熟練度カンストの魔剣使い~異世界を剣術スキルだけで一点突破する~

あけちともあき

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第二部 和の国の魔剣士編

熟練度カンストの反逆者3

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 連なり島に上陸である。
 ここは、幾つかの島がごく近い範囲で連なり、それぞれが干潮の時に浮き上がる浅瀬や、橋で繋がれている。
 橋と言っても釣り橋だったり、満潮の時だけ使える浮橋だったりするので、まあ蓬莱において、辺境といえそうな場所なのだ。

「こっちのルートを行けば本土まですぐだって言うけど、なんで蓬莱帝の手下はここに張ってないんだ?」

「うむ、それは簡単なのじゃ。連なり島は、外なる国々からこの蓬莱へ流れ着いた人々が住み着いておってな。治外法権というやつなのじゃ」

「蓬莱帝の威光とやらが通じないわけか」

「そういうことじゃ」

 竜胆と共に、上陸した後は浜辺をてくてくと歩く。
 少し行くと、掘っ立て小屋が見えてきた。
 近くには、何やら肌の色が黒い連中がたむろしてわいわいと騒いでいる。
 本当だ。あれは蓬莱人ではないな。
 俺は彼らに向かって、のしのしと近づいていく。
 竜胆は、俺のすることだからと黙認しているようだ。後ろからついてくる。

「? 何だ、こいつ。ホウライ人が何の用だ?」

「おっ、言葉の響きが明らかに違うな。ネフリティスとかの方っぽい言葉だな」

「なんだお前、俺の言葉が分かるのか!」

 その黒い奴はびっくりしたようだ。
 体は大きいし、顔立ちは蓬莱人とは全く違う。

「こやつらを、妾たちは異人と呼んでおるがの」

「連なり島はうどんが美味いって言ってたじゃないか」

「こやつらの打つうどんが絶品なのじゃと。昔嗣子上に来た商人がな、言うておったのじゃ」

「ほう!」

 俺は耳寄りな情報を聞き、じっと黒い奴を見た。
 多分、現実世界だと黒人と呼ばれる人種だと思うんだが、体格が大きいから、アメリカ系の黒人っぽい。
 あっちの国々では見なかった人種だな。
 ネフリティスよりも遠くに、彼らの国があるんだろうか。

「な、なにをそんな目をキラキラさせて見てやがるんだ」

「うどんください」

「ウドン……? ああ、あれのことか。ホウライでは、パスタのことをウドンと言うんだな」

 他の連中も、俺とこいつのやり取りに興味が沸いたようで集まってくる。
 悪い奴らでは無さそうだ。
 ……と思ったら。

「おいホウライ人のちび。後ろの女を置いていけよ。怪我したくないだろ?」

 なんか別の柄が悪いのが絡んできたぞ。
 俺と喋ってた奴は露骨に顔をしかめて、

「ジョン、そういうのはやめろ! 俺たちはここから帰れない以上、ホウライに溶け込んで暮らすしかないんだぞ」

「はっ、いつから腰抜けになった、ベン! 俺たちは体もでかいし、力だって強い。だったら、弱いホウライのちびどもに遠慮することなんか無いだろう!」

「ジョン、相手がアラガミ・マスターかもしれないんだぞ」

 ベンというのが、俺が会話してた気の良い男のようだ。
 彼が怖い顔をして告げた言葉に、ジョンとやらは一瞬うっという顔をした。
 荒神憑きはこの島でも恐れられてはいるんだな。
 俺は安心させるために、手を上げて宣言した。

「大丈夫だ。俺は荒神憑きではないし、やつらを蹴散らしてここまでやってきたので安全だ」

「はあ!? アラガミ・マスターに勝っただと!? お前が!?」

 ジョンとやらは露骨に馬鹿にした顔をした。
 うわー、久々に外見で侮られたなあ。
 最近、なんか俺を見た目で判断する奴が減ってきた気がしていたのだ。
 何故かみんな、俺を一目で強いと判断してしまう。
 だから、この世界に来たばかりの頃のようなこの見られ方は懐かしいものだった。

「うむ。俺が勝った。もしよければ証明するが」

「ははははは!! お前みたいなちびが、俺とやり合おうだって!? お前、俺を馬鹿にしてるのか!? いいだろう、やってやる! 俺が勝ったら後ろの女はもらうぜ! 何せ、俺たちは万年女不足でな」

 ジョンの背後を見ると、なるほど、異人はみんな男だ。
 これでは色々と大変だろう。
 ベンは俺とジョンのやり取りを止めたがったようだったが、俺も竜胆もケロッとしているので、様子を見ることに決めたらしい。
 俺はジョンと共に浜辺に出る。
 ジョンは拳を構えている。

「さあ、来いよちびすけ!」

 俺はその辺から、流木を一本拾った。

「よし、行くぞ」

 俺は砂を蹴る。
 半呼吸でジョンとの間合いを拳一本分に縮め、ジョンの目線が俺に降りてくる前に、その鼻っ柱に流木を叩き込んだ。
 恐らく、俺とこいつの体重差は三十キロばかりあるだろうが、いやあ……。見事にジョンが吹き飛んでいった。いかにでかかろうが、足腰に気が入ってなければ風船を殴るのと変わらんな。
 バウンドすることなく十数メートルぶっ飛んでいくジョンの後を、俺は追う。
 いや、吹っ飛ぶよりも早く、俺の脚は踏み出している。
 だから、十数メートル先に到達したこいつを、上から棒で叩き落した。
 砂が爆発的に吹き上がる。
 これは演出って奴だ。
 わざと派手な見た目になるようにぶん殴った。

 周囲がどよめきに満ちている。
 異人たちは全員が立ち上がり、驚愕に目を見開いている。
 俺の足元には、あられもない姿勢になって完全に白目を剥いたジョンの姿。
 これはまんぐり返しというやつですな。セクシー。

「あ、いっけね。気絶させちゃった」

 俺はハッとした。
 気絶してしまったら、俺の実力を見せるわけにはいかんではないか。
 これは起き上がってきたらもう1ラウンドやるしかあるまい。
 俺はまったりと、ジョンが覚醒するのを待つ構えであった。
 そこで、ベンが滑り込んできた。

「わ、悪かった! ジョンはこう、チンパンジーなみの思考なのだ! あんたが恐ろしく強い事だけは理解した! もう俺たちはあんたに手を出さない!」

「いや、別に取って食おうというわけではなくてだな。うどんを食おうというわけなのだ」

「ウドン・パスタだな。いいだろう。普段はホウライ人たちと、物々交換で提供するものだが、小麦が残っている。作ってやろう」

 そう言う事になった。



 ベンがウドンなのかパスタなのか分からんものを茹でている間に、ジョンが目を覚ましたようである。
 俺がやったダメージが抜けていないようで、棒にすがりながら歩いてくる。

「わ、悪かった。俺が気がついたら顔面に一撃もらって、それで空を飛んでた。で、見上げたらお前の顔があって……それで何も分からなくなった。あいつらから話を聞いたが、お前はアラガミ・マスターのような動きをしたそうだな。本当にお前は、アラガミ・マスターではないのか?」

「ありゃ、ただの剣術だ。人間、鍛えれば特別な能力などいらんのだ」

 俺の言葉に、何やら竜胆がうんうんと頷いている。
 ジョンも、感心したように頷いた。

「お前、名前はなんという。俺たち太陽の民は、強き勇者は尊敬するのだ」

「戦士ユーマだ」

「お前ほどの男が、一介の戦士であるものか! お前は勇者だ。勇者ユーマよ!」

 おお、ランクアップしたぞ。
 ジョンは、竜胆が俺の妻だと勘違いしたようで、もう手出しはしないと誓ってきた。
 その上で、ウドンパスタとか言うのが茹で上がるまで、こいつに状況を聞く。

「俺たちは元々、ネフリティスの商船の乗組員だったのだ。南ネフリティスは、俺たち太陽の民が暮らしている場所でな。北ネフリティスまでよく出稼ぎに行くのだ」

「奴隷とかではない?」

「エルド教の連中は人種で人間を判断せんからな。悪い商人に騙されて奴隷になる者もいたが、俺たちはエルドの連中のお陰で真っ当な水夫さ。だが、船が東の大国、ヒスイに向かう途中で嵐に呑まれてな。それでホウライに流れついちまったって訳だ」

「流れ着いてしまったか。じゃあ、お前ら俺と目的は一緒なのかもしれんな。俺はあっちの世界からここまで魔法で飛ばされてきてな。戻る手段を探す為に、とりあえず蓬莱帝を一発殴りに行くところだ」

「……なぜ、戻る為にホウライのキングを殴るんだ……。いや、だがお前が手段を探しているという事は、まさか、ここからネフリティスに戻れるっていうのか!?」

「そりゃ戻れるだろう。というかお前ら、なんで戻らなかったの」

 俺の問いに、ジョンは難しい顔をした。

「ホウライの人間は俺たちの外見を怖がるんだ。そして石を投げてくる。こっちだって人間だ。石を投げられて愉快になるわけがねえだろう」

「ははあ、船を直す手段もなく、助けも得られんかったか」

 俺、納得である。
 それで長いこと、この連なり島に住み着いていたと。

「まあ、肌の色や体格なんざ誤差だ誤差。俺の仲間はもっと凄いのがたくさんいるからな。どうだ、俺たちと一緒に京とやらに向かってみんか」

 せっかくなので、俺はこいつらを口説く事にした。
 多少気は荒いかも知れんが、基本、俺が最初に出会った騎士たちである、ヴァイデンフェラー辺境騎士団の連中と変わらん。
 それに、石を投げられて来たわけで、気持ちがささくれ立っていたってのはよく分かる。
 俺も似たような経験があるからな。
 ジョンは目を丸くしていた。
 お前、びっくりすると目がでかくなるんだな。

「ユーマ、こやつらを連れて行くのか? 目立つと思うが」

「どうせマークされてるだろ。ここは襲撃を頭数で正面突破しながら京まで上洛してやるってのも乙だと思うぜ」

「大胆な発想じゃのう……! それはさすがに、帝も想定していないと思う。だけど、それはあまりにも馬鹿な考えだからじゃ。いかに人数がいても、帝に従う兵の数は凄まじいものぞ? それこそ、嗣子上にかつて住んでいた民の数よりも多い」

「全部を相手にする必要はなかろう。そこらは道すがら考えるさ」

 すると、竜胆は複雑そうな顔をして、だがちょっと嬉しそうな表情を浮かべた。

「豪胆なのか、それともただの馬鹿なのか……。じゃが……妾はユーマのそういうところが、嫌いではないな」

「そいつはどうも」

「おっと、いちゃいちゃしてるところ悪いが、ウドン・パスタの完成だぜ。茹でた卵を潰して塩を振って食ってくれ」

 ベンが料理を持って戻ってきた。
 おほー、こいつは、カルボナーラじゃないか!!

「鳥の脂と卵を合わせて煮込むんだよ。これでとろりとしたスープができる。このドリームアイランドは、渡り鳥の群生地でな」

「ドリームアイランド?」

「ああ。いつかネフリティスに戻るってな。船長が名づけた名前だ。あの人がいるから、俺たちはホウライの連中に手出しされずに生き残れてる」

「なるほどな。……いただきます」

 気になる名前を聞いた。
 だが、今は食欲の方が大事である。
 竜胆も隣で、ごくりと唾を飲んでいる。

「これが、噂のうどん……! 汁なしの皿うどんを、卵と卵だれで食すのか……!」

「むっ! うむむっ! むむむーっ!! う、うまい」

 枝を削って作った箸で食うのだが、これはまた実に美味い。
 カルボナーラと言うには荒々しい味だし、胡椒が無いからやや単調なのだが、鳥の脂を使っているからこのこってりした味が、蓬莱のあっさり出汁味になれた舌にはとても刺激的だ。
 俺がカルボナーラを貪る姿を見て、竜胆も堪らずに食べ始めた。
 女子らしからぬ豪快な食べ方で、一気にパスタを啜っていく。
 うむ、これはうどんじゃないな。完全にパスタだ。
 ちょっと分厚いフェットチーネと言うか。

「そんなに美味そうに食われると、こっちも嬉しくなるな」

 ベンは、俺たちの食事風景を見ながらニヤニヤしていた。
 こいつは、船の調理担当だったらしい。
 道理で料理が美味いわけだ。

「ベン、ちょいと話がある。こいつら、船長に会わせよう」
 
 ジョンの言葉が聞こえた。
 食事に没頭する俺たちの横で、また話は新しい局面に動こうとしているわけなのである。
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