記憶と魔力を婚約者に奪われた「ないない尽くしの聖女」は、ワケあり王子様のお気に入り~王族とは知らずにそばにいた彼から なぜか溺愛されています
瑞貴◆『手違いの妻』4月15日発売!
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第5章 離さない
離さない③(フィリベール)
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(SIDE フィリベール)
「ジュディットは私の女だ。男と駆け落ちした彼女を連れ戻すために、探していただけだ」
「あっ、そう。それは王太子の願望かもしれないが、無理だろうな。アンドレからの伝言だ。『ジュディット様を自分に譲ってくれてありがとう』だってさ。やっぱり俺の見立ては間違っていなかったな」
一方的に喋る男は、私を馬鹿にしたように、にまりと笑う。終始上機嫌で癪に障る。
「さっきからアンドレって誰だ!」
ジュディットは、王宮騎士団のシモンという第二部隊長と懇ろの関係だと思っていたが、他にも男がいたのか?
アンドレとは何者だ? カステン辺境伯が肩を持つとなれば、騎士ではなくどこかの貴族か?
そのうえ、パスカル殿下が絡んでいるとなれば、少々厄介だな。
この現状……、記憶と魔力のないジュディットは、パスカル殿下が保護したのか――。
クソぅっ! そうなれば計画の再考が必要だ。突如降って湧いた面倒な事態に拳を握る。
そうこうしていれば、カステン辺境伯は車輪の音が響く方向を見て、陽気な声を出す。
「おっ、来たな。さあ、王太子殿下とドゥメリー公爵を連行するか!」
「おッ、おい。まさか、あの粗末な荷台に私を乗せる気ではないだろうな」
彼の言動と目に飛び込む事態に、一瞬で青ざめた。
カステン辺境伯軍が運び込んできたのは、人を乗せるための馬車ではない。
荷物を運ぶためのリヤカーだ。農地へ行けば、カボチャやイモを乗せているやつだ。
あんな狭い箱に、ドゥメリー公爵と詰め込まれるのは、冗談じゃない。ご免だ。
「それ以外ないでしょう。誰かさんのせいで、馬車で道が塞がっていますからね。横を通り抜けるのに幅のある馬車では無理ですから」
「横転した馬車を動かせば済む話だろう」
「生憎だが、急いでいるんで待てないんですよ」
「は? 私は王太子だぞ。ふざけるな」
「ふざけているのは、殿下の方でしょう。お宅らのせいで、うちの兵士の半分をこの山道の整備に残すんだよ。魔物の侵入に警戒が必要だってのに、頼みの綱のアンドレがいないんだ。しょうもない二人を連行するために、余計な人手は避けないんだよッ!」
「黙れ! あれでは誰が乗っているか丸見えだろう」
「まあ重要人物が逃げないように監視するのに、リヤカーは丁度いいからな」
「俺は罪人ではない。貴様のその態度! 無礼にも程があるぞ」
声を荒げ厳重注意を与える。
私が何かをした証拠は一つも残っていないんだ。辺境伯ごときに侮辱される筋合いはない。
「残念ですが、決定的な証拠が確認されましたからね。何を仰っても無駄でしょう。まあ、こちらもまだ廃位されていない王太子殿下に敬意を持って、対応している訳ですし、文句を言われる筋合いはありませんね」
「どこに敬意があるんだ愚か者! 私の無実が証明されたら、カステン辺境伯は即刻処分するからそのつもりでいろよ」
「まあ、ないでしょう」
「いい加減、立場を弁えろ!」
「俺としては、アンドレに睨まれる方がむしろ問題なんで。ここははっきりさせましょう。アンドレがジュディット様に嫌われていたら、王太子のせいですからね。俺のせいじゃない。分かったな!」
辺境伯が再び何かを擦りつけた。
すると、ぞろぞろと向かってくる兵士の中からでかい声が響く。
「おまたせしました。兵士たちを連れて来ましたよ――」
「ああ、急いで殿下を追いかける」
「はい。あ~それと、道中、盗賊に狙われないように、あの目立つ髪は隠した方がいいと思い、一応布を持ってきました」
使い古した女性もののスカーフを、カステン辺境伯が受け取った。
「お、気が利くな」
「って言っても、寄宿舎の窓から一部始終を見ていたエレーナが用意してくれたので、俺じゃないですよ」
「エレーナが?」
「はい。ジュディちゃんに直接お礼を言いたかったて嘆いていました。彼女の荷物も預かってきましたので託しますね」
「ジュディット様にはお会いできないだろうが、アンドレに会えたら渡しておくよ」
「はい」と頷いた男がくるりと振り返り、こちらを見た。
「よーし、伸びている男から荷台に運び込め!」
と、声の大きな男が手を振りながら言うと、ドゥメリー公爵の傍にわらわらと兵士たちが集まり、ドンと荷台に詰め込まれた。
続いて私も乱暴に放り投げられた。
おのれッ! 許せん、許せん、許せんッ!
――覚えていろよ。
私がジュディットの全てを握っているのだから。切り札はまだある。何を疑われようが問題はない。
辺境伯のことは侮辱罪で確定だ。領地没収……いいや、幽閉塔行きにしてやるからな──。
「ジュディットは私の女だ。男と駆け落ちした彼女を連れ戻すために、探していただけだ」
「あっ、そう。それは王太子の願望かもしれないが、無理だろうな。アンドレからの伝言だ。『ジュディット様を自分に譲ってくれてありがとう』だってさ。やっぱり俺の見立ては間違っていなかったな」
一方的に喋る男は、私を馬鹿にしたように、にまりと笑う。終始上機嫌で癪に障る。
「さっきからアンドレって誰だ!」
ジュディットは、王宮騎士団のシモンという第二部隊長と懇ろの関係だと思っていたが、他にも男がいたのか?
アンドレとは何者だ? カステン辺境伯が肩を持つとなれば、騎士ではなくどこかの貴族か?
そのうえ、パスカル殿下が絡んでいるとなれば、少々厄介だな。
この現状……、記憶と魔力のないジュディットは、パスカル殿下が保護したのか――。
クソぅっ! そうなれば計画の再考が必要だ。突如降って湧いた面倒な事態に拳を握る。
そうこうしていれば、カステン辺境伯は車輪の音が響く方向を見て、陽気な声を出す。
「おっ、来たな。さあ、王太子殿下とドゥメリー公爵を連行するか!」
「おッ、おい。まさか、あの粗末な荷台に私を乗せる気ではないだろうな」
彼の言動と目に飛び込む事態に、一瞬で青ざめた。
カステン辺境伯軍が運び込んできたのは、人を乗せるための馬車ではない。
荷物を運ぶためのリヤカーだ。農地へ行けば、カボチャやイモを乗せているやつだ。
あんな狭い箱に、ドゥメリー公爵と詰め込まれるのは、冗談じゃない。ご免だ。
「それ以外ないでしょう。誰かさんのせいで、馬車で道が塞がっていますからね。横を通り抜けるのに幅のある馬車では無理ですから」
「横転した馬車を動かせば済む話だろう」
「生憎だが、急いでいるんで待てないんですよ」
「は? 私は王太子だぞ。ふざけるな」
「ふざけているのは、殿下の方でしょう。お宅らのせいで、うちの兵士の半分をこの山道の整備に残すんだよ。魔物の侵入に警戒が必要だってのに、頼みの綱のアンドレがいないんだ。しょうもない二人を連行するために、余計な人手は避けないんだよッ!」
「黙れ! あれでは誰が乗っているか丸見えだろう」
「まあ重要人物が逃げないように監視するのに、リヤカーは丁度いいからな」
「俺は罪人ではない。貴様のその態度! 無礼にも程があるぞ」
声を荒げ厳重注意を与える。
私が何かをした証拠は一つも残っていないんだ。辺境伯ごときに侮辱される筋合いはない。
「残念ですが、決定的な証拠が確認されましたからね。何を仰っても無駄でしょう。まあ、こちらもまだ廃位されていない王太子殿下に敬意を持って、対応している訳ですし、文句を言われる筋合いはありませんね」
「どこに敬意があるんだ愚か者! 私の無実が証明されたら、カステン辺境伯は即刻処分するからそのつもりでいろよ」
「まあ、ないでしょう」
「いい加減、立場を弁えろ!」
「俺としては、アンドレに睨まれる方がむしろ問題なんで。ここははっきりさせましょう。アンドレがジュディット様に嫌われていたら、王太子のせいですからね。俺のせいじゃない。分かったな!」
辺境伯が再び何かを擦りつけた。
すると、ぞろぞろと向かってくる兵士の中からでかい声が響く。
「おまたせしました。兵士たちを連れて来ましたよ――」
「ああ、急いで殿下を追いかける」
「はい。あ~それと、道中、盗賊に狙われないように、あの目立つ髪は隠した方がいいと思い、一応布を持ってきました」
使い古した女性もののスカーフを、カステン辺境伯が受け取った。
「お、気が利くな」
「って言っても、寄宿舎の窓から一部始終を見ていたエレーナが用意してくれたので、俺じゃないですよ」
「エレーナが?」
「はい。ジュディちゃんに直接お礼を言いたかったて嘆いていました。彼女の荷物も預かってきましたので託しますね」
「ジュディット様にはお会いできないだろうが、アンドレに会えたら渡しておくよ」
「はい」と頷いた男がくるりと振り返り、こちらを見た。
「よーし、伸びている男から荷台に運び込め!」
と、声の大きな男が手を振りながら言うと、ドゥメリー公爵の傍にわらわらと兵士たちが集まり、ドンと荷台に詰め込まれた。
続いて私も乱暴に放り投げられた。
おのれッ! 許せん、許せん、許せんッ!
――覚えていろよ。
私がジュディットの全てを握っているのだから。切り札はまだある。何を疑われようが問題はない。
辺境伯のことは侮辱罪で確定だ。領地没収……いいや、幽閉塔行きにしてやるからな──。
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