちの部族が昔取引してた村の近くなんですけど」

「ほうほう、じゃあサマラも勝手知ったる他人の庭みたいな感じだな」

「なんですそれ? うん、でもそこにも、こういう甘いお茶があったなあって。あっちはバターが入っててスープみたいですけど」

「バター茶かあ」

 何気にサマラは、この地方付近のことをよく知っているのかもしれない。
 アウシュニヤは彼女からするとかなり異質なようだが、それ以外ならサマラはもっと活躍するかもしれんな。
 何やら、食卓に座るソハン一家が語りかけてくるのだが、俺たちは食べるのに夢中で生返事である。
 時折、各地の美味いものがどれだの、どう食べるだのという話をしている。
 見かねてスラッジが口を挟んできた。

「あのっ、ユーマ! ソハンからあなたに話があるみたいで」

「もぐ?」

 口いっぱいに食べ物を詰め込んだ俺が、ハムスターみたいな顔を上げた。

「う、うむ。ユーマ殿、今までの無礼を詫びよう。わしはそもそも謝るのが大嫌いなのだが、一度過ちを犯したと認めたならば謝ろう……! どうか、わしの話を聞いて欲しい」

「なんであろうか」

「うむ……。今、アウシュニヤは4つの勢力に分かれて争っておる。表向き、庶民や奴隷たちには何の変化も無いのだが、戦士や僧侶の階級の者たちは、それぞれ奉じる王子の勢力に分かれて互いの主の首を狙っておるのだ」

「なるほど……。戦争状態だな」

「そして、この勢力にはスラッジ殿下は数えられておらぬ。わしがこの国の経済を握っているという理由もあろう。殿下がたはわしに手を出すことが出来んのだ。そも、わしの元を離れたときにスラッジ殿下を狙ったのも、この方を恐れたからに他あるまい」

「ほうほう。では、どうすればいいんだ?」

「このまま、スラッジ殿下の護衛として戦って欲しい。報酬はわしが出そう」

 アムリタはちょっと不本意そうな顔をしているが、ソハンの言葉に異論はないらしい。

「ユーマ様、あれは一度偉そうなことを言い出した手前、今更引っ込みがつかなくなった女子の顔です!」

「そ、そうなのか! さすがサマラ詳しいな……」

 アムリタはツンデレなんだな。よく分かった。

「ユーマ、あなたの護衛は、ソハンのもとに僕を連れてきてくれたことで一つの終わりを迎えました。ここから先、どうするかはあなた次第です。ユーマは仲間のサマラさんと会えましたし、僕もこうして無事にここにいます。だから……」

「ふむ……」

 すっかり目の前の飯を平らげた俺である。
 俺以外の言葉が通じないサマラも、なんとなくこの場の空気を察して理解したようだ。

「ユーマ様、レモン水も美味しかったし、お風呂も最高だったし……」

「うむ、ご飯は最高だったな。よし、一宿一飯の恩義は返す。とりあえず今から勢力を一つ減らしてくる」

「おお、ありがた……今なんと!?」

 ソハンが目を見開く。

「手近な王子を一人減らしてくると言っているんだ。どいつがいい?」

「正気か!? 例えお主が強い戦士だとしても、相手の数は国軍の一割にも及ぶぞ! しかも私兵としてセ世界各地の使い手を呼び寄せておる。ここは長丁場になると理解して、まずはこの屋敷を拠点にだな」

「問題ない。夕飯までには帰る」

「ソハン、ユーマならやれます。彼は恐らく、僕たちの常識の範囲外にいる」

「それとスラッジ。お前も来い」

「はい」

「はあ!? なんで!?」

 アムリタ怒りのスタンディング。
 ツカツカツカと歩み寄ってきて、俺の額にビシっと指を突きつけ……いや、超つっついてくる。痛い痛い痛い。
 考えなしなのか、怖いものなしなのか分からんが、この娘こそすげえ胆力だろう。

「アムリタ。王族に一般の人間が手を上げれば、罪に問われるんだ。だから、最後は僕がやらなくちゃならない。これは僕が王子として生まれた以上、避けられない責任なんだ」

「でも、だからってスラッジがそんなことしなくても……! スラッジは優しい人なのに……!」

 泣き出した。
 そっと抱きしめるスラッジ。

「ユーマ様ユーマ様」

「サマラ落ち着け。人前でハグは恥ずかしい」

 俺とサマラはなんかどうしたらいいのか分からなくなって、固まっていたのである。




「第三王子ローヒトは拠点を定めません。常にどこかを移動し続け、捉えられないように王都の中を動き回ります。最強の勢力と見られますが、ローヒトと側近の戦士が数名、そして召喚師のみ。これを探すのは現実的ではないでしょう」

 図を書きながら、俺たちにアウシュニヤの様子を示すのは、アムリタの兄の一人であるジャフル。
 黒髪おかっぱで細身の男で、片眼鏡をしている。
 あの眼鏡は魔法の道具なのだという。

「第六王子、第二王子は既に脱落。第一王子は王宮にて身を隠しています。城を攻めるのは早急でしょうから、第四、第五王子を狙うが良いかと」

「それぞれの特徴は?」

「第四王子は北の暗殺者教団と繋がっています。これを倒すことは、即暗殺者教団を敵に回すことになるでしょう」

「それは問題ない」

「夕飯までに間に合わなくなります」

「それは大問題だ」

「では第五王子、ヴィジャイを狙うべきでしょう。彼もまた、油断できる相手ではありませんが。むしろ、国外から食客を集めているという意味では最大の武闘派とも言えます」

「ふむ、どこにいる?」

「ここに」

 描かれたアウシュニヤの全図。
 ジャフルが指示棒で示したのは、ソハンの屋敷がある上流階級の住まう金剛地区から離れた一角。

「打ち捨てられた廃墟と貧民窟に近き、アウシュニヤの闇。黒曜地区」






 黒曜地区は完全に制圧されている。
 第五王子ヴィジャイと、彼が率いる傭兵部隊が、圧倒的な力を持ってこの地区を征服したのだ。
 スラム、闇市、廃墟群。
 アウシュニヤの闇をそのまま顕現したように見えるこの場所は、以前よりもさらに危険な土地になった。
 言葉とて通じない、異形の技を振るう異国の戦士たち。
 彼らが常にどこかに潜み、侵入する者を狙っている。

 第二王子はここに攻撃を仕掛け、率いていた正規軍ごと、すり潰された。
 狭隘な路地は規律だった兵士たちが抜けるには狭すぎ、逆に自由な傭兵たちにかかれば、幾らでも武器として利用できるものが転がる最高の戦場となる。
 第二王子は敗れ、その首を第五王子によって取られた。
 ヴィジャイはその際、一切の躊躇なく兄の首を斬り落としたという。

 黒曜地区はいつも、迷い込んでくる獲物を求めて隠した牙と爪を研いでいた。
 今、新たにこの魔窟へ迷い込む者がいる。
 異形の傭兵たちは、彼らを己の刃の露とすべく、動き出した。

 息を潜め、獲物の通過を待つ。
 彼らは十人一組で狩りをする傭兵である。
 互いが、手槍、鎖、戦輪、短剣と異なる得物を持ち、有機的に連携して反撃の隙を与えずに対象の息の根を止める。
 彼らの縄張りに、何者かが悠然と入ってくる。
 灰色のマントを纏った、さほど背の高くない男だ。
 十人は身構えた。
 壁に、上層に、物陰に、彼らは潜んでいる。
 彼ら自身が、獲物を捕らえるための罠であり、獲物を仕留めるための武器である。
 それは常に変わらぬ事実であったし、彼らは勝ち続けてきた。
 故に、彼らは気づかなかったのだ。
 侵入してきた男が、あまりにも自然体だったということに。

 鎖が飛んだ。
 先端に分銅が取り付けられ、対象の骨を砕きながら肉体を絡め取る武器である。
 これで動きを止め、あとは一度に襲いかかって仕留める。
 単体が相手ならば、一瞬の仕事になる。
 彼らは幾度となく繰り返してきた、このルーチンワークを行うべく、鎖が命中する様子も確認せずに動き出した。

「ぐえっ」

 悲鳴があがった。
 いつものことだ。
 彼らは飛び出す。
 そしてそんな彼らの眼前に、上層に潜んで鎖を放っていた、仲間が転がり落ちてくる。
 跳ね返された分銅が、彼の腕を砕いていた。

「おうおう、燻り出されてきたな」

 男の声がする。
 侵入者の手には、いつの間にか虹色に輝く剣が握られていた。

「じゃあ始めるとしようか。楽しい狐狩りだ」

 彼らはようやく気づいた。
 今、自分たちが狩られる獲物になったのだと。
 アウシュニヤの王位を巡る、激動の三日間が始まる。
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