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第35話 どっちに行く?
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さあ、外国へと出発だ。
ではどっちに行こう?
「海が良かろう。拙者、海が好きだ」
「いいね」
「このあいだ、ボクとマイティで海はたくさん行きました! ボクは野原がいいです!」
「いいね」
「野原では身を隠すところがないな……」
俺としてはどこだっていいのだが、エクセレンとジュウザの意見がぶつかり合っている。
会場はいつもの酒場のまま、実に和気あいあいとした雰囲気なのだが。
ちなみに周囲の目は、俺たちが王国の騎士たちを追っ払ったことで、腫れ物に触るようなものになっている。
国王の性格は、誰もがよく知っているのだ。
まあ、割と好戦的で独善的だな。
頭が悪くはないので、執政そのものはちゃんとしてるから、国は安定している。
ただ、時折さっきみたいに思いつきで狼藉を働くことがあるので、そこが悩みの種というわけだ。
どうやらエクセレントマイティは目をつけられたらしいから、俺たちは国から出ようという話なのだ。
「ではどうだ、エクセレン。お主の村に行ってみるというのは」
「里帰りですかー。ボク、あんまりいい思い出ないんですよねえ」
「だがエクセレン。お前さん、あの頃とは見違えるほど強くなっただろ? 故郷の連中を見返せるんじゃないか?」
「そうかなー」
「今回の勇者は謙虚じゃのう」
横で、砂糖入りのお茶を飲んでいたディアボラが呟いた。
「昔の勇者は使命感に満ちた暑苦しい男だったのじゃ。声もでかいが使う魔法の威力もでかい。手がつけられんかったのう!」
「ディアボラに歴史ありだな!」
「わしも千年以上生きておるからな。人間よりも寿命が長いのと、あの地下空間は儀式魔法で時の流れを止めておった。いや、時間は流れるんじゃがな。じゃが、あそこでは空腹も眠気も来ないし、老化もしないのじゃ! まあ、ライジングメテオでぶっ壊れてしまったのじゃが!」
わっはっは、とディアボラが笑った。
「スケールがでかいな!」
「魔将じゃからな! それにわしもエクセレンの村を見てみたくなったぞ。マイティと出会ったばかりの頃はへっぽこだったのじゃろう? とても信じられん。魔王に平然と一撃くれる姿など、歴戦の勇士でもああはいかん。無駄な力みというものがないのじゃ! こんな逸材を見抜けなかった村の連中の顔は、一度拝んでみたいのじゃー」
「拙者もそれは思うな。エクセレンは大したものだ。もっともっと強くなる。そして間違いなく、お主は世界を救う鍵なのだ。拙者は先程の戦いでそれを確信した!」
「うむうむ。エクセレンはどんどん育ってるからな」
「そ、そうですか! えへへ、照れるなあ。じゃあ村に行きましょうか」
みんなでエクセレンを褒め殺しにして、村行きを確定させたのである。
そうと決まれば俺たちの動きは早い。
荷物など、身につけているものとちょっとの交換用衣装くらいしかない。
冒険者とは身軽なものだ。
それらを宿から持ってきて、この足で旅立つことになる。
きっと、国王が騎士を派遣してきたとしても、俺たちに追いつくことはできないだろう。
エクセレントマイティは特にフットワークが軽いのだ。
王都を発ち、夕方くらいまでぶらぶら歩く。
すると宿場町が見えてきた。
方角は西方。
「ずっとこちらに行くと、拙者が暮らしていた国がある。だがそこでは、拙者はお尋ね者ゆえな。立ち寄るのはやめておくがよかろう」
「そうだな。エクセレンの村を冷やかしたら、そこから南西に抜けるようにしよう」
宿場町では、一介の冒険者に過ぎないエクセレントマイティを誰何するなんてことはない。
楽しく酒盛りして、そのまま宿でぐっすりである。
エクセレン曰く、
「女子が一人増えたので、一人で寝なくてよくなってよかったです!」
確かに今まではそうだったもんなあ。
夜に、ジュウザとともにちょっと話をする。
宿場町の様子は平和そのものだ。
とても、この世界に魔王の脅威が迫ってきているなどとは思えない光景なのだ。
「現実味がないよな、実際。俺は普通の冒険者だったわけだし」
「お主が普通の冒険者なら、他の冒険者のほとんどは三流以下の冒険者であろうな。まあそれはいい。拙者も自分のことで手一杯かと思ったら、まさか拙者のこの力が必要とされる時代が来るとは」
「おう、実際助かってるぜ。しかしまあ、先のことは分からんよなあ」
つまり、この平和に見える宿場町だって、明日には魔王の軍勢がやってきて戦火に包まれるかも知れないわけだ。
事実、ナンポー帝国との国境線にあった村は戦場になった。
そこは二度と村に戻らないだろう。
「俺たちがなんとかできるなら、なんとかしてやらないとな」
「うむ。拙者らは皆、突き抜けた力を持つ。だが、それ故に人の社会では上手く生きてはいけなかった。拙者らはもしや、この時のために力を身に着けたのではないか。最近はそう思う」
「ありうるな! エクセレンがよく、神様から任命された、みたいなことを言うじゃないか。俺たちも気づかないうちに神から選ばれてたりしてな」
「否定はできぬな……!」
だとしたら、ちょっとは神様にも会ってみたいものだ。
魔王には会ったんだから、神の方もそう遠くないうちに会えるのではないか。
うむ、まさか俺の人生がこんな方向に転がりだすとは。
「じゃあ寝るか! 明日はエクセレンの村だ。理解のない連中から、勇者様を守ってやるのが俺たち大人の仕事だぜ」
「違いない。だが、首を飛ばすのだけは勘弁してやるとしよう」
俺とジュウザは笑い合うのだった。
ではどっちに行こう?
「海が良かろう。拙者、海が好きだ」
「いいね」
「このあいだ、ボクとマイティで海はたくさん行きました! ボクは野原がいいです!」
「いいね」
「野原では身を隠すところがないな……」
俺としてはどこだっていいのだが、エクセレンとジュウザの意見がぶつかり合っている。
会場はいつもの酒場のまま、実に和気あいあいとした雰囲気なのだが。
ちなみに周囲の目は、俺たちが王国の騎士たちを追っ払ったことで、腫れ物に触るようなものになっている。
国王の性格は、誰もがよく知っているのだ。
まあ、割と好戦的で独善的だな。
頭が悪くはないので、執政そのものはちゃんとしてるから、国は安定している。
ただ、時折さっきみたいに思いつきで狼藉を働くことがあるので、そこが悩みの種というわけだ。
どうやらエクセレントマイティは目をつけられたらしいから、俺たちは国から出ようという話なのだ。
「ではどうだ、エクセレン。お主の村に行ってみるというのは」
「里帰りですかー。ボク、あんまりいい思い出ないんですよねえ」
「だがエクセレン。お前さん、あの頃とは見違えるほど強くなっただろ? 故郷の連中を見返せるんじゃないか?」
「そうかなー」
「今回の勇者は謙虚じゃのう」
横で、砂糖入りのお茶を飲んでいたディアボラが呟いた。
「昔の勇者は使命感に満ちた暑苦しい男だったのじゃ。声もでかいが使う魔法の威力もでかい。手がつけられんかったのう!」
「ディアボラに歴史ありだな!」
「わしも千年以上生きておるからな。人間よりも寿命が長いのと、あの地下空間は儀式魔法で時の流れを止めておった。いや、時間は流れるんじゃがな。じゃが、あそこでは空腹も眠気も来ないし、老化もしないのじゃ! まあ、ライジングメテオでぶっ壊れてしまったのじゃが!」
わっはっは、とディアボラが笑った。
「スケールがでかいな!」
「魔将じゃからな! それにわしもエクセレンの村を見てみたくなったぞ。マイティと出会ったばかりの頃はへっぽこだったのじゃろう? とても信じられん。魔王に平然と一撃くれる姿など、歴戦の勇士でもああはいかん。無駄な力みというものがないのじゃ! こんな逸材を見抜けなかった村の連中の顔は、一度拝んでみたいのじゃー」
「拙者もそれは思うな。エクセレンは大したものだ。もっともっと強くなる。そして間違いなく、お主は世界を救う鍵なのだ。拙者は先程の戦いでそれを確信した!」
「うむうむ。エクセレンはどんどん育ってるからな」
「そ、そうですか! えへへ、照れるなあ。じゃあ村に行きましょうか」
みんなでエクセレンを褒め殺しにして、村行きを確定させたのである。
そうと決まれば俺たちの動きは早い。
荷物など、身につけているものとちょっとの交換用衣装くらいしかない。
冒険者とは身軽なものだ。
それらを宿から持ってきて、この足で旅立つことになる。
きっと、国王が騎士を派遣してきたとしても、俺たちに追いつくことはできないだろう。
エクセレントマイティは特にフットワークが軽いのだ。
王都を発ち、夕方くらいまでぶらぶら歩く。
すると宿場町が見えてきた。
方角は西方。
「ずっとこちらに行くと、拙者が暮らしていた国がある。だがそこでは、拙者はお尋ね者ゆえな。立ち寄るのはやめておくがよかろう」
「そうだな。エクセレンの村を冷やかしたら、そこから南西に抜けるようにしよう」
宿場町では、一介の冒険者に過ぎないエクセレントマイティを誰何するなんてことはない。
楽しく酒盛りして、そのまま宿でぐっすりである。
エクセレン曰く、
「女子が一人増えたので、一人で寝なくてよくなってよかったです!」
確かに今まではそうだったもんなあ。
夜に、ジュウザとともにちょっと話をする。
宿場町の様子は平和そのものだ。
とても、この世界に魔王の脅威が迫ってきているなどとは思えない光景なのだ。
「現実味がないよな、実際。俺は普通の冒険者だったわけだし」
「お主が普通の冒険者なら、他の冒険者のほとんどは三流以下の冒険者であろうな。まあそれはいい。拙者も自分のことで手一杯かと思ったら、まさか拙者のこの力が必要とされる時代が来るとは」
「おう、実際助かってるぜ。しかしまあ、先のことは分からんよなあ」
つまり、この平和に見える宿場町だって、明日には魔王の軍勢がやってきて戦火に包まれるかも知れないわけだ。
事実、ナンポー帝国との国境線にあった村は戦場になった。
そこは二度と村に戻らないだろう。
「俺たちがなんとかできるなら、なんとかしてやらないとな」
「うむ。拙者らは皆、突き抜けた力を持つ。だが、それ故に人の社会では上手く生きてはいけなかった。拙者らはもしや、この時のために力を身に着けたのではないか。最近はそう思う」
「ありうるな! エクセレンがよく、神様から任命された、みたいなことを言うじゃないか。俺たちも気づかないうちに神から選ばれてたりしてな」
「否定はできぬな……!」
だとしたら、ちょっとは神様にも会ってみたいものだ。
魔王には会ったんだから、神の方もそう遠くないうちに会えるのではないか。
うむ、まさか俺の人生がこんな方向に転がりだすとは。
「じゃあ寝るか! 明日はエクセレンの村だ。理解のない連中から、勇者様を守ってやるのが俺たち大人の仕事だぜ」
「違いない。だが、首を飛ばすのだけは勘弁してやるとしよう」
俺とジュウザは笑い合うのだった。
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