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第二章

第37話 どろ魔人、地上へ

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 迷宮最下層。
 レーナの見破る能力のお陰で、あらゆる罠を突破した俺たちは、楽々到達した。

 本当に罠が多い迷宮だった。
 誰が仕掛けたんだろうな。

 最下層では、灰色のドロドロしたものが渦巻いていた。
 その中心に顔があり、口からモンスターを生み出している。

「どろ魔人だ! あいつがこの辺りにモンスターを生み出している元凶だ! は、初めて見た……。なんておぞましいやつだ!」

 トニーが震える指先で、迷宮の主を指し示す。
 すると、どろ魔人はこちらに気付いたようだった。

『ゲッゲッゲッゲッゲ……。まさか迷宮の最奥まで下ってくる輩がいるとはな。俺様はどろ魔人。土のモンスターを生み出し続ける存在よ』

「ミサーイル」

『ウグワーッ!!』

 その辺の瓦礫をミサイルにしてぶっ放す俺である。
 どろ魔人はでかいから、狙いが外れなくていいなあ。

「よーし、戦いだ!」

「やれやれ。だが確かにモンスターの口上を聞いてやる義理はない」

「チェックチェーック! どろ魔人の上に迂闊に乗ると足を取られるわよ! 足場を確保してから戦うのよー!」

『お、おのれ貴様らーっ!! 恐怖という感情をどこかに置き忘れて来たかこの異常者どもめーっ!!』

「渦潮カッター!!」

『ウグワーッ!!』

「す、すげえ。どろ魔人を喋ってる間に攻撃しまくってる! こんなんアリなのか!」

「トニー。俺たちはな。退屈な話を延々と聞いてるのが苦手なんだ」

 俺は騎士見習いに優しく解説してやった後、横で待機していたエリカを抱え、ジャンプした。

「よし、ドルマ! どろ魔人の頭の上に落としてくれ!」

「おう! 行け、エリカ!」

「行くぞ!」

 最下層の天井は高い。
 お陰で、ジャンプでどろ魔人頭上まで飛ぶことができた。
 そこからエリカを落下させる。

「うおおー! ぶった切る!」

 エリカがグレイブソードを思い切り振りかぶり……。

『ぬおーっ! モンスターよ、俺様を守れーっ!!』

 どろ魔人が口から吐き出した、牛頭の巨人を叩き切りながら、魔人の顔面を深く切り裂いた。

『ウグワーッ!! 許さん、許さんぞーっ! ぬわーっ!!』

 さらにアベルが、エリカの隣に降り立ちながら槍で深く刺し貫く。

『ウグワワーッ! こ、こんな地下にいられるか! 俺様は地上で直接人間どもを滅ぼしてくれるわーっ!!』

 ダメージを受けたどろ魔人、キレる!
 巨体が起き上がり、迷宮を破壊してどんどんと上に登っていく。

 俺は元のところまで戻り、トニーとレーナをキャッチした。

「うおわーっ! な、なにするんだー!!」

「僕を連れてくのね!? 生き埋めはいやだものねー。優しくね……!!」

「レーナは俺の心を乱すような事を言わないように。それ、ジャンプ!」

 二人を抱えていると流石に重いが、ジャンプには関係ない。
 どろ魔人が天井を掘り進んだ穴を、跳躍しながら追いかけるのだ。

 すぐに光が辺りを包み込み、そこが地上だと分かるようになった。

『ぬわーっ! 許さん、許さんぞ迷宮に踏み込んできたよく分からない者たちめ! 人間を壊滅させる!』

「俺たちへの怒りから全ての人間へ怒りを向けるようになったぞ」

「お、おい! まずいんじゃないか!」

 トニーが慌てている。
 だがよく考えて欲しい。

「そもそもモンスターを生み出す危険な魔人だったから、いつかは排除しなくちゃいけなかっただろ。なら人間を恨まれたところで、害を成すことに変わりはない。今ぶっ倒せばいいんだ。行け、トニー」

「えっ!? 行けって……うわああああ!!」

 トニーミサイルだ。
 人間は技の対象にはならないがな。
 トニーは叫びながら剣を抜き、どろ魔人の胴体目掛けて落っこちた。
 そして剣は深々と突き刺さる。

『ウグワーッ!?』

 人間はミサイルにならないが、トニーの剣はミサイルになるんだよな。
 刃先がどろ魔人の体内で爆発した。

「ウグワー!?」

 トニーも吹っ飛んでいった。
 まあ無事だろう。

 エリカはどろ魔人の頭に取り付いて、ガンガンとグレイブソードで殴る。
 アベルは縦横無尽に飛び回りながら、槍を叩きつけ続けている。
 いい勝負ではないか。

 そう思っていたら、周囲が騒がしくなってきた。
 どこに隠れていたのか、それなりの数の軍隊が出現したのだ。

「ど、どろ魔人なのか!?」

「どうして地上に……!」

「戦っているのは誰なんだ!」

「俺たちか? 問われて名乗るのもアレだが、エリカが喜びそうなんで名乗る」

 俺は軍隊へ振り返った。

「俺たちはフォンテインナイツ。故あってどろ魔人を倒しに来た」

「フォンテインナイツ!? 騎士フォンテインということか!?」

 呆然としながら戦いを見守る軍隊。
 彼らが参戦すると、こちらが自由に動けなくなる。
 それに、どれだけ強いのか分からないが、集団だとどうしてもどろ魔人にやられて死ぬ者が出るだろう。

 そういうのは面倒だ。

「ちょっと待ってろ。おーい、エリカ! アベル! 一気にぶっ放すぞ!」

 俺は二人に向かって叫んだ。

「レーナ、どろ魔人の弱点は?」

「炎だわね! さっき君が撃ってた爆発する飛び道具、効いてるわよ!」

「よしよし。じゃあ、こいつで攻撃だ。保存食展開。干し肉ミサイル! ナッツミサイル! ビスケットミサイル!」

「僕の保存食も使う?」

「使わせてもらう……。あっ、これレーズンじゃん。よしレーズンミサイル!!」

 ばらまかれた保存食の全てがミサイルになり、どろ魔人へと突き刺さる。

『ウグワワーッ!?』

 全身に爆発を起こしながら、どろ魔人が絶叫した。
 いやあ、でかいと当たりやすくていい。

「これが騎士フォンテインの戦い……!? 我々は神話を目撃しているのか……!」

 後ろで、軍隊のリーダーみたいな人がかっこいいことを言うのだった。
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