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第三章
第45話 ゴブリン砦の事情
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レッドキャップが出た。
『ギアーッ!』
「そら、渦潮カッターだ!」
『ウグワーッ!』
勝った。
……うーむ!
「ドルマは何を難しい顔をしてるんだ?」
「いや、あいつら、俺がパーティを追放されてエリカと仲間になるきっかけを作ったモンスターでさ。結構強かった印象があったんだが……一瞬で片付いてしまった」
「それはドルマが強くなったってことじゃないのか? いいことだぞ!」
「そうなんだろうなあ。時の流れってのはすごいぜ」
感慨にふける俺の肩を、エリカがポンポン叩くのだった。
基本的に彼女は、こういうスキンシップが多い。
誰にでもそうなのかと思ったら、ほぼ俺にだけやる。
なぜか。
俺が仲間だからだと言うのが、エリカの答えである。
「ちっちっち、違うんでござるなあー。拙者には分かっちゃうんでござるなあ」
「むむっ、他人の恋愛大好きな忍者!!」
「ぐっふっふっふっふ、ドルマ殿もエリカ殿も奥手でござるからな。お互いの中にある情熱の炎に気づいてないふりをしてるのでござるよ! そういうじれじれな関係も拙者大好物で……ぐふふふふ」
「なんて恐ろしい笑い声を漏らすんだ」
俺はこの忍者女子に戦慄を覚える。
ちなみに、女子の忍者はくノ一と呼ばれることがあるらしいが、伝説の職業である忍者は女性でも忍者なのだそうだ。
「くノ一は大人な役割があったりするでござるが、忍者は戦闘マシーンみたいなもんでござるからな! もちろん、拙者も大人な役割はさっぱり分からないでござる!」
「大人な役割とは一体?」
「みなまで聞くものでは無いでござるよー!」
わっはっは、と笑うホムラにバシバシ叩かれてしまった。
すると、すごい勢いでエリカがやってくる。
「なんだなんだ。凄く二人共なかよしみたいだが!」
「そんなことはないでござる! 拙者、恋仲に割り込んで馬に蹴られて死ぬ性分ではござらんからな!」
ケヒヒヒヒ、と笑いながら距離を取るホムラなのだった。
なんだなんだ。
俺とエリカで首を傾げる。
そのような道中なのだが、俺とエリカとホムラは戦闘ばかりやっていて、トニーがポイントポイントで、運良くエリカが倒したゴブリンチーフに止めを刺したりしていた。
トニーの評価が上がる上がる。
そして彼の相方たるレーナは、ゴブリンたちが残した痕跡を調べるのだ。
「昨今起こってる、ゴブリンの大攻勢。これって僕が見た限りだと、彼らの数が増えすぎたみたい。だから新しい棲家を求めて外に出てるのね」
「ゴブリンの領域に住みきれなくなっちゃったか」
「そうそう。だからたくさん出てきてるのは、殺されるの前提の口減らしみたいな意味もあるのかもしれないわね」
「迷惑な話だなあ」
レーナ曰く、ゴブリンは五十年に一回くらいたくさん増えるらしい。
これは、それくらいの間隔である種の植物が一斉に芽吹き、これを食料にする動物が増えるかららしい。
それに、その植物の果実はゴブリン達にとっても大切な食事になるのだそうだ。
「食べ物があって満たされると、生き物はやることをやるわね!」
「ほうほう、やることをやる」
「ドルマはエリカとやることをやるでしょ?」
「よく分からないが、多分してない。レーナはしてるの?」
「お互い照れちゃって失敗したわ……! トニーと再チャレンジを誓ってるの……!」
すっかり、俺はレーナに教えてもらっている生徒みたいになっている。
「やることをやると増えるでしょう。ゴブリンの領域の豊作状態は長く続くし、その間は近隣の村への襲撃とか略奪も減るの。で、たくさん子どもが増える。だけど育った子どもたちが大人になる前に、豊作状態は終わるのね」
「ははあ、一気に食うものが無くなる」
「そういうこと。それでゴブリンは、周囲に向かって攻めていくことになるわけね」
「習性まで明らかになってるんだなあ……」
「僕のお師匠様が使い魔を通じて調べたことなの。各国はこれを知ってるから、色々対策してるみたい」
その一つが、今回の義勇騎士団というわけだ。
ゴブリンを積極的に減らしつつ、砦の一つを破壊してしまおうというのだな。
ちなみに義勇騎士団は、フォンテインの名を冠するもの以外にも幾つかある。
実はこれも、農家で食えなくなった三男坊とか四男とか、町で食い詰めた連中が参加してる。
社会的な口減らしみたいな意味もあるんだろうな。
現に、一番被害が小さいであろううちの義勇騎士団も、バタバタ人が死んでる。
世の中大変なものだ。
「それでドルマさん、相談があるのよね」
「なんだなんだ」
「ゴブリン砦を一つ落とすのが目的なんだけど、トニーが凄くやる気で。でも彼って、僕が見るにあんまり騎士として才能なくって」
「体格普通だし、剣の腕もあんまよくないよな」
「トニーはあのままだと死ぬって、学者の僕は思うのよね。だけどそれってこう、私情ばっかりだけど、すっごく嫌なので」
「ほうほう」
エリカの祖父と祖母、もうこの時点でお互いかなり好き合ってるのではないか。
「それとなく助けてあげて、砦にいるゴブリンジェネラルを倒してほしいの」
「よしきた」
将来生まれてくるエリカのためである。
俺は快く、この頼みを引き受けることにした。
それとなく相手をボコる技、俺は持っているもんな。
『ギアーッ!』
「そら、渦潮カッターだ!」
『ウグワーッ!』
勝った。
……うーむ!
「ドルマは何を難しい顔をしてるんだ?」
「いや、あいつら、俺がパーティを追放されてエリカと仲間になるきっかけを作ったモンスターでさ。結構強かった印象があったんだが……一瞬で片付いてしまった」
「それはドルマが強くなったってことじゃないのか? いいことだぞ!」
「そうなんだろうなあ。時の流れってのはすごいぜ」
感慨にふける俺の肩を、エリカがポンポン叩くのだった。
基本的に彼女は、こういうスキンシップが多い。
誰にでもそうなのかと思ったら、ほぼ俺にだけやる。
なぜか。
俺が仲間だからだと言うのが、エリカの答えである。
「ちっちっち、違うんでござるなあー。拙者には分かっちゃうんでござるなあ」
「むむっ、他人の恋愛大好きな忍者!!」
「ぐっふっふっふっふ、ドルマ殿もエリカ殿も奥手でござるからな。お互いの中にある情熱の炎に気づいてないふりをしてるのでござるよ! そういうじれじれな関係も拙者大好物で……ぐふふふふ」
「なんて恐ろしい笑い声を漏らすんだ」
俺はこの忍者女子に戦慄を覚える。
ちなみに、女子の忍者はくノ一と呼ばれることがあるらしいが、伝説の職業である忍者は女性でも忍者なのだそうだ。
「くノ一は大人な役割があったりするでござるが、忍者は戦闘マシーンみたいなもんでござるからな! もちろん、拙者も大人な役割はさっぱり分からないでござる!」
「大人な役割とは一体?」
「みなまで聞くものでは無いでござるよー!」
わっはっは、と笑うホムラにバシバシ叩かれてしまった。
すると、すごい勢いでエリカがやってくる。
「なんだなんだ。凄く二人共なかよしみたいだが!」
「そんなことはないでござる! 拙者、恋仲に割り込んで馬に蹴られて死ぬ性分ではござらんからな!」
ケヒヒヒヒ、と笑いながら距離を取るホムラなのだった。
なんだなんだ。
俺とエリカで首を傾げる。
そのような道中なのだが、俺とエリカとホムラは戦闘ばかりやっていて、トニーがポイントポイントで、運良くエリカが倒したゴブリンチーフに止めを刺したりしていた。
トニーの評価が上がる上がる。
そして彼の相方たるレーナは、ゴブリンたちが残した痕跡を調べるのだ。
「昨今起こってる、ゴブリンの大攻勢。これって僕が見た限りだと、彼らの数が増えすぎたみたい。だから新しい棲家を求めて外に出てるのね」
「ゴブリンの領域に住みきれなくなっちゃったか」
「そうそう。だからたくさん出てきてるのは、殺されるの前提の口減らしみたいな意味もあるのかもしれないわね」
「迷惑な話だなあ」
レーナ曰く、ゴブリンは五十年に一回くらいたくさん増えるらしい。
これは、それくらいの間隔である種の植物が一斉に芽吹き、これを食料にする動物が増えるかららしい。
それに、その植物の果実はゴブリン達にとっても大切な食事になるのだそうだ。
「食べ物があって満たされると、生き物はやることをやるわね!」
「ほうほう、やることをやる」
「ドルマはエリカとやることをやるでしょ?」
「よく分からないが、多分してない。レーナはしてるの?」
「お互い照れちゃって失敗したわ……! トニーと再チャレンジを誓ってるの……!」
すっかり、俺はレーナに教えてもらっている生徒みたいになっている。
「やることをやると増えるでしょう。ゴブリンの領域の豊作状態は長く続くし、その間は近隣の村への襲撃とか略奪も減るの。で、たくさん子どもが増える。だけど育った子どもたちが大人になる前に、豊作状態は終わるのね」
「ははあ、一気に食うものが無くなる」
「そういうこと。それでゴブリンは、周囲に向かって攻めていくことになるわけね」
「習性まで明らかになってるんだなあ……」
「僕のお師匠様が使い魔を通じて調べたことなの。各国はこれを知ってるから、色々対策してるみたい」
その一つが、今回の義勇騎士団というわけだ。
ゴブリンを積極的に減らしつつ、砦の一つを破壊してしまおうというのだな。
ちなみに義勇騎士団は、フォンテインの名を冠するもの以外にも幾つかある。
実はこれも、農家で食えなくなった三男坊とか四男とか、町で食い詰めた連中が参加してる。
社会的な口減らしみたいな意味もあるんだろうな。
現に、一番被害が小さいであろううちの義勇騎士団も、バタバタ人が死んでる。
世の中大変なものだ。
「それでドルマさん、相談があるのよね」
「なんだなんだ」
「ゴブリン砦を一つ落とすのが目的なんだけど、トニーが凄くやる気で。でも彼って、僕が見るにあんまり騎士として才能なくって」
「体格普通だし、剣の腕もあんまよくないよな」
「トニーはあのままだと死ぬって、学者の僕は思うのよね。だけどそれってこう、私情ばっかりだけど、すっごく嫌なので」
「ほうほう」
エリカの祖父と祖母、もうこの時点でお互いかなり好き合ってるのではないか。
「それとなく助けてあげて、砦にいるゴブリンジェネラルを倒してほしいの」
「よしきた」
将来生まれてくるエリカのためである。
俺は快く、この頼みを引き受けることにした。
それとなく相手をボコる技、俺は持っているもんな。
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