コストカットだ!と追放された王宮道化師は、無数のスキルで冒険者として成り上がる。

あけちともあき

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第95話 温泉郷、防衛同盟

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 温泉に戻ると、すっかり酒と料理でリラックスした仲間たちがいた。
 ディゴは潰れており、その横でイングリドとジェダが陽気に笑いながら、ジョッキいっぱいの酒を乾杯しては飲み干している。
 フリッカは二人よりも酒に弱いため、ノンアルコールの飲み物とちょっぴりのお酒を、交互にやっていた。

「やあ諸君、お楽しみかな。新しい仕事を持ってきたぞ」

 俺がにこやかに告げるので、イングリドがうんうんと当たり前のような顔で頷いた。

「君の姿が見えないから、また悪巧みしていると思った。今度の悪巧みはなんだ?」

「人聞きが悪いが、俺のことをよく理解してくれているのだと解釈しよう」

「オーギュスト! そいつは酒が美味くなる話か? 不味くなるんだったら願い下げだ!」

「うちはどうでもええで。ずっとこう、安らかな気分やからなあ。イングリドの乳を見るまでは安らかやったわ。世の中はあれや。不公平や」

 フリッカが一番出来上がっているな。
 ギスカはドワーフたちを監視してもらっているが、彼女がここにいたら、率先して飲み始めていたことだろう。
 仕事の話をする場合ではなくなるところだった。

「そうだな。ジェダからすると、中庸の話ではないかな? 特に胸が躍る戦いがあるわけでもない。しかし、平和的な話というわけでもない」

「ほう……。ま、俺としちゃ、お前についていったらネレウスともやりあえたし、ワイバーンとも殴り合えた。まあまあ感謝してるからな。気乗りがしない仕事だろうが、ちょっとはやってやってもいいぜ」

「ご理解いただけて幸いだよ! では話をしよう。ああ、俺にも酒を。何、リザードマンの酒は果実酒なのかい? なんと、意外にもフルーティだな……。ああ、失敬。話というのは、この温泉観光地を守るために、俺たちが手を尽くそうという、そういうことだ」

「ああ、うん。この温泉は素晴らしいな。守らなくてはならない」

 イングリドが重々しく頷く。

「イングリドな。あの後、酒を飲んでは温泉入って、そしてまた出てきて酒飲んでるんや。めっちゃ温泉にはまってるで」

「この規模の湯船はガットルテには存在しないからね。彼女はもともときれい好きだし、気持ちはよく分かる」

 俺は酒をぐっと呷る。
 甘みは、思ったほど強くない。
 香りが凄いな。これは天然のものだろうか。

 シャイクが美味そうに酒を飲んでいる。
 まずは香りを楽しんでいるな。
 リザードマンは、嗅覚が発達しているのだ。

「おっと……つまりだな。この素晴らしい温泉郷が今、危機に晒されている。それは鉱山都市による侵略の危機だ」

「侵略……!!」

 俺の話が聞こえたのか、酒場にいたリザードマンたちがこちらに注目する。
 そうだな、彼らにも聞いてもらうべきだ。

「諸君! 諸君はこの素晴らしい温泉に浸かり、そしてイフリートを崇めるためにやって来ている!」

 リザードマンたちが頷く。
 やっぱり温泉が第一か。

「だが、この温泉を脅かす者がいるのだ! それはドワーフの鉱山都市! 無限に大地を掘り進む彼らが、温泉に手を伸ばそうとしている! いや、それだけではない。彼らは、そこまで温泉に興味がないのだ! この意味は分かるかね……!?」

 ざわつく酒場。

「温泉に興味がない……?」

「そんな馬鹿な……」

「ドワーフは、鉱石を掘り進め、ひたすらに採取することにしか興味がない! ちなみに俺の仲間のドワーフの話では、鉱山都市では主に蒸気浴で湯船には浸からないし、温泉が出ても入る用にせず、加工して流してしまうそうだ」

 ざわめきが大きくなった。

「は、破壊者だ……」

「温泉の破壊者……!」

「我々の温泉が危ない……!!」

 リザードマンたちがどよどよと騒ぐ。
 酒場の外まで騒ぎが広がっていき、周囲に、聖地にやってきていたリザードマンのほとんどが集まりつつあるようだ。

 これは好都合。
 俺は声を張り上げた。

「ドワーフの鉱山都市は、この温泉を侵略し、鉱石を掘り出すための一部として加工してしまおうと考えている! 彼らは止まらない! 話し合いは通じない! 何故か! ドワーフの頭が硬いからだ!」

 ここで、リザードマンたちからクスクス笑いが漏れた。
 彼らのユーモアセンスは、ドワーフよりも人間に近いかも知れない。

「ということでだ。ドワーフの硬い鉱石頭を柔らかくし、話し合いなどもできるようにするために、一発、ショックを与えて熱してやろうと思っているんだ。諸君! 戦いはお好きかな?」

 この問いかけに、リザードマンたちの中で、威勢のいい若者が吠える。
 だが、年かさの者たちは肩をすくめた。

 そう。
 守るための戦いは、勝っても失わないだけで得るわけではない。
 むしろ、戦いの中で何かを失うかも知れない。

「では、戦いは最小限。しかし、ドワーフ諸君には二度と温泉郷に近寄らぬよう、トラウマを植え付けて撤退していただく戦法があるとすればどうだろう! 彼らはどうやら、諸君が信じる大妖精、イフリートによく似たモノが怖いそうだ。悪魔バルログだ!」

 オー、とどよめく民衆。
 いやあ、大勢に注目されるのは実に気持がいい。

「乗ってるなあ、オーギュスト」

「彼は観客がいるほど調子に乗っていくタイプだからな」

「だがしかし、諸君……! バルログは既に滅ぼされ、存在しない。そして諸君の信じるイフリートもまた、おいそれと姿を見られるものじゃない。どうする?」

 俺の問いかけに、人々は腕組みをして考えた。
 いやあ……実に話し甲斐がある……。

「作るんだよ。我々で、イフリートを作る! なんと、ドワーフの中にも温泉を軽視する上層部に反感を抱く者がいる。彼らの協力を取り付けてきた! 温泉を守るため、彼らは手を貸してくれるそうだ!」

 オオーっと民衆がどよめく。

「あれっ、そんな話だったかな……?」

 シャイクが首を傾げた。
 いいのだ。
 この辺りは、お互いが共闘できると思えるような物語があればいい。

 真実だけが真実ではないのだ。
 信じたいものが真実となる。
 世の中そんなものだ。

「これより、イフリート教と、ドワーフの温泉を守る一党で、温泉郷防衛同盟を結成! 明後日より、温泉郷を守る作戦を始める!」
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