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第三章

第41話 もう戦争じゃないですかこれ

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 明け方に宿場町に到着し、早起きのおじいさんに家の納屋を借りてそこで昼まで爆睡した。
 目覚めてから、おじいさんとおばあさんと昼飯をご一緒した俺たち。
 しばし歓談した後、キャラバンが通りかかったのでこれに乗っていくことにしたのだった。

 ポータルまではここからキャラバンで数日。
 まあまあ遠いのだ。

 さらばランチャー地方。
 パイ料理が美味しいところだったな。

「ドルマ、さては実家の料理のことを考えているな」

「考えていたのだ……。おいしかった」

「あれは私も作れるぞ! 私は騎士になると言っているのに、母と姉たちからお嫁さん修行をたくさんさせられたからな!」

「なんだって!」

 それは重要な情報だった。
 今度、どこかで窯を借りてパイを作ってもらおう。
 中身は何がいいかな……。

 そんなことをずっと考えていたら、ポータルに到着したのだった。
 そこは大変物々しい様子である。

 街道にも武装した兵士たちが歩き回っている。
 見たこと無い兵士だ。

「あのー、どちら様?」

「おお、旅人か。我々は傭兵国家パルメゾンの派遣兵士だ。ゴブリン王国が周囲に国々に大攻勢を仕掛けているのは知っているな? 商業都市ポータルは固定戦力を持たないために、我々を雇ったのだ」

「なるほどなるほど」

 説明がうまい兵士だなあと思ったら、駆け寄ってきた他の兵士が「隊長!」とか言っていた。
 偉い人だったらしい。

「詳しい状況は知らないが、各国の首都周辺はこのように守りを固めている。戦場はもう少し先だな。冒険者か? ならば戦働きをすれば、多少はポータルから金が出ることだろう」

 ポータルは商業都市国家なので、金はたくさんある。
 これを一気に放出する構えかもしれない。

「戦争か。そういえば私たちが行った過去の時代も戦争をしていたな!」

「あれは人間と人間の戦争だったよな。あの頃はゴブリンはどうなってたんだろうな?」

「あ、それは私も知りたいな!」

「じゃあ後で、また過去に行ってみるか!」

 そう言う事になった。
 各国がゴブリン王国と戦争状態になっているのは大変なことだが、俺たちはしょせん超小規模パーティの冒険者なのだ。
 やれることは少ないだろうから、ここは自由に動くことにする。

 冒険者の店に行ってみると、開店休業状態だった。

「今は仕事は受けてないんだよ。それどころじゃないからね」

 マスターが、からっぽになった掲示板を指差す。

「冒険者の仕事も、平和だからこそだったのか」

「そういうことさ。今じゃこの辺りも物騒になってきて、地方の村人も依頼を持ってこられなくなっているしね。それどころか、ポータルまで兵士として出稼ぎに来ているよ」

「田舎の若いのは力が余ってそうだもんなあ」

「ふーん」

 エリカは興味なさそうに、果汁を絞った水を注文し、これをちびちび飲んでいる。

「エリカは騎士なんだろう? 戦争に参加しないのかい?」

 マスターに聞かれて、エリカがキョトンとした。

「騎士は世界を脅かす強大な悪と戦う存在だぞ? 戦争はなんか違うじゃないか」

「エリカの騎士イメージがおとぎ話レベルで止まっている」

 やはり……!
 彼女は騎士を理想化しているのだなあ。

「そうかいそうかい。戦場は危険だからね。それに個人がどれだけ強くても、不意に死んでしまうかもしれない。理不尽な世界だよ」

「マスターはずいぶん詳しいな! 実は従軍経験が……」

 エリカの問に、マスターはフフッと笑った。

「ないよ」

「ないんだ」

 それっぽく語ってるだけだった。

「うちは兵士の食堂になっててね。彼らの食べるぶんは食券で賄われるんだけど、後で食券をポータルが買い上げてお金をくれる」

「ほうほう」

「結果的に後払いだから、しばらく経営は苦しいんだよね」

「大変だなあ……」

 そうこうしている間に、兵士たちがわいわい入ってくる。
 この時期、メニューは定食一つだけになるらしい。
 日替わりなので、兵士たちに好評だとか。

 おや? 
 兵士たちの中になんか一人だけ明らかに違うやつが混じってる。

 赤紫色の全身を包む服を身に着け、鼻から下を覆う覆面もしている。
 背中に細身の剣を装備した、小柄な人だ。

「うひー、せ、拙者の席が無いでござるよー」

 席がみんな埋まってしまい、チョロチョロしている。
 ちょうど俺とエリカの隣のカウンター席が空いていたので、呼んでみた。

「おーい、こっち来なよ」

「あっ、いいんでござるか? そんな、カップルの隣に座るなんてこと自殺行為みたいで、拙者は遠慮してたんでござるが~」

 そう言いながら、ひょこひょこやってくる小柄な人。
 声色が高いし、体型もほっそりしてて、これは女の子ではないか。

 ちょこんとエリカの隣に座ったその人は、フードと覆面を解いた。
 黒髪の、目つきがキリッとした女の子だ。

「あー、しきたりとはいえ、やっぱり覆面はあっついでござるな~」

「むむっ!!」

 彼女の姿に、唸るエリカ。

「もしかして……君は伝説の職業、忍者じゃないのか!!」

「えっ!!」

 定食を頼んだところだった彼女が、愕然とした。

「ど……どうしてそれが……!! 拙者が一子相伝の忍者だと、決して知られてはならないのに……」

「上手く隠していたようだが、私の目はごまかせないんだ!」

 隠していたというか、誰も忍者という存在そのものを知らなかっただけではないか。

「私はエリカ! 未来の大騎士だ!」

 バーサーカー疑惑があるけどな。

「俺はドルマ。青魔道士だ」

「おおーっ! 騎士と青魔道士! これに竜騎士や学者や風水士が加われば、フォンテインの仲間たちでござるなあ!」

 忍者の彼女が嬉しそうになった。

「フォンテイン伝説知ってるのか!!」

「知らいでか! 拙者の曽祖父がこっちに来た時、謎の忍者が活躍していた話を聞いたそうでござるよ。それで対抗意識を燃やして、こっちに住み着いたでござる。フォンテインの忍者なんかに負けるな~っていうのが口癖だったそうでござるねえ」

 遠い目をする忍者の彼女。

「あ、拙者はホムラと言うでござる! 遠い忍者の故郷では、炎という意味らしいでござるなあ。なお、忍者の能力は一子相伝で血で受け継がれるそうなので、地元にはもう本当の忍者はいないそうでござる」

「ホムラか! よろしくな! ドルマ、これは運命の出会いだぞ。行くしかないんじゃないか」

「おう、行くしかないな、過去に」

「過去に!? よく分からないでござるが、拙者がご飯を食べるまで待って欲しいでござる……!!」

 こうして忍者ホムラと出会った俺たちは、昼飯を食ってからタイムリープすることにしたのだった。
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