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第70話 いざ、王城へ
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ここまで来たなら、マールイ王国の王城へ乗り込まねばなるまい。
もっと国がしっかりしていれば、そんなことは不可能なのだ。
だが、ご覧の通りのボロボロな王国。
見よ、王城の門に立つはずの門番は、座り込んでやる気が無さそうではないか。
すっかり変装をやめ、いつもの格好になった俺。
イングリドとギスカを従えて、堂々と正門の前に立った。
「あぁん? なんだ、お前は。ここはマールイ王国の王城だ。帰れ帰れ」
「随分、楽な仕事をしているようだね」
「はあ? 何を言ってるんだお前? 門番の仕事が楽とか……」
ここで門番は俺を見上げ、目を見開いていく。
もう一人いる門番は、口をポカンと開けた。
「オ、オ、オーギュスト様……」
「なんで!? オーギュスト様なんで!?」
「諸君! 座っていては、門番として緊急時への即応はできまい! 起立したまえ!」
「はいっ!!」
門番二名は、しゃきっと立ち上がった。
その目には、俺に対する畏敬が満ちている。
「オーギュストは本当に、王宮づとめの偉い道化師だったんだなあ」
イングリドが感心している。
「だから言っていただろう? それに、各国の国王は俺と顔見知りだったはずだ」
「ああ。それがあってもなお信じられなかったけれど、これでようやく、君がこの国の偉人だったということが納得できた」
「話が早くて助かるねえ。そら、さっさと中に入っちまおう」
ギスカが俺の背中を押す。
なかなかのパワーだ。
俺たちの様子を、遠巻きに見ていたフリッカとジェダ。
これは、俺が王城に入ると言ったら、フリッカの腰が引けてしまったためだ。
割と小市民的なところがある少女である。
ジェダはフリッカに付き従うと言うか、自分の実力を発揮するため、基本的にはフリッカと一緒にいる。
なので、二人は遠くにいたわけだ。
ジェダがニヤニヤ笑いながら、フリッカを抱えてやって来た。
「面白い事になっているな、オーギュスト。お前、この城の何なんだ。道化師はそんなに偉いのか? 面白いな!」
「うわーっ、ジェダ離せー! うちは無礼討ちされたくないんやー!」
フリッカがじたばた暴れている。
そうか、王城がまともに機能していれば、無礼な闖入者などその場で処分されてしまう。
彼女はそれが怖かったのか。
「フリッカ、城は俺が案内しよう。追い出された当初は、皆冷たかったように思うが、今になって俺という道化師の重要度を、皆理解したらしい。悪いようにはされないさ」
門番二人が、神妙な顔で頷く。
「やっぱり、オーギュスト様がいないとダメだ……」
「オーギュスト様がいなくなっただけで、この国は終わりかけてるんだ」
「なんとかしてくださいよ、オーギュスト様」
「まあ、前向きに善処する」
俺は玉虫色の答えをして、仲間たちとともに城の中へと入っていった。
「君、全く善処するつもりはないな?」
「無論だ。俺をあんな追い出し方をした国に、自分から戻るわけがない。少なくとも、ガルフスが頭を下げない限りはね」
イングリドも、それはそうだと頷く。
俺たちが堂々と城内を歩いていても、見咎める者はいない。
皆、気力を失っているのだ。
そして俺の顔を見て、誰もが驚く。
「オーギュスト様だ……」
「オーギュスト様が帰ってこられた……」
「こ、これでマールイ王国が救われる……」
「まるで希望の星みたいな扱われ方だねえ……。本当に戻らないのかい?」
「ああ。俺が危機的な状況だった時に、彼らはフォローしてくれなかったからね。それを自分たちが大変なことになったからと言って、都合よく俺を利用しようとされても困る。俺は俺で、新しい生活を育んでいるのだから」
すがるような目もスルーである。
喉元をすぎれば熱さを忘れるというやつで、ここで助けたとしても、彼らは平気で俺にしてもらったことを忘れて、また不義理をして来そうな気がする。
一度失った信頼を取り戻すのは、並大抵ではないぞ。
途中、騎士団長のバリカスと遭遇した。
オルカ騎士団のキルステンにやられた怪我はまだ治っていないようで、あちこち包帯だらけだ。
それでも彼は怒りに顔を真っ赤にし、俺に突っかかってきた。
「オーギュスト! てめえ、どの面を下げてこの国に戻ってきやがった! お前にやられてから俺はついてないんだ! 全部お前のせいで……」
「なんや、うるさいおっさんやな。ジェダ、やってまえ」
「おう」
「お? な、なんだお前は! ぬおお、体が動かん!!」
がっちりとジェダに両腕を固められたバリカス。
振りほどこうとするが、魔族の怪力には抗えない。
「手加減はしてやるからな。しばらく静かにしてろよっと!」
バリカスの巨体が宙を舞った。
ジェダのダブルアーム・スープレックスが炸裂したのである。
背中から床に叩きつけられて、白目を剥きながらのたうち回るバリカス。
しばらくは大人しくなるであろう。
「なんだ、あいつは? ごろつきが城の中にいるのか?」
「あれが騎士団長だ」
「冗談を抜かせ」
ジェダは信じてくれなかった。
さて、我々が向かうのは大臣の執務室。
現在のマールイ王国において、政治の中心となっているであろう部屋だ。
キュータイ三世の様子も気になるが、後にしておこう。
途中で掴まえた役人の話では、外交官はキングバイ王国との戦争を引き起こした罪で処刑……ということにされ、その通達が出た瞬間に国外に逃げ出してしまったそうだ。
拘束しておくだけの人員もいないのか。
ため息が出るし、外交官一人の責任にして済ませようという辺りがどうしようもない。
大臣の執務室に到着し、ムカムカとする気持ちでノックした。
返答はない。
もう一度ノックする。
「なんだ!!」
ガルフスの怒鳴り声が聞こえた。
これは正常ではない。
扉を蹴るように開けると、そこは乱雑に書類が散らばる部屋だった。
応接用のソファに深く腰掛け、ガルフスが昼間から酒を飲んでいる。
酒気で赤くなった顔は、以前よりも老け込んでいるように見えた。
「何用だ! 私は見ての通り、忙しい……」
そこまで言ったガルフスの目が、みるみる見開かれていく。
口がぽかんと開かれ、脱力し、ソファにもたれかかった。
俺を見た時の反応は、みんな同じだな。
「オ……オーギュスト……!? どうして……!?」
「ガルフス殿。酒量が過ぎるぞ。体をいたわるんだ」
後からイングリドも顔を出したので、ガルフスの驚きはさらに大きくなった。
「イ、イングリッド様……!! なんで!? どうして!?」
彼の狼狽する姿を見ていると、少しは溜飲が下がるというものだな。
もっと国がしっかりしていれば、そんなことは不可能なのだ。
だが、ご覧の通りのボロボロな王国。
見よ、王城の門に立つはずの門番は、座り込んでやる気が無さそうではないか。
すっかり変装をやめ、いつもの格好になった俺。
イングリドとギスカを従えて、堂々と正門の前に立った。
「あぁん? なんだ、お前は。ここはマールイ王国の王城だ。帰れ帰れ」
「随分、楽な仕事をしているようだね」
「はあ? 何を言ってるんだお前? 門番の仕事が楽とか……」
ここで門番は俺を見上げ、目を見開いていく。
もう一人いる門番は、口をポカンと開けた。
「オ、オ、オーギュスト様……」
「なんで!? オーギュスト様なんで!?」
「諸君! 座っていては、門番として緊急時への即応はできまい! 起立したまえ!」
「はいっ!!」
門番二名は、しゃきっと立ち上がった。
その目には、俺に対する畏敬が満ちている。
「オーギュストは本当に、王宮づとめの偉い道化師だったんだなあ」
イングリドが感心している。
「だから言っていただろう? それに、各国の国王は俺と顔見知りだったはずだ」
「ああ。それがあってもなお信じられなかったけれど、これでようやく、君がこの国の偉人だったということが納得できた」
「話が早くて助かるねえ。そら、さっさと中に入っちまおう」
ギスカが俺の背中を押す。
なかなかのパワーだ。
俺たちの様子を、遠巻きに見ていたフリッカとジェダ。
これは、俺が王城に入ると言ったら、フリッカの腰が引けてしまったためだ。
割と小市民的なところがある少女である。
ジェダはフリッカに付き従うと言うか、自分の実力を発揮するため、基本的にはフリッカと一緒にいる。
なので、二人は遠くにいたわけだ。
ジェダがニヤニヤ笑いながら、フリッカを抱えてやって来た。
「面白い事になっているな、オーギュスト。お前、この城の何なんだ。道化師はそんなに偉いのか? 面白いな!」
「うわーっ、ジェダ離せー! うちは無礼討ちされたくないんやー!」
フリッカがじたばた暴れている。
そうか、王城がまともに機能していれば、無礼な闖入者などその場で処分されてしまう。
彼女はそれが怖かったのか。
「フリッカ、城は俺が案内しよう。追い出された当初は、皆冷たかったように思うが、今になって俺という道化師の重要度を、皆理解したらしい。悪いようにはされないさ」
門番二人が、神妙な顔で頷く。
「やっぱり、オーギュスト様がいないとダメだ……」
「オーギュスト様がいなくなっただけで、この国は終わりかけてるんだ」
「なんとかしてくださいよ、オーギュスト様」
「まあ、前向きに善処する」
俺は玉虫色の答えをして、仲間たちとともに城の中へと入っていった。
「君、全く善処するつもりはないな?」
「無論だ。俺をあんな追い出し方をした国に、自分から戻るわけがない。少なくとも、ガルフスが頭を下げない限りはね」
イングリドも、それはそうだと頷く。
俺たちが堂々と城内を歩いていても、見咎める者はいない。
皆、気力を失っているのだ。
そして俺の顔を見て、誰もが驚く。
「オーギュスト様だ……」
「オーギュスト様が帰ってこられた……」
「こ、これでマールイ王国が救われる……」
「まるで希望の星みたいな扱われ方だねえ……。本当に戻らないのかい?」
「ああ。俺が危機的な状況だった時に、彼らはフォローしてくれなかったからね。それを自分たちが大変なことになったからと言って、都合よく俺を利用しようとされても困る。俺は俺で、新しい生活を育んでいるのだから」
すがるような目もスルーである。
喉元をすぎれば熱さを忘れるというやつで、ここで助けたとしても、彼らは平気で俺にしてもらったことを忘れて、また不義理をして来そうな気がする。
一度失った信頼を取り戻すのは、並大抵ではないぞ。
途中、騎士団長のバリカスと遭遇した。
オルカ騎士団のキルステンにやられた怪我はまだ治っていないようで、あちこち包帯だらけだ。
それでも彼は怒りに顔を真っ赤にし、俺に突っかかってきた。
「オーギュスト! てめえ、どの面を下げてこの国に戻ってきやがった! お前にやられてから俺はついてないんだ! 全部お前のせいで……」
「なんや、うるさいおっさんやな。ジェダ、やってまえ」
「おう」
「お? な、なんだお前は! ぬおお、体が動かん!!」
がっちりとジェダに両腕を固められたバリカス。
振りほどこうとするが、魔族の怪力には抗えない。
「手加減はしてやるからな。しばらく静かにしてろよっと!」
バリカスの巨体が宙を舞った。
ジェダのダブルアーム・スープレックスが炸裂したのである。
背中から床に叩きつけられて、白目を剥きながらのたうち回るバリカス。
しばらくは大人しくなるであろう。
「なんだ、あいつは? ごろつきが城の中にいるのか?」
「あれが騎士団長だ」
「冗談を抜かせ」
ジェダは信じてくれなかった。
さて、我々が向かうのは大臣の執務室。
現在のマールイ王国において、政治の中心となっているであろう部屋だ。
キュータイ三世の様子も気になるが、後にしておこう。
途中で掴まえた役人の話では、外交官はキングバイ王国との戦争を引き起こした罪で処刑……ということにされ、その通達が出た瞬間に国外に逃げ出してしまったそうだ。
拘束しておくだけの人員もいないのか。
ため息が出るし、外交官一人の責任にして済ませようという辺りがどうしようもない。
大臣の執務室に到着し、ムカムカとする気持ちでノックした。
返答はない。
もう一度ノックする。
「なんだ!!」
ガルフスの怒鳴り声が聞こえた。
これは正常ではない。
扉を蹴るように開けると、そこは乱雑に書類が散らばる部屋だった。
応接用のソファに深く腰掛け、ガルフスが昼間から酒を飲んでいる。
酒気で赤くなった顔は、以前よりも老け込んでいるように見えた。
「何用だ! 私は見ての通り、忙しい……」
そこまで言ったガルフスの目が、みるみる見開かれていく。
口がぽかんと開かれ、脱力し、ソファにもたれかかった。
俺を見た時の反応は、みんな同じだな。
「オ……オーギュスト……!? どうして……!?」
「ガルフス殿。酒量が過ぎるぞ。体をいたわるんだ」
後からイングリドも顔を出したので、ガルフスの驚きはさらに大きくなった。
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