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第二部 異世界日本の来訪者編

熟練度カンストの剣製者

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『こちらですぞ灰王様』

「おう、ご苦労、シャドウジャック」

 ビルの合間合間に出現するシャドウジャックの案内を受け、風の大精霊ガルーダは大都会の空を舞う。
 やがて、副都心とも呼ばれる大都市の、飲み屋などが集まった辺りに到達した。

『既にアリエル様がアルフォンス様を確保しておられます。あちらに見える建物の地下ですので、その屋根に降りられるが良いかと』

「よし、そうしよう。リュカ」

「はーい! ガルーダ、あそこだよ!」

 リュカの指示を受けて、風の大精霊は雑居ビルの屋上に着地する。
 時間が夜だから、それほど目立たないな。
 向こう側のビジネス街が騒がしいようで、みんなあまりこちらに注目していないのではないか。

「ん? ユーマ、なんだか向こうでヘリっていうのが落ちたって騒いでるよ」

「ははあ。ヘリを落としたならうちのメンツだな」

 俺は納得した。

「ヘリを落とすって……重火器でも持ち込んでいたんですか!? こ、この国は銃刀法というものがあって、武器のたぐいを持ち込まれると……!!」

 空を飛んでいる間、真っ青な顔をして無言だった深山二尉。
 文字通り地に足がついて落ち着いたようで、俺目掛けて血相を変えてまくしたててくる。

「法律を無視して持ち込んでいる連中がいたようじゃない。こっちはたかが剣を三本程度。うち一本はレーザーソードだぞ」

 ビームサーベル、ライトセイバー、いろいろな呼び方があろう。
 竜胆が好んで使う、非実体剣を思い浮かべる。

「つまり、ヘリは魔法とか剣で落とされている」

「そんな非現実的な……。ううん、皆さんと一緒に過ごして、そういうとんでもないことが現実に起こっていることは理解してますけど……」

「サナエ! 階段降りながらでも話せるでしょ? 行こ行こ! ユーマの恩人だっているアルフォンス、私興味があるんだー」

 会話にガッツリ割り込んでくるリュカである。

「あっ、リュカさんそんな強引にっ、ひええ凄い力ーっ」

 おうおう、深山二尉がリュカに持って行かれてしまった。
 ガルーダは仕事が終わって、空気中に溶け込んで消える。

「あいつはいつもいい仕事をするよな。お疲れ」

 俺は姿を消したガルーダを労うと、リュカの後を追った。



 料理の匂いが漂い、扉一枚の向こうから喧騒が聞こえてくる。
 こういう所、ほとんど来たことないなーと思いつつ、階段を下っていくのである。

「リュカさん!? お、降ろしてー! 自分で歩けるから! 担がれてると怖いです!」

「そお?」

 ひょいっと深山二尉を下ろすリュカ。
 相変わらず豪腕である。
 深山二尉は完全に腹を決めた様子で、俺たちと一緒に階段を下っていく。
 さっきから彼女が身に着けている通信端末が、ブルブルと震えているのだが……真面目な彼女としては珍しく、出る気配が無い。

「いいの、出なくて」

「もう……こうなればヤケクソです! どうせここから、何をしたって私、死ぬほど怒られるんですから! 防衛大出てキャリア積んで、それで巡ってきたおお仕事がこんなミッションインポッシブルだったんですから、もうどうでもいいんです!!」

「さいですか」

 鼻息も荒く告げる彼女。
 溜まりに溜まったストレスで、我慢の限界を振り切ったんだろうなあ。
 恐らくGPSなんかで居場所が把握されているだろう。
 ええと、この辺りかな?
 俺は端末の上あたりを手刀で斬った。
 手応えあり。
 ピタリと、通信端末のバイブレーションが止まる。

「えっ!? な、何をしたんですか!? 圏外になってる」

「電波を斬った」

「は……?」

 件の端末を再起動しない限り、電波は入らない状態になっているはずだ。
 さあ、これで安心して合流できる。
 地下一階へは、一度ビルの外に出て、別の入口から下っていかねばならない。
 急で狭い階段を降りていくと、居酒屋の入り口に緑色の小人がいた。

「おっ、植物の精霊。アリエルは中にいるな」

 精霊が、ウンウンと頷いた。

「よーし、案内してくれ」

 緑色の小人は、俺が開けた扉から中に入っていく。
 スキップしながら導く先では、アンブロシアが「がはははは」と笑う声が聞こえてきていた。
 かなり飲んだな。

「ユーマさん!」

 アリエルは俺に気付くと、助けを求めるような視線を寄越した。

「アンブロシアさんが、こっちのお酒は珍しいって言って、まずいまずいって言いながらどんどん飲んじゃって……」

「うん、こいつ元々海賊だからなー」

 そして、アンブロシアとアリエルの向かいに、赤ちゃんを抱っこした女性がいる。
 むむ。一年前とは雰囲気がかなり変わっているが……。

「ユーマ?」

「アルフォンスか。へえ、子どもが生まれたんだなあ」

「産んだんだよ。もう」

 赤ちゃんは、俺を見てきょとんとしている。
 この居酒屋は分煙なんだそうで、ここは禁煙席。赤ちゃんも安心してこられるというわけだ。
 そして、アルフォンスの前にはウーロン茶が置かれている。
 アルフォンスの側に、リュカと深山二尉を押し込んで、俺はアリエルの隣に座った。

「で、本題だけど剣はどう?」

「いきなりね。でもユーマらしいかな」

「昔から婉曲な会話は苦手だった。今はまあマシになったけどな」

「それは成長だねえ」

 うふふ、と笑うアルフォンスと、俺を見て、リュカがむむむ、と難しい顔をする。

「なんだか私よりユーマのことを知ってる人がいる」

「あっ、リュカむくれるな。アルフォンスはもう人妻だからな。旦那さんがちゃんといるんだからな」

「むー」

「リュカさんは、理性では納得できても、感情では納得できないのでしょうね。アンブロシアさんもそうでしたから」

「そういうものなの……?」

「そういうものなんです」

 訳知り顔のアリエル。
 戸惑う俺を見て、楽しんでいるようにも見える。
 ちなみに、酔っ払っていたアンブロシアは、寝た。
 すぴーすぴーと寝息が聞こえてくる。

「はい、ユーマ。これでしょう?」

 アルフォンスが手のひらをテーブルの上に差し出す。
 そこには、ナイフの大きさになったバルゴーンが乗っていた。

「おお! 小さくなってる! ってことは成功したんだな?」

「ええ、久々だったからどうかなと思ったけど、スルッとできちゃった。不思議だね。もうゲームはやってないのに、現実の私にアルフォンスの力が宿ってる。ちなみに……この子、在真あるまもできるみたい」

「そうなんですよユーマさん。アルフォンスさんと一緒に、赤ちゃんが手を伸ばしてきて、それで剣がこのサイズになっちゃったんです。不思議ですよ……」

 アリエルの知識には無い事態だったようだ。
 これは、アルフォンスと、アルフォンスの息子の在真くんの合作ということであろう。
 ありがたく使わせてもらおう。
 俺が小さな剣を手にすると、サイズ変更を念じる。
 すると、パッと片手剣になり、双剣に分かれ、今度は大剣に……。

「バッチリだ。むしろ、今までよりも手に馴染む感じがする」

「前のバルゴーンが持っていた、スキルへの加算がちょっと上がってるかも。在真が手伝ってくれたから、上手く行ったみたい」

「そうかそうか」

 俺は手を伸ばして、キョトンとしている在真くんのぷにぷにしたほっぺたに触った。

「ありがとうな、在真くん」

 すると、赤ちゃんが泣いた。

「うわあ」

「さすがのユーマも、赤ちゃんには勝てないねえ」

 リュカがにやにやとする。

「まあ、赤ちゃんには私が慣らしてあげるから安心して!」

「リュカが心強い宣言をしてきたなあ」

「ウッ、頭が……」

 いかん、深山二尉が現実を許容できる限界を超えた。

「おおい、こっちに生一つとウーロン茶二つ」

 俺は注文をした。
 無論、生ビールは深山二尉用である。
 すぐさまやって来た中ジョッキを、握り、ぶるぶると震える深山二尉。

「仕事中なのに……」

「辞めちゃえ辞めちゃえ」

 おお、リュカが無責任に煽る!
 ちなみに実際は無責任ではなく、リュカが世話を見るという気持ちがあるからこその発言である。

「あっちの世界はいいよ! 全部自分の責任で決められるからね! 死ぬ時は死ぬけど」

「だけど、私の積み上げてきたキャリア……」

「よく分かんないけど、結局私たちの相手をすることになって貧乏くじ引きそうなんでしょ! じゃあこっちについちゃえばいいのよ! いい? ユーマの周りにいる女の子たちなんて、みんなそんな子ばっかりなんだから!」

「あの、私は別に……」

 遠慮がちに小さく手を挙げるアリエル。
 彼女は元々、エルフ側が俺に対して送りつけてきた信頼の証……つまり人質である。
 で、なんやかんやあって打ち解けて、うちの女性陣の一人になっている。
 最初は、深山二尉みたいな反応だったなあ。

「ということで、サナエはこっち来なさい」

「は、はい」

 おおっ、リュカが深山二尉を力で押し切った。
 仕事を辞めても、どうにかなるという安心感があると人間違うもんなんだろうな。
 仕事についたことがないから分からんが。

「さて、リュカ、アリエル。そろそろ他のみんなも合流すると思うから、そいつを飲んだら出よう。アルフォンス、家に送るぞ。あと、旦那さんによろしくな」

「うん。慌ただしい再会だったねえ。なんだかユーマも落ち着きが出てきてて見違えたよ」

「アルフォンスも落ち着いたな。母は強しだ」

「ユーマだって、次に会ったら子どもがいるかもでしょ?」

 そんな他愛ない話をしつつ、俺と親友の久々の再会は終了した。
 愛剣バルゴーンは、目的通りのパワーアップを遂げている。
 これで宇宙から敵がやって来ても、対応が楽になるというものだ。

「そうだな。こいつで最後の仕事になるとは思う。そうなれば、俺も安心してニートに戻れるな。ニートで子どもがいてもいいものなのか?」

 ふと思い浮かんだ疑問だったが、女子たちは笑うばかりで答えてくれないのだった。
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