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第3章 貴女をずっと欲していた
アリーチェを手にするのは⑨
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【SIDE フレデリック第1王子】
アリーチェが城からいなくなり、自分にとっては最大の窮地に立たされて、寝ても覚めても、彼女のことばかり考えている。
いつも自分を慕っていた、アリーチェに向き合わなかったのは自分だ。
クロエと名乗る侍女や衛兵、料理長から彼女の話を聞けば、私の知らないアリーチェがいた。
ミカエルは、その彼女の美しい容姿に惹かれ、譲れと言ってきたのだ。
私は、従者達が口々に「絶世の美女」と言う彼女の素顔を知らない。
私の為だという化粧がなければ、偶然どこかですれ違っても、気付かないだろう。
アリーチェはそんな夫と結婚したのだ、彼女の意思でこの城へ戻ってくるわけがない。
マックスは、虎視眈々と私からアリーチェを取り戻す機会を窺っていたのだ。
奴がアリーチェの気持ちが私へ向くことを、する訳もないだろう。
公爵家に手紙を書いても、彼女の元に届かないのは分かっている。だが、しないという選択肢はない。
目の前の、公務を片付けた後に、アリーチェに反省文を送らなければならない。
私の愛を乞うのはその後だ。
彼女が事務官と言った意味。
私の心情では、そのつもりではなかったが、結果的にはそう見える。
アリーチェに付いている事務官は、資料庫から、真面に資料さえ持ってこられない有り様だ。
だが、この事務官がこの城でのアリーチェを知っており、彼から妃のことを教えてもらう情けないことになっている。
「アリーチェはいつも、どんな風に過ごしていたんだ?」
「最近では、1日の過ごし方が決まっていましたね。午前中は私とのおしゃべり。お昼をお食べになってから、10分で全ての書類に目を通して、私に欲しい資料を指示され、私がここへ資料を運ぶまでは、ずっと噴水を眺めてお待ちになっていました。公務を始める前に午後のお茶の時間を過ごし、終業時刻と同時に公務は終える。ざっと、こんな感じです」
「アリーチェは、いつも数時間で、この書類の山を片付けていたのか? それも1人で」
「はい。なんせ妃殿下は、一度目を通した資料の内容は、ほとんど頭に入っているようで、公務にかかる時間が日に日に短くなっていましたから」
アリーチェを知れば知るほど、おかしくなりそうだ。
あの綺麗にまとめられた書類の山は、たったの数時間で捌いていたのか。全く何をやっているんだ。
いや、確かにそうだ。
この国の建国史は500ページはある。
あれを、諳んじると言った子どもが成長すれば、それくらいは出来て当然だ。
まあ、いつもアリーチェが1人でやっていたなら、私もそうするしかない。
幸い、私には事務官とのおしゃべりも、お茶の時間も必要ないしな。
この事務官は、本来王族の公務を補佐する人間ではないのだろう。
彼は事務官として、爵位はおろか、知識の基準も満たしていない。
マックスが、城で働く雑用係から、アリーチェの相手が出来る人物を連れてきたのか。
姉を心配するあいつらしいな。
マックスが言っていた、安全対策と言うのは、時間が出来れば1人で何をしでかすか分からないってことなのか。
アリーチェのことを知れば、今も昔も変わっていない、子どもの頃のリーのままだ。
リンゼー湖の周囲を、高級なシルクで仕立てられたワンピースを着た令嬢が、護衛も付けずに1人で歩いていた。
当時の私は、リーを1人で帰す訳にもいかず、どうすべきか迷ったほどだ。
アリーチェが毎朝、王城の衛兵に勝手にお菓子を口に運んで食べさせていたのも、まるであの日のお節介なリーのままだ。
どうして、こんなに傍にいたのに、私は彼女に愛を向けなかったのか……。
アリーチェに会いたい……。
彼女に会わないと、落ち着かないんだ。
アリーチェが城からいなくなり、自分にとっては最大の窮地に立たされて、寝ても覚めても、彼女のことばかり考えている。
いつも自分を慕っていた、アリーチェに向き合わなかったのは自分だ。
クロエと名乗る侍女や衛兵、料理長から彼女の話を聞けば、私の知らないアリーチェがいた。
ミカエルは、その彼女の美しい容姿に惹かれ、譲れと言ってきたのだ。
私は、従者達が口々に「絶世の美女」と言う彼女の素顔を知らない。
私の為だという化粧がなければ、偶然どこかですれ違っても、気付かないだろう。
アリーチェはそんな夫と結婚したのだ、彼女の意思でこの城へ戻ってくるわけがない。
マックスは、虎視眈々と私からアリーチェを取り戻す機会を窺っていたのだ。
奴がアリーチェの気持ちが私へ向くことを、する訳もないだろう。
公爵家に手紙を書いても、彼女の元に届かないのは分かっている。だが、しないという選択肢はない。
目の前の、公務を片付けた後に、アリーチェに反省文を送らなければならない。
私の愛を乞うのはその後だ。
彼女が事務官と言った意味。
私の心情では、そのつもりではなかったが、結果的にはそう見える。
アリーチェに付いている事務官は、資料庫から、真面に資料さえ持ってこられない有り様だ。
だが、この事務官がこの城でのアリーチェを知っており、彼から妃のことを教えてもらう情けないことになっている。
「アリーチェはいつも、どんな風に過ごしていたんだ?」
「最近では、1日の過ごし方が決まっていましたね。午前中は私とのおしゃべり。お昼をお食べになってから、10分で全ての書類に目を通して、私に欲しい資料を指示され、私がここへ資料を運ぶまでは、ずっと噴水を眺めてお待ちになっていました。公務を始める前に午後のお茶の時間を過ごし、終業時刻と同時に公務は終える。ざっと、こんな感じです」
「アリーチェは、いつも数時間で、この書類の山を片付けていたのか? それも1人で」
「はい。なんせ妃殿下は、一度目を通した資料の内容は、ほとんど頭に入っているようで、公務にかかる時間が日に日に短くなっていましたから」
アリーチェを知れば知るほど、おかしくなりそうだ。
あの綺麗にまとめられた書類の山は、たったの数時間で捌いていたのか。全く何をやっているんだ。
いや、確かにそうだ。
この国の建国史は500ページはある。
あれを、諳んじると言った子どもが成長すれば、それくらいは出来て当然だ。
まあ、いつもアリーチェが1人でやっていたなら、私もそうするしかない。
幸い、私には事務官とのおしゃべりも、お茶の時間も必要ないしな。
この事務官は、本来王族の公務を補佐する人間ではないのだろう。
彼は事務官として、爵位はおろか、知識の基準も満たしていない。
マックスが、城で働く雑用係から、アリーチェの相手が出来る人物を連れてきたのか。
姉を心配するあいつらしいな。
マックスが言っていた、安全対策と言うのは、時間が出来れば1人で何をしでかすか分からないってことなのか。
アリーチェのことを知れば、今も昔も変わっていない、子どもの頃のリーのままだ。
リンゼー湖の周囲を、高級なシルクで仕立てられたワンピースを着た令嬢が、護衛も付けずに1人で歩いていた。
当時の私は、リーを1人で帰す訳にもいかず、どうすべきか迷ったほどだ。
アリーチェが毎朝、王城の衛兵に勝手にお菓子を口に運んで食べさせていたのも、まるであの日のお節介なリーのままだ。
どうして、こんなに傍にいたのに、私は彼女に愛を向けなかったのか……。
アリーチェに会いたい……。
彼女に会わないと、落ち着かないんだ。
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