熟練度カンストの魔剣使い~異世界を剣術スキルだけで一点突破する~

あけちともあき

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第二部 氷の国の調停者編

熟練度カンストの北方者

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「えーと……どういうことだ?」

 いきなりといえばいきなりの話題だ。
 宇宙で戦ってきた直後に休む間もなく新しい戦いが待っているとは……!!
 あ、いや、ずっと俺の場合、そんな状況が続いている気がする。
 早く何もかも片付けて、リュカたちとまったり隠居したいものだ……。

「さて、戦士ユーマ。依頼をする身で心苦しくはあるが、私も皇帝に仕える十二の魔導騎士の端くれ。役目は果たさねばならない」

 ヴァレーリアという名の、この国の女騎士は腰に佩いていた剣を抜いた。
 刀身が細い。そして、鍔に当たる部分に鮮やかな色の石が幾つも埋め込まれている。
 あれは、魔導騎士という名前からして、魔法を使用する際に媒体になる魔剣だろう。
 そしてこのシチュエーション。

「俺の力を試したいんだろう?」

「ユーマ? ヴァレーリア?」

 リュカが不安げに俺たちの顔をきょろきょろ見回す。
 俺のやることに、何を不安を感じているのだろう……なんて思ったが、ある事に気づいて納得した。
 リュカにとっては、ヴァレーリアという女性は、俺を探索する際の仲間だったのだ。そんな相手が、俺と剣を交えようとしている。
 仲間と仲間が戦うシチュエーションというのに、この娘は慣れていない。

「大丈夫。腕試しってやつさ」

 俺は足下のバルゴーンを跳ね上げると、片手剣のサイズに変化させてキャッチした。
 さて、グラナート帝国の魔導騎士。その実力を拝見である。
 まずはヴァレーリアの頭から爪先までをさらりと観察する。
 全身を覆う服の色彩は白。雪に紛れる色で、材質は謎のもこもこファーと、革鎧か。
 外気に露出するのは顔のみ。
 フードに手袋、ブーツで覆われている。
 髪の色は灰色で、サラサラ。目の色は青みがかった灰色で、きつめの美人。
 俺の周りにはいなかったタイプだ。
 あえて言うなら、運動ができるローザ。

「参る……!」

「別に宣言しなくてもよろしい」

 俺はちょっと冗談めかして言いながら、全身の力を抜く。
 ヴァレーリアは宣言と同時に何かを仕掛けてきたようだ。
 彼女の足下が赤く輝く。手にした剣の宝石も、赤いものが光を放っている。

赤き炎よクラスニー奔れプラーミャ!」

 赤い輝きが雪の大地を削る。
 猛烈な水蒸気が上がり、俺の視界が覆われる。
 ヴァレーリアがこちらに向かってくる音はしない。
 だが、圧力が確かに高速で近づく。

「こうか」

 俺は半身になりながら、剣を跳ね上げる。
 切っ先が、突き出されていたヴァレーリアの剣を跳ね上げた。

「やるようだ。だがっ」

 ヴァレーリアは武器を退けられても余裕。
 俺は攻撃を弾いた後で、動きを止めることはない。
 そのまま全身を反転させながら、虹色の剣を振るう。
 遅れて襲い掛かってきたのは、炎の奔流だ。
 こいつを一文字に切り裂き、

「まだっ!!」

 いつの間にか跳躍していたヴァレーリアが、頭上から突き込んでくる。
 これを柄頭でピタリと受け止める。

「むうっ……! 勢いを……殺された……!」

 魔導騎士は、真面目だった顔がふっと和らぎ微笑んだ。

「ひとまず合格というところか。何の異能も使っていないようにしか見えなかったが、初見で私の魔法剣をここまで見事に凌ぎきったものはそうはいない」

 彼女は重力を無視するように、ふわりと降り立った。
 どうやら、剣の魔力を使い、風の力で浮遊しながらの移動や軟着陸、高い跳躍ができるようだった。

「そいつはどうも。俺も連続で仕事をしててな。可能ならちょっと休みたいんだが」

「やった! ユーマやっぱり凄いねえ」

 駆け寄ってきたリュカが、俺の背中に飛び乗った。
 ということで、久々にリュカをおんぶする体勢になる。おお……育ってる。ちょっとだけ感触が変わってるぞ。
 俺とリュカの様子を微笑ましげに見た後、ヴァレーリアは踵を返した。

「では帝国へ案内しよう。と言っても、近場にあるのは辺境の村でしか無いがな。それでも、雪と風を凌げる家と、幾らかの食事は用意できよう」



 到着した村は、ひっそりと静まり返っていた。

「冬場は作物も取れない上に、猟の対象となる獣も冬眠しているからな。こうして寒さが和らぐまでの間、人々は息を潜めて暮らす。行うことと言えば、釣りくらいのものだろう」

 ヴァレーリアに案内されたのは、村にある帝国兵士の駐在所だった。
 各村に、帝国から派遣された兵士と役人が詰めているのだという。
 俺とリュカが到着すると、ひげもじゃの男たちが大いに歓待してくれた。

「おお!! あんたがリュカちゃんが探していた戦士様かい! まあ思ったよりも小さいんだなあ」
「髭が無いのか? もしかして未成年か?」
「ひょろっとしてるなあ。ちゃんと飯を食ってるか?」

 最初はこのような様子で、俺の実力を怪しむものも多かったのだが、

「言っておくが、戦士ユーマは私と手合わせした時、魔法剣を真っ向から受け流し、私の伏撃をも受け止めた猛者だ。お前たちよりも遥かに出来るぞ」

 ヴァレーリアの一言で、男たちはほうほう、と感心したようだった。
 だが、近々こいつらにもある程度は腕っ節を見せておく必要があるだろう。
 蓬莱の国で、異人たちを従えたのも結局は腕っ節だったからな。
 男の子は基本的に野蛮な生き物なのだ。

「じゃあ、ユーマは私と同じ部屋で」

「待てリュカ。男女が同じ部屋で間違いが起こってはいけないから、帝国では軍規で禁じられている。それとも、戦士ユーマとお前は夫婦だとでも言うつもりか?」

「は、そうなる予定です」

 俺がきっぱり言うと、ヴァレーリアはむむう、と唸ってちょっと赤くなった。

「あっ、ヴァレーリア様赤くなったぜ」
「あの人、堅物だけどそういうの興味あるんだよな」
「全然男の噂聞かないけど」
「バカ、ヴァレーリア様は理想が高いから自分より強くないと男として認めないんだよ」
「うへえ、それじゃあ誰も付き合えないじゃないか。あの人魔導騎士最強の一人だろ?」

「おまえたちーっ!!」

 ヴァレーリアが激怒し、屋内だと言うのに駐在所は吹雪に見舞われた。
 結局、雪まみれになり、歯をガチガチと鳴らした大男たちが、こぞってヴァレーリアに頭を下げるという光景を目にしたわけである。

 さて、駐在所とはいっても、かなりでかい。
 抱えている兵士の数は七人。役人が三人。
 ヴァレーリアはリュカと共にこの村に立ち寄っただけで、本来はここの所属ではない。
 ちなみに、役人たちはこの村の女と世帯をもっており、村に帰る家があるのだとか。
 兵士たちも望むなら村に住み着けるが、キャリアアップを狙うなら、またすぐに転勤することになるので、一時的な彼女くらいしか作っておけないのだそうだ。

 駐在所の宿舎もなかなかの大きさ。
 リュカには専用の部屋が与えられていて、そこは即ち客間である。
 とは言っても、木製の大きなベッドがあるばかり。
 あとは椅子が二つとテーブルが一つ。

「リュカさん。ベッドが一つしか無いのだが」

「むふふ、夫婦になるんでしょ。だったら、一緒に寝ようユーマ」

「うむ……ですが、ムラっとなって手を出してしまうと、リュカさんの精霊を使う力が弱まる懸念が……」

「そ、そこは我慢しよう!」

「拷問ですなあ……」

 俺はここで宇宙服を脱ぎ、リュカも部屋着に着替える。
 どうやら、サウナ風呂があるらしく、飯の前に入ってこいというヴァレーリアからのお達しだ。
 リュカと二人で向かうことにした。

 サウナは強烈な熱気と蒸気。
 二人並んで、たらりたらりと汗をかく。
 アルマース帝国で入った蒸気浴も気持ちよかったが、こういう小規模のサウナもいいものだな。

「あっついねー」

「そうだなー」

「このあと、ご飯たのしみだねえ」

「そうだなあ。リュカと一緒に飯を食うの、久しぶりだよなあ」

「久しぶりだねえ? ちょっと……ううん、すごく嬉しいかも」

「そ、そっか」

 俺はちょっとずつ手を移動させていって、リュカの手の甲に重ねた。
 リュカが隣で、ビクッとする。
 お互いに、最低限の布しか纏っていない裸同然の状態である。
 暑さで頭がぼーっとしながらも、別の理由から胸がドキドキとする。
 自然と、俺とリュカの顔が互いを向き合って、なんとなく言葉が続かずに……。
 唇と唇が触れた。

「よし、私も入らせてもらうぞ。裸の語らいというやつだ。戦士ユーマも遠慮しなくていい……ぞ……」

 扉をバーンと開けて入ってきたヴァレーリアが、ちょうどキスの真っ最中を見て硬直した。
 そのまま、ぎこちない動きになって出ていく。

「あー」

「見られてしまった」

 見られて困るものではないのだが、気恥ずかしい。
 今日はこれまでということにした。
 さて、風呂を出て食事にしよう。
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