俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

文字の大きさ
196 / 337
66・一杯引っ掛けながら南国談義

第196話 素朴な美食がうまい

しおりを挟む
 ギルボウがまず出してきたものは……。
 パスタにオブリーオイルを絡め、ハーブとにんにくで炒めたやつ……。
 そう、ペペロンチーノだ!

「ほう! クリームに包まれてもいない、具材も少なめのシンプルなパスタだ。これは……?」

「ペペロンチーノと言ってだな。一番シンプルなオブリーオイルで食べさせるタイプのパスタだ。美味いぞ」

「ははは、私は日々の贅沢の中ですっかり舌が肥えているんだぞ。そこにこんなシンプルな……」

 ぐるぐるっとフォークでパスタを巻いて口に運ぶ船主。
 その目がカッと見開かれた。

「う、う、うまーい!!」

「な?」

「私もペペロンチーノは好きだな。シンプルだし、ちょっとお腹を満たしたい時にちょうどいい」

 リップルもパクパク食べている。
 これのにんにく抜き、ちょっとしょっぱいベーコンを散らしたやつはコゲタ用。

「コゲタ、ぎるぼうのパスタすきー!」

「おうそうかそうか。味のわかるコボルドだよなあお前さんは」

 ギルボウがコゲタの頭をぐりぐり撫でた。

 さて、船主はもりもりとペペロンチーノを食べている。
 あっという間に食べ終わった。
 これは、ギルボウがあえて量を少なめにしているためだ。

 まだまだどんどん料理を食べて欲しいからな。

「驚いた……。パスタとオブリーオイルだけなのに、なんであんなに美味しかったんだ……?」

「それはな、今まで船主が食べてきたのは凝ったソースを食べさせるためにパスタがある料理だったんだ。ペペロンチーノは、パスタが主役なんだよ。オブリーオイルとにんにくとハーブで味付けして、パスタを存分に食う料理なんだ。どうだ、腹に溜まる感じがするだろ」

「するなあ……!」

 大変清々しい顔つきになった船主なのである。
 僕がタメ口になってしまっているが気付いていない。
 いや、思わず美食の紹介になると熱が入って、敬語を忘れるんだよな……。

「食い終わったか? よし、じゃあシンプルの次にはシンプルが来る。トウフにショーユを掛けて食ってくれ。刻みハーブを載せてあるぞ。一緒に水割り蒸留酒を飲むといい」

「ほうほう……!? 皿の上が驚きの白さなんだが? この白いキューブがトーフか。私が出向いた貴族や商人たちはあまり食べていなかったが」

 僕は肩をすくめた。

「そりゃあそうさ。豆腐はとても繊細で淡白な味わいなんだ。だが、深みがある。これに醤油を掛けて食べるとたまらないぞ……」

「それほど……!? どれどれ……」

 豆腐……すなわち冷奴を食べる船主。
 醤油にも魚醤のような癖が無いことに驚いている。

「おお、これは……。何とも言えぬ爽やかな味だ……! 日頃の贅沢で鈍っていた舌が鋭さを取り戻すかのようだ。そして……なんと淡い歯ごたえなのだろう……。口の中でほろりと崩れる……。これは不思議な美味さだな……」

 そして雑味のない酒を口にする船主。

「美味い……! これほど美味い酒が下町にあるなんて……」

「面倒がらずに、きちんと仕事をする酒蔵を選びゃ、値段に関係なく旨い酒はあるんだよ」

 ギルボウが笑う。

「酒ってのは値段で確かに味が変わるが、ある程度から上は希少価値が変わるだけで対して旨さは変化しなくなる。この酒はちょうどいい辺りってことさ」

「なるほどなあ……」

 船主はなんか気分良くなりつつ、冷奴と酒を交互にやっている。
 日本の酒飲みのおっさんみたいだ。

 僕も冷奴をいただく。
 美味い。
 明らかに豆腐のレベルが上がってる。
 醤油のレベルも上がってる。

「この世界の人達の進化は凄いな……。僕がちょっと道を示すと、あっという間にそれを極めてしまうぞ」

「普通、人々に明確な道を示すなんてこと、できないものだよ」

 リップルがそんな事を言いながら、ちょっと違うものを食べてる。
 醤油ではなく、ビネガーとハーブで豆腐を食べてるのか!

「しょっぱすぎるのも好きじゃないからねえ。ビネガーはいいぞ……体にもいいし……」

 またご年配みたいなこと言ってる。
 だが、最近は健康的なものを食べて胃腸も元気らしく、揚げ物も昼間ならパクパク食べているリップル。
 長生きしてくれよな……!

 その後、ギルボウは注文通りのシンプルメニューで攻めてくれた。
 もろきゅうが出た後、メインディッシュの肉料理は唐揚げ。
 これを寒天を使ったジュレソースでいただく……。

 おいどこがシンプルなんだ!?
 技巧の粋が凝らされた高級料理になってるじゃないか……。

「こ、こんな美味しい鳥肉はどんな貴族のところでも食べられなかった! 揚げ物なのにアッサリしていて、しかも酸味で食欲が刺激されて、どんどん食べてしまう……!」

「貴族のところで出る料理は、基本、こってりオンザこってりだろうからなあ……」

 さもありなん、と僕は頷く。
 最近、アーランの貴族や上級商人たちは如実に太ってきているのだ。
 美食が彼らの肉体を蝕みつつある!

 運動しよう!

 その点、ギルボウの料理は消化しやすいようにしたり、油を抜いたりして作られている。
 体にいいんだな。
 どうもこいつ、僕がふんだんに油を使って料理する姿を見て、「あの真似をした料理を摂取し続けたら死ぬ」と直感したらしい。
 鋭い。

 そんなさっぱり料理をうまいうまいとパクパク食べる船主。
 存分に健康料理で心身をデトックスして行ってくれ!

「ナザル、本題、本題」

「あっ、そうだった!!」
 
 すっかり船主に飯を食わせることに夢中になっていた。
 南の島の記録を見せねばならないのに。

しおりを挟む
感想 77

あなたにおすすめの小説

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ
ファンタジー
「あの魔物の倒し方なら、30万円で売るよ!」  ――これは、現代日本にダンジョンが出現して間もない頃の物語。  カクヨムにて先行連載中です! (https://kakuyomu.jp/works/16818023211703153243)  異世界で名を馳せた英雄「一条 拓斗(いちじょう たくと)」は、現代日本に帰還したはいいが、異世界で鍛えた魔力も身体能力も失われていた。  残ったのは魔物退治の経験や、魔法に関する知識、異世界言語能力など現代日本で役に立たないものばかり。  一般人として生活するようになった拓斗だったが、持てる能力を一切活かせない日々は苦痛だった。  そんな折、現代日本に迷宮と魔物が出現。それらは拓斗が異世界で散々見てきたものだった。  そして3年後、ついに迷宮で活動する国家資格を手にした拓斗は、安定も平穏も捨てて、自分のすべてを活かせるはずの迷宮へ赴く。  異世界人「フィリア」との出会いをきっかけに、拓斗は自分の異世界経験が、他の初心者同然の冒険者にとって非常に有益なものであると気づく。  やがて拓斗はフィリアと共に、魔物の倒し方や、迷宮探索のコツ、魔法の使い方などを、時に直接売り、時に動画配信してお金に変えていく。  さらには迷宮探索に有用なアイテムや、冒険者の能力を可視化する「ステータスカード」を発明する。  そんな彼らの活動は、ダンジョン黎明期の日本において重要なものとなっていき、公的機関に発展していく――。

最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~

津ヶ谷
ファンタジー
 綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。 ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。  目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。 その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。  その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。  そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。  これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

処理中です...