上 下
68 / 116
第3章 貴女をずっと欲していた

アリーチェを手にするのは⑨

しおりを挟む
【SIDE フレデリック第1王子】

 アリーチェが城からいなくなり、自分にとっては最大の窮地に立たされて、寝ても覚めても、彼女のことばかり考えている。

 いつも自分を慕っていた、アリーチェに向き合わなかったのは自分だ。
 クロエと名乗る侍女や衛兵、料理長から彼女の話を聞けば、私の知らないアリーチェがいた。
 ミカエルは、その彼女の美しい容姿に惹かれ、譲れと言ってきたのだ。

 私は、従者達が口々に「絶世の美女」と言う彼女の素顔を知らない。
 私の為だという化粧がなければ、偶然どこかですれ違っても、気付かないだろう。
 アリーチェはそんな夫と結婚したのだ、彼女の意思でこの城へ戻ってくるわけがない。

 マックスは、虎視眈々と私からアリーチェを取り戻す機会を窺っていたのだ。
 奴がアリーチェの気持ちが私へ向くことを、する訳もないだろう。

 公爵家に手紙を書いても、彼女の元に届かないのは分かっている。だが、しないという選択肢はない。
 目の前の、公務を片付けた後に、アリーチェに反省文を送らなければならない。
 私の愛を乞うのはその後だ。

 彼女が事務官と言った意味。
 私の心情では、そのつもりではなかったが、結果的にはそう見える。
 アリーチェに付いている事務官は、資料庫から、真面に資料さえ持ってこられない有り様だ。
 だが、この事務官がこの城でのアリーチェを知っており、彼から妃のことを教えてもらう情けないことになっている。

「アリーチェはいつも、どんな風に過ごしていたんだ?」

「最近では、1日の過ごし方が決まっていましたね。午前中は私とのおしゃべり。お昼をお食べになってから、10分で全ての書類に目を通して、私に欲しい資料を指示され、私がここへ資料を運ぶまでは、ずっと噴水を眺めてお待ちになっていました。公務を始める前に午後のお茶の時間を過ごし、終業時刻と同時に公務は終える。ざっと、こんな感じです」
「アリーチェは、いつも数時間で、この書類の山を片付けていたのか? それも1人で」

「はい。なんせ妃殿下は、一度目を通した資料の内容は、ほとんど頭に入っているようで、公務にかかる時間が日に日に短くなっていましたから」

 アリーチェを知れば知るほど、おかしくなりそうだ。
 あの綺麗にまとめられた書類の山は、たったの数時間で捌いていたのか。全く何をやっているんだ。

 いや、確かにそうだ。
 この国の建国史は500ページはある。
 あれを、諳んじると言った子どもが成長すれば、それくらいは出来て当然だ。
 まあ、いつもアリーチェが1人でやっていたなら、私もそうするしかない。
 幸い、私には事務官とのおしゃべりも、お茶の時間も必要ないしな。

 この事務官は、本来王族の公務を補佐する人間ではないのだろう。
 彼は事務官として、爵位はおろか、知識の基準も満たしていない。
 マックスが、城で働く雑用係から、アリーチェの相手が出来る人物を連れてきたのか。
 姉を心配するあいつらしいな。

 マックスが言っていた、安全対策と言うのは、時間が出来れば1人で何をしでかすか分からないってことなのか。
 アリーチェのことを知れば、今も昔も変わっていない、子どもの頃のリーのままだ。

 リンゼー湖の周囲を、高級なシルクで仕立てられたワンピースを着た令嬢が、護衛も付けずに1人で歩いていた。
 当時の私は、リーを1人で帰す訳にもいかず、どうすべきか迷ったほどだ。
 アリーチェが毎朝、王城の衛兵に勝手にお菓子を口に運んで食べさせていたのも、まるであの日のお節介なリーのままだ。
 どうして、こんなに傍にいたのに、私は彼女に愛を向けなかったのか……。
 
 アリーチェに会いたい……。
 彼女に会わないと、落ち着かないんだ。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

修羅と丹若 (アクションホラー)

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:127pt お気に入り:3

馬鹿みたいにお天気

現代文学 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

かくりよにようこそ。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

お慕いしております

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

悪役令息設定から逃れられない僕のトゥルーエンド

BL / 完結 24h.ポイント:418pt お気に入り:2,244

処理中です...