異世界・魔法薬の魔女

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勇者、拾っちゃいました。

言語コミュニケーション

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「どういうこと?」
「そのままの意味ですよ、彼は招かれざる異世界人です」
 そのままの意味と言われても、私にとってはチンプンカンプンだ。
「言葉が通じないでしょ?
 私達が移住者を招く時、言葉が通じないと不便だから必ず、必ず言語の祝福を贈るの」
 メリアローズが私を守るように、蔓を揺さぶりながら言った。
「それにこの世界ではまずない色素の髪に瞳、すぐに移住者ってバレるわ。
 移住者ってバレないように、貴女に今の身体をあげたの覚えてる?」
「あぁ、そういえば」
「移住者たちがこの世界で暮らしやすいように、私達は最善を尽くすわ。
 なのに、なのに彼は何もない。この世界で生きるための言葉も、身体も、そして魔力だって感じられない」
 メリアローズが、緊張したように男を見つめる。
「おい、あんた。言葉が通じるんだろ?
 いい加減、状況を教えてくれないか?さっきから、訳の分かんない言葉でさっぱりだ」
 男は、心底困り切った顔で私に言った。
 けれど、その言葉には思ったよりも不安などは感じられない。どこか飄々とした物言いに、私は思わず顔を顰めた。
「彼はなんと?」
 トムが私に問う。この世界では全ての知識を持つトムも、異世界の言葉は分からないらしい。
「状況を教えろってさ。何だかさっぱり分からないから困ってるみたい」
「・・・・・・あまり、そんな風に見えませんが」
「あ、トムもそう思う?」
 言葉が通じたと分かった途端、男は先程の緊張感などなかったのように肩の力を抜いていた。
 それでも剣の切っ先は私に向けたまま、ピクリとも動かない。
「まず、その剣を下げてくれない?」
 その物騒な物をずっと突き付けてるから、さっきからトムもメリアローズも戦闘モードマックスだ。
 特にトムが怖い。メリアローズは視覚的に怖いけど、トムの場合はオーラが怖い。
「それは出来ない。俺が殺されそうだ」
「ですよねー」
 爽やかな笑顔で返されて、私も思わず笑ってしまう。
 私だって、こんな状況なら警戒するだろう。
 それに、恐らくだけど、トムとのファーストコンタクトも最悪だったんだろう。めっちゃ大声あげてたもんね。
 私と男が笑っているのを見て、トムが不愉快そうに顔を歪めた。
 彼の言葉は分からなくても、私の喋ってる言葉は分かるのかと思ったけど、そうじゃないらしい。
 どうやら、自動的に会話の相手と同じ言葉になるみたいだが、話してる私としてはよく分かんない。
「まぁ、まずは私は貴方に敵意はないので安心して欲しい、です」
 私以外の2人の保証出来ないけど。
「私はセラサクヤ。適当にサクヤって呼んで貰えると嬉しいかな?」
 この世界では実は、ファミリーネームというのが存在しない。
 名乗る度に、皆私のことをフルネームで呼ぶから不思議だったんだよねー。それを知ったのはメリアローズに会ったすぐ直後。
 それからはフルネームで名乗るのやめようと思ってるんだけど、ついつい言ってしまう。
「貴方は?」
 そう聞くと男は一瞬考え込んだけど、すぐに名前を名乗った。
「俺はエスの国のリノレイ。リノレイ・シーだ。
 長いから皆はリノって呼ぶ。
 この場合、あんたは命の恩人か?それとも、俺を地獄に引き摺り込む悪魔か?」
「随分と二極化してるのね」
「何せ、言葉が通じないもんでね」
 リノレイと名乗った男は、肩を竦めて笑った。
「それで、サクヤ。あんたはどっちだ?」
 そうリノレイが言った瞬間、トムが凄い形相で私に詰め寄ってくる。
「マスター!何、名前で呼ばせてるんですか!?」
「え、なに、そこ?」
 言葉が分からないなりに、トムは私とリノレイの声に耳を澄ませていたらしい。せいじくんか、お前は。
「なぁ、サクヤ。あんたの横にいる男も、その物騒な足の女の子も、ちょっと落ち着いてもらった方がいいんじゃないか?」
「貴様!またマスターの名を呼んだな!!」
 おいおい、トムくん。貴様とか言わないの。
 そして、メリアローズは我慢の限界なのか、いつの間にか足の蔓が部屋全体を覆っていて、今にもリノレイを襲いそうだ。
 いや、未だに私に向いている剣先が少しでもブレたら、彼女は間違いなくリノレイを襲うだろう。
「いや、二人とも!とりあえず、落ち着いて!」
「落ち着く?セラサクヤに剣を向けてるのに?」
「幾らマスターの頼みとはいえ、それは聞けませんね」
 何時もは仲悪いのに、こんな時だけ仲が良いのね、貴方たち。
 思わずため息を吐くと、リノレイが可笑しそうに笑った。
「説得は無理だったのか?」
「おかげさまでね」
 なんのおかげさまなのか、全く分からないけど。
「これじゃあ、ゆっくり喋れないわね」
 リノレイが何でここに来たのか、どうしてあんなに酷い傷を負っていたのか、ゆっくり聞きたかったんだけど、二人が落ち着かない限り無理だろう。
「何だ、それなら簡単だ」
「え?」
「二人っきりになれば、ゆっくり喋れるだろう?」
「はぁ?」
 思わず聞き返すと、リノレイは真面目な顔でこちらを見ている。
「無理でしょ」
 この二人が私を一人にする筈がない。さらに言えば、得体の知れないリノレイと二人っきりにするほど、トム達は心穏やかなタイプではない。むしろ、さっきから殺気立っている。
「なに、簡単さ」
 そう言って、リノレイは笑った。
 その瞬間。
「は?」
 少し離れていた所にいたリノレイが、私の目の前にいた。
「マスター!!」
「セラサクヤ!!」
 トムとメリアローズが同時に叫ぶ。
 メリアローズは間髪入れずに蔓で襲いかかってきた。
 けど、それより速くリノレイが私の腰を抱く。
「風よ」
 そう呟いただけで、私達の周りに竜巻が発生した。
 メリアローズの蔓は弾かれ、トムの叫ぶ声が聞こえる。
「ちょっと飛ぶから、口閉じてろ。舌噛むぞ」
 そうして彼は私を抱きしめたまま、躊躇なく窓を突き破って外に飛び出した。
 ちょっとちょっと!魔法使えんじゃんこいつ!!
 
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