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最終章 熟練度カンストの魔剣使い編

熟練度カンストの大将者

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 蓬莱に到着したのである。
 到着したらしたで、既にこの島国は戦場になっている。

「こりゃあ……一体どれだけの船が、こんな島国にやって来たっていうんだ」

 俺はちょっと唖然とした。
 なぜなら、目の前で二隻の移民船が、復活したのであろう荒御魂たちと戦っているからだ。
 眼の前にいるのは、イノシシの姿をした荒御魂。でかさは丘ほどもある。そして、広げた翼が巨大タンカーほどもある鴉の荒御魂と共闘しているではないか。

「この国は自然が豊かですね……! 狙われるのも分かる気がします!」

 ちょっと興奮気味なのはアリエルだ。
 植物の精霊を使う彼女から見ると、この国は無数の精霊たちで溢れているらしい。
 荒御魂たちも、一体一体が強く、そして数多くこの島に存在しているのは、この自然が豊かであるがためらしい。

「そうじゃろう、そうじゃろう。蓬莱の国は、水が清く、豊かに流れている。どこにいても、水に困るということはないのじゃ!」

「水に困らない国なんて……! まさに理想郷ですよ!」

 女子二人がキャッキャしているが、その後ろでは荒御魂と移民船がどったんばったん大騒動である。
 当然のごとく、住民たちは離れた丘まで避難しており、わあわあと荒御魂を応援している。
 侵略者側も想定外だっただろうな。
 まさかここに、強力な怪獣みたいな連中が、何体も眠っているとは。

「荒御魂は封印されているというわけではないぞ。あれは、自ら眠りについておるのじゃ。ゆえ、生贄か、供え物を与えねば腹が減って起き出してくる。そうなれば災害が起こるのじゃ」

 竜胆いわく、今回は自分たちの住処である蓬莱を揺るがすような相手がやって来たから、自主的に目覚めて戦い始めたのだろう、とのこと。
 これを見ていると、蓬莱帝は本当にこいつらと上手くやっていたんだな。
 復活させず、暴れさせずに千年もこの国を統治したわけだ。

「おっ、移民船がビームを放ったぞ」

「ありゃ! あれは嗣子上の荒御魂ではないかや!!」

 イノシシの荒御魂を見て、ようやく竜胆は気づいたらしい。
 あんまりびっくりしたので、ぴょーんと俺の頭の高さまで飛び跳ねた。
 すぐ近くに彼女の神であるイノシシがいるから、竜胆の身体能力も上がっているのだな。

「よーし、では俺たちも参戦するとするか。イノシシがビームで炙られてピンチだぞ」

「あっ、荒御魂様ー!! 妾が今、お助けに参りますっ!!」

 竜胆、得意のツインライトセイバーを取り出すのである。
 ゲイルにまたがった俺と、UFOに乗った竜胆とアリエル。
 三人と一匹で突撃なのだ。
 ちなみにアリエルは、UFOの操縦担当だとか。

「これ面白いですよ! 翡翠の皇帝さんが貸してくれたんですが、太陽の光で動くんです! 一回使ったら二、三日は日向ぼっこさせないとだめだそうですけど」

 俺たちを迎撃すべく、敵の船が細かいビームを放ってくる。
 大気によって減衰するのだが、それでもなかなかの火力。
 空気を焼き焦がすような臭いがする。
 こいつを、アリエルは器用にUFOを操り、ひょいひょいと回避する。
 当たりそうなビームは、竜胆がライトセイバーで受け流すのだ。

「竜胆ちゃん度胸がついたな!」

「当然じゃ! いつまでも、ユーマや皆に守られているだけではいかんからのう!! たあっ!」

 今度はビームを弾いた。
 実体がない攻撃と言えど、それなりに衝撃はあるはずだ。
 だが、荒御魂が間近にいることで、竜胆の体力が跳ね上がっている。
 そのため、移民船からの艦砲射撃を、ライトセイバー一本で受け流すことができるのだ。
 アリエルと竜胆、いいコンビではないか。
 二人を繋ぐのが、宇宙からやって来た超文明の兵器というのが面白い。

 鴉の荒御魂が俺たちに気付いた。
 そいつも、移民船の攻撃を避けながらこちらに近づくと、

『狐のを殺した男だな? 何をしにきた。この隙に我らをも殺すか』

 そんなことを聞いてきた。
 こいつら喋れたんだなあ。

「違うぞ。あの青い船を倒して回っているんだぞ。あいつはこの島国に何隻いるんだ」

『ほう、どういう風の吹き回しか。見ればイノシシの娘を連れているな。それであるなら、信用しないでもない』

 そんな話をしている間にも、竜胆がアリエルをけしかけて、二人で宇宙船目掛けて飛び込んでいくではないか。

「あっ」

『あっ』

 俺も鴉も慌てて後を追いかけた。

「正に猪突猛進」

『神が奴ゆえ納得よな』

『おい聞こえとるぞぉ』

 ビームを受けながら、イノシシがじろりと俺を睨む。

『とは言え、わしらでも少々、空を飛ぶ相手が多いのはきつい。神を殺す男なら、手助けも歓迎ぞ。それと、わしの巫女が世話になっておるな』

「おう、竜胆ちゃんは可愛がらせてもらっている。ってことで、あの娘のための義理立てとして船を落としていくからな」

 俺の意志を汲み、ゲイルが加速した。
 竜胆がペチペチとライトセイバーで叩いている船は無視して、もう一隻。
 イノシシの荒御魂を襲っている奴に向け、俺は剣を振りかぶる。

「ゲイルと一緒に、空中式“アクセル”!」

 重剣の形状になったバルゴーンを、振り下ろすと同時に、ゲイルが回転する。
 俺はゲイルの回転に合わせ、船の表面をガリガリと削っていくのだ。
 まるで、空飛ぶ回転ノコギリである。
 一瞬の交差で、船の二割ほどのバリアを破壊した。
 そしてゲイルが反転する。
 飛竜の旋回半径は、戦闘機の比ではない。
 圧倒的に強靭な肉体と、魔法的な力を併用し、ヘリコプターなみの旋回をマッハの速度でやってのける。

 再度の交差でまた二割削る。
 また二割。そしてまた二割。
 八割削ったところで、船が動作不良を起こした。
 俺がバリアを破壊することで、バリア発生装置には強い負荷がかかることになる。
 これを、ゲイルの高速旋回に任せて立て続けに四発叩き込んだのだ。
 むき出しになった船の外壁から、黒煙が上がり始める。
 オーバーヒートしたんだろう。
 機能不全に陥った船は、攻撃の手が止まる。
 その隙を見逃す荒御魂ではない。

 巨大な鴉は移民船を上から見据え、急降下。
 強烈な踏みつけを行う。
 さらに踏みつけ。
 また踏みつけ。
 ただ踏んでいるのではない。
 これ、見ていると、空中で宇宙船がひしゃげていく。
 落下せず、まるで空中に見えない地面があり、それと鴉にサンドされてひしゃげていくかのようだ。
 ああ!
 これは重力を操っているのだ。
 鴉の荒御魂は、重力を自在に扱うのだな。

『よおし! 猪口才な熱線が止んで、怖いものなしだわい! おうい、わしの巫女よ、どけどけえ!』

「あっ! 荒御魂様がこっちに! アリエル、避けて避けて!」

 竜胆には、荒御魂の言葉が聞こえないようだ。
 だが、猛烈な勢いで突っ込んでくるイノシシは見える。
 慌ててUFOが舞い上がっていった。
 そこに、巨体の荒御魂が飛び上がる。
 移民船目掛けて、体当たり一閃。
 一発で、全身のバリアが吹き飛ばされる。
 すぐにそれは復活するが、荒御魂によって与えられた衝撃をこらえきれない。
 移民船は、地面に叩きつけられるように落下した。

『ほい! ここはわしらで充分になったぞい! あと三隻ばかり、蓬莱のあちこちに出没しとる! わしの巫女を連れてそいつらを片付けてこいや!』

「おうよ。じゃあ任せた。あっ、くれぐれもこいつらを壊しすぎるなよ? 中にとんでもない爆発を引き起こすものが入ってるんだ。爆発すると蓬莱が消し飛ぶぞ」

『ほお? お主がとんでもないというからには、本当にとんでもないのだろうな。おうおう、気をつけるわい』

『イノシシの、随分素直だな』

『うるさいわ鴉の!!』

 荒御魂は個性豊かだな。
 だが、俺以外の人間は、彼らにとって会話するに足る存在ではないようだ。
 だから、こうして物理的な圧さえ感じるような言葉を無遠慮に撒き散らし、人間を威圧し、暴れるわけだ。
 俺のように、荒御魂をぶっ倒すような奴がいれば、連中はそいつを同類と認め、会話するようになる。
 それだけのことだ。

「よし、ここは終わり! 次行くぞ竜胆ちゃん! アリエル!」

「分かったのじゃ! しかし、まさか荒御魂様と共に戦えるとはのう……!」

「本当に、あれが味方で良かったですよ……! いえ、敵とか味方ですらないような」

 アリエルの感想、正しい。
 あいつらは自然そのものが実体化したような存在だな。
 人間にとっての正邪の判断は意味がない。
 あれは、ああいう連中。
 そうと理解して付き合っていくべき存在なのだ。

 だが、その辺りの問題は蓬莱の人間が考えればいい話だ。

「ユーマさん! このUFO、移民船の場所が分かるみたいです! ええと、次は……身無上という地域で荒御魂と交戦中で……」

「おおっ、あそこか」

「うええ、あそこかあ」

 俺と竜胆ちゃんの反応が真逆である。
 後から竜胆も知ったのだが、宿場町にして、いわゆる色街である。
 ここは、銀楼太夫という色っぽい女が支配しているのだが、こいつとは少々縁があってだな。

「よし、行くぞ竜胆ちゃん。そんな嫌そうな顔をしない」

「うーん、うーん。妾、あそこはちょっと苦手な気がするんじゃよなあ……」

 ブツブツ言う彼女を連れて、俺たちは一路、身無上へと向かうのであった。
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