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Mと王宮の陰謀編

第三十七話:ドMと塔と護衛と呪われし姫君

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「それで、エカテリーナ様の妹さんはどんな風なんですかね!」

 僕はエリザベッタ様の情報を詳細に聞こうとする。
 ずっと塔に閉じ込められているお姫様とか、もろファンタジーじゃないか。
 きっと色白ですごく守ってあげたい系女子なんだよこれ。

「張井くんは妙にエリザベッタ様とやらに肩入れするっすね。あれっすか? もしかしてか弱いお姫様系を夢見ているっすか? ふっふっふー! こういうのは常に最悪の形で裏切られるッ!! あっしがそう断言するっす!」

「やめろよ新聞屋ー!」

 マリアンジェラ様は僕たちのやり取りを見てニッコリ笑った。

「あらあらお二人さんは仲がいいのねえ」

「仲良くないですよ!!」

「冗談でも止めて欲しいっす!!」

「うむ……エリザベッタは、私もここ数年、会うことが出来ないでいるのだ。それには一つの理由があってな」

「理由ですか」

 何やらエリザベッタ様には秘密があるのだ。
 マリアンジェラ様もその話をしかかっていたのだけど、暗殺者が出てきたのでうやむやになってしまった。
 その暗殺者はさっき、エカテリーナ様が真っ二つにしたので死んだ。
 残念ながら、身元が分かるものはもってなかったっぽい。
 宮廷は、暗殺者が入り込んでいたということで騒がしくなっている。

「エリザベッタはな、呪われて生まれてきた娘なのだ」

「呪われているんですか」

「呪われているのだ」

「呪われているっすか」

「そう、呪われているのだ」

 大事な事なんで何回も繰り返しました。
 エリザベッタ様が持って生まれてきた呪いというのは、邪眼『死の視線』。
 目を合わせた相手を殺してしまう力を持っているというのだ。
 彼女が塔に幽閉されているせいで、エカテリーナ様は人質をとられたみたいな状態になっている。
 だから、あのいじわるな王子や王女の言う事を聞いているのだ。

「なるほど、じゃあそれを僕が助け出せばいいんですね!」

「待て、なぜそうなる」

 エカテリーナ様は慌てて僕を止めた。
 えー、すぐに塔に行って解放しようとしてたのに。

「エリザベッタの邪眼をどうにかする手が無ければ、解放したところで人死にが出るばかりだぞ。今のところ、人目に触れぬ場所にあれを閉じ込めておくしかないのだ」

「あのー、塔に閉じ込められていると言うっすけど、その間トイレとかお風呂とかどうしてるっすか?」

「それは塔の扉まえに務める専門の侍女がいてな」

 死ぬかもしれない危険な仕事なので、お給金がいいらしい。
 で、エリザベッタ様はそんなに危険なのに生かしておかれてるのは、強力な戦力であるエカテリーナ様にいう事を聞かせるための人質というのと、もう一つ。エリザベッタ様自身も、使いこなせれば凄い戦力になると見越しているかららしい。
 そんな理由で年頃の女の子をずっと閉じ込めているのだ。

 僕は怒った。
 必ずやその暴虐な仕打ちを止めさせねばと思ったのだ!
 僕には政治はわからないけど、可愛い女の子が世に出てこないのは世界の損失だってことは分かるぞ!!

「おっ!! 張井くんが後先考えない義憤に駆られているっす!」

 ここに集められているのは、エカテリーナ様とマリアンジェラ様、出羽亀さんと、僕と新聞屋。

「おそらく、ハリイとアミであれば、エリザベッタの邪眼でも効果を受けないかもしれない。私がそうだったからな」

 エカテリーナ様だけは、エリザベッタ様の目を見つめながら話すことができたんだそうだ。
 って言う事は、多分この邪眼の効果はステータス依存だね。
 精神なのか体力なのか、ステータスが必要なだけあれば問題ないっていうことだ。
 ここで、エカテリーナ様のステータス、僕と新聞屋のステータスを比較してみる。

「ちょっと出羽亀さん手をぎゅっとしよう」

「その表現、気持ち悪いからやめて」

『精神がアップ!』

 おっと、僕のステータスが上がってしまったよ。ははは。


名前:エカテリーナ
性別:女
種族:人間
職業:姫騎士
HP:95000/95000
腕力:970
体力:850
器用さ:600
素早さ:670
知力:420
精神:550
魔力:130
愛 :980
魅力:1200

取得技:隼斬り
    かまいたち
    流星剣
    一文字斬
    竜破斬
    ソードカウンター
    即死耐性

 強い!!
 強いとは思ってたけどべらぼうに強いぞ!!
 なのに捕まった時、くっころ状態になってたのは、心が弱ってたのかもしれない。
 この世界の人は、ステータスが強くても人間の弱点がちゃんとあるからなあ。
 僕や新聞屋は、ひたすらHP準拠なので、外見は怪我をしない。
 ……あれ? 委員長やマドンナは怪我をしてたような。
 僕たちだけバグってるのかしら。
 次は新聞屋だ。

「ええい、あっしのプライバシー侵害はやめるっすー!!」


名前:新田亜美
性別:女
種族:ワータヌキ
職業:大魔道師
HP:164800/164800
腕力:13
体力:350
器用さ:21
素早さ:25
知力:1680
精神:1470
魔力:38500
愛 :10
魅力:77

取得技:グレートたぬきイヤー
    光魔法行使レベル9
    土魔法行使レベル5
    レベル8未満魔法キャンセル
    魔術消去(レベル8未満能力消去)
    毒耐性


 やばい!
 このたぬき強いよ!!
 魔力とか桁一つおかしいもん!

「誰がたぬきっすかー!! もがー!!」

「うわー、新聞屋あばれるなよー!」

 ちなみに僕は、さっき廊下で散々踏まれてかなり強くなった!

名前:張井辰馬
性別:男
種族:M
職業:M
HP:372400/372400→418890
腕力:6
体力:530→670
器用さ:8
素早さ:6
知力:9
精神:411→588
魔力:267→305
愛 :703→888
魅力:31→39

取得技:ダメージグロウアップ(女性限定、容姿条件あり)
    クロスカウンター(男性限定、相手攻撃力準拠)
    全体カウンター(男性限定、固定ダメージ)
    河津掛け(相手体重準拠)
    反応射撃(射撃か投擲できるものが必要、相手攻撃力準拠)
    全体ガード
    気魔法行使レベル2
    毒耐性


 うん、僕の強みはこの有り余るHPだな。エカテリーナ様四人分。
 エカテリーナ様がエリザベッタ様の邪眼に抵抗できるなら、このステータスの僕たちなら対抗できる可能性がある。
 ま、多分大丈夫でしょ。

「じゃあ、僕と新聞屋で行ってきます!」

「えっ、いつのまにあっしも行く事になってるっすか!? ぎえええ! いやっすー!! こんな若いみそらで邪眼で殺されるのはいやじゃあああ」

「仕方ないなあ。じゃあ僕一人でお姫様とよろしくやってくるよ」

「そ、それも非常に悔しいっす!! 張井くんだけが美味しい思いをするのは許せん!!」

 捩ねじくれた根性だなあ。

「ということであっしも行くっす!!」

 そう言う事になった。
 とりあえず、塔の入り口の護衛をどうするかだけど……。

「私が連れ出そうか?」

 マリアンジェラ様の提案。これはありがたい。
 是非お願いしよう……と思ったら。

「ええいしゃらくさいっす!! うおりゃあー! ”土の牢獄アースジェイル”!!」

「アッー」

 新聞屋がめんどくさがって、土魔法で護衛を閉じ込めてしまった!!
 これは騒ぎになるぞ!!

「お、穏便にね。穏便に」

「前向きに努力します」

 僕はマリアンジェラ様に玉虫色の返答をして、新聞屋と一緒に塔に乗り込んだ。

「どりゃあ!」

 二人で閉ざされた扉を蹴っ飛ばす。
 そして、二人で足を押さえて転がって悶絶した。
 いけない!!
 僕たち共に非力だぞ!!

「ぬぎぎ、と、扉の癖にいいいっ!! おのれ、この”光の流星雨”で……!」

「やめて! エリザベッタ様まで死んじゃうから!!」

 町ひとつを灰燼に変える新聞屋の広範囲殲滅魔法は使わないでいただきたい!

「”腕力強化”体力準拠!」

 とりあえず僕がパワーを増やして、扉を蹴破った。

「ふっふっふ、そういうちまちました魔法は張井くんにお似合いっすなあ」

「新聞屋はその辺、一人の相手をやっつけるために町ごと焼き払うくらいの規模だもんね」

「うっ、は、反論できないっす」

 二人で階段をモリモリ登っていく。
 凄く長い螺旋階段なので、途中で新聞屋が音を上げた。

「うおー、足が、足がぁー!! もう歩けないっすー!! ちらっちらっ」

「ちらっちらって口で言わないでよ!? おんぶして欲しいの?」

「お、お願いするっすー」

 ということで、途中で新聞屋をおんぶしていくことに。
 ひゃー!! 背中でおっぱいが潰れて気持ちいい! 本当に新聞屋は人間的には最低だけど、体だけすごいな!

「何か失礼な事を考えたっすな!? 死ねい!!」

「ぐわー!! 新聞屋、僕の首を絞めるなー!! 落ちたら君も死ぬぞー!!」

 騒ぎながら塔を登っていった。
 最上階に到着すると、そこはちょっと広くなっていた。
 侍女らしい人が怯えた顔をして僕たちを見ている。

「い、命だけはお助け……!!」

「じゃあ命は助けるのでこのまま逃げて下さい」

「は、はいっ」

 侍女の人は慌てて階段を下っていく。
 彼女が座ってた後ろあたりに何やら仕掛けみたいなのがあって、下の階からロープを使って料理やものを上げ下げできるみたいだ。
 これで食べ物や着る物、体を洗う水や出したものをやりとりしてたんだねえ。
 こっちが食べ物用で、こっちが衣服用で、こっちがトイレ用。
 なるほど、ちゃんと気を遣ってるみたいだ。
 イリアーノは、エリザベッタ様を邪険にするつもりはないっぽいね。

「さて、声をかけるっすかね」

「そうしよう」

 僕と新聞屋は、扉の前で並んだ。
 扉は鉄でできていて、ちょっと錆びていた。
 下の方にだけものをやり取りできる扉がついていて、鍵は溶接されている。

 ごんごんごん!
 ノックする。
 すると、中から声がした。

「あら、マーサではないわね。だあれ?」

 可愛らしい声だ!
 ちょっとテンション上がった!

「張井辰馬といいます!」

「新田亜美っす! 助けに来たっすよ!」

「あらあらご丁寧にありがとう。私はエリザベッタよ。本当に珍しいわ。外から人が来るなんて。もう何年になるのかしら。お姉さまの顔を見たのだって、随分昔のような気がするわ」

「開けるっすよー」

 空気を読まずに新聞屋がさっさと扉に手をかざす。
 対するエリザベッタ様の声はのんびりしたものだ。

「でもその扉、本当に開かないのよ? 私も色々試した事はあるのだけど、どうしようもなかったわ」

「ふっふっふ、あっしに任せれば大丈夫っす! とりあえず離れてるっすよ!」

「あらあら」

 笑い声みたいな含みを持たせて、エリザベッタ様の声が遠ざかる。
 そして新聞屋はちょっと精神を集中してたと思ったら、カッと目を見開いた。

「ちょええええ!! 死ねえ!! ”光の螺旋錐ライトニングドリル”!!」

 おお!!
 新聞屋の指先から生まれたドリルが鋼鉄の扉を、まるで脆いクッキーみたいにぶち抜いていく!
 これは奥に人がいたらミンチよりひどいぞ!!

「きゃあ」

「うおー!! 新聞屋ストップ! ストップ!」

「はっはあー!! 魔法は急に止まれないっす!!」

「ええいままよ! ”河津掛け”!!」

「ぎょえーっ!!」

 僕は新聞屋諸共後頭部から石の床に倒れこんだ。
 強制的に魔法の方向を変えてしまった感じだ。
 魔法は塔の天井まで穴を開けると、満足したようにスッと消えていった。
 あぶねー。
 危うくエリザベッタ様がミンチになるところだったじゃん。

「あらー……。す、すごいのねえ」

 扉の置くから、恐る恐るという感じで誰か出てくる。
 彼女の足元にまとわりつく、小さいものがいる。
 あれは魔法の人形か何かかな?

「ちょっと待って。私の顔を見たら死んでしまうわ。そこで止まった方がいいわよ」

「あ、多分平気なんで」

 僕はずんずん自分から中に進んでいった。
 新聞屋は後頭部を抑えて、「おごおおおお」とか言いながらのた打ち回ってる。

「あ、本当に死んじゃうのよ? 待って待って。危ないから。きゃあ」

 可愛い声がした。
 僕はもう辛抱たまらなくなって、シュッとエリザベッタ様の前に出てきた。
 すると視界に飛び込んできたのは、凄く綺麗な紫色の瞳だ。
 虹彩が螺旋の形になってて、見つめているとそこに魂を吸われて行きそうだった。

 僕の頭上でピコーンと何かひらめく。

『即死耐性』

 お、なんか増えた!
 本当にエリザベッタ様の目は即死効果があるんだなあ。
 これは、エカテリーナ様が持ってた常時技というか常時スキルというか。そういうアレだ。

「本当に……大丈夫なのね。……って、え、ええーっ!? お、男の子!?」

「は、男です」

 口元に手を当ててびっくりするエリザベッタ様可愛い。
 ずっと切ってないであろう髪なのに、その凄く長い紫色の髪はよく手入れされていて、洋服もお人形みたいだ。
 手足は真っ白で細く、目が大きい。
 エカテリーナ様の双子の妹だというから、確かに顔立ちはよく似てる気がする。
 だけどエリザベッタ様は、抱きしめると折れてしまいそうな見た目をしている。

「わ、私、男の子と面と向かって喋ったの、初めて」

「えっ!! じゃあ僕が最初の男の子なんですね!!」

 僕は興奮した。

「どりゃあああ!! 変態死すべーしっ!!」

「ぎゃーっ!!」

 真横から飛んできた新聞屋のドロップキック(光魔法による加速付き)で僕はぶっ飛ばされて壁に頭からめり込んだ。

『HPがアップ!』
『体力がアップ!』
『精神がアップ!』
『愛がアップ!』

「ふう……危ない危ない! おっとっと、これはこれはエリザベッタ様、エッヘッヘ、あっしは新田というケチな新聞委員っす! 御身を救出に来たっすよ! といことで、褒美なんかは色をつけてもらえたら……おっ、なんか即死耐性が増えたっす」

「ぶはあ! ひどいや新聞屋!」

「うるちゃーい!! 張井くんの魔の手にこのいたいけなお姫様までかかったらどうするっすかー!!」

「新聞屋いきなりエリザベッタ様に取り入ろうとしてたじゃん!?」

「あ、あ、あれはただの、言葉のあやっすよ!? じ、自分はセイレンケッパクっす!!」

 言葉に魂が篭ってないよ!!

「もがーっ!! やはりあっしと張井くんは相容れぬ存在! ここで雌雄を決するしかないっす! あ、あっしが女で張井くんが男なんで雌雄は決されてたっすね」

「うむ」

 すると、エリザベッタ様はびっくりした顔をしてたものの、くすくす笑いだした。
 僕たちのやり取りがおかしかったらしい。

「ほんとうにびっくり。私と会っても死なない人が二人も現れるなんて。今日はすごい一日だわ。……それで、二人は私をどうしてくれるのかしら?」

 僕はここで、飛び切り気取った声を出した。

「助けに参りました、お姫様!」
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