召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき

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セブンセンス法国編

第127話 寿命・克服・真カオルン

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 俺は、チュートリアルを行う際に様々なシチュエーションを想定して行うことにしている。
 例えば、カオルンをその中に含めないでチュートリアルするとか。

 なお、これ、ルミイだけはどうしても近くにいると巻き込まれる。
 あの人だけ特別なのな……。

「ヘルプ機能。一通りやってみて気づいたんだが、カオルンはパワーダウンしているよな?」

『カオルンはパワーダウンしています』

 出会った頃の強さに比べると、最近は明らかにおとなしい。
 光の刃の明度も下がっているし、あまり飛ばなくなっている。

「原因について」

『ホムンクルスとしての肉体に設けられた、リミッター。寿命です』

「あっ、そうか」

 カオルンの肉体はホムンクルスで、ワンザブロー帝国が用意したものだった。
 それを忘れていた。

「あと何年くらい生きられるの?」

『半年です』

「なるほど。リミッターを解除する方法は」

『アカシックレコードに記録されていません』

 つまり、存在しないということである。
 なるほど。
 このままでは、カオルンは半年で死ぬ。

 で、寿命の効果が彼女の肉体に現れてきているということだ。
 カオルンが戦いにはやるのも、食事する時間を惜しむのも納得だ。

 残された時間が少ないのだな。

「では、改めてチュートリアルを再開だ。技巧神イサルデを攻略しつつ……カオルンの寿命を攻略する」

 俺の視界が、バリバリとぶれた。まるで、本来チュートリアルに設けられていた機能の限界を突破し、エラーが発生したみたいだ。
 チュートリアルの表示が消え、戻り、その速度がスローになった。
 あたかも、新しい機能がダウンロードされ、インストールされているかのように。

 さて。
 チュートリアルは、その名の通りのチュートリアルではないと俺は睨んでいる。

 これは恐らく……。

 視界に文字が表示される。

『技巧神イサルデと、カオルンの寿命リミッターを攻略します。チュートリアルモードがver2になりました。チートモードと併記します』

 攻略、訳し方によってはCheats……つまりチート、となる。
 俺の能力とは、アカシックレコードに存在しない攻略方法を作り出し、世界の理を変えること。
 やっぱり、これがチュートリアルモードの真価だったか。

 何度かのチャレンジで、俺は流れを掴む。
 俺の行動が、思考が、世界の法則を捻じ曲げて、神の打倒とカオルンの救済を同時に行うルートを導き出したのだ。

 こうして、俺はチュートリアルからの帰還を行う。
 技巧神イサルデとの戦いが始まる、直前だ。

『てめえ……。何をやった?』

 イサルデが凄い目つきで睨んでくる。

『ほんの僅かだ。ほんの僅かだけだが……今、おめえが戻ってきた瞬間に世界が変わりやがった。世界を変えたのか? まさか。俺っちじゃなきゃ気付かねえくらいに僅かな変化とは言え、こんなことは他の誰にもできねえ』

「ご明察だぞ。俺は世界の有り様を変えられる。具体的には、攻略不可能なものを攻略可能にする」

 ネクタイブレードを伸ばす。
 背後で、カオルンも光の剣を構えた。

 視界の端で、それが明滅しているのが分かる。
 カオルンの顔色も、よく見たら前よりもちょっと悪くなってるのだな。

 すぐ助けるからな。

「なんなのだ、マナビ?」

「なんでもないぞ。後で全部教えるぞ」

「そうなのだなー。じゃあ、今は戦いに集中するのだ!!」

 カオルンが真っ先に、技巧神に飛びかかる。
 半身をコンボの達人に倒されているとは言え、腐っても神。

 カオルンの剣による連続攻撃を、どこからか取り出した光る棍によっていなす。
 そして受け流しながら、カオルンの背中を打つ……というところで、俺が割り込んだ。

 つるりと滑り込んだネクタイブレードが、技巧神の棍をさらに明後日の方向へ受け流した。

『ぬおおおっ!? 馬鹿な!? 俺っちの技があり得ない場所へ流される!?』

「ここから攻撃だぞ。ほいほい」

 俺はネクタイブレードを振り回す。
 これは、技巧神、余裕を持って回避する。

『まぐれか? てめえははっきり言って弱え。あのコンボの達人とかいう化け物よりも、全然弱え。なのに、俺っちの背筋はずっと冷えっ冷えのまんまだ。ここで仕留めなきゃ、危ねえ』

 技巧神の周囲から、光り輝く壁が隆起してきた。
 それは、全てが触れれば即死するトラップだ。

 ギロチン、鉄球、槍衾、電撃網、降り注ぐ矢。
 つまり、俺の得意ジャンルでもある。

 スルリスルリと回避し、前進する俺。
 この罠の群れは何か?

 これこそ、技巧神を守る結界だ。
 一見して隙間など無いほどに発生する罠の数々が、技巧神の攻撃であり、守り。

「うわわっ! き、きついのだーっ!!」

 さすがのカオルンも悲鳴を上げている。
 俺はと言うと……。

 カオルンをチラチラ見ながら、罠が発生する一瞬前にちょっと横に動いたり、ちょっと座ったり、そのまま尻移動したりしながら避けるのだ。

『当たらねえ!? なんだそれ!? 俺っちの罠に隙間なんかねえぞ!!』

「安全地帯というやつだ。罠と罠が干渉して、偶然そこに隙間ができる……」

『そんなもの、ありえねえ!』

「今までは無かった。だが、これからはある」

 それが俺の能力だ。
 俺は罠をかいくぐりながら、あえて後退する。

 罠の嵐に閉口し、進むことができないカオルンのところまで。

『だが!! てめえの弱点は分かってる! この娘だあ! この娘は強えが、弱っていってる! さてはてめえ、すぐに死ぬな!? 命が消え掛けてるな!?』

「そ、そんなことはないのだ!!」

 カオルンがハッとして、言い返す。
 俺に隠していたのだな。
 本人は気づいていたのだ。

 最近、他の女子に紛れておとなしいと思っていたのだが、本当に元気がなくなっていたとは。
 だが、それもここまでだ。

『てめえの全盛期なら分からねえが、今のてめえは簡単に殺せる! さあ、こうだ! こうやって殺す!!』

 罠の中から、突如浮かび上がるように出現する技巧神。
 その腕から、光り輝く棍が伸びた。

 棍はカオルンの胸の中央を一撃で打ち崩す……はずが、既にその真下まで俺が尻移動していたので、目論見を達成できない。
 ネクタイブレードが棍を反らした。
 戦端が、カオルンの鎖骨辺りを削るに留まる。

『また俺っちの攻撃を!! てめえは一体なんなんだ!!』

 その誰何には答えたいが、ここから俺の大事な仕事なのだ。
 技巧神がカオルンに与えた傷の位置は……。
 ちょうど、心臓の真上くらいだ。

「うくっ……!! た、助かったのだ!」

 苦痛に顔をしかめながら、どうにかそれだけ告げるカオルン。

「いや、助けるのはこれからだぞ」

 俺は立ち上がりながら、ネクタイブレードをカオルンの頭上に置いた。
 そこに、

『隙ありだぜ!! 俺っちがこの程度で……って、なんでここに刃が置いてあるんだああああああっ!?』

 出現した技巧神の足が、踵落としをしようとして、刃で深く切り裂かれた。
 イサルデの絶叫とともにばらまかれる、神の血。

 それが、カオルンの傷口に入り込んだ。
 カオルンの心臓は魔神将のものである。
 それをホムンクルスのボディに合わせて、恐らくパワーダウンしている。

 ワンザブロー帝国の魔法使いたちは、カオルンの暴走を恐れたんだろう。
 魔神将の心臓を持つ彼女が自由にならないよう、入れ物である肉体が早く滅びるようにした。

 だがまあ、その心臓を自由にしてしまったらどうなるだろう?
 今、傷口に降り注いだ神の血と、吹き出した魔神将の血が混じり合う。

 それは魔法的反応を起こし、白銀に光り輝きながらカオルンの傷に戻っていくのだ。
 動画を逆再生するように、カオルンの傷口が消えていく。

 そして、彼女の肌色が真っ白なものから、血色のいい薄ピンク色へと変化していった。
 腕から発生した光の刃は、紫色から白銀へ。

 髪のピンク色が、艷やかに輝き出した。

「ほい、カオルンのリミッターを解除だ。寿命のキャップもなくなったから、普通に人間くらい生きられるぞ」

 俺は立ち上がり、周囲の罠を回避しながらカオルンの後ろに回った。

「マ、マナビ……! もしかしてカオルンのこと……」

「嫁さんを助けるのは旦那の役割だからな。元気になったカオルン、夜はエッチな感じでお願いします……!!」

「もう! マナビ、しっぽがお尻に当たるのだ! 仕方ない旦那さんなのだなー。じゃあ、カオルン、さっさとこいつをやっつけて、マナビといいことするのだ!」

 俺が一歩下がると、それに合わせたようにカオルンの背中から、白銀の翼が広がる。
 羽毛の量がめっちゃ増えてるなあ。
 健康的な鳥の翼に見える。

 それと同時に、カオルンの全身に鎧みたいなものが生まれた。
 これこそ、フルアーマーカオルン。
 またの名を、真・カオルン。

 全てのリミッターが外れ、神の血のパワーもゲットした、うちの奥さんたちの中で最強の姿である。

「ゴーゴー! 俺はいい感じのところでとどめを刺す」

「させないのだ! いいところは全部、カオルンがもらうのだー!」
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