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第2章 あなたは暗殺者⁉

離したくないあなたは……僕の暗殺者⑦

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 そういう関係とはどういう関係を想像しているのかは知らないが、カステン辺境伯領に辿り着いた翌朝。寝ぼけたわたしが、アンドレにしがみついていた情けない姿は、湖畔を行き交う兵士たちに見られていた。

 隊長だって知っているでしょうに? うん、おそらく知っている。その件で兵士に絡まれ、パフェを食べ損ねたのだ。

 アンドレの嫌味に、いちいち白々しいことを言わないでよね。そう思って「隊ちょ——」と言いかけると、アンドレがわたしの言葉へ重ねるように続けた。

「ええ、そうですよ。ご存じありませんでしたか? 甘えるジュディが僕を離してくれないんですよ」

「そ、それは……」と隊長がくぐもった声を出す。

 あの日のアンドレは、なかなか起きないわたしに苛立っていたのは事実だが、未だにその件を根に持っているのだろうか。嫌味な言い方をする。

 だけど、最近の悩みの一つである『寝相が悪い』を指摘されたことには、どきりとした。

 アンドレはしれっとした顔をしているが、どうして知っているのだ⁉
 わたしの寝相が悪いせいで、枕元のガラス玉が毎晩割れているのは、打ち明けていないんだけど。
 まさかわたしの部屋を覗いたんじゃないでしょうねと、アンドレを睨みつける。

「ちょっと、誤解されるようなことを言わないでよ!」

「僕は嘘を言ってないし、どこに誤解があるのか分からないけど。昨日も僕がベッドへ運んだし、シャワーのときだってねぇ……。いつも甘えてくるのは誰ですか? ジュディでしょう」
 小首を傾げるアンドレが笑った。

 すると、驚愕の顔を浮かべるナグワ隊長が、そろりそろりと後退し、態度を翻したのだ。許しがたいことに。

「ジュディちゃん、アンドレ殿。俺はこの後に用事があったのをすっかり忘れていたよ。ははっ、ははっ。急いで行かなければ間に合わないな。申し訳ないが埋め合わせは、またの機会に。ははっ、ははっ……」

「えっ! ちょっと待ってよ――」
 今日は隊長からパジャマを買ってもらうのだ。お金を払ってちょうだいと思うわたしは、驚愕の声を上げる。
 だが、彼は振り返ったものの、戻ってくる気配は微塵もない。

 こちらは銅貨一枚持っていない。大事なお財布を逃がしてなるものかと慌てて引き止めたのだが、泣きそうな顔を向けられただけ。
 そんな顔をされれば、それ以上の言葉をかけられるはずもなく、渋々ながら諦めた。

 確かに今日の隊長は、とてもお洒落な服装をしていたんだし、何か用事があるのは勘づいていた。だけど、いろんな意味で矛盾がすぎるわよ。

 馬車の中で、わたしをお茶に誘っていたのは何だったのだ? 目をパチクリさせる。

「……ねえ。わたしのパジャマはどうしてくれるのよ」
 ぽつりと呟くと、アンドレが気の毒なものを見るような目でわたしを見つめた。

「ジュディは寝衣がなくて困っているんでしょう。僕が買ってあげるから、好きなのを選んだらいいですよ。他にも欲しい物があれば遠慮はいらないからね」
 直前まで嬉しそうに寝間着を見ていたわたしに、同情してくれたのだろう。
 安月給だと言ったアンドレが、大きく出た。

「え、だってワグナ隊長が、パジャマを買ってくれるって約束してくれたのよ!」
「いいですか。いくらジュディに深い意味がなくても、男を勘違いさせる物を強請るのは止めておきなさい」

 怖い顔でピシャリと怒られた。
 何を勘違いさせるのか分からないし、アンドレだって男でしょうに。

 あなたならいいのか? という疑問は拭えないが、「分かったわよ」と適当に相槌を返した。

 こっちだってパジャマを買ってもらうのに必死だ。そうでなければ、また今晩もシャツ一枚にパンツ姿で寝なければいけないんだもの。この機会を逃してなるものか。

 まかり間違って彼に「安月給なのに悪いわよ」と正論を口走り、またしてもパジャマを逃す訳にいかない。

 自分の欲望のため大いに打算が働き、賢明に立ち回ることにしたのだ。
 
「何色にしようかな」と、なんの気なしにアンドレへ訊ねる。
 そうすれば、「白以外がいいな」と返ってきたので、落ち着いた色合いの紺色のパジャマをアンドレに買ってもらった。
 
 ◇◇◇
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