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異世界、始めてみました。
アブラカタブラ
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「はい?分厚くて大きめの絨毯ですか?」
「えぇ、なるべく丈夫な物を探していて」
「ちょっとお待ち下さいね、何せ夏に絨毯を探す人などいなくて、奥にしまったんですよ」
家具など専門的に扱ってるお店は、シルバにはない。
この世界の全ての知識を持つトムは、シルバの町の店舗状況も把握していた。
最早、知識というよりガイドブックである。
家具屋はないと聞いて落ち込んだけど、トム曰く、雑貨屋なら絨毯を扱ってるかもしれない、ということで二人して訪れてみた。
因みに、これでもし絨毯が見つからなければ、トムに箒の姿に変身してもらい、荷物を括って空を飛んで帰ることになっている。
箒に乗りたくない私は、もう藁にも縋る思いで雑貨屋にきた。あの死のカーブは二度と経験したくない。
けど、今の季節に絨毯を買うような人はいないらしく、雑貨屋の店主は奥に探しに行くと言って、それきり戻ってこない。
「もし、そんなに箒が嫌なら私が絨毯に変身しましょうか?」
「いや、それはそれで」
正直、トムの箒の運転の荒さを経験してるので、それは出来れば遠慮したい。
「トムは、そんなに空の移動を私に勧めたいの?」
「もちろん。今じゃ箒を乗る者も少なく、前ほど事故率も高くありません。
それに、早いし、箒自身の置くスペースも確保が簡単で、空を飛ぶとき以外は掃除にも使える。
こんなに便利で効率的な物はありませんから」
淀みないトムの返事に、私は思いっきり溜息をついた。
早くて便利なのはいいけど、そこに安全も考慮してくれたらどんなに良いことか。
この辺りの価値観は、お互い平行線らしい。
そんなことを考えていると、雑貨屋の店主が頭に埃を被りながら、人の良さそうな笑顔で一巻きの絨毯を運んできてくれた。
「いやぁ、ちょっと奥にあってね。だいぶ埃を被ってるんだが、あいにくと分厚いのだとこれが一番だったかな」
店主以上に埃を被ってる絨毯は、外に出て広げることになった。
雑貨屋の裏庭で絨毯を広げると、ダブルベッドくらいの大きさの絨毯が少し埃をあげ、私は少し咳き込んでしまう。
絨毯の刺繍は、私が想像するようなアラビアンな雰囲気でなく、可憐な小花が細やかに刺繍された、華やかなものだった。
けど、この絨毯は埃を被っていなくても分かるくらい、ボロボロだ。
絨毯は目に見えて色褪せてるし、縁についている房飾りは見る影もない。
虫食いなどはないものの、変なシミとかある。
けど、その絨毯は確かに分厚く、二人くらいなら支えられそうなくらい丈夫そうだ。
試しに、絨毯を浮かせてみた。
勿論、さっきより小声で。
「浮かべ」
さっきより声量は小さめにしてみたけど、絨毯は荷物の時より安定して浮かんでいた。
思い切って乗ってみても、ビクともしない。広さも私が横に寝転がっても大丈夫なくらいなので、トムと二人乗りしても問題なさそう。
ちょっとボロっちいけど、安全の為だからね。後で洗えばいいし。
「これ、頂くわ。幾らかしら?」
「オンボロだし、これならタダで譲ろう」
「え!いいんですか?」
正直、お財布事情が厳しい私としては、有難い。けど、さすがにタダで貰うのは気がひける。
思わず声をあげると、店主は可笑しそうにカラカラと笑った。
その笑い方は、どことなくコノハさんに似ていて懐かしくなる。
「こんなんで良ければ、構わないよ。もうほとんどゴミ扱いだし、引き取ってくれるなら、こっちも助かるからね。
それでも気が引けると言うなら、今度何か作った時、ぜひ僕の店に卸してくれ」
最近は、魔法薬が品薄でね。
そう付け加えられて驚いていると、店主はまた笑った。
何故、私が魔法薬を作ってると分かったのか?
疑問はあるけど、それよりも、さっきみたいな旅の魔法使いのように、薬を売り歩くしか商売出来ないと思っていた私には、その提案はあまりにも魅力的だった。
「もちろん、喜んで。
それでしたら、この絨毯は有難く貰って行きます」
「あぁ、君が作った薬を楽しみにしてるよ。
で、こんな季節外れの絨毯を買った理由を聞いても?」
店主は、浮いた絨毯の上に座ったままの私を、不思議そうに見ながら言った。
トムはいつの間にか荷物を絨毯の真ん中に置き、落ちないように縛っている。
荷物を置いても、トムが乗ろうと、絨毯は安定を保っている。
そう、この安定こそ私が求めていたものだ。箒はバランスをとるのも大変だったもの。
浮いた絨毯の上に、収まるように座る私とトムに首をかしげる店主に、私は彼のようにカラカラと笑った。
「それはもちろん、空を飛ぶためですよ」
絨毯は、私のイメージ通り高度をあげる。
そして、やっぱり私のイメージ通り、店主は口をぽかんと開けながら、私達を見上げていた。
「えぇ、なるべく丈夫な物を探していて」
「ちょっとお待ち下さいね、何せ夏に絨毯を探す人などいなくて、奥にしまったんですよ」
家具など専門的に扱ってるお店は、シルバにはない。
この世界の全ての知識を持つトムは、シルバの町の店舗状況も把握していた。
最早、知識というよりガイドブックである。
家具屋はないと聞いて落ち込んだけど、トム曰く、雑貨屋なら絨毯を扱ってるかもしれない、ということで二人して訪れてみた。
因みに、これでもし絨毯が見つからなければ、トムに箒の姿に変身してもらい、荷物を括って空を飛んで帰ることになっている。
箒に乗りたくない私は、もう藁にも縋る思いで雑貨屋にきた。あの死のカーブは二度と経験したくない。
けど、今の季節に絨毯を買うような人はいないらしく、雑貨屋の店主は奥に探しに行くと言って、それきり戻ってこない。
「もし、そんなに箒が嫌なら私が絨毯に変身しましょうか?」
「いや、それはそれで」
正直、トムの箒の運転の荒さを経験してるので、それは出来れば遠慮したい。
「トムは、そんなに空の移動を私に勧めたいの?」
「もちろん。今じゃ箒を乗る者も少なく、前ほど事故率も高くありません。
それに、早いし、箒自身の置くスペースも確保が簡単で、空を飛ぶとき以外は掃除にも使える。
こんなに便利で効率的な物はありませんから」
淀みないトムの返事に、私は思いっきり溜息をついた。
早くて便利なのはいいけど、そこに安全も考慮してくれたらどんなに良いことか。
この辺りの価値観は、お互い平行線らしい。
そんなことを考えていると、雑貨屋の店主が頭に埃を被りながら、人の良さそうな笑顔で一巻きの絨毯を運んできてくれた。
「いやぁ、ちょっと奥にあってね。だいぶ埃を被ってるんだが、あいにくと分厚いのだとこれが一番だったかな」
店主以上に埃を被ってる絨毯は、外に出て広げることになった。
雑貨屋の裏庭で絨毯を広げると、ダブルベッドくらいの大きさの絨毯が少し埃をあげ、私は少し咳き込んでしまう。
絨毯の刺繍は、私が想像するようなアラビアンな雰囲気でなく、可憐な小花が細やかに刺繍された、華やかなものだった。
けど、この絨毯は埃を被っていなくても分かるくらい、ボロボロだ。
絨毯は目に見えて色褪せてるし、縁についている房飾りは見る影もない。
虫食いなどはないものの、変なシミとかある。
けど、その絨毯は確かに分厚く、二人くらいなら支えられそうなくらい丈夫そうだ。
試しに、絨毯を浮かせてみた。
勿論、さっきより小声で。
「浮かべ」
さっきより声量は小さめにしてみたけど、絨毯は荷物の時より安定して浮かんでいた。
思い切って乗ってみても、ビクともしない。広さも私が横に寝転がっても大丈夫なくらいなので、トムと二人乗りしても問題なさそう。
ちょっとボロっちいけど、安全の為だからね。後で洗えばいいし。
「これ、頂くわ。幾らかしら?」
「オンボロだし、これならタダで譲ろう」
「え!いいんですか?」
正直、お財布事情が厳しい私としては、有難い。けど、さすがにタダで貰うのは気がひける。
思わず声をあげると、店主は可笑しそうにカラカラと笑った。
その笑い方は、どことなくコノハさんに似ていて懐かしくなる。
「こんなんで良ければ、構わないよ。もうほとんどゴミ扱いだし、引き取ってくれるなら、こっちも助かるからね。
それでも気が引けると言うなら、今度何か作った時、ぜひ僕の店に卸してくれ」
最近は、魔法薬が品薄でね。
そう付け加えられて驚いていると、店主はまた笑った。
何故、私が魔法薬を作ってると分かったのか?
疑問はあるけど、それよりも、さっきみたいな旅の魔法使いのように、薬を売り歩くしか商売出来ないと思っていた私には、その提案はあまりにも魅力的だった。
「もちろん、喜んで。
それでしたら、この絨毯は有難く貰って行きます」
「あぁ、君が作った薬を楽しみにしてるよ。
で、こんな季節外れの絨毯を買った理由を聞いても?」
店主は、浮いた絨毯の上に座ったままの私を、不思議そうに見ながら言った。
トムはいつの間にか荷物を絨毯の真ん中に置き、落ちないように縛っている。
荷物を置いても、トムが乗ろうと、絨毯は安定を保っている。
そう、この安定こそ私が求めていたものだ。箒はバランスをとるのも大変だったもの。
浮いた絨毯の上に、収まるように座る私とトムに首をかしげる店主に、私は彼のようにカラカラと笑った。
「それはもちろん、空を飛ぶためですよ」
絨毯は、私のイメージ通り高度をあげる。
そして、やっぱり私のイメージ通り、店主は口をぽかんと開けながら、私達を見上げていた。
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