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第二章
第24話 エルフの里はみんな寝ている
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「なんだかずーっとビヨーネが俺を凝視してくるんだが。狙われている……?」
「あげないぞ! ドルマは私の仲間だからな!」
ビヨーネとの間に割り込むエリカ。
エルフの人がチッと舌打ちした。
舌打ち!?
そして自分が好感度下げるようなアクションをしたと思ったようで、急にホホホ、と笑い出した。
「気にしないで欲しい。エルフというものは、永遠の時を生きるわ。だから様々なものに見慣れているのだけれど、それでも時折未知と遭遇する。特に、知恵でも武力でも未知の力を持つ異性がいた場合、これに注目するのは当然のことなの」
「な、なんで異性限定なんだ!」
エリカ、あえて尋ねるか。
「一生のうち何度も子作りはしないもの。だから優れた才能を持つ血を取り込むの。エルフの血族はそうやって強くなっていっているのよ」
「ドルマと節度ある距離を保ってね!」
エリカは頼もしいなあ!
彼女と出会う前の俺だったら、ふらふらとなびいていたかも知れない。
「おほー! 愛憎渦巻く三角関係ですねーこれは! 構想が湧いてきますよー!!」
「モーザルは場が乱れた方がネタになるもんな。なんて迷惑な人だ」
こうして、微妙な空気になりながらエルフの里に到着したのだった。
ビヨーネを警戒していたエリカは、すぐに笑顔になった。
「見て見てドルマ! 森の中みたいに見えるけれど、草花が自分から道を作ってくれる! あちこちに、蔦の絡まった緑色の丸いものがあるけど、あれはなんだろうな!」
「あれが眠っているエルフよ。私たちは大きな傷を受けたり、毒や呪いを受けた時、そこが緑の中であればああして繭になって何年も眠るの。植物の力でゆっくりと傷を癒やしていくのだけれど……。今回は眠りの精霊が自らの手を下した不自然な眠り。このまま目覚めないかもしれないわ。現に、数十年の間目覚める者は現れないもの。私は彼らを目覚めさせるために冒険者になったのよ」
「語るじゃん」
「数十年の間、眠りの精霊に勝てるヤツはいなかったんだな! だけどドルマなら勝てるのか!」
「そうかもしれないわ。彼は本物の青魔道士だから、常識では測れない存在だもの」
「おお、その瞬間を待ち望みます。今か今かと~」
モーザルが興奮してリュートをかき鳴らし始めた。
眠りの精霊が潜んでいる森の中で?
リュートを?
案の定、何がふわーっとしたものがエルフの里の中心に出現した。
「なんか出た! ドルマ!」
「バカな人間! 吟遊詩人を連れてくるんじゃなかったわ! 私、浮かれすぎてた!」
エリカが俺を後ろから抱きかかえて、凄い勢いで木陰に移動する。
ビヨーネもまた、精霊魔法を使って土の中に隠れたようだ。
残されたモーザル。
「おや、なんですかあなたは! 美しい見た目の……えっ、眠りの……ウグワーッ!」
やられた。
静かになってから見に行くと、モーザルがすやすやと眠っている。
いきなりやられたな。
だがなんとこの吟遊詩人、パチっと目覚めたではないか。
「ふう、危ないところでしたよ! こんな事もあろうかと、身代わり人形を買っておいたのです」
「身代わり人形……?」
「一度だけ、全てのダメージを肩代わりしてくれる魔法の道具ですよ。目玉が飛び出るような値段ですが、効果は確かです」
モーザルが見せたのは、頭の部分が破裂してしまった木製の人形だった。
「狭いところに精霊が流れ込んだから壊れてしまったのね。なるほど、一度だけならこうして防げるわけね。……ならば、ドルマに持たせて突撃させるべきだったんじゃないかしら」
土の中から現れたビヨーネが、モーザルを睨みつけた。
だが、吟遊詩人は少しも揺るがない。
「何を仰る。ワタクシめがいなければ、英雄の物語は記録されず、語り継がれることがないではありませんか。つまりワタクシめこそが歴史の生き証人! ああ、今こそ眠りの精霊を打ち倒す英雄の姿を目の当たりに……」
「心臓が鉄でできてるようなヤツだなあ」
俺はすっかり感心してしまった。
「それはそれとして、しっかりと眠りの精霊を見ましたよ。あれは青く輝く女性の姿をしていましたが、どこか意思の感じられない目をしていました」
「うーん、眠りの精霊を見てその姿を語れるなら、この男が生き残った価値はあるのかしら……」
ビヨーネが唸っている。
吟遊詩人、なかなか破天荒だもんな。
「よし、モーザル。色々教えてくれ。どんな感じだった?」
「うんうん! 意思が無い精霊ってことは、操られてるかもしれないものね!」
「ああ、それです、それ! ワタクシめもその可能性があると思ってるんですよ。眠りの精霊は大きな物音に反応して現れる……。エリカさんの声くらいだとギリギリ出て来ない。もしくは、魔力に反応しているのかも知れませんね」
ビヨーネが頷いた。
「エルフたちは、反応する間も与えられずに次々眠らされていった。私は全力で逃げに徹したから生き残ったの。それに、その時は私が里で一番幼いエルフだったから、魔力も精霊の加護も弱かった……。そう言えば、ドルマからは全く魔力を感じないわね」
ビヨーネ、以前も俺から魔力も精霊の力も感じないと言っていた。
あれ?
青魔道士は魔法使いではない……?
「それから、エリカ。金属の鎧は音がするわ。脱いでいきなさい。気付かれるから」
「ええっ! せっかく買ったのに……!」
「ドルマも脱いで。変な意味じゃなく」
「さっきの発言の後の脱いでだから、深読みしてしまう」
「しないで」
こうして、俺とエリカは懐かしい普段着になった。
鎧はここに一時的に置いていく。
眠りの精霊との戦いにはついてこれそうもないからな。
「あげないぞ! ドルマは私の仲間だからな!」
ビヨーネとの間に割り込むエリカ。
エルフの人がチッと舌打ちした。
舌打ち!?
そして自分が好感度下げるようなアクションをしたと思ったようで、急にホホホ、と笑い出した。
「気にしないで欲しい。エルフというものは、永遠の時を生きるわ。だから様々なものに見慣れているのだけれど、それでも時折未知と遭遇する。特に、知恵でも武力でも未知の力を持つ異性がいた場合、これに注目するのは当然のことなの」
「な、なんで異性限定なんだ!」
エリカ、あえて尋ねるか。
「一生のうち何度も子作りはしないもの。だから優れた才能を持つ血を取り込むの。エルフの血族はそうやって強くなっていっているのよ」
「ドルマと節度ある距離を保ってね!」
エリカは頼もしいなあ!
彼女と出会う前の俺だったら、ふらふらとなびいていたかも知れない。
「おほー! 愛憎渦巻く三角関係ですねーこれは! 構想が湧いてきますよー!!」
「モーザルは場が乱れた方がネタになるもんな。なんて迷惑な人だ」
こうして、微妙な空気になりながらエルフの里に到着したのだった。
ビヨーネを警戒していたエリカは、すぐに笑顔になった。
「見て見てドルマ! 森の中みたいに見えるけれど、草花が自分から道を作ってくれる! あちこちに、蔦の絡まった緑色の丸いものがあるけど、あれはなんだろうな!」
「あれが眠っているエルフよ。私たちは大きな傷を受けたり、毒や呪いを受けた時、そこが緑の中であればああして繭になって何年も眠るの。植物の力でゆっくりと傷を癒やしていくのだけれど……。今回は眠りの精霊が自らの手を下した不自然な眠り。このまま目覚めないかもしれないわ。現に、数十年の間目覚める者は現れないもの。私は彼らを目覚めさせるために冒険者になったのよ」
「語るじゃん」
「数十年の間、眠りの精霊に勝てるヤツはいなかったんだな! だけどドルマなら勝てるのか!」
「そうかもしれないわ。彼は本物の青魔道士だから、常識では測れない存在だもの」
「おお、その瞬間を待ち望みます。今か今かと~」
モーザルが興奮してリュートをかき鳴らし始めた。
眠りの精霊が潜んでいる森の中で?
リュートを?
案の定、何がふわーっとしたものがエルフの里の中心に出現した。
「なんか出た! ドルマ!」
「バカな人間! 吟遊詩人を連れてくるんじゃなかったわ! 私、浮かれすぎてた!」
エリカが俺を後ろから抱きかかえて、凄い勢いで木陰に移動する。
ビヨーネもまた、精霊魔法を使って土の中に隠れたようだ。
残されたモーザル。
「おや、なんですかあなたは! 美しい見た目の……えっ、眠りの……ウグワーッ!」
やられた。
静かになってから見に行くと、モーザルがすやすやと眠っている。
いきなりやられたな。
だがなんとこの吟遊詩人、パチっと目覚めたではないか。
「ふう、危ないところでしたよ! こんな事もあろうかと、身代わり人形を買っておいたのです」
「身代わり人形……?」
「一度だけ、全てのダメージを肩代わりしてくれる魔法の道具ですよ。目玉が飛び出るような値段ですが、効果は確かです」
モーザルが見せたのは、頭の部分が破裂してしまった木製の人形だった。
「狭いところに精霊が流れ込んだから壊れてしまったのね。なるほど、一度だけならこうして防げるわけね。……ならば、ドルマに持たせて突撃させるべきだったんじゃないかしら」
土の中から現れたビヨーネが、モーザルを睨みつけた。
だが、吟遊詩人は少しも揺るがない。
「何を仰る。ワタクシめがいなければ、英雄の物語は記録されず、語り継がれることがないではありませんか。つまりワタクシめこそが歴史の生き証人! ああ、今こそ眠りの精霊を打ち倒す英雄の姿を目の当たりに……」
「心臓が鉄でできてるようなヤツだなあ」
俺はすっかり感心してしまった。
「それはそれとして、しっかりと眠りの精霊を見ましたよ。あれは青く輝く女性の姿をしていましたが、どこか意思の感じられない目をしていました」
「うーん、眠りの精霊を見てその姿を語れるなら、この男が生き残った価値はあるのかしら……」
ビヨーネが唸っている。
吟遊詩人、なかなか破天荒だもんな。
「よし、モーザル。色々教えてくれ。どんな感じだった?」
「うんうん! 意思が無い精霊ってことは、操られてるかもしれないものね!」
「ああ、それです、それ! ワタクシめもその可能性があると思ってるんですよ。眠りの精霊は大きな物音に反応して現れる……。エリカさんの声くらいだとギリギリ出て来ない。もしくは、魔力に反応しているのかも知れませんね」
ビヨーネが頷いた。
「エルフたちは、反応する間も与えられずに次々眠らされていった。私は全力で逃げに徹したから生き残ったの。それに、その時は私が里で一番幼いエルフだったから、魔力も精霊の加護も弱かった……。そう言えば、ドルマからは全く魔力を感じないわね」
ビヨーネ、以前も俺から魔力も精霊の力も感じないと言っていた。
あれ?
青魔道士は魔法使いではない……?
「それから、エリカ。金属の鎧は音がするわ。脱いでいきなさい。気付かれるから」
「ええっ! せっかく買ったのに……!」
「ドルマも脱いで。変な意味じゃなく」
「さっきの発言の後の脱いでだから、深読みしてしまう」
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こうして、俺とエリカは懐かしい普段着になった。
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