39 / 84
4・森王国での修行編
第39話 足止め魔弾の射手
しおりを挟む
夜光板をつけて、前線へ急ぐ。
すぐにガウが叫んだ。
「注意せよ! 魔族どももスキル能力者が出てきている! 今夜は戦場をかき回すつもりだぞ!」
俺は緊張する。
敵対するスキル能力者というのが、あまり経験ないというのもある。
何せ、敵が何をやってくるか分からないからな。
自分がそうなだけに、敵の出方が怖い。
魔法の針をばらばらと足元に落とした。
「ライズも何かあったら教えてよ!」
「ぶもー」
いつもマイペースなライズが、のんびり答えてくれる。
少しして、ガウが無造作に腕を払った。
一見何もないところを、拳が突く……と思ったら、ガウの拳が幾つにも分身したように見えた。
信じられない速度と数の連続パンチが、見えないそれを撃退する。
カラン、と音を立てて何かが荷馬車の上に落ちた。
「これ……黒く塗られた矢だ! 太くて短いけど……」
「ひええ、殺意高すぎる」
ミスティが震え上がる。
「夜光板を付けてなければ、音で認識するしか無い。しかもこいつは、お前たちを狙って放たれたな。枝の間を縫うように飛んできたぞ」
「枝の間を……!?」
「魔弾の射手という種類の能力者だ。認識した相手をどこまでも追いかける必中の矢。魔族どもには多いタイプだぞ」
ガウはこいつの勢いを、よく分からないパンチで撃ち落としたのか。
「それと、これはクロスボウの矢だ。使い手の筋力によらずに安定した威力を叩き出してくるから、気をつけろ」
「両替! ミスティ、これ持ってて」
「へ? なになに? うわーっ、重いぃ!」
魔法の盾を両替したのだ。
これをミスティに持たせてひたすら防御してもらう。
ライズは馬車が重くなったので、歩みの速度がのんびりになった。
「ぶもー」
なんて堂々としたロバだろう。
「大物だなあ」
大きな盾を構えたバーバリアンたちが感心している。
普通、ここまで豪胆なロバはいないらしい。
その後、さらにビュンビュンと矢が飛んできた。
本当にヤバい。
戦場に近づけない。
「向こうも我らに気付いている。我らを戦場に近づけぬことが仕事だな。だが、じきに矢は尽きよう」
ガウが冷静だ。
それでも、攻撃を食らってる俺等はたまったものじゃない。
行きている心地がしなかった。
ずっとライズとミスティの心配をして、胃をキリキリさせていた。
無限に続くかと思った時間だったが、気がつくと終わっていた。
「矢が尽きたな」
攻撃が止まったらしい。
「だが罠かも知れん。慎重に行くぞ。業腹だが、今回は敵の狙い通りになりそうだ」
ガウが歯噛みしている。
矢は尽きたかも知れないが、尽きていないかも知れない。
こちらは注意しながら進まなければいけないわけで、ガウほどの使い手でもそういう警戒をするわけだ。
これは多分、俺たちを連れているからでもあるんだろうけど。
魔族側のスキル使い、めちゃくちゃ頭がいいぞ。
「ねえねえウーサー。さっき、サラッと魔法の盾を出してたけど」
「うん」
盾に身を隠しながら、ミスティが続ける。
「腕上がってね? これって確か、金貨百枚くらいするやつじゃなかったっけ」
「えっ、そうだっけ!?」
慌てて自分のステータスを確認した。
《スキル》
両替(八段階目)
・視界内に存在する金貨二百枚以下の物品の再現が可能。物品相当の貨幣か物品が必要。
・再現した物品を手元へ引き寄せることが可能。物品の質量が大きい場合、使用者が引き寄せられる。
・手にした貨幣を視界内の任意の箇所に移動させることができる。障害物があった場合移動できない。
・反射両替 防御に適した物品を無意識で作成し、盾とすることができる。
※レベルアップ条件
・金貨二百枚の物品を五個、貨幣へ両替。もしくは金貨二百枚から五個の同価格の物品を再現する。
「強くなってた……! 金貨二百枚ってどういうこと……!?」
俺は混乱する。
ちなみに、能力が強化されたきっかけはどこだったかよく分かる。
王女様との試合、そしてウーナギとの訓練だ。
確かに強くはなってる。
だけど、スキルが強化されても、まだまだ上には上がいると分からされる毎日だ。
今回会った魔族のスキル能力者なんて、射撃を絶対命中させるという能力一つで、ガウと俺たちを足止めできている。
能力は強い弱いじゃなく、使う人間次第なんだな……!
なるほど、ゴウが俺の素の身体能力を上げようとしてたのはどうしてなのか、よく分かった。
その後、到着した戦場では、もう痛み分けになっていた。
ほどほどダメージを受けたバーバリアンと魔族が、ばらばらとお互いの陣地に戻っていく。
「くそっ、間に合わなかったか。あの魔弾の射手はいつも我を足止めしてくるのだ」
「ガウ狙いだったのか……。いつもあんな感じなのか?」
「いや、いつもはあんな生ぬるい射撃はしてこない。我が守るべき者を連れていると理解した上で、最小限の力で足止めしてきた」
「ヤベえ」
「うむ。最前線の戦いとはこのようなものだ。空気だけでも吸って帰るがいい」
戦場の苛烈さを見せられなかったことを、ガウは大変悔やんでいるようだった。
いやいや、そんな恐ろしいものミスティに見せなくていいから……!
すぐにガウが叫んだ。
「注意せよ! 魔族どももスキル能力者が出てきている! 今夜は戦場をかき回すつもりだぞ!」
俺は緊張する。
敵対するスキル能力者というのが、あまり経験ないというのもある。
何せ、敵が何をやってくるか分からないからな。
自分がそうなだけに、敵の出方が怖い。
魔法の針をばらばらと足元に落とした。
「ライズも何かあったら教えてよ!」
「ぶもー」
いつもマイペースなライズが、のんびり答えてくれる。
少しして、ガウが無造作に腕を払った。
一見何もないところを、拳が突く……と思ったら、ガウの拳が幾つにも分身したように見えた。
信じられない速度と数の連続パンチが、見えないそれを撃退する。
カラン、と音を立てて何かが荷馬車の上に落ちた。
「これ……黒く塗られた矢だ! 太くて短いけど……」
「ひええ、殺意高すぎる」
ミスティが震え上がる。
「夜光板を付けてなければ、音で認識するしか無い。しかもこいつは、お前たちを狙って放たれたな。枝の間を縫うように飛んできたぞ」
「枝の間を……!?」
「魔弾の射手という種類の能力者だ。認識した相手をどこまでも追いかける必中の矢。魔族どもには多いタイプだぞ」
ガウはこいつの勢いを、よく分からないパンチで撃ち落としたのか。
「それと、これはクロスボウの矢だ。使い手の筋力によらずに安定した威力を叩き出してくるから、気をつけろ」
「両替! ミスティ、これ持ってて」
「へ? なになに? うわーっ、重いぃ!」
魔法の盾を両替したのだ。
これをミスティに持たせてひたすら防御してもらう。
ライズは馬車が重くなったので、歩みの速度がのんびりになった。
「ぶもー」
なんて堂々としたロバだろう。
「大物だなあ」
大きな盾を構えたバーバリアンたちが感心している。
普通、ここまで豪胆なロバはいないらしい。
その後、さらにビュンビュンと矢が飛んできた。
本当にヤバい。
戦場に近づけない。
「向こうも我らに気付いている。我らを戦場に近づけぬことが仕事だな。だが、じきに矢は尽きよう」
ガウが冷静だ。
それでも、攻撃を食らってる俺等はたまったものじゃない。
行きている心地がしなかった。
ずっとライズとミスティの心配をして、胃をキリキリさせていた。
無限に続くかと思った時間だったが、気がつくと終わっていた。
「矢が尽きたな」
攻撃が止まったらしい。
「だが罠かも知れん。慎重に行くぞ。業腹だが、今回は敵の狙い通りになりそうだ」
ガウが歯噛みしている。
矢は尽きたかも知れないが、尽きていないかも知れない。
こちらは注意しながら進まなければいけないわけで、ガウほどの使い手でもそういう警戒をするわけだ。
これは多分、俺たちを連れているからでもあるんだろうけど。
魔族側のスキル使い、めちゃくちゃ頭がいいぞ。
「ねえねえウーサー。さっき、サラッと魔法の盾を出してたけど」
「うん」
盾に身を隠しながら、ミスティが続ける。
「腕上がってね? これって確か、金貨百枚くらいするやつじゃなかったっけ」
「えっ、そうだっけ!?」
慌てて自分のステータスを確認した。
《スキル》
両替(八段階目)
・視界内に存在する金貨二百枚以下の物品の再現が可能。物品相当の貨幣か物品が必要。
・再現した物品を手元へ引き寄せることが可能。物品の質量が大きい場合、使用者が引き寄せられる。
・手にした貨幣を視界内の任意の箇所に移動させることができる。障害物があった場合移動できない。
・反射両替 防御に適した物品を無意識で作成し、盾とすることができる。
※レベルアップ条件
・金貨二百枚の物品を五個、貨幣へ両替。もしくは金貨二百枚から五個の同価格の物品を再現する。
「強くなってた……! 金貨二百枚ってどういうこと……!?」
俺は混乱する。
ちなみに、能力が強化されたきっかけはどこだったかよく分かる。
王女様との試合、そしてウーナギとの訓練だ。
確かに強くはなってる。
だけど、スキルが強化されても、まだまだ上には上がいると分からされる毎日だ。
今回会った魔族のスキル能力者なんて、射撃を絶対命中させるという能力一つで、ガウと俺たちを足止めできている。
能力は強い弱いじゃなく、使う人間次第なんだな……!
なるほど、ゴウが俺の素の身体能力を上げようとしてたのはどうしてなのか、よく分かった。
その後、到着した戦場では、もう痛み分けになっていた。
ほどほどダメージを受けたバーバリアンと魔族が、ばらばらとお互いの陣地に戻っていく。
「くそっ、間に合わなかったか。あの魔弾の射手はいつも我を足止めしてくるのだ」
「ガウ狙いだったのか……。いつもあんな感じなのか?」
「いや、いつもはあんな生ぬるい射撃はしてこない。我が守るべき者を連れていると理解した上で、最小限の力で足止めしてきた」
「ヤベえ」
「うむ。最前線の戦いとはこのようなものだ。空気だけでも吸って帰るがいい」
戦場の苛烈さを見せられなかったことを、ガウは大変悔やんでいるようだった。
いやいや、そんな恐ろしいものミスティに見せなくていいから……!
0
あなたにおすすめの小説
最強の異世界やりすぎ旅行記
萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。
そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。
「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」
バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!?
最強が無双する異世界ファンタジー開幕!
俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!
くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作)
異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』
チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。
その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。
「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」
そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!?
のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。
異世界遺跡巡り ~ロマンを求めて異世界冒険~
小狸日
ファンタジー
交通事故に巻き込まれて、異世界に転移した拓(タク)と浩司(コウジ)
そこは、剣と魔法の世界だった。
2千年以上昔の勇者の物語、そこに出てくる勇者の遺産。
新しい世界で遺跡探検と異世界料理を楽しもうと思っていたのだが・・・
気に入らない異世界の常識に小さな喧嘩を売ることにした。
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい
寿明結未(旧・うどん五段)
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。
ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。
ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。
時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。
だから――。
「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」
異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ!
============
小説家になろうにも上げています。
一気に更新させて頂きました。
中国でコピーされていたので自衛です。
「天安門事件」
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる