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第一章
第7話 その名はゴブリンパンチ
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『ゴブリンパンチ』
冒険者の店にやって来た俺たちを迎えたのは、そう言う話題だった。
あらゆる敵の攻撃を避けることで有名な冒険者が、ゴブリンパンチという技でボッコボコにされたらしい。
彼は意識不明の重体らしいが、目下、話題はどうして彼がゴブリンのパンチを避けられなかったのかという事に集中していた。
「ゴブリンが話題みたいだ。今度の仕事はゴブリン退治だな!」
「ああ。俺もゴブリン退治でやらかしたから追放されたしな」
「くさい息はすごい技なのになあ……。実は私も一回喰らってみたい。騎士たるもの、経験は積んでおくものだと思う」
「エリカはすごいやつだなあ」
俺たちが席につくと、ちょっと注目された。
「くさい息と大騎士様だぞ」
「あいつら無事だったのか」
「大したことない依頼だったんだろうよ」
ちょこちょこと噂をされて、それだけだ。
俺たちが依頼に失敗したら、もっと面白おかしく噂されたんだろうが、成功してしまったから話題にならないというわけなのだ。
「やっぱり、こうやって結果を示せば人の態度は変わるな。お祖父様の言っていた通りだ。大騎士フォンテインもこうやって世間の目を変えていったからな」
「おう。次も成功させてやろうぜ。そういうことで、ゴブリン退治か……」
装備更新と宿泊で、報酬がそろそろ底をついた俺たちである。
さっさと新しい仕事を見つけねばならない。
今は俺もエリカと一緒に牛乳配達をしており、早朝のバイトで資金の目減りを防いでいる段階だ。
冒険者たるもの、アルバイトではなく冒険で生計を立てたい……!
「ゴブリン、ゴブリン……」
軽食の後、依頼が貼り出されている掲示板を見る。
「おや? ゴブリン退治をお探しかな?」
すると俺たちに声がかけられたのだった。
この声。聞き覚えがある。
確か、イチモジのパーティにいた時、声を掛けてきたベテラン冒険者のものでは……。
「我々は今、パーティで組織を組み、計画的にゴブリン砦を攻めているんだ。第二次侵攻の参加パーティを求めているのだが、どうだい?」
それは、ロードというクラスのベテラン冒険者だった。
ロードというのは戦士の上級職で、戦闘力以外に指揮能力を持っているのだ。
指揮した仲間の戦闘力が上がるという、なんか魔法みたいな能力なんだよな。
もちろん、上級職どころかまだなんのクラスにもついていない俺には関係のない話だ。
この男、イチモジのパーティを誘った時、そこに俺もいたはずなのに覚えてないのか。
「なるほど! じゃあみんなでゴブリンと戦うんだな! よし分かった! 協力しよう!」
エリカの決断は、基本的に支持する俺だ。
だが、このロードは信用できない。
イチモジのパーティは捨て石にされて、レッドキャップに包囲されることになったもんな。
「よし、決まりだ。今日の昼から出発するぞ。君たちにはゴブリンの住む穴の一つを任せたい。なに、小さな穴だ。簡単に攻略できるさ」
同じような物言いで、レッドキャップの巣窟に送り込まれたな。
警戒、警戒だ。
「エリカ、気をつけろよ」
ロードが去っていった後で、俺は彼女に告げた。
「あいつは他の冒険者を使い捨てにするタイプだぞ。俺は経験者だから詳しいんだ」
「そうなのか! だけど、目的地までは連れて行ってもらえるだろう? それに穴と言っていた」
「おう、ゴブリンの穴だな」
「例えばそこにくさい息をたくさん吐くとかしたらいいんじゃないか。つまり、私たちは数が少ないから、最初からくさい息を戦いに組み込めばいいんだ!」
「あ! なーるほどな!」
以前の俺とは状況が違うのだった。
パーティは俺とエリカの二人きり。
しかも、エリカはくさい息を我慢するぞと公言している。
吐き放題である。
いや、そんなむやみやたらと吐くものではないけど。
「後は、ゴブリンパンチっていうのが問題かな? 私たちも遭うかな……?」
「技なら俺が喰らってコピーするから、むしろ願ったり叶ったりだ!」
「あ、そうか!」
こうして、何の問題も無いことが判明したのだった。
むしろ、ロードが指揮する冒険者の集団を上手く利用し、仕事をどんどんこなすのも手では無いだろうか。
そうか、俺たちに欠けていたのは、こういう柔軟性だったのだな。
エリカと一緒だと、自由になんでもできるからいいな。
昼頃。
俺たちは冒険者集団の中にいた。
所持品は、お弁当ぐらい。
松明は持ってないし、ましてや高価なランタンもない。
他の冒険者達が、「こいつらゴブリンと戦うのに、照明器具が無いとか正気か」「やっぱりくさい息と大騎士様は違うよな」などと言っているのが聞こえた。
確かに、ゴブリンの穴に入るならば照明は必要だろう。
だが、今回の俺たちは穴の外で活動するので不要なのだ。
というか金が無くて買えないのだ。
さすがに哀れに思ったのか、とある冒険者のパーティがお古の松明と火口箱をくれた。
「ありがとう!」
「感謝だ!」
俺たちが礼を言うと、彼らは曖昧な笑みを浮かべた。
「お前らみたいな初級冒険者が真っ先に死ぬんだ。そういうのをたくさん見てきたからな。仕事なんか失敗してもいい。生き残れば次があるんだぞ」
含蓄のあることを言うではないか。
冒険者には常識人もいるのだな、と俺は感心したのだった。
冒険者の店にやって来た俺たちを迎えたのは、そう言う話題だった。
あらゆる敵の攻撃を避けることで有名な冒険者が、ゴブリンパンチという技でボッコボコにされたらしい。
彼は意識不明の重体らしいが、目下、話題はどうして彼がゴブリンのパンチを避けられなかったのかという事に集中していた。
「ゴブリンが話題みたいだ。今度の仕事はゴブリン退治だな!」
「ああ。俺もゴブリン退治でやらかしたから追放されたしな」
「くさい息はすごい技なのになあ……。実は私も一回喰らってみたい。騎士たるもの、経験は積んでおくものだと思う」
「エリカはすごいやつだなあ」
俺たちが席につくと、ちょっと注目された。
「くさい息と大騎士様だぞ」
「あいつら無事だったのか」
「大したことない依頼だったんだろうよ」
ちょこちょこと噂をされて、それだけだ。
俺たちが依頼に失敗したら、もっと面白おかしく噂されたんだろうが、成功してしまったから話題にならないというわけなのだ。
「やっぱり、こうやって結果を示せば人の態度は変わるな。お祖父様の言っていた通りだ。大騎士フォンテインもこうやって世間の目を変えていったからな」
「おう。次も成功させてやろうぜ。そういうことで、ゴブリン退治か……」
装備更新と宿泊で、報酬がそろそろ底をついた俺たちである。
さっさと新しい仕事を見つけねばならない。
今は俺もエリカと一緒に牛乳配達をしており、早朝のバイトで資金の目減りを防いでいる段階だ。
冒険者たるもの、アルバイトではなく冒険で生計を立てたい……!
「ゴブリン、ゴブリン……」
軽食の後、依頼が貼り出されている掲示板を見る。
「おや? ゴブリン退治をお探しかな?」
すると俺たちに声がかけられたのだった。
この声。聞き覚えがある。
確か、イチモジのパーティにいた時、声を掛けてきたベテラン冒険者のものでは……。
「我々は今、パーティで組織を組み、計画的にゴブリン砦を攻めているんだ。第二次侵攻の参加パーティを求めているのだが、どうだい?」
それは、ロードというクラスのベテラン冒険者だった。
ロードというのは戦士の上級職で、戦闘力以外に指揮能力を持っているのだ。
指揮した仲間の戦闘力が上がるという、なんか魔法みたいな能力なんだよな。
もちろん、上級職どころかまだなんのクラスにもついていない俺には関係のない話だ。
この男、イチモジのパーティを誘った時、そこに俺もいたはずなのに覚えてないのか。
「なるほど! じゃあみんなでゴブリンと戦うんだな! よし分かった! 協力しよう!」
エリカの決断は、基本的に支持する俺だ。
だが、このロードは信用できない。
イチモジのパーティは捨て石にされて、レッドキャップに包囲されることになったもんな。
「よし、決まりだ。今日の昼から出発するぞ。君たちにはゴブリンの住む穴の一つを任せたい。なに、小さな穴だ。簡単に攻略できるさ」
同じような物言いで、レッドキャップの巣窟に送り込まれたな。
警戒、警戒だ。
「エリカ、気をつけろよ」
ロードが去っていった後で、俺は彼女に告げた。
「あいつは他の冒険者を使い捨てにするタイプだぞ。俺は経験者だから詳しいんだ」
「そうなのか! だけど、目的地までは連れて行ってもらえるだろう? それに穴と言っていた」
「おう、ゴブリンの穴だな」
「例えばそこにくさい息をたくさん吐くとかしたらいいんじゃないか。つまり、私たちは数が少ないから、最初からくさい息を戦いに組み込めばいいんだ!」
「あ! なーるほどな!」
以前の俺とは状況が違うのだった。
パーティは俺とエリカの二人きり。
しかも、エリカはくさい息を我慢するぞと公言している。
吐き放題である。
いや、そんなむやみやたらと吐くものではないけど。
「後は、ゴブリンパンチっていうのが問題かな? 私たちも遭うかな……?」
「技なら俺が喰らってコピーするから、むしろ願ったり叶ったりだ!」
「あ、そうか!」
こうして、何の問題も無いことが判明したのだった。
むしろ、ロードが指揮する冒険者の集団を上手く利用し、仕事をどんどんこなすのも手では無いだろうか。
そうか、俺たちに欠けていたのは、こういう柔軟性だったのだな。
エリカと一緒だと、自由になんでもできるからいいな。
昼頃。
俺たちは冒険者集団の中にいた。
所持品は、お弁当ぐらい。
松明は持ってないし、ましてや高価なランタンもない。
他の冒険者達が、「こいつらゴブリンと戦うのに、照明器具が無いとか正気か」「やっぱりくさい息と大騎士様は違うよな」などと言っているのが聞こえた。
確かに、ゴブリンの穴に入るならば照明は必要だろう。
だが、今回の俺たちは穴の外で活動するので不要なのだ。
というか金が無くて買えないのだ。
さすがに哀れに思ったのか、とある冒険者のパーティがお古の松明と火口箱をくれた。
「ありがとう!」
「感謝だ!」
俺たちが礼を言うと、彼らは曖昧な笑みを浮かべた。
「お前らみたいな初級冒険者が真っ先に死ぬんだ。そういうのをたくさん見てきたからな。仕事なんか失敗してもいい。生き残れば次があるんだぞ」
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