聖女の腕力は最強です!~転生聖女による、異世界・世紀末救世主伝説~

あけちともあき

文字の大きさ
17 / 40

第17話 戦場の聖女! 戦いなんて止めてプロレスしましょう!

しおりを挟む
「アンゼリカ様、どうやって戦争せずに戦いを終わらせる気なんだろうなあ」

「そういえばシーゲル、戦争ってなあに?」

「おう、戦争っつーのはな、俺も体験したことねえんだけど」

 シーゲルがミーナに解説を始める。

「国と国があるだろ?」

「うん」

「仲悪くなったりするだろ? そしたら、喧嘩するだろ」

「どっちもごめんなさいしないの?」

「ごめんなさいした方が悪いってことになっちゃうだろ。国はそこにたくさん人がいるんだから、悪いことにされたらみんな困るんだよ」

「あー、ほんとだ!」

 シーゲルの解説がなかなか分かりやすい。
 アンゼリカはニコニコしながらこれを聞いている。

「だから、『どっちが悪かったのか決めようぜ!』ってなんだよ。それで集まってきて、みんなでわーって殴り合うんだ」

「ひええ、こわーい」

「そうなんだよー。戦争は怖いんだよ。人がいっぱい死ぬしなー」

「そうなんだ。戦争ってよくないねえ」

「よくねえんだよ」

 少女とモヒカンが分かり合っている。

「でも、本当に聖女様どうするんですか? これだけの軍隊、止めようったって止まるもんじゃないですぜ? 俺も悪党だった頃、ヒャッハーっつって叫んで襲いかかったら、なんか超テンション上がって普段なら考えもつかねえ恐ろしいことが平気でできたりしましたし。その後マジで凹みましたけど」

「ええ。スイッチが入ってしまえば、もう手遅れでしょう。この戦場にいる全員を空手チョップでなぎ倒さねばならくなります」

「ひゃひゃひゃ、いくら聖女様でもこの人数は……ハッ……!」

 シーゲル、聖女の横顔を見て気づく。
 この人は本気だ……!!
 戦争をしたら全員空手チョップで昏倒させられる!!

「戦争はだめだ」

「戦争だめだねえ」

 シーゲルとミーナ、別の方向で意見が一致した。

「だからこそ、起こる前に戦争の芽は叩き潰すのです」

「たたき……つぶす……」

 文字通りの意味であろう。
 一体この聖女は、何をやろうとしているのか……!
 いや、やりたいことはよく分かるけど!

 シーゲルは不安と期待に包まれながら、戦いの地に到着したのだった。



 インター平原で、睨み合う王国軍と鉄人軍。
 数では王国軍が上。
 だが、鉄人軍には棘付き魔導トラックや、火炎放射器付き魔導トラック、ならず者をぶら下げて敵軍に突っ込ませる、竿付き魔導トラックなどの多彩な兵器があった。

「空白地帯は古代文明の遺跡がよく出るんだよな。叩けば動くし、あとはあちこちで採れる黒い油を入れればいいだけだぜ。鉄人軍の方が武器が充実してるんだな」

 かたや、王国軍はファンタジー然とした武装。
 槍、盾、弓、剣。

 対する鉄人軍は世紀末然とした武装。
 魔導バイク、魔導トラック、火炎放射器、クロスボウ、棘付きバット。

 まるでこれは、二つの文明がぶつかり合おうとしているかのようだった。

 ちなみに。
 この世界において、これほどの規模の戦争はここ五十年ほど無い。

 そして世界の記録は、五十年前くらいから始まっているのである。
 つまり、異世界世紀末が成立してより、大規模な戦争は一度も起こったことが無かった。

 戦争に関する知識だけが、戦争読本としてならず者達も愛読するレベルで広がっているだけである。
 故に、見よ。

 鉄人軍のならず者達も、「ヒャッハー!」「かかってこいよう!」「オラ腰抜けェ!!」とか叫んではいるが、皆腰が引けている。
 誰もが、戦争という言葉に現実感がなく、ドン引きしているのである。

 王国軍も、勇ましくラッパを吹いたり、ドラをジャーンジャーンジャーンッと鳴らしたりしているが、つまりはこれから起こりそうな戦争に対する現実逃避なのだ。

 誰も戦争などやりたくないのである!

 そんな混沌とした戦場において、アンゼリカが魔導バイクを走らせた。
 王国軍を追い抜いて、その先頭に出る。

 どよめく王国軍。

「なんだあれは」

「女……? でけえっ」

「あれが噂の聖女アンゼリカか……!!」

「い、一体何をするつもりなんだーっ」

 対する鉄人軍もいっしょである。

「なんだあれは」

「女……? ヒャッハー! 女だーっ! だがでけえっ」

「あれが八華戦を次々に打ち破ったって噂の聖女アンゼリカかよ……!!」

「い、一体何をするつもりなんだーっ」

 彼らの注目を浴びつつ、アンゼリカは立ち上がった。
 そして、据え付けられている魔導マイクを手に取る。

 そう、マイクである。
 魔力を使って、戦場の隅々まで声を届けられる。

 アンゼリカは、すっと息を吸い込んだ。

『オラァ、鉄人!! 何を後ろに引っ込んで高みの見物をしているのでしょうか? あなたはプロレスがしたいのではないのですか? 私が、この私がここに来ました。つまりそれはどういう意味か分かっているでしょう? 私と、あなたで、あの時代の戦いを再現しようと言っているのです! 今回は引き分けではありません! 私が勝ちます!!』

 堂々たる宣戦布告であった。
 これを聞いて、青くなる鉄人の軍勢。

 あの聖女、なんてことをしてくれたのだ!
 よりによって鉄人を挑発するなんて……。

 鉄人テーズは、時折内なる自分を抑えきれずに狂乱する。
 そうなれば、次々にならず者達はプロレス技の餌食になるのである。

 テーズの狂乱を恐れて、反逆を企てたならず者も多い。
 その全てが、秒殺(一分以内にマットに沈められること)された。

 今では、鉄人に抗おうとする者はいない。

 そんな鉄人の神経を逆なでするようなことを言うなんて!
 この聖女なんてことを!

 鉄人の軍勢からブーイングが飛んだ。
 それに対して、王国軍は拍手喝采である。

「いいぞー! 聖女アンゼリカー!」

「アンゼリカ素敵ー!」

 手を振って応じるアンゼリカ。
 その姿には実に貫禄がある。

 そして。
 アンゼリカは視線を鉄人軍へと向ける。
 正しくはその奥。

 高らかに立てられた、マッチョな男の描かれた旗。
 それが徐々に、こちらへと近づいてくるではないか。

 やって来るのは、真っ白なリングだった。
 リングには車輪と鎖が取り付けられており、この鎖を何人もの大男達が引っ張っている。

 そのリングの、真っ赤な柱にもたれかかるのは仮面の男である。

 鉄人テーズ。
 聖女アンゼリカの呼びかけに応え、八華戦最後にして最強の将が姿を現したのだ。

「うう……頭が……! 頭が割れるようにいてえ……!! おい、おい聖女!! お前が俺の中のこいつが求めている存在か!」

『かかってこいやぁ!』

「マイクで喋らなくていいから!!」

 一瞬、ピーッとハウリング音がした。
 戦場に響き渡る深い音に、アンゼリカとテーズ以外が耳を抑えて「ぎえー」と叫ぶ。

 アンゼリカはマイクをバイクに据え付ける。
 そして、歩き出した。

 リングに向かって一直線である。

「あながテーズ? 失礼ですが……私の半身が知る彼とは大きく違っているようです。彼はもっと気高く、そして偉大でした」

「そりゃあ、お前と同じだ。俺の半身ってやつだよ。だが……こいつは強すぎる。危険だ……。俺が打ち消されちまう……!!」

「あなたには、彼の半身たるだけの柱が無かったのですね」

「う、ううう、うるせえ!! くそ、ぐだぐだ喋ってても埒が明かねえ! やるぞ聖女! 俺とてめえで決着だ!!」

「ええ、望むところです。それにしても……」

 リングを見渡しながら、アンゼリカはしみじみと呟いた。

「こちらの世界で、まさかリングに上がることができるなんて……」

 感無量。
 アンゼリカの胸はいっぱいだった。

「アンゼリカ! これを使いたまえ!」

 王子クラウディオの声がする。
 彼が、白馬に乗って駆けてくるところだった。

 その手には、真っ白な靴があった。

「それは……リングシューズ……!」

「よく分からないが、私に天啓のようなものがあってね。職人にこれを作らせていたんだ……! もとは魔導シューズの一種らしいのだが」

「ありがとうございます、王子」

 アンゼリカはとびきりの微笑みを浮かべた。

「ああ……作らせた甲斐があったというものだ!」

 リングシューズを身につけるアンゼリカ。
 そして、悠然と、彼女はロープをくぐる。

 立つのは、真っ白なリングの上。

 その時である。
 リング脇、赤くも青くもない柱の側に、突如として空からテーブルが降ってきた。
 それは何か?

 従軍していた他の聖女や、教会騎士が驚愕する。

「せ、聖卓!!」

「神が降臨なされる!? なぜ! どうしてここに!?」

 テーブルは光り輝く折りたたみ式。
 そこに、輝くパイプ椅子が三つ並び、中央に顕現したのは、光輝の衣を纏った男だった。

 さらに、リング上に赤黒ストライプのローブを纏った天使が降り立つ。

 神と天使。
 それらが戦場に降臨した。

 つまりこの場は、神が認めた聖戦が行われる場であるということである。

 大教会の歴史においても、神が降臨した記録は無い。
 なぜなら、これまで異世界世紀末には、プロレスが無かったからである。

 神はプロレスファンであった。

 神はアルカイック・スマイルを浮かべながら、虚空に手をかざす。

「光よ、あれ」

 すると、右手にマイクが出現した。
 左手にゴングが出現した。
 どちらも光っている。確かに光があった。

 神はマイクを手に取ると、口を開いた。

 誰もが、ゴクリとつばを飲む。

『さあ始まりました、インター平原大決戦。ここが異世界世紀末の巌流島。迎えるは鉄人テーズ、なんと百戦無敗の北西八華戦最強の男。仮面の奥に秘めたる闘志が今、光の世界へ牙を剥く!』

 まくしたてる神の絶叫に、戦場の一同、あっけにとられるのであった。

しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

処理中です...