私にだけ冷たい最後の優良物件から婚約者のふりを頼まれただけなのに、離してくれないので記憶喪失のふりをしたら、彼が逃がしてくれません!◆中編版
瑞貴◆後悔してる/手違いの妻2巻発売!
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別人に変貌した幼馴染①
目を覚ますと、ベッドの横に人の気配を感じる。
ちらっと流し目で窺ってみたが、誰か分からない。
死んだ魚のような目をした金髪の青年だ。黒髪ではないところをみると兄ではない。
よーく、よーくその人物を見れば、「へ?」と変な声が漏れた。
なんと! 私のベッドサイドに泣き腫らした顔のレオナールがいるのだ‼︎
いつものキラキラしい彼はいづこへ。
レオナールの形の良い眉は、不安気にぐにゃりと曲がり、彼の自慢の目は赤く充血している。瞼は随分と重そうだ。そんな姿は見たことがない。
生気を失いやつれ果てた彼は、とにかく死にかけた顔をしている。何が起きたんだ?
──っていうか、なんで人のベッドの横にいるのよ、変態め。
そんな風に冷めた目で見つめる。
「め……目が覚めた……」
どんよりと闇を背負うレオナールが、泣き出しそうな口調で声を出すと、口元を震わせ、滝のような涙を流し始めた。
え⁉ その姿を見て、彼が泣いている姿を晒すなんてと、激しく動揺する。レオナールは私のことが大嫌いだ。
それは昔からずっと変わらない。
そんな彼が、最大の弱点となり得そうな姿を見せるわけがない。
この状況を理解できずにこう尋ねた。
「誰かしら?」
「え? 俺のことが分からないのか?」
驚く彼の涙が、ぴたりと止まる。
レオナールのことを馬鹿にして言ったはずなのに、質問を質問で返された。
『俺のことが分からないのか』って、はて? そんな疑問符が頭をくるくると回るが、震えながら呼吸する彼に、ふざけている雰囲気もない。
どうしてそんな風に彼は尋ねるのかしらと、考える。
そうすれば、私の記憶は頭を強く打ったところで消えていた。
そのうえ、そっと頭に手を当てれば、布が巻かれている。
感触的には包帯のような気がする。
──ああ、なるほどね、と自分の置かれた状況を察した。
頭を強く打った私の記憶が飛んでいると勘ぐり、「俺のことが分からないのか?」と、質問してきたのかもしれない。
最後の記憶があるのは、パーティーの帰り道である。
公爵家のお屋敷を出発した馬車は、止まるはずのない場所で突如として停止し、馬車の扉が勢いよく開き、男たちに外へと引きずり出された。
確か三人くらいの男がいたはずだ。
横に広がる草むらに連れ込まれたのは覚えている。
彼らは私が着ているドレスの胸元を引き裂こうとしていたけど、思いのほか豪華なため、ビクともしなかった。
素手でどうこうしようと思っても、話にならなかったようだ。
それもそうだろう。レオナールの怨念のこもった刺繍がびっしりと入っていたのだから、強度だけは最高である。もはや鎧みたいに。
破きたくても鎧みたいなドレスには手も出せず、彼らが慌てていれば、額から血を流す公爵家の御者が走ってきたはず。
近づいてくる人の気配に気づき、私の首からネックレスを引きちぎった彼らは一斉に走り出した。
このまま犯人を逃がしてなるものかと考えた私は、そのうちの一人を必死に取り押さえようとして……彼が持っていた棒で頭を殴られた。
そこで記憶が終わっている。
ひとしきり全ての状況を整理し終えると、心の中の悪魔が囁く。
もし、『記憶喪失のふり』をすれば、レオナールと約束した『婚約者のふり』をちゃらにできる気がする。
逆にこのまま現実に戻れば、独身貴族を五年も謳歌したいレオナールと安直に交わした契約が待っている。
そうなれば、私が二十二歳になるまで婚約者のふりをさせられるのだ。
あのときの私は、なんて愚かだったのだろう……。
契約期間を確認しなかった私も悪いが、五年は長い。
今はみずみずしい乙女も、冗談抜きで枯れ木になり兼ねない。
一度は公表した婚約発表だって、婚約者である私が記憶喪失と分かれば、有責も何もあったものじゃない。
何の問題もなく、両家納得のうえでこの婚約を破談にできるはず。
婚約解消が成立してから、折をみて、体よく私の記憶が戻ったことにすれば、今までと同じ人生が待っている。
そう、そう、そう!
貧乏子爵家の令嬢として、パッとしない人生が、この先も平坦に続く。
盗賊の皆さまぁぁあ!
よくぞ私を狙ってくれたわ。
近所のリスしか寄って来ない冴えない枯れ木令嬢を!
こうなれば、もう感謝、感謝、感謝しかないわよぉぉぉおー!
おっといけない。感情が昂りすぎた。
ごほんっ、と内心咳払いをして、気を取り直す。
兄の教えを、今、存分に生かすときがきた──。
「あなたは誰?」
にやけるな自分と言い聞かせながら、ぼそっと発する。
ちらっと流し目で窺ってみたが、誰か分からない。
死んだ魚のような目をした金髪の青年だ。黒髪ではないところをみると兄ではない。
よーく、よーくその人物を見れば、「へ?」と変な声が漏れた。
なんと! 私のベッドサイドに泣き腫らした顔のレオナールがいるのだ‼︎
いつものキラキラしい彼はいづこへ。
レオナールの形の良い眉は、不安気にぐにゃりと曲がり、彼の自慢の目は赤く充血している。瞼は随分と重そうだ。そんな姿は見たことがない。
生気を失いやつれ果てた彼は、とにかく死にかけた顔をしている。何が起きたんだ?
──っていうか、なんで人のベッドの横にいるのよ、変態め。
そんな風に冷めた目で見つめる。
「め……目が覚めた……」
どんよりと闇を背負うレオナールが、泣き出しそうな口調で声を出すと、口元を震わせ、滝のような涙を流し始めた。
え⁉ その姿を見て、彼が泣いている姿を晒すなんてと、激しく動揺する。レオナールは私のことが大嫌いだ。
それは昔からずっと変わらない。
そんな彼が、最大の弱点となり得そうな姿を見せるわけがない。
この状況を理解できずにこう尋ねた。
「誰かしら?」
「え? 俺のことが分からないのか?」
驚く彼の涙が、ぴたりと止まる。
レオナールのことを馬鹿にして言ったはずなのに、質問を質問で返された。
『俺のことが分からないのか』って、はて? そんな疑問符が頭をくるくると回るが、震えながら呼吸する彼に、ふざけている雰囲気もない。
どうしてそんな風に彼は尋ねるのかしらと、考える。
そうすれば、私の記憶は頭を強く打ったところで消えていた。
そのうえ、そっと頭に手を当てれば、布が巻かれている。
感触的には包帯のような気がする。
──ああ、なるほどね、と自分の置かれた状況を察した。
頭を強く打った私の記憶が飛んでいると勘ぐり、「俺のことが分からないのか?」と、質問してきたのかもしれない。
最後の記憶があるのは、パーティーの帰り道である。
公爵家のお屋敷を出発した馬車は、止まるはずのない場所で突如として停止し、馬車の扉が勢いよく開き、男たちに外へと引きずり出された。
確か三人くらいの男がいたはずだ。
横に広がる草むらに連れ込まれたのは覚えている。
彼らは私が着ているドレスの胸元を引き裂こうとしていたけど、思いのほか豪華なため、ビクともしなかった。
素手でどうこうしようと思っても、話にならなかったようだ。
それもそうだろう。レオナールの怨念のこもった刺繍がびっしりと入っていたのだから、強度だけは最高である。もはや鎧みたいに。
破きたくても鎧みたいなドレスには手も出せず、彼らが慌てていれば、額から血を流す公爵家の御者が走ってきたはず。
近づいてくる人の気配に気づき、私の首からネックレスを引きちぎった彼らは一斉に走り出した。
このまま犯人を逃がしてなるものかと考えた私は、そのうちの一人を必死に取り押さえようとして……彼が持っていた棒で頭を殴られた。
そこで記憶が終わっている。
ひとしきり全ての状況を整理し終えると、心の中の悪魔が囁く。
もし、『記憶喪失のふり』をすれば、レオナールと約束した『婚約者のふり』をちゃらにできる気がする。
逆にこのまま現実に戻れば、独身貴族を五年も謳歌したいレオナールと安直に交わした契約が待っている。
そうなれば、私が二十二歳になるまで婚約者のふりをさせられるのだ。
あのときの私は、なんて愚かだったのだろう……。
契約期間を確認しなかった私も悪いが、五年は長い。
今はみずみずしい乙女も、冗談抜きで枯れ木になり兼ねない。
一度は公表した婚約発表だって、婚約者である私が記憶喪失と分かれば、有責も何もあったものじゃない。
何の問題もなく、両家納得のうえでこの婚約を破談にできるはず。
婚約解消が成立してから、折をみて、体よく私の記憶が戻ったことにすれば、今までと同じ人生が待っている。
そう、そう、そう!
貧乏子爵家の令嬢として、パッとしない人生が、この先も平坦に続く。
盗賊の皆さまぁぁあ!
よくぞ私を狙ってくれたわ。
近所のリスしか寄って来ない冴えない枯れ木令嬢を!
こうなれば、もう感謝、感謝、感謝しかないわよぉぉぉおー!
おっといけない。感情が昂りすぎた。
ごほんっ、と内心咳払いをして、気を取り直す。
兄の教えを、今、存分に生かすときがきた──。
「あなたは誰?」
にやけるな自分と言い聞かせながら、ぼそっと発する。
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