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魔女の仕事、挑戦してみました。
お散歩はディナーの後で
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結局、三人で冷めた食事を食べ終わる頃には、夜はたっぷりと暮れていた。
この世界に時計はないらしく、体感と月の動きだけが頼りだ。
私はその月の動きがまだ判断が出来ないけれど、トムが私の世界の基準でどれくらいか教えてくれるのが便利すぎて、暫く覚える気もない。
トム曰く、今の時刻は、夜の十時くらい。
メリアローズが一口食べる度に感動するので、だいぶゆっくり食べていたようだ。
私の世界では、人によっては夜の十時など寝るにはまだ早い時間だけれど、この世界では深夜に等しい。
そろそろ寝ようかと、立ち上がったその時、メリアローズが私のスカートをそっと引っ張った。
「どうしたの、メリアローズ?」
視線を合わせるようにしゃがむと、メリアローズがモジモジとして視線をそらした。
この、彼女の感情の昂りでニョロニョロする蔓さえなければ、百点満点で可愛いのになぁ。
「あ、あのね。お礼をしたくて・・・・・・」
「お礼?」
極力、ドレスの裾からはみ出る蔓を見ないようにしながら、答える。
「ご飯のお礼よ。ニンゲンは一宿一飯の恩義とかがあるのでしょう?」
「一宿一飯って、そんな大袈裟な・・・・・・」
メリアローズさんは、随分と難しい言葉をご存知のようです。
「お礼なんて、いらないのよ。私の方こそ、何とか魔力をコントロール?出来る?ようになったし」
感謝したいのは、本当に私の方だ。
多少疑問系なのは、トムが凄い目で睨んでくるからであり、そっとしておいてほしい。
「それでも、ワタシは貴女にお礼がしたいの。とっておきがあるの!素敵な場所なの!
ねぇ、ねぇ!そこまでお散歩しない?」
メリアローズが少し興奮気味に言う。あぁ、蔓がニョロニョロしすぎて、ちょっと怖い。
「深夜に散歩など、危険過ぎます」
間髪入れずにトムが反対する。
けれど、メリアローズはその反論など分かっていたかのように、鼻で笑ってみせた。
「魔法の本は、誘ってないわ。ワタシはセラサクヤをお誘いしてるのよ。
それに、ワタシの森よ。ワタシが側にいるのに、危険など起きるはずもないわ」
けれど、トムも負けていない。
トムはトムで優雅にハーブティーを飲みながら、メリアローズの言葉に静かに反論する。
「私とマスターは一心同体なので、マスターを誘うなら私を誘うも同じこと。
それに、幾ら貴女の森だからといって、危険が全くないとでも?
魔物は魔法のバラの配下なので、襲ってこないかもしれませんが、この森に危険な輩が潜んでるかもしれません。
脅威は幾らでもあるんです。わざわざ夜に出かける必要はありません」
「夜じゃなきゃ意味がないのよ!」
「ほぉ?」
トムは意地悪そうにニヤリと笑うと、本の姿に戻り、私の側にフヨフヨと近づいた。
「そこまで魔法のバラが言うならば、見る価値のある物でしょう。
マスター、何かあれば必ずお守りしますので、出掛けてみては?」
「ちょっと、トム?」
出掛けるのは構わないけど、トムにしてはヤケにスンナリと引き下がった気がする。何か企んでるかと睨むと、本の姿のトムはどこ吹く風で漂うばかり。
本の姿のトムは、当たり前だけど無表情だ。ポーカーフェイスの彼からは、何も読み取れない。
メリアローズはメリアローズで、期待に胸を膨らませている。
散歩は好きだし、この世界ではまだ夜の外出をしていないから、むしろ出掛けるのは賛成だけど。
「まぁ、いっか」
「本当?」
「えぇ、だってメリアローズとお散歩しようって約束したもんね」
そういって笑う、メリアローズは飛び上がって喜んだ。
支度というほど、大した支度はなかったけど、歩いての散歩はメリアローズのリーチが足りなさすぎるということで、彼女を抱えて行くことになった。
メリアローズを抱えて出掛けるに辺り、ちょっと・・・・・・いや、かなり蔓が気になるので、彼女にはピクニックに使うような籠の中に入って貰る。
籠の中から頭を出して、じっとしている姿は、本当にお人形のようだ。
トムは、本の姿でついて来るらしい。
さて、出発ということで家を出れば、まるで昼間と違う様子の森に、一瞬だけど足が竦む。
私の守られている、その敷地の先は闇だった。
昼間でも鬱蒼としていた木々は、夜に呑まれて姿すらも危うい。
あんなに大きな木が近くに行かないと見えないくらい、ほんの一歩先でも不安になるような暗さ。
私の庭は月の光で燦々と照らされていたのに、この違いは何なんだ。
つくづく不思議な家の原理は、また後でトムに聞こう。
「さぁ、行きましょうセラサクヤ。ワタシのとっておきは、きっと貴女も気に入るわ!」
無邪気にはしゃぐメリアローズの籠を、しっかりと両手で握り締め、私は勇気を出して一歩、森の先へと進んだ。
世の中のお盆休みが終わったようなので、更新ペース戻りますー
ご迷惑おかけしました!
この世界に時計はないらしく、体感と月の動きだけが頼りだ。
私はその月の動きがまだ判断が出来ないけれど、トムが私の世界の基準でどれくらいか教えてくれるのが便利すぎて、暫く覚える気もない。
トム曰く、今の時刻は、夜の十時くらい。
メリアローズが一口食べる度に感動するので、だいぶゆっくり食べていたようだ。
私の世界では、人によっては夜の十時など寝るにはまだ早い時間だけれど、この世界では深夜に等しい。
そろそろ寝ようかと、立ち上がったその時、メリアローズが私のスカートをそっと引っ張った。
「どうしたの、メリアローズ?」
視線を合わせるようにしゃがむと、メリアローズがモジモジとして視線をそらした。
この、彼女の感情の昂りでニョロニョロする蔓さえなければ、百点満点で可愛いのになぁ。
「あ、あのね。お礼をしたくて・・・・・・」
「お礼?」
極力、ドレスの裾からはみ出る蔓を見ないようにしながら、答える。
「ご飯のお礼よ。ニンゲンは一宿一飯の恩義とかがあるのでしょう?」
「一宿一飯って、そんな大袈裟な・・・・・・」
メリアローズさんは、随分と難しい言葉をご存知のようです。
「お礼なんて、いらないのよ。私の方こそ、何とか魔力をコントロール?出来る?ようになったし」
感謝したいのは、本当に私の方だ。
多少疑問系なのは、トムが凄い目で睨んでくるからであり、そっとしておいてほしい。
「それでも、ワタシは貴女にお礼がしたいの。とっておきがあるの!素敵な場所なの!
ねぇ、ねぇ!そこまでお散歩しない?」
メリアローズが少し興奮気味に言う。あぁ、蔓がニョロニョロしすぎて、ちょっと怖い。
「深夜に散歩など、危険過ぎます」
間髪入れずにトムが反対する。
けれど、メリアローズはその反論など分かっていたかのように、鼻で笑ってみせた。
「魔法の本は、誘ってないわ。ワタシはセラサクヤをお誘いしてるのよ。
それに、ワタシの森よ。ワタシが側にいるのに、危険など起きるはずもないわ」
けれど、トムも負けていない。
トムはトムで優雅にハーブティーを飲みながら、メリアローズの言葉に静かに反論する。
「私とマスターは一心同体なので、マスターを誘うなら私を誘うも同じこと。
それに、幾ら貴女の森だからといって、危険が全くないとでも?
魔物は魔法のバラの配下なので、襲ってこないかもしれませんが、この森に危険な輩が潜んでるかもしれません。
脅威は幾らでもあるんです。わざわざ夜に出かける必要はありません」
「夜じゃなきゃ意味がないのよ!」
「ほぉ?」
トムは意地悪そうにニヤリと笑うと、本の姿に戻り、私の側にフヨフヨと近づいた。
「そこまで魔法のバラが言うならば、見る価値のある物でしょう。
マスター、何かあれば必ずお守りしますので、出掛けてみては?」
「ちょっと、トム?」
出掛けるのは構わないけど、トムにしてはヤケにスンナリと引き下がった気がする。何か企んでるかと睨むと、本の姿のトムはどこ吹く風で漂うばかり。
本の姿のトムは、当たり前だけど無表情だ。ポーカーフェイスの彼からは、何も読み取れない。
メリアローズはメリアローズで、期待に胸を膨らませている。
散歩は好きだし、この世界ではまだ夜の外出をしていないから、むしろ出掛けるのは賛成だけど。
「まぁ、いっか」
「本当?」
「えぇ、だってメリアローズとお散歩しようって約束したもんね」
そういって笑う、メリアローズは飛び上がって喜んだ。
支度というほど、大した支度はなかったけど、歩いての散歩はメリアローズのリーチが足りなさすぎるということで、彼女を抱えて行くことになった。
メリアローズを抱えて出掛けるに辺り、ちょっと・・・・・・いや、かなり蔓が気になるので、彼女にはピクニックに使うような籠の中に入って貰る。
籠の中から頭を出して、じっとしている姿は、本当にお人形のようだ。
トムは、本の姿でついて来るらしい。
さて、出発ということで家を出れば、まるで昼間と違う様子の森に、一瞬だけど足が竦む。
私の守られている、その敷地の先は闇だった。
昼間でも鬱蒼としていた木々は、夜に呑まれて姿すらも危うい。
あんなに大きな木が近くに行かないと見えないくらい、ほんの一歩先でも不安になるような暗さ。
私の庭は月の光で燦々と照らされていたのに、この違いは何なんだ。
つくづく不思議な家の原理は、また後でトムに聞こう。
「さぁ、行きましょうセラサクヤ。ワタシのとっておきは、きっと貴女も気に入るわ!」
無邪気にはしゃぐメリアローズの籠を、しっかりと両手で握り締め、私は勇気を出して一歩、森の先へと進んだ。
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