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第二部 和の国の魔剣士編
熟練度カンストの勧誘者2
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「で、この繁みの覗き穴から刺客を狙い撃ってたわけか」
船長が潜んでいた場所は、ちょっとした見張り台になっていた。
ここで、船長と副船長が交互に見張りを行い、やってくる荒神憑きどもをやっつけていたらしい。
「よく弾切れしなかったな」
「あん? お前、エルド教の武器に詳しいと思ったら何も知らないんだな。こいつはな、弾さえ回収すりゃ、壊れるまで何回だって使えるんだよ」
「は? 火薬じゃないのか」
「おう、火薬を使って鉄の弾を打ち出す、銃のまがい物ならヒスイ帝国でも盛んに作ってるな。だが、ありゃ音がでかくて煙が出るだけだ。威力も精度も、まだまだ機械仕掛けの弓のほうが全然強いぜ。だが、こいつは別物だ。なんつうんだったか……。デンキ、っつうのを銃身の中に走らせて、弾丸を滑らせながら射撃するんだと」
「レールガンじゃないか」
俺はかなり驚いた。
なるほど、ラグナ教が信者にもたらす力が、あの分体とか言う召喚される人型ビーム砲台で、ザクサーン教は狂戦士化という人間のリミッターを外しての兵器化だった。
エルド教だけ、普通に近代の武器と言うのはちょっと弱いなーと思っていたのだ。だが、実は中身がレールガンだったのなら話は別だ。
弾丸を回収し続ける限り、無限に戦闘を続けられる、というのが船長の話である。
なるほど、これは蓬莱側も、どう攻めて良いのか迷うところであろう。
「まあ、それでも副船長は死んだがな。とんでもねえアラガミ・マスターが、弾丸を金色のシュリケン・ダガーで跳ね返してな……。今思い出してもゾッとするぜ」
「あー。そいつなんか知ってる気がするわー」
そいつはデスブリンガーですな……。
荒神憑きよりも、余程たちの悪い連中で、スペック的には俺に匹敵する奴らも珍しくない。
ただ、戦闘経験が少ないため、想定外の状況に大変弱い。
そこをついて倒すのが肝である。
数時間前に遭遇したあのくノ一、さてはお間抜けな奴と見せかけて、凄腕のデスブリンガーメンバーだったらしい。
いかんなあ。倒したのを確認していない。
「まあ、だが、今度そいつが来たら俺が引き受けよう。何せさっきもやっつけてきた」
「何っ! 本当か!?」
本当だよな、と竜胆に確認しようとしたら、何やら彼女は異人どもに囲まれて、山葡萄やら木苺やらをプレゼントされている。
あー、異人たちにとっても久々の女の子だろうからなあ。
チヤホヤされている。
俺が見たところ、竜胆は女子として扱われ、チヤホヤされる経験が無いタイプと見た。
「そ、それをくれるのかや? ありがとう。え、そっちも? え、お主も妾に?」
戸惑ってる戸惑ってる。
アレは絶対、チヤホヤされていると理解していないぞ。
「おーい、お前、何さっきからずっと余所見してんだ」
船長が呆れた声で突っ込みを入れてきた。
いかんいかん。
すっかり竜胆に気を取られていた。
「じゃあ話に戻るか。ええと、ここから見えるのが連なり島の全景か?」
「そうだ。一番先の大橋は、ツネジョウとかいう国と繋がってて、奴らは一番厄介なアラガミ・マスターだな」
「おうおう。幻術使いなー。そいつらが橋を守ってると?」
「そうだ。だから俺たちもここから先には行けねえ。かと言って、後ろのシシュウ・アイランドに行っても、熊みてえなアラガミ・マスターが俺たちを追い立ててきやがる」
「前門の虎、後門の狼だな。進退窮まってやがる」
「おめえ、難しい事を言うな……。ヒスイ帝国の古いことわざか何かだろ、それ」
「インターネットで読んだ」
「なんだか分からんが、お前がインテリだってことは分かったぜ。だが、すぐにお前に俺たちの命を預けるってわけにはいかねえ」
船長は腕組みをして唸った。
「俺としちゃ不思議なんだが、なぜだかお前についていけば大丈夫な気がしてる。船乗りの勘ってやつなんだがよ。だが、それでも船長である俺が、ホイホイとぽっと出の男を上に頂いちゃ、示しがつかねえってもんだ。もっと、こいつらにも分かる形で、お前の力を見せてくれ」
「いいだろう。だが俺は荒事専門でな。どこかに厄介な敵がいる場所はあるか……って、そうか、大橋だな。案内してくれ」
ということで、船長の中ではほぼ、俺についてくることは決まっているようなのだが、形式として俺が彼らの上に立つ事を周囲にも納得させるための儀式っぽい仕事をすることになった。
まあ、異人たちもなんか俺の後に大人しくついてくるんだから、異人たちが船長の上に俺が立つことを認めないんじゃないかって心配は、杞憂だとも思うんだがな。
しかし、俺はこっちの世界に来てから、やれる努力は惜しまないことにしている。
異人たちに案内されながら、連なり島を縦断していく。
古びた吊り橋を渡る。
島と島の間にかけられているから、下はごく狭い海峡になっているのだ。
そこもまた、ごうごうと渦が巻いている。
時折渦にはじき出されて、魚が浜辺に打ち上げられるという。これも異人たちのご馳走らしい。
「怖いのう」
俺はなんかこう、足元がふらふらする環境が好きではない。
「なんじゃユーマ。お主、剣に乗ってすいすいと海の上を走っておったではないか。それが吊り橋の上で怖いとは、女子か!」
「自分で操作できるものと、こういうなんともならんものはまた違っててな……。だって安全装置とか無いしな。まだドラゴンの背中の方が安心だ」
「……お主の判断基準がわからん!」
だが、怖いものは怖いのである。
ということで、竜胆に手を繋いでもらった。
「吊り橋が怖いらしいぜ」
「あの剣士も一応人間なんだな」
「ちょっと親しみを覚えるぜ」
異人たちが口々に何か言っている。
だが、俺は他人に格好悪いところを見せるのは慣れているのだ。その道のプロと言っても良いだろう。
ということで、堂々と竜胆と手を繋いで、おっかなびっくり吊り橋を渡るぞ。
「ひええ、風で揺れたあ」
「荒神憑きを剣一振りで一蹴するような男が、何を女々しい事を……あっ、こら、抱きつくでない! ひゃーっ」
思わず竜胆にしがみ付くと、彼女はそれが大変恥ずかしかったようで、耳を真っ赤にしながらどかどか吊り橋を駆け抜けていった。
俺をぶら下げたままである。
うむ、素晴らしいパワーだ。
かくして、俺的に蓬莱最大の難関であった吊り橋を抜けた。
次に見えたのはきちんとした木の橋だ。
「なんであっちは吊り橋なんだよう」
俺が文句を言うと、船長が首を傾げた。
「俺もよく分からんのだ。だが、恐らくあっちは島と島の距離が近いのと、海峡が渦を巻いていて橋脚が立てられなかったのだろう」
なるほど、確かにここの海峡は水の流れが穏やかである。
よく見てみると、水底が近い。浅いのだ。
以前はひと繋がりの島だったものが、沈み込んだのかもしれない。
これは悠々と抜けていく。
「気をつけろ。ここから先はツネジョウとやらの領域だ。俺たちも、クルーをこっちには行かせてねえ。何が起こるか分からんぞ」
「ははあ。向こうの兵士が潜んでるかも知れないってことだな」
俺は無造作にバルゴーンを抜くと、すぐ真横まで来ていた異人の腹に突き立てた。
「なっ……!?」
異人が目を見開く。
周りの連中も同様だ。
「お、おいお前、とち狂ったか!? ッて……! あれ、こいつは誰だ……!?」
船長は一瞬驚いたものの、その異人に見覚えが無かったらしい。
他の異人たちも、どよめく。
俺が腹を突き刺した異人は、口から血の泡を吐きながら、憎々しげに俺を睨む。
「な……ぜ……、分かった……!」
口から出てきたのは流暢な蓬莱語である。
異人たちの言葉と響きが全く違うから分かる。
つまり、こいつは常上の兵士だ。
「殺気がな。質が違う」
「それだけで、躊躇せずに……斬ったのか……! 正気では、な」
「そいっ」
腹に刺した剣を、真横に抜く。
そして、近寄ってきた何者かの、不可視の刀を抜いた勢いのまま受け、へし折った。
「なにっ!!」
虚空から驚きの声が上がる。
「はい、みんな離れるように。もうこの辺りに何人かいるから」
空いた左手で船長と異人を後ろに下がらせる。
竜胆は棒を抜き、ひゅんひゅんと振り回し始める。良い判断だ。
幻に紛れて襲ってくるのが常上の荒神憑きの戦い方だが、実体を消せるわけではない。
棒を振り回しておけば、近寄った相手には当たるのだ。
「もう来ていやがったのか……!」
「姿を消してるから分かりづらいけどな……って、船長、お前よく、姿を消してるこいつらを撃ったりできたな?」
「あ、ああ、そいつらは向こうの島だと、上手くアラガミのスキルを使えないようだぜ。よくは分からんのだが」
「そういうことか。じゃあ、ここからが本格的に常上の土地なんだな? おっと」
また、不可視の状態になって襲ってきた相手を、受け流しながら撫で斬りにする。
虚空から血がしぶき、すぐに右半身を切り飛ばされた兵士になってその場に倒れこむ。
「何故だ! 何故、貴様は我らの幻術を見抜ける!」
「攻撃の瞬間に殺気を出しすぎだ。まあ、殺気が無くとも空気の流れが、ちょうど人間一人分空くからな。それに踏みしめた地面な。草が曲がってるだろ。あと呼吸な。臭いもする。丸分かりだろ」
「馬鹿な……!!」
びっくりしてる幻術使いを、また一人切り倒す。
こいつらは、見た目だけの幻術は一流だが、まあそれを使いこなすセンスは三流もいいところだ。
一流の幻術だからこそ、それを活かすにはより気を使い、詐術にも似た騙しとか、野伏のカモフラージュ技術とか、そういうのが必要なのだ。
その点、竜胆を襲ってたあのキツネっぽい男は超一流の幻術使いだった。
あいつは真剣に俺は危険だと思ったので、あの場で倒した。
「竜胆ちゃん、こっちこっち。俺の前で棒を振り回して」
「むっ! わかったのじゃ! おりゃあーっ!」
とりあえず、隠れてる連中をちまちま見つけて切るのでは面倒くさい。
俺は竜胆を前に出して、彼女に棒を振り回させて周囲の状況を確認する。
……おっ、風景がずれた。
そこに剣を走らせる。
「ぐええっ」
血飛沫が上がる。
既に、俺はそこを見ていない。
竜胆が棒を使うたび、それを避けるように幻に紛れた連中が動き回る。
これを潰していくのだ。
また一つ、二つ、三つ。
「ぎゃっ!」
「うぎゃあっ」
すると、視界の端できらりと光るものがあった。
「おっと失礼」
俺は竜胆を後ろから抱きかかえて後退、そのまま剣を振るった。
金属音が響き、幻に紛れて飛来した短刀を打ち返す。
これは正確に打ち返してやった。
木の幹と思われる場所に、跳ね返った短刀が突き立ち、そこからだらだらと血が流れ始めた。
表れたのは、胸に深々と短刀の突き刺さった武者である。
「こ……この化け物めえ……!!」
俺を、憎悪と、それ以上の恐怖が入り混じった目で見やってくる。
「だ、だがこの先は常上、そして京ぞ……! 京にて警護を務める四聖武人が、うぬが如き怪しの剣術など平らげてくれよう……!」
「おっ、なんか凄く燃えるシチュエーションだな。よし、それは楽しみにさせてもらおう」
俺の言葉を聞いて、そいつはとても悔しそうな顔をした。同時に、やはり失血ばかりでなく、恐怖の感情で顔を青ざめる。
「帝の……神の力もあるのだぞ……! 恐ろしくは、無いのか……!」
「神様みたいなのは何度か倒してるからな。まあ、いけるだろう。じゃあな、情報提供ご苦労」
俺は近づき、そいつの胸の短刀をぐっと押し込んでやった。
そいつは最後まで、恐怖に満ちた目で俺を見ながら、事切れた。
すると、周囲に満ちていた殺気のようなものがスッと薄れていった。
ああ、これは……この殺気までもが幻だったようだ。
幻術使いの兵士どもは、そこまで数は多くないのだな。
それはそうか。これほどの術を使える人間が山ほどいたら、その軍隊は最強だろう。
「おう、終わったぞ。どうだ船長、あんたのお眼鏡にかなったかな」
「言い回しの意味は分からねえが……ご、合格だ。しかし、恐ろしい剣の冴えだな……! 俺ぁ、あのアラガミ・マスターどもが憐れに思えてきちまったぜ……」
「なんじゃ? ユーマ、問題ないことになったのか? 良かったのう! 妾もまた仇を討てた……! じゃが、もっと精進せねば」
「竜胆ちゃんは勉強熱心だな。よし、今度は実際に戦ってもらっちゃおうかな!」
すぐさま、俺と竜胆が和気藹々と話し出したのだが、これを船長は何か恐ろしいものでも見るような目で見つめていたのである。
失敬な。
船長が潜んでいた場所は、ちょっとした見張り台になっていた。
ここで、船長と副船長が交互に見張りを行い、やってくる荒神憑きどもをやっつけていたらしい。
「よく弾切れしなかったな」
「あん? お前、エルド教の武器に詳しいと思ったら何も知らないんだな。こいつはな、弾さえ回収すりゃ、壊れるまで何回だって使えるんだよ」
「は? 火薬じゃないのか」
「おう、火薬を使って鉄の弾を打ち出す、銃のまがい物ならヒスイ帝国でも盛んに作ってるな。だが、ありゃ音がでかくて煙が出るだけだ。威力も精度も、まだまだ機械仕掛けの弓のほうが全然強いぜ。だが、こいつは別物だ。なんつうんだったか……。デンキ、っつうのを銃身の中に走らせて、弾丸を滑らせながら射撃するんだと」
「レールガンじゃないか」
俺はかなり驚いた。
なるほど、ラグナ教が信者にもたらす力が、あの分体とか言う召喚される人型ビーム砲台で、ザクサーン教は狂戦士化という人間のリミッターを外しての兵器化だった。
エルド教だけ、普通に近代の武器と言うのはちょっと弱いなーと思っていたのだ。だが、実は中身がレールガンだったのなら話は別だ。
弾丸を回収し続ける限り、無限に戦闘を続けられる、というのが船長の話である。
なるほど、これは蓬莱側も、どう攻めて良いのか迷うところであろう。
「まあ、それでも副船長は死んだがな。とんでもねえアラガミ・マスターが、弾丸を金色のシュリケン・ダガーで跳ね返してな……。今思い出してもゾッとするぜ」
「あー。そいつなんか知ってる気がするわー」
そいつはデスブリンガーですな……。
荒神憑きよりも、余程たちの悪い連中で、スペック的には俺に匹敵する奴らも珍しくない。
ただ、戦闘経験が少ないため、想定外の状況に大変弱い。
そこをついて倒すのが肝である。
数時間前に遭遇したあのくノ一、さてはお間抜けな奴と見せかけて、凄腕のデスブリンガーメンバーだったらしい。
いかんなあ。倒したのを確認していない。
「まあ、だが、今度そいつが来たら俺が引き受けよう。何せさっきもやっつけてきた」
「何っ! 本当か!?」
本当だよな、と竜胆に確認しようとしたら、何やら彼女は異人どもに囲まれて、山葡萄やら木苺やらをプレゼントされている。
あー、異人たちにとっても久々の女の子だろうからなあ。
チヤホヤされている。
俺が見たところ、竜胆は女子として扱われ、チヤホヤされる経験が無いタイプと見た。
「そ、それをくれるのかや? ありがとう。え、そっちも? え、お主も妾に?」
戸惑ってる戸惑ってる。
アレは絶対、チヤホヤされていると理解していないぞ。
「おーい、お前、何さっきからずっと余所見してんだ」
船長が呆れた声で突っ込みを入れてきた。
いかんいかん。
すっかり竜胆に気を取られていた。
「じゃあ話に戻るか。ええと、ここから見えるのが連なり島の全景か?」
「そうだ。一番先の大橋は、ツネジョウとかいう国と繋がってて、奴らは一番厄介なアラガミ・マスターだな」
「おうおう。幻術使いなー。そいつらが橋を守ってると?」
「そうだ。だから俺たちもここから先には行けねえ。かと言って、後ろのシシュウ・アイランドに行っても、熊みてえなアラガミ・マスターが俺たちを追い立ててきやがる」
「前門の虎、後門の狼だな。進退窮まってやがる」
「おめえ、難しい事を言うな……。ヒスイ帝国の古いことわざか何かだろ、それ」
「インターネットで読んだ」
「なんだか分からんが、お前がインテリだってことは分かったぜ。だが、すぐにお前に俺たちの命を預けるってわけにはいかねえ」
船長は腕組みをして唸った。
「俺としちゃ不思議なんだが、なぜだかお前についていけば大丈夫な気がしてる。船乗りの勘ってやつなんだがよ。だが、それでも船長である俺が、ホイホイとぽっと出の男を上に頂いちゃ、示しがつかねえってもんだ。もっと、こいつらにも分かる形で、お前の力を見せてくれ」
「いいだろう。だが俺は荒事専門でな。どこかに厄介な敵がいる場所はあるか……って、そうか、大橋だな。案内してくれ」
ということで、船長の中ではほぼ、俺についてくることは決まっているようなのだが、形式として俺が彼らの上に立つ事を周囲にも納得させるための儀式っぽい仕事をすることになった。
まあ、異人たちもなんか俺の後に大人しくついてくるんだから、異人たちが船長の上に俺が立つことを認めないんじゃないかって心配は、杞憂だとも思うんだがな。
しかし、俺はこっちの世界に来てから、やれる努力は惜しまないことにしている。
異人たちに案内されながら、連なり島を縦断していく。
古びた吊り橋を渡る。
島と島の間にかけられているから、下はごく狭い海峡になっているのだ。
そこもまた、ごうごうと渦が巻いている。
時折渦にはじき出されて、魚が浜辺に打ち上げられるという。これも異人たちのご馳走らしい。
「怖いのう」
俺はなんかこう、足元がふらふらする環境が好きではない。
「なんじゃユーマ。お主、剣に乗ってすいすいと海の上を走っておったではないか。それが吊り橋の上で怖いとは、女子か!」
「自分で操作できるものと、こういうなんともならんものはまた違っててな……。だって安全装置とか無いしな。まだドラゴンの背中の方が安心だ」
「……お主の判断基準がわからん!」
だが、怖いものは怖いのである。
ということで、竜胆に手を繋いでもらった。
「吊り橋が怖いらしいぜ」
「あの剣士も一応人間なんだな」
「ちょっと親しみを覚えるぜ」
異人たちが口々に何か言っている。
だが、俺は他人に格好悪いところを見せるのは慣れているのだ。その道のプロと言っても良いだろう。
ということで、堂々と竜胆と手を繋いで、おっかなびっくり吊り橋を渡るぞ。
「ひええ、風で揺れたあ」
「荒神憑きを剣一振りで一蹴するような男が、何を女々しい事を……あっ、こら、抱きつくでない! ひゃーっ」
思わず竜胆にしがみ付くと、彼女はそれが大変恥ずかしかったようで、耳を真っ赤にしながらどかどか吊り橋を駆け抜けていった。
俺をぶら下げたままである。
うむ、素晴らしいパワーだ。
かくして、俺的に蓬莱最大の難関であった吊り橋を抜けた。
次に見えたのはきちんとした木の橋だ。
「なんであっちは吊り橋なんだよう」
俺が文句を言うと、船長が首を傾げた。
「俺もよく分からんのだ。だが、恐らくあっちは島と島の距離が近いのと、海峡が渦を巻いていて橋脚が立てられなかったのだろう」
なるほど、確かにここの海峡は水の流れが穏やかである。
よく見てみると、水底が近い。浅いのだ。
以前はひと繋がりの島だったものが、沈み込んだのかもしれない。
これは悠々と抜けていく。
「気をつけろ。ここから先はツネジョウとやらの領域だ。俺たちも、クルーをこっちには行かせてねえ。何が起こるか分からんぞ」
「ははあ。向こうの兵士が潜んでるかも知れないってことだな」
俺は無造作にバルゴーンを抜くと、すぐ真横まで来ていた異人の腹に突き立てた。
「なっ……!?」
異人が目を見開く。
周りの連中も同様だ。
「お、おいお前、とち狂ったか!? ッて……! あれ、こいつは誰だ……!?」
船長は一瞬驚いたものの、その異人に見覚えが無かったらしい。
他の異人たちも、どよめく。
俺が腹を突き刺した異人は、口から血の泡を吐きながら、憎々しげに俺を睨む。
「な……ぜ……、分かった……!」
口から出てきたのは流暢な蓬莱語である。
異人たちの言葉と響きが全く違うから分かる。
つまり、こいつは常上の兵士だ。
「殺気がな。質が違う」
「それだけで、躊躇せずに……斬ったのか……! 正気では、な」
「そいっ」
腹に刺した剣を、真横に抜く。
そして、近寄ってきた何者かの、不可視の刀を抜いた勢いのまま受け、へし折った。
「なにっ!!」
虚空から驚きの声が上がる。
「はい、みんな離れるように。もうこの辺りに何人かいるから」
空いた左手で船長と異人を後ろに下がらせる。
竜胆は棒を抜き、ひゅんひゅんと振り回し始める。良い判断だ。
幻に紛れて襲ってくるのが常上の荒神憑きの戦い方だが、実体を消せるわけではない。
棒を振り回しておけば、近寄った相手には当たるのだ。
「もう来ていやがったのか……!」
「姿を消してるから分かりづらいけどな……って、船長、お前よく、姿を消してるこいつらを撃ったりできたな?」
「あ、ああ、そいつらは向こうの島だと、上手くアラガミのスキルを使えないようだぜ。よくは分からんのだが」
「そういうことか。じゃあ、ここからが本格的に常上の土地なんだな? おっと」
また、不可視の状態になって襲ってきた相手を、受け流しながら撫で斬りにする。
虚空から血がしぶき、すぐに右半身を切り飛ばされた兵士になってその場に倒れこむ。
「何故だ! 何故、貴様は我らの幻術を見抜ける!」
「攻撃の瞬間に殺気を出しすぎだ。まあ、殺気が無くとも空気の流れが、ちょうど人間一人分空くからな。それに踏みしめた地面な。草が曲がってるだろ。あと呼吸な。臭いもする。丸分かりだろ」
「馬鹿な……!!」
びっくりしてる幻術使いを、また一人切り倒す。
こいつらは、見た目だけの幻術は一流だが、まあそれを使いこなすセンスは三流もいいところだ。
一流の幻術だからこそ、それを活かすにはより気を使い、詐術にも似た騙しとか、野伏のカモフラージュ技術とか、そういうのが必要なのだ。
その点、竜胆を襲ってたあのキツネっぽい男は超一流の幻術使いだった。
あいつは真剣に俺は危険だと思ったので、あの場で倒した。
「竜胆ちゃん、こっちこっち。俺の前で棒を振り回して」
「むっ! わかったのじゃ! おりゃあーっ!」
とりあえず、隠れてる連中をちまちま見つけて切るのでは面倒くさい。
俺は竜胆を前に出して、彼女に棒を振り回させて周囲の状況を確認する。
……おっ、風景がずれた。
そこに剣を走らせる。
「ぐええっ」
血飛沫が上がる。
既に、俺はそこを見ていない。
竜胆が棒を使うたび、それを避けるように幻に紛れた連中が動き回る。
これを潰していくのだ。
また一つ、二つ、三つ。
「ぎゃっ!」
「うぎゃあっ」
すると、視界の端できらりと光るものがあった。
「おっと失礼」
俺は竜胆を後ろから抱きかかえて後退、そのまま剣を振るった。
金属音が響き、幻に紛れて飛来した短刀を打ち返す。
これは正確に打ち返してやった。
木の幹と思われる場所に、跳ね返った短刀が突き立ち、そこからだらだらと血が流れ始めた。
表れたのは、胸に深々と短刀の突き刺さった武者である。
「こ……この化け物めえ……!!」
俺を、憎悪と、それ以上の恐怖が入り混じった目で見やってくる。
「だ、だがこの先は常上、そして京ぞ……! 京にて警護を務める四聖武人が、うぬが如き怪しの剣術など平らげてくれよう……!」
「おっ、なんか凄く燃えるシチュエーションだな。よし、それは楽しみにさせてもらおう」
俺の言葉を聞いて、そいつはとても悔しそうな顔をした。同時に、やはり失血ばかりでなく、恐怖の感情で顔を青ざめる。
「帝の……神の力もあるのだぞ……! 恐ろしくは、無いのか……!」
「神様みたいなのは何度か倒してるからな。まあ、いけるだろう。じゃあな、情報提供ご苦労」
俺は近づき、そいつの胸の短刀をぐっと押し込んでやった。
そいつは最後まで、恐怖に満ちた目で俺を見ながら、事切れた。
すると、周囲に満ちていた殺気のようなものがスッと薄れていった。
ああ、これは……この殺気までもが幻だったようだ。
幻術使いの兵士どもは、そこまで数は多くないのだな。
それはそうか。これほどの術を使える人間が山ほどいたら、その軍隊は最強だろう。
「おう、終わったぞ。どうだ船長、あんたのお眼鏡にかなったかな」
「言い回しの意味は分からねえが……ご、合格だ。しかし、恐ろしい剣の冴えだな……! 俺ぁ、あのアラガミ・マスターどもが憐れに思えてきちまったぜ……」
「なんじゃ? ユーマ、問題ないことになったのか? 良かったのう! 妾もまた仇を討てた……! じゃが、もっと精進せねば」
「竜胆ちゃんは勉強熱心だな。よし、今度は実際に戦ってもらっちゃおうかな!」
すぐさま、俺と竜胆が和気藹々と話し出したのだが、これを船長は何か恐ろしいものでも見るような目で見つめていたのである。
失敬な。
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その結果、様々な女性に迫られることになる。
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「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
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