熟練度カンストの魔剣使い~異世界を剣術スキルだけで一点突破する~

あけちともあき

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第二部 和の国の魔剣士編

熟練度カンストの作戦者2

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 海坊主は倒してみると、海藻の集合体のようだった。
 中心にクラゲのような生き物がいて、海藻を集めてあの体を作っていたのだろう。
 しばらくすると、クラゲは常上の荒御魂の如く、消滅してしまった。

「この海藻は食えるんじゃないか」

 ということになり、天日で干して出汁をとり、スープにして食うことにしたのだ。
 俺と竜胆、亜由美は、海藻を使ったスープ……つまりはワカメの味噌汁みたいなものに馴染みがあるので、おお喜びで口にした。
 反面、

「これは……この臭いが少々……うむむ」

「俺もちょっと苦手だな。海藻なんざ食えるのかよ……?」

 ローザや船長、異人たちには不評であった。
 文化の違いである。
 かくして、味噌汁、アンチョビサンド、干し魚などを試しつつ、航海は四日ほど続き、やがて大陸が見えてきた。
 なるほど。

「あ、ありゃあなんだあ……!?」

 異人の一人であるジョンが、大陸に見えるそれを指差して騒ぐ。
 そこにそびえ立つのは、文字通り天を衝く……いや、天を貫いてどこまでも伸びている、巨大な塔だった。

「あれが軌道エレベーター、もとい、今はマスドライバーな……。無茶苦茶だ」

 俺がしみじみと呟く。
 一見した所、ここが翡翠という国家の都らしい。
 そして、翡翠宮というらしいその王宮は深緑色に輝き、どこからどう見ても、うむ。
 宇宙船である。
 宇宙船の背中が開いて、そこからマスドライバーが伸びている。
 これ多分、ラグランジュポイントに船が降り立てば、構造を変えて軌道エレベーターみたいに出来るんだろう。
 この国の皇帝を名乗る第二総督は、UFOごと地上に降りて城にするという、割り切った政策に出ているようだ。

 俺達の船が港につくと、兵士たちがわらわらやってきた。

「アウシュニヤからの使いの方々ですな。お話は伝わっていますぞ、さあ降りた降りた」

 先頭にいた髭の兵士が言う。
 ちょっと横柄な態度である。
 船長と異人たちはちょっと鼻白んだようで、血の気の多い連中はつっかかりそうである。
 だがまあ、俺はこの髭の兵士、ちょっと尋常ではなく強い事がなんとなく分かったので、異人たちを止めるために前に出た。

「下がれ下がれ。ほい、俺が責任者。俺が指示を出すからそこあけて」

 すると髭の兵士、俺を見るなり、スーッと顔から血の気みたいなものが引いていった。
 そして、

「兵士たち、下がれ! 死にたくないなら下がれ!」

 なんか必死な叫びを上げて、部下たちを後ろに下がらせている。
 おお、こいつも相手の技量が分かるらしい。
 俺の経験上、相手の強さが分かるタイプの人間は、かなりの使い手である事が多い。
 恐らく直接戦えば、この髭の兵士の強さは俺が今まで戦ってきた相手の中でも、十指に入るだろう。
 武器は、矛か。
 一見すると軽装だが、翡翠色の鎧に身を包み、ところどころから赤い飾り布が垂れている。
 背丈は俺よりも頭半分大きい。

「し、失礼いたしました。まさかこの船に武侠が乗っているとは……。しかも、わしが見たことのないほどの恐るべき使い手……!」

「いやいや。おたくもやるみたいね。こっちの国って、おたくみたいな強い人が多いの?」

 率直に尋ねる。
 すると、髭は頷いた。

「翡翠、瑪瑙、紅玉の三国がございましてな。ここなる広大な平野を、央原と呼びます。そして、央原には不思議な力がありまして、武に優れた者、術に優れた者が生まれやすいのです。武に優れたるは武侠、術に優れたるは仙侠と呼ばれましてな……」

「ほうほう。まあ、案内してくれ。道すがら話は聞こう」

 そう言うことになった。


 翡翠は巨大な帝国である。
 俺達が先日までいた蓬莱京は、中央を通る大通りも、これほどの広さではなかった。
 端から端までで、小さな宿場町ならば一つがまるごと入ってしまいそうな大きさである。
 そんな道の中央を、兵士たちと共にのしのしと歩く。
 爽快……というわけではない。
 俺はそこまで、人から注目されたい欲求があるわけではないからな。
 割りと隅っこを歩いている方が心が落ち着く。

「……というわけでしてな。今は戦時下でわしらもピリピリしておるのです。特に、瑪瑙を従える双銃の将軍が強大な武侠でして……」

「二丁拳銃とか、デジャブを覚える奴がいるな。あれか、赤い銃と金色の銃を持って、黒いコートをはためかせる奴だったりしてな」

 冗談半分で言ったのだが、髭は神妙な顔で頷いた。

「然様。恐るべき知略と、単身でも我が軍の武侠を次々打ち破るほどの武力。そして噂によれば男前と来れば、我が国にも隠れて其奴を崇め奉じるような、けしからん輩も出てきておりまして」

「大変だなあ……。そうかあ、あいつかあ」

 間違いなくそれはクラウドである。
 俺が現実世界にいた頃、ギルド・デスブリンガーの長を務めており、俺の戦術眼やらの師みたいな男だ。
 今はデスブリンガーからは離れているようだが、ローザを巡って俺と争ったことがあり、俺が仕合って打ち倒せなかった奴の一人である。
 また出てきそうでゾッとしない。
 戦うのはいいのだが、あいつ、中二病をこじらせたような男だからな。

「なんだユーマ。貴様、クラウドの話をしているのか? あの男、しぶとくも生きていたのだな」

 なぜだか楽しげな様子で、ローザが隣に並んできた。
 彼女が口にする翡翠語は、大変流暢で美しい。
 ということで、髭は一見して異国人であるローザの言葉遣いに驚いたようだ。

「おお、なんという美しい翡翠語を話すのか。さては大いに学問を修めたか、さもなくば高い地位にある御方か。やや、車を用意しなかったのはこちらの不手際であった」

「気にするな。私も最近は、こうやって足を使う方が性に合っている。それに、この男は立っているだけで荒事を引き寄せ、覇気を撒き散らすであろう? 私がこの男に代わって交渉を担当するのだ」

「なるほど……! 御身でしたら、相手も警戒はせぬでしょうな」

 そんなやり取りを横で聞いている。
 ちなみに、竜胆はこの会話にいちいち頷いているが、言葉がよくわかっていない風の亜由美はポカーンと口を開けながら周囲の町並みを見回して、

「ひょえー、オリエンタルファンタジーっすなあ」

 とかなんとか言っている。
 あれはあれで手がかからなくて良い。
 ……と思ったら、いきなり俺の袖を引っ張ってきた。

「ユーマ、ユーマ!」

「なんだい」

「大変っすよ! 一大事っすよ! あれを見るっす!! あの、あの、屋台で売っている飲茶が……!! 肉まんが!! シュウマイが!!」

「ぬうっ」

 俺の心も動かされた。
 亜由美と二人でチラチラと横の屋台群を見ていると、竜胆もやって来た。

「どうしたのじゃ」

「ああ、横の屋台の食い物がやたら美味そうでな……」

「おお……確かに良い匂いがするわ。これは、蒸し物の香りじゃな? 香草の類も使っておって……ぬう……、船の上の粗末な食事に慣れておると、暴力的じゃな、これは!」

 異人たちもわらわら集まってきた。
 みんな、ガッツリした食事に飢えているのである。
 これで、大通りを進む一行の流れが止まってしまったわけで、気付いた髭は大いに困ったようだ。

「うーむ、立ち止まらないようにな! ここは他国から取引に来る車も通る道だ。食べるものであれば、宮殿で宴が開かれよう。お主ら召使たちも、庭園で相伴に預かれるから、今はこらえて先に進むのだ!」

 だが、髭の言葉は翡翠語である。
 俺がニュアンスを翻訳してやった。

「城に飯がたくさん用意してあるから、そっちまで我慢だと。あれだぞ、空腹は最高の調味料だ」

「言われてみればそうだぜ」
「ユーマの旦那良いこと言うな」
「俺たちで宮殿の飯を食い尽くしてやろうぜ」

 異人たちはあっさりと従った。
 みんな、口々に、「めーし」「めーし」と呟いている。

「ユーマ、微妙に内容が食い違っているな」

「そうじゃ! あれではあやつらを煽り立てたようなものじゃぞ」

「なに、宮殿と言うから物凄い料理が出てくるのだろう。満漢全席とか」

「まんかん……?」

「ぜんせき……?」

 ローザと竜胆が首を傾げた。
 伝わらなかったか。
 亜由美だけは全てを理解した顔で、今にもよだれを垂らしそうである。
 そのような訳で、通りのあちこちから溢れてくる、豊かな食の香りに誘惑に抗いながら、大通りを進んでいく。

 やがて、巨大な橋が見えてきた。
 目の前に広がったこの光景。
 翡翠に滞在していたローザは慣れているようだが、俺も竜胆も亜由美も、異人たちも呆れてしまった。
 なんと、都市の中央部に、恐らくは地下水路で川から水を引き、人口の巨大な湖を作っているのだ。
 そして、湖の中央に、この翡翠色の宮殿が聳え立っている。
 宮殿に繋がる橋は四方に一つずつ。
 今、俺たちはその一つを渡るところだった。

「あれあれ? ユーマ、あの高い奴が消えていくっすぞ!?」

 またも俺の袖を引っ張る亜由美。
 対抗してか、逆の袖を竜胆が引っ張ってきた。

「うむ、なんじゃ、あれは。あれほど大きなものが姿を消せるとは、常上の幻術かや!?」

「光学迷彩みたいなもんだな。普段はこうやって姿を隠してるんだろう。うーむ、感覚としては竜胆ちゃんのイメージが近いな。全体に幻の魔法がかかってる」

「なんとも……はや……」

 竜胆がまた呆れた。
 しかし本当に、この国は何から何まで、呆れるほどスケールが大きいのだ。
 通り然り、宮殿に堀を作るために湖を作る発想然り、マスドライバーを隠すためにあの大きい構造物をまるごと光学迷彩すること然り。

「いや、ユーマ。各国の都など、どこも似たような規模を誇っているぞ。殊更に、翡翠が豪華さを演出しているだけだ」

 ローザの解説が入った。
 彼女はもともと、長い間エルフェンバインと言う国で辺境伯を務めていた人物だ。
 それ故、各国の都に招かれることもあったらしい。

「貴様はリュカを救った時点で、追われる身だっただろう。それが故に、繁華街や都といった、光差す側を歩くことが少なかったから、耐性が無いだけだ。ネフリティスの都もひどいぞ」

 なるほどなあ……。
 言われてみれば、俺は田舎や辺境をチョロチョロするばかりで、都に来る時は大体、攻撃する側として訪れていた気もする。
 それはプレーンな目で都市を観察したりできませんわ。

「さあ行こうかユーマ。貴様の部下たちも、いよいよ空腹が限界に近づいているようだぞ。暴動でも起こって貴様が大暴れして鎮圧する事態になる前に、然るべき処置をせねばな」

「おっ、そうだな」

 一々言うことがもっともなので、俺は素直に頷いた。
 ローザは実に優秀なんである。
 かくして、俺達はマスドライバーを借りて宇宙に飛び出すべく、翡翠宮を訪れたのだ。
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