転生魔王のマニュアル無双~絶滅寸前の魔王軍をコツコツ立て直します~

あけちともあき

文字の大きさ
7 / 32
盗賊王を討て

古戦場砦のおかしな新人

しおりを挟む
 七王の一人、鷹の目王ショーマスが支配する一帯は、かつてゴブリンたちが多く生息する森であった。
 ゴブリンは数を頼みに、家畜や小さな村を襲う魔族で、高い繁殖力を持ち、人が使う道具を盗んでは使いこなす器用さを持っていた。
 彼らを率いたのが、ディオコスモの歴史上、幾度も登場する魔族の王、黒瞳王こくどうおうである。
 それは、七人目の黒瞳王であり、見た目は若い女の姿をしていたと言われている。

 複数のゴブリンクイーンを従え、森を支配した黒瞳王に、ショーマスは選び抜かれた精鋭戦士を率いて立ち向かった。
 ショーマスの目は、あらゆる敵の姿を見逃さない。
 ショーマスの耳は、敵が立てる些細な音も聞き逃さない。
 ショーマスの足は、どんなに速い敵よりも速い。
 そしてショーマスの刃は、あらゆる敵を背中から串刺しにする。

 影では、盗賊王と呼ぶ者がいる。
 その挙動が、まるで盗賊のようであったから。
 ショーマスは贅沢ぜいたくを好み、魔族から手に入れた財宝を惜しげもなく使い、ばらまいた。
 強大な魔族の巣であろうと、ショーマスは単身で忍び込み、多くの宝を持ち帰ったという。

 あるいは、暗殺王と呼ぶ者がいる。
 黒瞳王を最後に穿うがった刃は、彼女の背から差し込まれていたが故に。
 そして、大きな戦が終わり、平和になったこの土地で国を興したとき、謀反を企んだ臣下が一人残らず、背中からの刃で殺されていたが故に。

 鷹の目王ショーマス。
 彼が作り上げたこの国は、森を切り開いた国。
 翼を広げて飛ぶ鷹の形をしているがために、いつしかこの国は、ホークウインドと呼ばれるようになった。

 ここはホークウインドの辺境。
 『鷹の尾羽』と呼ばれる地。
 かつてショーマスが、黒瞳王と最後の戦いを行った場所でもある。
 いわゆる、古戦場跡だ。
 そんなわけで、謂いわれのある史跡が残る場所ではあったが、他にはとりたてて何があるというわけでもない。
 幾つかの開拓村と、そして村を守るための砦があるばかりだ。

 その、古戦場砦と呼ばれる場所に、彼はいた。
 齢六十に届こうかというその男。
 黒瞳王との最後の戦いに参戦した、ホークウインド最強の剣士であった。
 七王の一人、剣王アレクスが興した幾つかの流派、そのうちの最も古いものである、古式剣王流の使い手。
 未だに、己の腕は、ホークウインドでは五指に入ると豪語する男だった。
 だが……。
 そんな優れた剣の腕を持つ男は、政治に関してはからっきしだったのである。

「ああー……。腰がいてえ」

 彼は、椅子に座したまま、腰をさすった。

「おやっさん、もう年なんだからさ、こんな砦で一介の兵士なんかやってるのは絶対無理だって」

 彼の隣で、まだ年若い男がくつくつと笑う。

「何を言う。俺ァな、剣しかねえんだよ。だから剣だけに生きる。そのためにゃ、最前線にいるのが一番いいだろうがよ。どうせ死ぬなら戦場で死ぬわ」

「また始まったよ。いいかいダン。あんた、確かに剣を取らせりゃ最強だ。ショーマスにだって勝てるかもしれないぜ? だけどよ、あんた今こうして辺境の砦で管巻いてるじゃねえか。息子さん、剣の道には行かねえで畑耕してるって言うじゃないか。今はさ、そういう時代なんだよ」

「うるせえ、若造」

 ダンと言う名のかつての剣豪は、笑いながら卓上の茶をすすった。
 短く刈った髭が濡れる。

「またそれだ。俺はいつまでもこんな砦でくすぶってるつもりは無いけどよ。あんた、ここが最前線だって言って、もう三十年も何も起きてないだろ? ゴブリンなんか、絶滅寸前だよ。たまーに迷い出てきたのを、訓練代わりに追い立てるくらいが関の山だ」

 若い男は立ち上がった。
 腰に剣をく。大量生産品の、なまくらだ。
 それでも、棍棒としてならそれなりに役立つ。

「うるせえ」

 ダンは、そんな話を言われ慣れているのか、半笑いで受け流した。
 既に、自分の境遇をどうこう言われて、憤るような時期は過ぎている。
 己はこうして、辺境の砦でゆっくり朽ちていくのだろう。
 そう思い、それを受け入れられる程度には、老いた。

「だけどよ……。あれは、楽しかったなあ……」

 一人残された部屋で、彼はしみじみと呟く。
 ここは兵士の詰め所だ。
 今の時間は、ほとんどの兵士が外に出張っている。
 何をするというわけでもないのだが、近隣の住民にさぼっていると思われないために、ぶらぶらと周囲を練り歩くのだ。
 馬の世話をしたり、武器の手入れをする者もいる。
 ダンは言うなれば、さぼりだ。

「二度とねえと思うけどよ。最後にまた、剣が振るいたかったなあ……。ああ、畜生。あのバカ息子が剣を志してくれりゃなあ。才能だけは俺よりあるくせに、全く。親の心を知らんというか、バカが。……いや、バカは俺か」

 今まで何度繰り返したかしれない独り言。
 答えは出ない。
 この停滞した現状が、どうなるわけでもないのだから、答えなど出ようはずもないのだ。

「さて、俺も、見回りに精を出すとするかねえ」

 ダンは腰を撫でながら、よっこらしょ、と立ち上がった。
 そして振り返ると、おかしな男と目が合った。

「お」

「お」

 異口同音に意味の無い言葉を発して立ち止まる。
 それは、兵士の格好はしているものの、なんともそれが似合わない男だった。
 年はよく分からないが、恐らく若い。
 身のこなしは、素人そのもの。
 屋内だというのに兵士の帽子を深く被っていた。

「見覚えのない奴だな」

「はあ」

「……気合の入ってない奴だなあ……」

 気の抜けた返事をされて、ダンはあきれた。

「何やってんだ」

 よくよく見れば、男は腕いっぱいに紙の束を抱えている。
 どれも、書き損じだったり、使用が終わった書類の山だ。

「いやあ、紙が多いなあと。貴重品じゃないんですかこの世界では」

「ああ。昔は紙が貴重だったらしいなあ。だが、二百年ほどまえに、鋼鉄王ゲンナーがこいつを大量生産する手段を生み出してな。お陰でいらん書類が山ほど増えたってわけだ」

「では、もらっても?」

「重要な書類はいかんがな。ま、俺は何が重要かは分からん。どうせそのままにしてても燃やしちまうんだ。欲しいなら持ってけ」

「感謝します」

 男は書類を後生大事に抱えて、砦を出て行ってしまった。

「ありゃあ……新米だな。体の動きがまるで出来てねえ」

 その後姿を見ながら、ダンは思うのだった。




 翌日である。
 ダンが砦の修練場に入り、日課の修練を行っている時だ。
 まだ朝が早く、夜番の兵士の他は、砦に人もいない。
 ダンは視線に気付いた。
 振り返ると、昨日の男がいる。

「なんだ、またお前か」

「うむ。剣を使ってるなーと思ってつい」

「おう、剣だ、剣。こいつはまあ、剣の形をした棍棒みたいなもんだが、剣はいいぞ」

「いいのですか」

「いいぞ。振り回してるとスカッとする。この一振りが、この打ち込みでいいのか、この角度でいいのか、考えることは山ほどある。剣ってのは人生だな。生きるうえで大事なことは、大体剣のなかに詰まってる」

 ほー、と男は感心した。
 大変、気合の入ってない感心ぶりだったので、ダンは呆れてしまった。

「お前なあ。仮にも砦の兵士になったんだから、もうちょっと背筋をびしっと伸ばしていろいろやらんといかんぞ。そうしないと、この年まで砦で管を巻く俺みたいになるからな。俺はダンだ。お前は」

「ルーザックです」

「ルーザック。変わった名前だな。おいルーザック。俺がお前に剣を教えてやろう。そしてお前のたるんだ気分を引き締めてやる! ありがたく思えよ!」

 ダンはルーザックの背中をバシッと叩いた。
 今まで、何人もの若い兵士たちにやって来たことだ。
 みんな、最初は嫌がった。途中も嫌がった。最後は嫌がって、来なくなる。
 だが。

「剣を教えてもらえるんですか。ありがたい。よろしくお願いします」

 ルーザックは嬉しそうに言うと、深々と礼をしたのである。
 その礼だけは、ビシッと鋭く、小気味いい礼だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!

たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。 新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。 ※※※※※ 1億年の試練。 そして、神をもしのぐ力。 それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。 すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。 だが、もはや生きることに飽きていた。 『違う選択肢もあるぞ?』 創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、 その“策略”にまんまと引っかかる。 ――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。 確かに神は嘘をついていない。 けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!! そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、 神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。 記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。 それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。 だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。 くどいようだが、俺の望みはスローライフ。 ……のはずだったのに。 呪いのような“女難の相”が炸裂し、 気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。 どうしてこうなった!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

処理中です...