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第2章 あなたは暗殺者⁉

気になるあなたは……僕の暗殺者①

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◇◇◇SIDE アンドレ

 ジュディの仕事の様子を見たくて、家を出ようとすれば、リビングから人の気配を感じる。
 そのまま放っておくわけにもいかず中を覗けば、ソファーでくつろぐイヴァン卿の姿があった。

「来ていたんですか?」
「まあな。あのジュディって子のことを早く伝えたくてな」
 そう発したイヴァン卿が、眉間に皺を寄せた。

 ……となれば、歓迎しない報告を朝一で持ち込んできたのだろう。頼んだのは僕だが、今となっては聞きたくない。
 そう思う僕は、渋々ながらに訊ねた。

「あぁ……昨日、僕が頼んだことですか」
「ご自分の立場を分かっているんですか! 昨日、俺がいない間にいろいろあったのに、変な女を近くに置いたままにして。警戒心がなさすぎる!」

「森の中で人が寝ていたら、誰だって拾うし、帰る家がないなら泊めるでしょう」

 怒気混じりの彼の指摘に、反省の色も見せずに答えれば、彼はこちらに詰め寄ってきた。
 彼の感情を逆撫でるとしても、言わずにはいられないため、こちらも開き直る。

「俺は得体の知れない人物は絶対に拾わない! アンドレも放っておけばよかったんだよ。あの子は何者だ⁉︎」

「第一部隊の連中から、ジュディのことを何か聞いたんですか?」

「ナグワが俺の顔を見るなり、興奮しながらジュディって子の話をしてきた。あの子は……本当に危険だ。魔物の知識が普通じゃない」

「そうですか……。まあ大丈夫ですよ。魔法を使われても躱す自信はありますし、心配にはおよびませんから」

「油断するな。あの子は完全に黒だ。真っ黒だ! アンドレの刺客で間違いないだろう。魔物の知識も魔力感知も異常だ。どうやら偉いお方は俺も知らない激ヤバな人物を雇ったってことだろう」

「――そうなんでしょうね」

 昨日、ジュディが土蜘蛛の魔力を感知した件は、イヴァン卿の耳には届かないと思っていたが、まさか、こんなに早く気づかれるとは、面倒なことになった。

 軍のことには口出ししないと言っていたのに、すっかり当てが外れてしまったようだ。

 僕の邸宅から出ていかないと言い張るジュディと、イヴァン卿の板挟みの予感が強まる。

「第一部隊が今日、ジュディって子の魔力感知を当てにして、子どもの魔猪の捕獲に連れ出すらしい」

「そのようですね」

「おいおい、知ってたのかよ。何を呑気に言っているんだ! 本当にそれで捕獲できるなら、血筋の良い一流揃いの王宮騎士団でも、幹部クラスに入るぞ」

「でしょうね。彼女の魔力感知は僕以上ですし」

「はぁ? アンドレ以上って、どういうことだ……。魔力なしって、むしろ魔力感知に長けているのか? 本当にヤバいだろう」
 イヴァン卿が混乱しきりに言った。

「心配しなくても、ジュディの動きはしっかりと警戒しているから大丈夫ですよ」

「頼むからそうしてくれ。あの子から変なものを受け取るなよ。どんな知識をみっちりと仕込まれているのか、分からんからな」
「大袈裟ですね」

「記憶をいつ取り戻すか分からんだろう。あんな危ない子を厨房に入れるなんて……」
「まあ一応、気をつけますよ」

「ああ、大司教のガラス玉も、どう考えてもおかしいからな」
「ガラス玉ね……」

「なあ、結局あの子、何個持っていたんだ?」

 僕が当然ジュディの荷物を物色しているだろうという前提で話を振られた。
 否定したいところだが、異常なまでの魔力感知を見せつけられたとあれば、無造作に転がっていたガラス玉を確認した。

「あったのは二十三個。そのうちの一つ以外は全て新品でしたね。魔力の減りを示す、ひび割れのない綺麗なものを持っていましたよ」

「にッ、二十二個の新品! そんなにか!」

 目を見開くイヴァン卿が、ことさら大きな声を上げた。
 昨日も「たくさん持っている」と、伝えたはずだが、二十二個の新品というのは、彼の想像以上に多かったのだろう。

 ……確かにあり得ない数だ。

「教会に足しげく通っていたんでしょうか? それなら何か記録があるでしょう」

「いや。中央教会では、今まで『ジュディ』や、それらしき名前の人物に、ガラス玉を渡した記録は残っていないってさ」

「そうですか。――ジュディという名前は偽名なのか。あのハンカチも仕込みの一つ……」

 あれは、偽名を信じ込ませる作戦のために持っていたのか?
 フィリの話をやたらと毛嫌うジュディだが、フィリという男は、端から存在しない人物なのか……。

 彼女の過去を探ると、なぞしかない。

「中央教会でガラス玉を受け取るとしても、一か月に二個が限界だ。いくら理由を並べ立ててもそれ以上は、絶対にくれないからな。二十三個も持っていたとなると、依頼主から直接もらったんだろう。それ以外考えられない」

「そうですか」
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