コストカットだ!と追放された王宮道化師は、無数のスキルで冒険者として成り上がる。

あけちともあき

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第58話 ワイバーン撃退戦

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 ギャアギャアという鳴き声とともに、上空に黒い影が出現する。
 翼は大きく、そして長い尻尾がある。
 ワイバーンだ。

 彼らは獲物を見据えると、一直線に急降下。
 そこには、草を食べている子羊がいた。

 近くにいる仲間は……。
 ちょうどいい。
 フリッカとジェダだ。

 フリッカが鞭を構えながら、ジェダに向かって叫ぶ。

「ジェダ! フライング!」

「おう!」

 ジェダの手枷が外れ、地面に落ちる。
 彼は走り出し、両手を広げた。
 すると、その腕が大鷲の如き翼に変わっていくではないか。

 なるほど、獣使いか。
 ジャバウォックの変身能力を任意に引き出すのが、フリッカのスキルというわけだ。

 降下するワイバーンは、飛び上がってくるジェダに反応できない。

「ギャアッ!?」

 気づいた時には、真横にジェダの足があった。

「どらぁっ!! 空中……フランケンシュタイナーッ!!」

 ワイバーンの頭に足を引っ掛け、翼で揚力を生みながら敵の体を放り投げる。
 錐揉み状態になったワイバーンは、そのまま地面へと叩きつけられた。

「よっしゃあっ!」

 駆け寄るフリッカが、鞭を振るう。
 強烈な一撃が、ワイバーンの頭部を殴打した。
 強靭なはずの皮膚が裂け、血が吹き出す。

「妖精はん、供物を捧げるで! こいつを食って元気になり! お釣りはいらんわ!」

 フリッカが叫ぶと、彼女の周囲に光の帯が生まれ、そこから妖精が飛び出してくる。
 一見すると、真っ赤な帽子をかぶったゴブリンに似た妖精……。
 レッドキャップだ!

「レッドキャップを操れるとは!」

 レッドキャップは、凶暴な妖精である。
 ゴブリンのような低級魔族と同一視する見方もある。

 ナイフを振り回すレッドキャップは、ワイバーンの傷口を切り裂き、広げていく。
 バタバタと暴れるワイバーンだが、血が流れ出すほどに動きが鈍くなっていった。

 その間に、空中でジェダとワイバーンたちの戦いが繰り広げられている。
 両腕を翼に変えたジェダは、蹴り技や、足を使った投げ技、関節技でワイバーンを攻撃する。

 なるほど、あらゆる形に肉体を変えるから、武器を使って戦うことができないわけだ。
 あの怪力が武器になるのだろうが、決定打にはなりづらいだろう。

 その役割を果たすのは彼女だ。

「落ちてきた! 行くぞ!!」

 ジェダに翼を蹴り折られたワイバーンが落下する。
 その真下に、イングリドがいた。

 彼女はワイバーンが地面に着くよりも早く、抜き放った魔剣で敵を切断する。
 さらに、魔槍を上空に投げると、そこにジェダがワイバーンを投げて寄越す。
 亜竜とも呼ばれるワイバーンは、強靭な鱗に包まれている。だが、それをやすやすと貫くのがイングリドの魔槍なのだ。

 一方、ワイバーンとの戦いが楽な者ばかりではない。
 ギスカはこの空飛ぶモンスターが苦手なようだった。

「ああ、くそ、また外れちまった! 空を飛んでるやつには魔法が当たらないねえ……」

「鉱石魔法はどうしても詠唱が必要になるからな。相手を足止めしないと、効果的な攻撃は難しいだろう」

「おや、道化師、いつの間に」

「あちらは俺がいなくても問題無さそうだからだよ」

 ギスカは攻撃魔法が当たらず、歯がゆい思いをしているようだが……。
 ワイバーンとしても、地上から妙な攻撃を放ってくるギスカが邪魔で、降下できないようだった。
 これはこれで、きちんと効果をあげている。

 今までのギスカの魔法が当たりすぎていただけなのだ。
 本来、戦闘における魔法の命中率などこのようなものだ。

「ギスカはきちんと仕事をしている。ワイバーンの足止めというね。しかし、確かにこのままでは、鉱石を消費するのがもったいなく感じる気持ちも分かる」

 俺は彼女の肩に手を置いた。

「なんだい?」

「いつも通りに詠唱をしてくれ。君の魔法が当たる方向に、俺がコントロールしよう」

「そんな事ができるのかい!?」

「無論。君の魔法の癖や射程は、よく理解しているからね」

 何度か冒険をともにすれば、鉱石魔法の使い勝手と、彼女がそれを行使する際の癖は見えてくるものだ。
 彼女は優秀だが、少々気が短い。

 何気に慎重なワイバーンとは、その辺りで波長が合わないのだろう。

「俺が肩をたたいたら、詠唱を開始」

「分かったよ」

 彼女が頷いた後、すぐに俺はその肩をたたいた。

「おっと! いきなりだねえ! 鋼玉石、力をお貸し! 鋼の針を連ねて打ち出すよ! アースニードル!」

 魔法完成の瞬間、俺は彼女の体をくるりと回転させて背後に向ける。
 そこには、今まさに降り立とうとしていたワイバーンがいた。

 ギスカの杖から、金属質の輝きを持つ針が無数に射出される。
 これがワイバーンに突き刺さり、その羽を切り裂いた。

 悲鳴をあげながらワイバーンが落下していく。
 落ちてしまえば、フリッカと彼女が従えるレッドキャップが処理するのだ。

「当たったよ……。道化師、あんた器用な真似するねえ」

「君が抵抗せずに、俺の操作に従ってくれたのが良かったんだよ。力を抜いて、魔法の詠唱だけに注力してもらえるとありがたい!」

「もちろんさ!」

 こうして、ギスカは魔法を撃ち出す装置に徹底し、俺は彼女の方向をコントロールしてワイバーンを倒していった。
 しばらくすると、分が悪いと見たらしく、ワイバーンが引き上げていく。

 十体と少しは落としただろうか?
 それでも、まだまだワイバーンの数はいる。

 いやはや、大量のワイバーンが営巣しているな。
 これは、到着が遅れたら家畜は食い尽くされていたことだろう。

「諸君、昼の仕事は終わりだ! フリッカ、ジェダ、君たちの力は見せてもらった! 合格だ!」

「えっ、もう!? 早くない!?」

 フリッカが目を白黒させる。
 ジェダがフフッと笑った。

「この男は最初から合格させるつもりだった」

「そういうツッコミは無粋だからやめてもらえないかな? 道化師の営業妨害だ」

 俺の言葉を聞いて、イングリドとギスカが笑うのだった。
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