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第二部:神都ラグナスの冒険 1

第51話 ラグナスへの旅路 その1

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 道のりはそれなり。
 アリサが旅してきたルートだから、それほど険しくもないし、でたらめに長いわけでもない。

 我がモフライダーズは、着々とイリアノス王国への道を進んでいた。

 冒険者の都アドポリスと、イリアノス王国は隣接している。
 都市国家であり、衛星都市を入れてもさほどの大きさではないアドポリスと比べたら、イリアノスは巨大な半島全てが国である。

 大きい。
 とにかく大きい。

 そしてイリアノス王国に入ってからが、長い。
 神都ラグナスはイリアノスの中程になるのだ。
 陸路を使っていたら、相当の時間が掛かる。

「船だね」

「船ですわね」

 俺とアリサの意見が一致した。
 イリアノス王国の入り口で、ラグナス行きの船に乗り込むことにする。

 これがまた大変だった……!
 問題は、ブランだ。

 ドレは猫っぽいから、むしろ船には歓迎される。
 船にネズミが出ると、木製の船体がかじられる。
 それは船の寿命を縮めることになるし、何ならば船が沈む原因の穴を開けてしまうこともある。

 なので、猫は大歓迎。
 だが、犬はどうだろう?

『わふん?』

「うわーっ、すげえモフモフの犬だ。だ、だが、うちの船はスペースがギリギリでな。その犬はでかすぎてちょっと」

 荷物を運搬する船ばかりだから、その理屈はとても良く分かる。
 それに、誰もがモフモフした犬が好きとは限らない。

 ということで、ブランごと乗せてもらえそうな船を探すのに手間取った。
 ちなみに、クルミは見た目が人間に近いのでセーフ。
 ゼロ族はイリアノスでは大変めずらしいらしく、やたらと注目を集めることになったが。

「なんかクルミ、すごく見られてるかんじがするですよ」

「ゼロ族はこの国にはほとんどいないからねえ」

「そうなのです? そういえば、あんま深い森とかないです!」

 イリアノス王国は、主に栄えているのが沿岸部なのだ。
 だからイメージとしては海の王国。

 神都ラグナスはやや内陸だけどね。
 そこには運河を伝って行く。

 さて、何隻目になることだろう?
 新しい船に、乗船交渉をしてみる。

「実はラグナスに行きたいんですよ。大きい犬がいます」

「なにい、大きい犬だあ?」

 感じの悪い水夫が俺を睨んだ。
 そしてブランを見る。

 水夫がハッとした。

「すっごいモフモフ……! ちょ、ちょっと待ってろ!! 船長! 船長ーっ!! すげえモフモフが!!」

「なんだとぉ!!」

 船の中からどら声が響いた。
 傷だらけの顔をした、かなり大柄な男が姿を現す。
 ああ、彼はオーガ族だな。オーガの船長だ。

 オーガ船長は、俺達を鋭い目つきでじろりと睨みつけた。

「ひゃー」

 クルミが小さく悲鳴を上げる。
 カイルは不敵に睨み返した。

 だが、オーガ船長はそれに構わず、俺達をじろじろ見て……。

 ドレを見て、ふにゃっと顔が緩んだ。

「ネコチャン……!」

 ブランを見て、しまりが完全になくなった。

「おっふ……モフモフ……!!」

「船長! 船長!!」

 オーガ船長は脇腹を小突かれて、ハッと我に返った。
 咳払いをして、俺達に向き直る。

「オホン。見ての通り、俺様の船は貨物船であると同時に客船でもある。正規の金を払えば人間は乗せてやらんこともない。だが……動物は……その……なんだ」

 何か言いたそうだな。
 そこに、ブランが気を利かせて、『わふん』と鳴いた。

「俺はテイマーなんで、特定のモンスターとか動物の鳴き声が言葉として分かるんですが。ブランが、ちょっとは撫でてもいいよって言ってますね」

「なんだと!? ほんとか!? よし乗れ!! 今すぐ乗れ!!」

 オーガ船長が目をカッと見開いた。
 口からツバを飛ばしながら叫びつつ、ぴょんぴょん飛び跳ねる。
 大興奮である。

 この人、本当にモフモフが好きなんだなあ……。

「同類のにおいがしますわ……!!」

 うん、間違いなくアリサと同類だね。
 だけど、お陰で船を見つけることができた。

 俺達はこの船に同乗させてもらい、神都ラグナスを目指すことになる。




 船の中は、船倉と客室に分かれていた。
 船底に近いあたりが二等客室。
 窓があるのが一等客室。

 そして俺達モフライダーズが宿泊しているのが、特等客室。

 ……なぜだ。
 ブランを入れてもゆったりとスペースに余裕があるので、つまりはそういうことなんだろう。
 船長の期待には応えてやらないとな。

「おい、いいか」

 扉をノックする者がいた。
 噂をすれば船長だ。

 扉を開けると彼が入ってきた。
 一緒に潮風も流れ込んでくる。

 そう、ここは甲板の上に設けられた特等客室。
 なんと、船長室の裏にあるのだ。
 普段なら王侯貴族が泊まってもおかしくないような部屋だな。

「表ではああ言ったが、あんたら、モフライダーズだな?」

 オーガ船長が尋ねてきた。
 鋭い。

「よく分かりましたね」

「分からんはずがないだろ。その白いもっふもふのワンちゃん。ふわっふわなリスの尻尾の娘。モフライダーズで間違いない。」

「あー、やっぱり分かりやすいですか」

「分かりやすいなんてものじゃねえよ。そこのネコチャンともっふもふのワンちゃんがいるからだけじゃねえ。あんたらだから、特等客室に泊めてるんだ。夜には客に挨拶でもしてくれりゃありがてえな」

 ニヤリと船長は笑った。
 モフモフが好きなだけの男ではないな。
 なかなか食えない。

 それにしても、俺達の評判はそこまで広まっていたのか。

「アドポリスを襲った、恐るべきモンスターを次々に退け、最後にはアンデッドの大群から都市国家を救った英雄……モフライダーズはそう言われていますわよ?」

 アリサの説明に、俺は目を丸くした。
 そんなに評判に!

「ま、そういうことだ。噂が広がるのは速いぜ。しかも、悲恋と英雄譚は民衆の大好物ってわけだ。あんたの口から、英雄譚が語られるのを待ってる水夫も多いのさ」

 なるほど、俺は船で一仕事せねばならないらしい。
 まあいいか。
 暇でなくなるなら、それはそれで結構なことだ。

「それでだな、その……」

 オーガ船長がモジモジした。

「分かってますよ。ブラン、頼んでもいいかな」

『わふん』

 ブランがトコトコ歩いて、船長の目の前でおすわりした。
 舌をぺろんと出して、にっこりサモエド笑顔を見せる。

「きゃあ」

 船長が黄色い歓声をあげた。
 そして恐る恐る手を伸ばし、ブランをさわさわ撫でる。

『わふ』

「もっとモフモフしてもいいって言ってますよ」

「ほ、ほんとか!? もっとモフモフしていいのか!? うおおおおーっ!」

 船長は雄叫びを上げた。
 雄叫びを上げつつ、ソフトに優しくブランをモフモフした。

「アリサよりモフモフするのがうまいです!」

「な、なんですって」

「わはは! こりゃ傑作っす!」

 俺達は大いに盛り上がった。
 こうして、船旅は始まったのだ。
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