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Mとお姫さま結婚騒動編
第五十六話:ドMと結婚式とフレートへの旅
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エカテリーナ様とピエール王子の結婚式はそれはもう盛大なものだった。
真っ白なドレスに身を包み、イリアーノとフレートを象徴する色布を纏ったエカテリーナ様は、それはもう綺麗だった。
思い返すと、彼女と出会ったのは僕たちがこの世界に来たばかりの頃だった。
僕と新聞屋は、その後であちこち行ったり来たりしていたけれど、委員長とマドンナを除く、出羽亀さん、階さん、馬井くん、熊岡くん、富田くんにとっては長いときを一緒にすごした仲間みたいな感覚なんだろう。
馬井くんが目と同じ幅の涙をだーっと流しながら、
「あああ、エカテリーナ様、お綺麗です……!」
とかやってる。
馬井くんのすぐ隣にいる出羽亀さんも、ちょっと涙ぐんでる。
お相手のピエール王子もすごく決まっていた。
元々すらっと背が高く、バランスのいい筋肉がついた人だ。顔だってイケてて爽やか。そんな彼が、イリアーノの正装に身を包んで、やっぱり二国を象徴する飾り布を纏っている。
お式は暁の星教での正式な作法で行われた。
一見すると、完全にもとの世界のキリスト教式結婚式と同じ。
違うのは、十字架があるところが逆十字なことと、誓いの言葉の端々。
この宗教は、あんまり貞操を尊ばないみたいだなあ。
この結婚式は、いわゆる政略結婚。
海洋国家イリアーノ王国と、農耕国家フレート王国を親戚関係にする式なのだ。
昔も、二つの国で王子や王女をやりとりしてつながりを作ってたみたいだけど、今新たに、強い親戚としての関係が結ばれたっていうことになる。
これは何もかも、このすぐ後に起こる人魔大戦に備えたものだ。
でも、そんなきな臭い背景があっても、二人は結構まんざらでもなさそうに見えた。
委員長は難しそうな顔をしている。
政略結婚なんて、って思っているのだ。
まあ確かに、僕たちの世界だと政略結婚なんて、もう一般的じゃないもんなあ。
マドンナはドレス姿にちょっとうっとりした顔。
正直なところ意外だ。彼女に結婚願望とかあったとは思わなかった。
求婚されてから、色々変わってきたのかな。以前にあった険みたいなのはほとんどなくなってる。
階さんは、意外にも素直にエカテリーナ様を祝福していた。
考えてみれば、階さんとまともに会話した年の近い人って、エカテリーナ様が初かもしれない。
「階さんはもっと突き放した感じで見てると思ってたなー」
「そんなことはないです。どうでもいい人ではないなら、私だって祝福はします」
つまり、階さんにとって、ファイルの中に納められたクラスメイトたちってどうでもいい人なんだろう。
「ここは素敵な世界です。誰も、私の事を無視しない。ちゃんと話を聞いてくれるし、認めてくれます。だから、この世界の文字も覚えたし、いろいろな事を調べました」
そんな事をいう彼女に、僕はおやっと思った。
まるで帰りたくないみたいな反応じゃないか。
「そういうのもありですね」
階さんは、彼女らしくもなく、冗談めかして言った。
僕には冗談に聞こえなかった。
熊岡くんと富田くんは、騎士たちが立ち並ぶ中に混じっている。
鎧姿が結構さまになってるじゃないか。
富田くんは僕をいじめてたグループの一人だけど、なんかすっかり常識人になったというか、色々揉まれて大人になったというか。
正直この間はリスペクトされて戸惑った。
そして、熊岡くんが何を考えてるかはよく分からない。
「あのドレス……使い終わったらどうなるっすかね?」
「飾られるのよ。しばらくの間、イリアーノとフレート二国の友好の証だもの。なに、どうしたのアミ? 着てみたい?」
「うーむ、あんな高そうなドレスなら、着てみるのもやぶさかではないっすな……!」
「あらあら、じゃあ丈を直さないとね。ハリイなんか特別にあつらえないとピエール王子の衣装は着れないし」
「!? ど、ど、どうして張井くんが出てくるっすか!」
「うふふ」
「あたしはあんなの着るのは無理だろうなあ。でも、安っぽくていいからドレスくらい着たいよなあ」
おっ、イヴァナさんにもそんな願望が!!
「いっ、いいだろうが、ほっとけよ」
荘厳な式が終わると、小休止を挟んで国民たちへのお披露目だ。
広場には、この国にこれほどたくさんの人がいたのか、というほどの人、人、人の波!
わざわざこのイベントを見るために、遠方から駆けつけた人も多いらしい。
エカテリーナ様が手を振ると、みんなが、わーっと盛り上がった。
結構イリアーノの王族は慕われてるじゃないか。
「エカテリーナも、ピエール殿下も英雄でもあるもの。二人の子供は勇者が誕生するんじゃないかって言われているのよ」
「勇者ですか」
僕は首をかしげた。
結構あちこちで、準勇者級とか聞いたけど、そもそも勇者ってなんだろう。
「勇者と言うのは、かつてベルゼブブを打ち破った戦士カイルのこと。人を超えた力を持ち、悪魔と戦って道を切り開く存在の事よ。カイルの後にも生まれてくると言われているの。今一番勇者に近いといわれているのは、聖王国の宮廷魔術師ニックスね」
「え、ニックスさんが!?」
あの人、そんなに強かったのか。
そして、エカテリーナ様もピエール王子も物凄く強い。
二人の子供に強い人が生まれるんじゃないかっていう想像は、なるほどありえるよなーなんて思う。
アマイモンの姿はいつの間にか消えていた。
結婚式を堪能したのかもしれない。
それに、あいつも人魔大戦の悪魔側を取り仕切るボスなので、色々準備があるのかもしれない。
結婚式が終わると、七日七晩のお祭りが終わるのを待たず、新郎新婦一行はフレートに旅立つ事になる。
しばらくはフレートに住んで、その後領地を与えられるそうだ。
エカテリーナ様のお付きは、僕たちクラスの仲間と、イヴァナさん。そして何故かエリザベッタ様。騎士たちもついてくる。
海が見える道をしばらく行った。
海が途切れて山道になると、ここからがイリアーノとフレートの中間地帯。
道は獣道に毛が生えたくらいのもので、舗装なんか全くされてない。
イリアーノ王国の王都ですら舗装されてなかったんだから仕方ない気はする。
「うおお、し、尻が痛くなったっす……!! もうでこぼこはやめてー!」
新聞屋がのた打ち回ってる。
がたがた言う馬車の座席にずっと座ってるからだ。
外を歩くのも気持ちいいよ、と僕が誘うんだけど、ものぐさな彼女は中にいることを選んだのだ。
「新聞屋、お尻もそうだけど、最近食っちゃ寝じゃないか。……おでぶになるよ!」
「ハッ!」
「……なんであたしを見るのよ」
マドンナが新聞屋に凝視されてイラッとした顔をした。
「あっしは走ってくるっす……!」
「私も!」
「うわー! エリザベッタ様が外に降りられたぞー!!」
「騎士団集まれー!!」
仮にもイリアーノの第八王女ともあろう方が馬車から降りてランニング。
なんか騎士が集まってきて後ろを走ってくる。
大事になってきたぞ!
「な、なんか追われてる気分っすね」
「うん、僕たち何気に追われるようなことも何度かやってきてる気がするしね……」
「あっしはそんな過去は忘れた……!」
「うふふ、なんだか楽しいわね! 私、こういうときのためにちょっと体力つけてたんだから」
「あんたたちが走ると、あたしも走らなきゃいけなくなるだろうが……」
イヴァナさんがやる気なさそうに僕の後ろについた。
そんな感じで、外を走ったり、馬車で揺られたりしながら一週間ほど。
山道を抜けると、一面の麦畑が広がっていた。
「ようこそ、わが国、フレート王国へ!」
ピエール王子の声が響いた。
あちこちに獣避けの柵があって、どこまでも畑が続いている。
この季節はまだ麦の収穫時期からは遠くて、どこもかしこも緑の絨毯じゅうたんみたいだ。
豪華な結婚行列は、フレートの国の人たちからも祝福された。
五つか六つの町や村を通過して行ったら、遠くに石造りの豪華な町が見える。
あ、いや、あれを町って言ったら失礼だ。
あれはもう都だ。
イリアーノの王都が田舎に見えるレベルで都だった。
「フレートの王都は、かつて黒貴族ペイモンが叡智を授け、朽ちぬ色石によって築かれたと言われているんだ」
ピエール王子が僕の横に腰掛けて言った。
この王子、僕のことを気に入ったみたいで、事あるごとに声をかけてくる。
「そこで、どうだハリイ殿。私の下で仕えてみないか? お主ならばすぐさま騎士爵になることもできるだろう。奥方にも贅沢な暮らしをさせてやれるぞ?」
「奥方じゃないっすよ!?」
あ、新聞屋もいたのか。
「あっしは世の中の全てに抗議したい!! なぜ! なぜあっしは最近、いつも張井くんとカップルだと誤解されるのか!! ちょっと一緒にいる時間が長いだけじゃないっすか!!」
「違ったのか? 男女が寝食を共にするなど、夫婦以外にありえないと思っていたのだが……」
「はっ……!? そ、そういえば、ナチュラルにあっし、張井くんと同じ馬車で寝泊りしてるっす……!」
「今気づいたのか!」
まあ、これは現実問題、僕は新聞屋と二人で旅をすることが物凄く多かったし、長かった。
旅の上では、二人バラバラに宿泊したり寝るなんて、面倒だし色々無用心だったのだ。
ということで、二人並んで寝ることがしょっちゅう。エリザベッタ様が加わってからは、川の字になって寝ているのだ。
ちなみにイヴァナさんは、さすがに寝床は違う。
女性の使用人たちと一緒だ。
「なんだ、やっぱり夫婦なんじゃないか」
「違うよピエール王子!?」
「違うっすよおおおっ!?」
「なんだ、楽しそうな話をしているじゃないか」
「あら、エカテリーナ」
エカテリーナ様まで乗り込んできた。
僕たちの馬車が、途端に実にロイヤルな感じになる。
二人の王女と、一人の王子が乗っている。
僕と新聞屋は実に場違いなのではないか。
「あら、私たちは、あなたたち二人がいなかったら、こうして同じ時間をすごす事ができていなかったのよ」
エリザベッタ様が笑顔を見せた。
幼い頃から、長いときを塔に幽閉されてすごしてきたお姫様だ。
「ああ。今思い返しても、よくぞ生きてここにいると思う」
エカテリーナ様が頷く。
アルフォンシーナにはめられた時とか、戦争でベリアルに遭遇した時とか。
二人の反応に、ピエール王子は興味深そうな目を向けた。
「では私はハリイ殿とアミ殿に感謝すべきなのだろうな」
むむむ、なんか背中がむずがゆい。
隣を見たら、新聞屋もしきりに背中を気にしていた。かゆいんだな。
僕も新聞屋も、人からなじられたりネガな感情を向けられるのは慣れてるけど、こうして面と向かって褒められる事に慣れてない。
なので居心地が悪いったら。
フレートでも祭りが始まる。
エカテリーナ様とピエール王子は、二つの国でのお披露目を終えて正式に夫婦になった。
お祭りは大いに盛り上がり……。
気が付くと、季節が夏に変わっていっている。
人魔大戦と言う名の戦争が始まろうとしている。
真っ白なドレスに身を包み、イリアーノとフレートを象徴する色布を纏ったエカテリーナ様は、それはもう綺麗だった。
思い返すと、彼女と出会ったのは僕たちがこの世界に来たばかりの頃だった。
僕と新聞屋は、その後であちこち行ったり来たりしていたけれど、委員長とマドンナを除く、出羽亀さん、階さん、馬井くん、熊岡くん、富田くんにとっては長いときを一緒にすごした仲間みたいな感覚なんだろう。
馬井くんが目と同じ幅の涙をだーっと流しながら、
「あああ、エカテリーナ様、お綺麗です……!」
とかやってる。
馬井くんのすぐ隣にいる出羽亀さんも、ちょっと涙ぐんでる。
お相手のピエール王子もすごく決まっていた。
元々すらっと背が高く、バランスのいい筋肉がついた人だ。顔だってイケてて爽やか。そんな彼が、イリアーノの正装に身を包んで、やっぱり二国を象徴する飾り布を纏っている。
お式は暁の星教での正式な作法で行われた。
一見すると、完全にもとの世界のキリスト教式結婚式と同じ。
違うのは、十字架があるところが逆十字なことと、誓いの言葉の端々。
この宗教は、あんまり貞操を尊ばないみたいだなあ。
この結婚式は、いわゆる政略結婚。
海洋国家イリアーノ王国と、農耕国家フレート王国を親戚関係にする式なのだ。
昔も、二つの国で王子や王女をやりとりしてつながりを作ってたみたいだけど、今新たに、強い親戚としての関係が結ばれたっていうことになる。
これは何もかも、このすぐ後に起こる人魔大戦に備えたものだ。
でも、そんなきな臭い背景があっても、二人は結構まんざらでもなさそうに見えた。
委員長は難しそうな顔をしている。
政略結婚なんて、って思っているのだ。
まあ確かに、僕たちの世界だと政略結婚なんて、もう一般的じゃないもんなあ。
マドンナはドレス姿にちょっとうっとりした顔。
正直なところ意外だ。彼女に結婚願望とかあったとは思わなかった。
求婚されてから、色々変わってきたのかな。以前にあった険みたいなのはほとんどなくなってる。
階さんは、意外にも素直にエカテリーナ様を祝福していた。
考えてみれば、階さんとまともに会話した年の近い人って、エカテリーナ様が初かもしれない。
「階さんはもっと突き放した感じで見てると思ってたなー」
「そんなことはないです。どうでもいい人ではないなら、私だって祝福はします」
つまり、階さんにとって、ファイルの中に納められたクラスメイトたちってどうでもいい人なんだろう。
「ここは素敵な世界です。誰も、私の事を無視しない。ちゃんと話を聞いてくれるし、認めてくれます。だから、この世界の文字も覚えたし、いろいろな事を調べました」
そんな事をいう彼女に、僕はおやっと思った。
まるで帰りたくないみたいな反応じゃないか。
「そういうのもありですね」
階さんは、彼女らしくもなく、冗談めかして言った。
僕には冗談に聞こえなかった。
熊岡くんと富田くんは、騎士たちが立ち並ぶ中に混じっている。
鎧姿が結構さまになってるじゃないか。
富田くんは僕をいじめてたグループの一人だけど、なんかすっかり常識人になったというか、色々揉まれて大人になったというか。
正直この間はリスペクトされて戸惑った。
そして、熊岡くんが何を考えてるかはよく分からない。
「あのドレス……使い終わったらどうなるっすかね?」
「飾られるのよ。しばらくの間、イリアーノとフレート二国の友好の証だもの。なに、どうしたのアミ? 着てみたい?」
「うーむ、あんな高そうなドレスなら、着てみるのもやぶさかではないっすな……!」
「あらあら、じゃあ丈を直さないとね。ハリイなんか特別にあつらえないとピエール王子の衣装は着れないし」
「!? ど、ど、どうして張井くんが出てくるっすか!」
「うふふ」
「あたしはあんなの着るのは無理だろうなあ。でも、安っぽくていいからドレスくらい着たいよなあ」
おっ、イヴァナさんにもそんな願望が!!
「いっ、いいだろうが、ほっとけよ」
荘厳な式が終わると、小休止を挟んで国民たちへのお披露目だ。
広場には、この国にこれほどたくさんの人がいたのか、というほどの人、人、人の波!
わざわざこのイベントを見るために、遠方から駆けつけた人も多いらしい。
エカテリーナ様が手を振ると、みんなが、わーっと盛り上がった。
結構イリアーノの王族は慕われてるじゃないか。
「エカテリーナも、ピエール殿下も英雄でもあるもの。二人の子供は勇者が誕生するんじゃないかって言われているのよ」
「勇者ですか」
僕は首をかしげた。
結構あちこちで、準勇者級とか聞いたけど、そもそも勇者ってなんだろう。
「勇者と言うのは、かつてベルゼブブを打ち破った戦士カイルのこと。人を超えた力を持ち、悪魔と戦って道を切り開く存在の事よ。カイルの後にも生まれてくると言われているの。今一番勇者に近いといわれているのは、聖王国の宮廷魔術師ニックスね」
「え、ニックスさんが!?」
あの人、そんなに強かったのか。
そして、エカテリーナ様もピエール王子も物凄く強い。
二人の子供に強い人が生まれるんじゃないかっていう想像は、なるほどありえるよなーなんて思う。
アマイモンの姿はいつの間にか消えていた。
結婚式を堪能したのかもしれない。
それに、あいつも人魔大戦の悪魔側を取り仕切るボスなので、色々準備があるのかもしれない。
結婚式が終わると、七日七晩のお祭りが終わるのを待たず、新郎新婦一行はフレートに旅立つ事になる。
しばらくはフレートに住んで、その後領地を与えられるそうだ。
エカテリーナ様のお付きは、僕たちクラスの仲間と、イヴァナさん。そして何故かエリザベッタ様。騎士たちもついてくる。
海が見える道をしばらく行った。
海が途切れて山道になると、ここからがイリアーノとフレートの中間地帯。
道は獣道に毛が生えたくらいのもので、舗装なんか全くされてない。
イリアーノ王国の王都ですら舗装されてなかったんだから仕方ない気はする。
「うおお、し、尻が痛くなったっす……!! もうでこぼこはやめてー!」
新聞屋がのた打ち回ってる。
がたがた言う馬車の座席にずっと座ってるからだ。
外を歩くのも気持ちいいよ、と僕が誘うんだけど、ものぐさな彼女は中にいることを選んだのだ。
「新聞屋、お尻もそうだけど、最近食っちゃ寝じゃないか。……おでぶになるよ!」
「ハッ!」
「……なんであたしを見るのよ」
マドンナが新聞屋に凝視されてイラッとした顔をした。
「あっしは走ってくるっす……!」
「私も!」
「うわー! エリザベッタ様が外に降りられたぞー!!」
「騎士団集まれー!!」
仮にもイリアーノの第八王女ともあろう方が馬車から降りてランニング。
なんか騎士が集まってきて後ろを走ってくる。
大事になってきたぞ!
「な、なんか追われてる気分っすね」
「うん、僕たち何気に追われるようなことも何度かやってきてる気がするしね……」
「あっしはそんな過去は忘れた……!」
「うふふ、なんだか楽しいわね! 私、こういうときのためにちょっと体力つけてたんだから」
「あんたたちが走ると、あたしも走らなきゃいけなくなるだろうが……」
イヴァナさんがやる気なさそうに僕の後ろについた。
そんな感じで、外を走ったり、馬車で揺られたりしながら一週間ほど。
山道を抜けると、一面の麦畑が広がっていた。
「ようこそ、わが国、フレート王国へ!」
ピエール王子の声が響いた。
あちこちに獣避けの柵があって、どこまでも畑が続いている。
この季節はまだ麦の収穫時期からは遠くて、どこもかしこも緑の絨毯じゅうたんみたいだ。
豪華な結婚行列は、フレートの国の人たちからも祝福された。
五つか六つの町や村を通過して行ったら、遠くに石造りの豪華な町が見える。
あ、いや、あれを町って言ったら失礼だ。
あれはもう都だ。
イリアーノの王都が田舎に見えるレベルで都だった。
「フレートの王都は、かつて黒貴族ペイモンが叡智を授け、朽ちぬ色石によって築かれたと言われているんだ」
ピエール王子が僕の横に腰掛けて言った。
この王子、僕のことを気に入ったみたいで、事あるごとに声をかけてくる。
「そこで、どうだハリイ殿。私の下で仕えてみないか? お主ならばすぐさま騎士爵になることもできるだろう。奥方にも贅沢な暮らしをさせてやれるぞ?」
「奥方じゃないっすよ!?」
あ、新聞屋もいたのか。
「あっしは世の中の全てに抗議したい!! なぜ! なぜあっしは最近、いつも張井くんとカップルだと誤解されるのか!! ちょっと一緒にいる時間が長いだけじゃないっすか!!」
「違ったのか? 男女が寝食を共にするなど、夫婦以外にありえないと思っていたのだが……」
「はっ……!? そ、そういえば、ナチュラルにあっし、張井くんと同じ馬車で寝泊りしてるっす……!」
「今気づいたのか!」
まあ、これは現実問題、僕は新聞屋と二人で旅をすることが物凄く多かったし、長かった。
旅の上では、二人バラバラに宿泊したり寝るなんて、面倒だし色々無用心だったのだ。
ということで、二人並んで寝ることがしょっちゅう。エリザベッタ様が加わってからは、川の字になって寝ているのだ。
ちなみにイヴァナさんは、さすがに寝床は違う。
女性の使用人たちと一緒だ。
「なんだ、やっぱり夫婦なんじゃないか」
「違うよピエール王子!?」
「違うっすよおおおっ!?」
「なんだ、楽しそうな話をしているじゃないか」
「あら、エカテリーナ」
エカテリーナ様まで乗り込んできた。
僕たちの馬車が、途端に実にロイヤルな感じになる。
二人の王女と、一人の王子が乗っている。
僕と新聞屋は実に場違いなのではないか。
「あら、私たちは、あなたたち二人がいなかったら、こうして同じ時間をすごす事ができていなかったのよ」
エリザベッタ様が笑顔を見せた。
幼い頃から、長いときを塔に幽閉されてすごしてきたお姫様だ。
「ああ。今思い返しても、よくぞ生きてここにいると思う」
エカテリーナ様が頷く。
アルフォンシーナにはめられた時とか、戦争でベリアルに遭遇した時とか。
二人の反応に、ピエール王子は興味深そうな目を向けた。
「では私はハリイ殿とアミ殿に感謝すべきなのだろうな」
むむむ、なんか背中がむずがゆい。
隣を見たら、新聞屋もしきりに背中を気にしていた。かゆいんだな。
僕も新聞屋も、人からなじられたりネガな感情を向けられるのは慣れてるけど、こうして面と向かって褒められる事に慣れてない。
なので居心地が悪いったら。
フレートでも祭りが始まる。
エカテリーナ様とピエール王子は、二つの国でのお披露目を終えて正式に夫婦になった。
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