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第2話
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「白石さんって、邦ロック聴かれるんですか?」
すっかり気を抜いて、ボーっとポスターを眺めていたところに、隣にいる後輩君が急に話を振ってきた。
「まあそうね。前に付き合っていた人の影響で。でもここ最近はあんまりかな」
虚を突かれたせいか、少し余計なことまでしゃべってしまった。
「最近はあんまりって、どうして?」
「んー、なんとなくね。なんだか興味なくなっちゃったのよね」
「なに聴いてたんですか」
どうやらここで会話を終わらせる気はないらしいので、私は仕方なく、よく聴いていたアーティストの名前を何組かあげた。
「良いですね、僕も××××××××なんかよく聴きますよ。『○と○と○』って曲とか」
おっ、なかなか良いセンスしてるじゃないか。
「あれは名曲だねえ。ワードセンスが本当に天才的で、Cメロだって――」
少し早口になっていたことに気がつき、ちらりと顔色を窺う。彼はどこか嬉しそうに、にっこりと笑っていた。
「馬鹿にしてる?」
「とんでもない。素敵だなとおもって」
「馬鹿にしてるでしょ」
すっかりからかわれてしまったな、などと思っていると、彼はさらに予想外の質問を私にぶつけてきた。
「まだ好きなんじゃないですか?」
「ええっ?何を言って――」
「元彼さんのことじゃなくて、音楽のほうですよ。本当はいまも好きなんじゃないかと思って」
「なんだ……びっくりした。紛らわしい言い方しないでよね。」
「それでどうなんですか?」
「どうって……」
彼と付き合う前の私は、流行りの曲を聴き流す程度にしか音楽を聴かない人間だった。邦ロックなんて全く詳しくなかった。
私は彼の好きな音楽が好きだった。嬉しそうに大好きな曲やアーティストについて語る彼のことを、見ているのが好きだった。同じ好きなものについて彼と語り合えば、脳が幸せで満たされるのを感じていた。彼の好きなものを好きな私が好きだった。
けれど、私は……
「音楽の話をしている白石さんを、僕は素敵だって思ったんです。いままで僕が見た中でいちばん生き生きしていた。きっかけなんて関係ない。自分の『好き』まで否定しないであげてください」
音楽が私を惹きつけて、いまも尚、私を魅了しているという紛れもない事実を突きつけられて、しばらく言葉を返すことができなかった。
驚きと同時に、ある感情が心の中をじんわりとめぐっていく。行方不明になっていた何かがパッと、急に躍り出てきたような、そんな感覚に私は浸っていたのだった。
すっかり気を抜いて、ボーっとポスターを眺めていたところに、隣にいる後輩君が急に話を振ってきた。
「まあそうね。前に付き合っていた人の影響で。でもここ最近はあんまりかな」
虚を突かれたせいか、少し余計なことまでしゃべってしまった。
「最近はあんまりって、どうして?」
「んー、なんとなくね。なんだか興味なくなっちゃったのよね」
「なに聴いてたんですか」
どうやらここで会話を終わらせる気はないらしいので、私は仕方なく、よく聴いていたアーティストの名前を何組かあげた。
「良いですね、僕も××××××××なんかよく聴きますよ。『○と○と○』って曲とか」
おっ、なかなか良いセンスしてるじゃないか。
「あれは名曲だねえ。ワードセンスが本当に天才的で、Cメロだって――」
少し早口になっていたことに気がつき、ちらりと顔色を窺う。彼はどこか嬉しそうに、にっこりと笑っていた。
「馬鹿にしてる?」
「とんでもない。素敵だなとおもって」
「馬鹿にしてるでしょ」
すっかりからかわれてしまったな、などと思っていると、彼はさらに予想外の質問を私にぶつけてきた。
「まだ好きなんじゃないですか?」
「ええっ?何を言って――」
「元彼さんのことじゃなくて、音楽のほうですよ。本当はいまも好きなんじゃないかと思って」
「なんだ……びっくりした。紛らわしい言い方しないでよね。」
「それでどうなんですか?」
「どうって……」
彼と付き合う前の私は、流行りの曲を聴き流す程度にしか音楽を聴かない人間だった。邦ロックなんて全く詳しくなかった。
私は彼の好きな音楽が好きだった。嬉しそうに大好きな曲やアーティストについて語る彼のことを、見ているのが好きだった。同じ好きなものについて彼と語り合えば、脳が幸せで満たされるのを感じていた。彼の好きなものを好きな私が好きだった。
けれど、私は……
「音楽の話をしている白石さんを、僕は素敵だって思ったんです。いままで僕が見た中でいちばん生き生きしていた。きっかけなんて関係ない。自分の『好き』まで否定しないであげてください」
音楽が私を惹きつけて、いまも尚、私を魅了しているという紛れもない事実を突きつけられて、しばらく言葉を返すことができなかった。
驚きと同時に、ある感情が心の中をじんわりとめぐっていく。行方不明になっていた何かがパッと、急に躍り出てきたような、そんな感覚に私は浸っていたのだった。
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