召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき

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ワンザブロー帝国編

第28話 温泉召喚とはオツなものだ

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 残るはグユーン一人だ。
 明らかにでっぷりしたおじさんなのだが、都市の長で帝国に反逆していたり、スレイブリングを開発していたりする凄腕の魔法使いである。

「こ、この野郎! 俺たちを奴隷にしてもてあそびやがって!」

「殺してやる!」

 あっ、血の気が多い若い自由民がつっかけた!

「ふん、三級市民風情が! 貴様らは動物と同じよ! ポイズンクラウド!!」

「「ウグワーッ!!」」

 二人は毒の雲に巻かれてぶっ倒れてしまった。
 これを見て、自由民たちの腰が引ける。

 うむうむ、魔法使いとそうでない者で、明らかに戦闘力が全然違う。
 魔法を使われたら一発アウトなのだ。
 そりゃあ、立場にも差が出てくるというものだ。

 グユーンは余裕を取り戻したようだ。
 ニヤニヤ笑いながら立ち上がる。

「なんだ? ここまで来たのはまぐれだったのか。わしの魔法が怖くて近寄れまい」

 調子に乗っているが、よく考えてみて欲しい。
 まぐれで奴隷たちを全員解放し、魔法使いたちを大量にぶっ倒し、魔法の錠前を解除してガードのスケルトンゴーレムを一掃するやつがいるだろうか?

 人間は理不尽を目の当たりにした時、自分が信じたいストーリーを勝手に作ってそれを真実だと思ってしまう。
 だが基本的に、目の前に理不尽な事態がある時、それはそのまま受け止めないと大変なことになったりするものだ。

「グユーン。現実逃避するのもいいが、こっちは忙しいのでさっさと片付けるぞ」

「わ、わしの名前を知っているだと!? いや、わしはこの都市の王。知っていてもおかしくはない。だが……お前には何の魔力も感じぬ! センスマジックが反応せぬからな。装備したマジックアイテムを駆使してここまで来たと見える! わしには通じぬぞ!! うりゃあ! ポイズンクラ──」

「チュートリアル!」

 行って、戻って。

「ただいま」

「──ウド! 毒に巻かれてじわじわと衰弱しながら死ぬがいい!!」

「ゲイルハンマー」

 ビューっと風が吹いた。
 毒の雲がグユーンまで戻っていく。

 うむ、これはイージーだった。
 一回でやれた。

 やはり、ノーマルな魔法使いはそこまで強くないな。

「ウグワーッ!! ど、毒がーっ!!」

 紫色に変色しながら、地面をのたうち回るグユーン。

「な……なぜ……! わしの魔法は個体識別の効果を与えているから、わしの周りには展開しないはず……!」

「お前の周りに展開しなくても、風でお前の方まで寄せてやればいい話じゃないか。それで思いっきり吸い込んだのお前でしょ」

「な、なんという……ウグワーッ!!」

 おお、毒の継続ダメージが入っている。
 ちなみに毒にやられた自由民は、ルミイが癒やしの精霊魔法で治した。

「こういうのは、ドライアドの力で浄化できるんですよー。マナビさんといると魔法使うことがなくて、自分が精霊使いだって忘れちゃいますねえ」

「ルミイに魔法を使わせないと突破できない時点で負けだと思っている」

「た、頼りがいがあるー!」

 おお、ルミイが感激している。
 ふふふ、頼ってくれ頼ってくれ。

 おっと、グユーンの事を忘れてたな。
 毒でぶっ倒れたグユーン。

 自由民たちはこいつを、棒で叩こうと押し寄せるが……。

「な、舐めるな! ファイアボール!!」

「「「「「「「「「ウグワーッ!!」」」」」」」」」

 あー、やられた。
 ぶっ倒れてても、口と指先が動けば魔法は使えるようだ。
 これは危ないな。

 なので、やられた自由民を回収しつつ部屋の隅まで下がる。
 そこで、じわじわと自分の毒で弱っていくグユーンを眺めるのだ。

「うごごごご……毒が……毒が……!! ポ、ポーションを使わねば……」

「ゲイルハンマー」

 パリーン。

「ウグワーッ!! 解毒のポーションがーっ!! あ、悪魔めえ!!」

 またグユーンがぶっ倒れた。
 そして、ついに俺に助命を懇願してくるのだ。

「た、頼む……! わしが悪かった……! だから、助けてくれ……! 命だけは助けてくれ……!!」

 これには自由民たち、激おこ。

「俺たちの命をおもちゃにしたくせに!!」

「魔法使いなんてみんな死ねばいいんだわ!!」

「助けてもらえると思うな!!」

 そうだよなあそうだよなあ。
 だが待って欲しい。

 このままグユーンが弱って死んでしまっては、よくないのではないか。
 もっとこう……。
 己が積み上げてきたものが、なんか無駄に使われるのを見て、絶望しながら死んでほしいじゃあないか。

「あっ、マナビさんがいやーな笑顔を浮かべました!」

「ふふふ、ルミイは俺をよく見ているなあ」

 俺はグユーンの魔法の射程にトコトコ入り込む。
 すると、グユーンが反応した。

「ば、馬鹿め! お前は道連れだ! ライトニングボルト!」

 放たれたところで、ゲイルハンマーで風を起こして魔法をそらし、俺はちょっと後退する。
 すると、射程圏から俺が消えたことで、ライトニングボルトが立ち消えた。

 また射程にトコトコ入り込む。

「ファ、ファイアボール!!」

 俺は射程圏外に逃げる。
 これを繰り返した。

 しばらくして、ヘルプ機能で確認する。

「グユーンの魔力はどうだ?」

『空っぽです』

「よろしい」

 俺はトコトコとグユーンに近づいた。
 もう土気色になった顔色の彼は、周囲に砕けた宝石みたいなのをばらまいて、憎々しげに俺を見つめる。
 魔力を閉じ込めた結晶だな。こいつまで使い切ったか。

 で、俺は玉座に手をかけるのだ。

「や……やめろ……。それに触れるな……。それは……魔法使いが生き残るための最後の希望……」

「あー、もしかしてお前、魔法文明が持たないことに気づいてたか。いやあ、狙いは良かったな」

 ヘルプ機能に操作方法を聞きつつ、玉座に溜まった魔力を全開放する準備。
 さらに、魔力に指向性を与える。

 このまま解放すれば、魔力爆発が起きてしまうらしい。
 だが、この魔力で何かを召喚すればそれは起こらない。
 使ってしまえばいいわけだな。

「やめろ……! 魔法使いでもないお前が、魔力をどうこうできるはずが……」

「魔力に命ずる。巡り、転換せよ。遠き地の底より呼び覚ませ。熱き癒やしの脈動を……」

「え……詠唱だと……!? 魔力もないのに、どうして……!」

「あらゆるものにはバックドア的な抜け道があるんだぞ。これは魔力を使って、世界に俺が魔法使いだと誤認させる呪文な。だーれでも唱えられる。ほい、温泉召喚!!」

 次の瞬間である。
 玉座が天井に向かってぶっ飛んでいった。
 天井を突き抜け、どこまでも高く上がっていく。

 そこから吹き出したのは、温泉だった。
 玉座そのものが召喚の魔法陣となり、そこから温泉が発生する。

「う……ウグワーッ!! わしの……わしの貯めた魔力が……! 魔力がどんどん使われていく! 呼び出したのはただのお湯だと!? 凄まじい量のお湯!! こんなものに……! こんなものにぃ……!」

「うむ、お前が後生大事に溜め込んだ魔力は、全部温泉に変えさせてもらう。そしてこの都市は一時的に温泉の都になるのだ。俺とルミイのお風呂のためにな」

「な、なんたること……!! あんまりだあー」

 絶望のあまり、グユーンは白目を剥いて死んだのである。
 そして、都市を満たしていく温泉に、視界いっぱいに広がっていく湯けむりに、自由民たちが歓声を上げる。

 ルミイも目を輝かせながら、温泉都市となった大地を見渡した。

「またお風呂に入れますー!!」
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