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第二部 和の国の魔剣士編

熟練度カンストの降臨者2

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 降り立った場所で、ボーイミーツガール的になんか女の子と出会い、そしてなし崩し的に始まる戦闘。
 ……おかしいな。俺はどうもこのシチュエーションに既視感がある。
 周囲に纏わり付いてきた連中を一掃した後、ざっと状況確認。
 背後で、姫武者って感じの子が男たちに四肢を拘束され、胸元の鎧が裂かれて肌もあらわ。
 大変目の保養……いやいや。
 正面。
 目を見開いている狐みたいな顔の男。こいつもとても日本人だ。
 俺は即座に、敵味方の識別を終えた。
 大体こういう場合は女の子が味方だ。
 足元は畳。滑らなくて大変ありがたい。こいつを蹴って、バックステップした。

「うぬっ!?」

 黄色と黒という派手な和風鎧の男が、慌てて女の子の足の拘束を解いた。
 刀を抜いてくる。
 いや、そいつが刀に手を掛けた時点で、俺の剣が男の首を飛ばしている。
 返す刀で、女の子の腕を拘束する男を横一文字に切り捨てる。

「! これならっ! ……ぬううううっ! だああーっ!!」

 片方の手足が自由になった女の子が、裂帛の気合とともに手足を思い切り伸ばした。
 すると、しがみついていた武者たちが吹っ飛ばされてしまう。
 そのまま天井まで飛ばされ、叩き付けられて落ちてきた。
 凄いパワーだ。リュカ以上じゃないか。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、な、何者じゃ……!」

 彼女は肩で息をしながら、それでも気丈に俺を睨みつけてくる。

「うむ。戦士ユーマだ。一言で言うなら……迷子だ」

「は?」

 俺の率直な自己紹介に、彼女はポカーンとした。
 長めのおかっぱ頭に、太い眉。気が強そうな彼女の顔が、唖然としたものになる。

「まあ、詳しい話はおいおい……」

 俺は話を適当に切り上げながら、突然目の前に飛来してきた蜂(・)を切り払った。
 金属音が響く。
 蜂であったものが、細長い刃物……小柄に変化し、刃をへし折られながら畳の上に落ちる。
 刃はしっとりと湿っていた。これは毒ですな。

「ちぃっ……!」

 狐のような顔をした男が歯噛みする。
 こいつを思わず手で払っていたら、毒付きの小柄が刺さっていたと。
 幻術ですなあ。

「とりあえず分かるのは、お前が俺の敵だってことだな」

 俺はバルゴーンを片手にぶら下げたまま、自然体で構える。
 畳の上を、一歩ずつ近づいていく。

「戦士……ユーマ、だと……? どこから現われた。どうやってここにやって来た。城の周りに、飛び移るために必要な高台も、樹木もない。駆け上がるにも、城は燃え上がっていたはずだ……! まさか、空でも飛んで現われたか……!」

「俺もよく分からんのだがな。とにかくこの地にやって来たのだ」

「お前は関係あるまい……! 今ここで起こっていることは、我ら蓬莱の人間の営みぞ。どこの無関係な者は立ち去れ!」

「いやいや、攻撃を仕掛けておいて、はい立ち去れで済むものかよ。俺はやられたらやり返すぞ」

「むむ、そのことについては俺の浅慮がゆえだった。これは謝ろうではないか。だから、その剣を収めてだな……」

 狐顔の男の双眸が細められる。

「気をつけるのじゃ! そ奴は幻術使い! 目や言葉でも幻術を……!」

「ははは、既に遅い!」

 おおっ、俺の視界がぐにゃりと歪む。
 こいつ、言葉の端々に幻術の呪文みたいなのを混ぜ込んでいたのか。それとも暗示か。
 俺の前から、男の姿がスッと消えた。

「既にお前は俺の術中……! 大人しくしていれば、こうはならなかったものを……」

 言葉は、俺の周囲、でたらめな位置から聞こえてくる。
 どうやら俺の耳も幻術に掛けられたようだ。
 ふむ。

「まあ、よくあるパターンだな。コントローラーの操作が逆になったようなものだ」

 俺は即座に、状況を確認する。
 手足の動き、目玉の動き。臭い、音……。
 なるほど、誤魔化されているのは視覚と聴覚のみだ。幻術の限界か。
 俺は神経を足元に集中させる。
 左後方、畳がたわんだ。
 俺は無造作に、そちらに向けてバルゴーンを突き立てる。

「うぎゃあああああ!!」

 叫び声がした。 
 同時に幻術が解ける。
 そこでは、腹のど真ん中をバルゴーンに貫かれた鎧武者がいる。
 信じられないものを見る目を俺に向ける。
 俺はとりあえず、剣をグリッと捻りながら引っこ抜いた。
 振り返りながら、先ほどと全く変わらない位置に立っている狐顔の男に声をかける。

「慎重だな。部下を使って仕掛けてくるとはな。その判断は正解だぞ」

「そんな……尾長の幻術を破るじゃと……!? 初見で……!?」

 破れた胸元を押さえた姫武者っぽい子が、驚愕に声を漏らす。フフフ、もっと驚くがいい。

「お前……! お前の目も、耳も効かなくなっていたはず……!? それとも、お前は幻術破りが使えるのか!?」

 狐顔も驚いている。男がびっくりしても嬉しくないなあ。
 それにこいつと話しているのは危険だ。

「うむ、お前は俺が知る中で最強クラスの幻術使いだな。あっぱれだ。よし、厄介だからここで死ね」

 俺は剣を担ぎ、畳を蹴った。

「くっ!!」

 狐顔が慌てて後ろに下がった。
 ふむ。
 俺は突進しながら、明らかに狐顔にぶつかるところまでブレーキを掛けずに突っ走った。
 狐顔の顔が強張る。
 そして、お互いに衝突……と思った瞬間にそいつの体を突き抜けた。
 俺はそこで担いでいた剣を、全身を浴びせるようにして叩き付ける。

「ぐえええ!!」

 現われたのは、やはり狐顔の部下の男である。
 肩から股間までを真っ二つに叩き割られて、そのまま左右に分かれて倒れる。

「うーむ」

 反対側の壁まで駆け抜けて、俺は振り返った。

「うむむむむ」

 考える。
 こいつ、逃げ回らせたら本当に強いかもしれんな。
 すると、今後色々纏わりついてくるだろう。
 どうするか。
 例えば……。
 この天守閣ごと……。
 みじん切りに?
 いいね!!

「女の子!! ちょっとしゃがんでて!!」

 俺は対面にいる姫武者に曖昧な指示を出した。
 彼女は明らかに状況が分かってない、という顔をしたが、俺の動きを見ていたわけで、すぐに指示に従ってしゃがみ込む。
 俺はそこで、バルゴーンを大剣へと変化させる。

「ディメンジョン」

 空間を斬ると、その中に剣を突っ込ませる。
 そして、

「ディメンジョンディメンジョンディメンジョンディメンジョンディメンジョンディメンジョンディメンジョンディメンジョンディメンジョンディメンジョンディメンジョン」

 当たるを幸い、女の子の周囲以外全てに剣を出現させ、斬る。
 斬る、斬る、斬る。
 斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬る。
 たちまちの内に、天守閣の壁がみじん切りになって消し飛ぶ。
 畳がどんどん裁断され、階下に落下していく。
 俺の目は、その落下する畳を注目。
 おっ、あの変のばらになったい草・・、ちょうど一部分だけ不自然な動きをしておる。

「も一つディメンジョン」

「ぐふっ」

 落下するい草の辺りを、切っ先を飛ばして斬った。
 ビンゴである。
 右肩から先を断ち割られて、狐顔が姿を表す。
 そいつは下の階に転げ落ち、そして俺を青ざめた顔で見上げた。

「ば、ば、化け物」

「ははは。おまいう」

 そのまま、ディメンジョンで首を飛ばした。
 これで全員片付いたかな?
 ちょっと耳を澄ませてみる。
 うむ、女の子の震える呼吸の音しか聞こえない。

「な、な、ななな」

 姫武者な女の子が、腰を抜かしてしまったようで、僅かに残った天守閣の床にお尻からへたり込んでいる。
 震える指先で俺を指し示し、

「な、何者じゃ、うぬはっ……!? い、一体どのような荒業を使ったのじゃ!?」

「はっ、剣術でござる」

 なんか時代がかった口調だったので引っ張られて、俺もござるとか言っちゃう。

「け……剣術じゃと!? 馬鹿を言え! ……って、きゃああああ!」

 姫武者が大声を出したので、崩れかけていた床がついにダメになったようだ。
 彼女ごと、階下に落ちていく。
 まあ、天井の高さ大したことないし、大丈夫だろう。
 俺も、えっちらおっちら柱を伝って下に降りた。
 あちこちが焼け焦げている。
 姫武者は派手にお尻を打ったようで、お尻をおさえてひいひい言っている。

「大丈夫でござる?」

 俺が声をかけると、彼女はパッと俺に向き直った。

「い、い、痛くなどないぞ!! 妾は無事じゃ!」

 うわあっ、妾っ娘だ!!
 俺はちょっと感動した。
 ひとまず彼女を助け起こし、共に城を脱出する事にする。
 城は燃えた後のようである。
 ほぼ木造なので、大変よく燃えるわけだ。
 城の周りにある町やら森も、大変燃えている。
 まるで最近、干ばつでもあったような有様だな。

「おっと、黄色い鎧発見」

「ぬうっ!? り、竜胆姫!?」

 階下には黄色い鎧の連中がまだうようよいたので、

「よし、ではまとめて片付ける」

 再びの戦闘開始である。
 こいつらのパターンは大体分かったので、今度は二分ほどで終わった。

「ああ……妾の……。お父様と、お母様の国が……!」

 外に出たお姫様……竜胆と言う名前らしい……は、大いに嘆いた。
 俺の前では気丈に振舞っていたのが、たちまち眉毛がハの字になって、大きな目から涙がぼろぼろこぼれる。
 俺はあれだ。
 乙女の涙とかに大変弱い。
 どうしたらいいか分からなくなるのだ。
 とりあえず、オロオロした。
 一時間くらいそのままオロオロしていたら、涙が涸れたっぽい竜胆が、俺をキッと睨んだ。

「お主のう……! 妾が知る真のますらおというものは、こういうとき何も言わずに横にいてくれたりするものじゃ!! お主はなんじゃ! 妾も泣いたのは悪かったが、慌ててオロオロしおって!」

 あっ、プンスカ怒っている。
 まあ悲嘆に暮れて泣くよりは、何か怒りを燃やしているほうが良かろう。

「は、ごめんなさいでござる」

「何がござるじゃー!! 何か! それ、お主の口癖か!」

「違うでござる」

「むきー!!」

「あっ、焼け落ちた柱を拾い上げて、あっ、そんな太いものをどうする気だ。え? 俺をこれで? 叩く? ハハハ、やだなあ死んじゃうじゃないか。や、やめてえ」

 俺は、怒り心頭の姫武者に、ふっとい柱を振り回されて追いかけられる羽目になったのである。
 だが、これまでの生き急ぐような戦いの数々で鍛え抜かれた俺のスタミナは並ではない。
 すぐに竜胆は肩で息をするようになり、座り込んでしまった。

「はあっ、はあっ……。な、なんなのじゃ、お主は……! あの尾長を手玉にとって倒したと思ったら、泣き出した女の慰め方も知らぬ……。一体何者なのじゃ」

「うむ。実は色々深い理由があってな。俺はこことは別の国で色々あって、ここに飛ばされてきたのだ」

「色々と言う割りに説明が短いのう……」

 竜胆が呆れ顔だ。
 だが、先ほどの悲しみに満ちた顔ではない。
 それならば随分ましではないか。

「それでは、お主は元いた国に帰りたいのか?」

「帰りたい。というか、帰らないとデートの途中だったので大変まずい」

「でえと……? よく分からぬが……ならば妾がお主を手助けしてやらんでもない」

「おおー」

 渡りに船である。
 やはり人助けはしておくものだな。

「だが一つ条件がある」

「やっぱりそう来るか」

「そんなうまい話があるものか。お主、妾を手伝うのじゃ。お主ほどの腕前の剣士なら、旅の供とできれば心強い」

「ははあ、旅に」

「そうじゃ。……妾は、帝に事の真意を尋ねたい。全ての荒神憑きを滅ぼすなど、正気ではないわ……。例え帝であろうと、許す事はできぬ……!」

 そんな訳で、新天地での冒険が始まるのだった。
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