異世界・魔法薬の魔女

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勇者、拾っちゃいました。

異世界人と異世界人

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 目が醒めると、一番最初に目の前に飛び込んできたのは美しい白い薔薇だった。
 そして、私の身体を覆うウニャウニャした蔓。まるで、囚人のようにベッドに縛り付けられている。
「・・・・・・メリアローズ」
「あぁ!セラサクヤ!起きたのね!!」
 声を掛けた途端、目の前の薔薇が起き上がり、その下にある可愛らしい顔を涙で濡らしたメリアローズが、心配そうに私の顔を覗き込んだ。
 思わず頭を撫でようと手を動かそうとしたけど、蔓に抑えられた身体は微動だにしない。
「あの、メリアローズ?」
「心配したのよ!心配したのよ!!だって、だって!貴女、倒れたのよ!?」
 興奮した彼女が、私の首に縋り付きながら叫ぶ。苦しくはないけど、うねりまくる蔓が気持ち悪いんだよねぇ。
「メリア」
「あぁ、本当に!本当に良かった!目が覚めて!目が覚めなければ、男を殺して貴女の魔力を戻そうと思ったのだけど、しなくて済んだわ!!」
「いや、せっかく助けたんだから殺さないでよ」
 早めに目が覚めて、本当に良かった。
「貴女を助けるのに犠牲が必要なら、どんな犠牲でも厭わないわ!」
「・・・・・・厭ってください」
 メリアローズならやり兼ねないので思わずそう言うと、可愛らしい顔が少し剥れた。
 心配してくれるのは有難いけど、さすがにちょっと重いぜメリアローズ。
 重いといえば、心配性のトムの姿が見えない。彼ならメリアローズと同じように私が目覚めるまで張り付いていそうだけど、今はいないようだ。
「とりあえず、トイレに行きたいから蔓外してくれない?」
「あら、そんなのここですればいいじゃない?」
「いやいやいやいや!さすがにそんなハードプレイ嫌だから!!」
 触手プレイにお漏らしとか、本当に勘弁して下さい!私はそういうジャンル目指してないから!!
 心配を拗らせたメリアローズを説得するのに、だいぶ時間はかかったけど、とりあえず人としての尊厳は守れたことだけは言っておく。
 言う必要はないけどね!


 無事にトイレも済ませて、速攻でメリアローズの元に戻ると、ベッドに張り巡らせていた蔓は大人しくドレスの中に仕舞われていた。
 少し落ち着いたらしいメリアローズの様子にホッとしながら側に行くと、安心したように彼女は笑った。
 どうやら、相当心配をかけたらしい。
 慰めるように、今度こそ彼女の頭を撫でてやる。
 素直に頭を預けてくるメリアローズは、どこか小動物のようで可愛らしい。
「そういえば、トムは?」
 メリアローズとは、違った意味で心配なのがトムだ。
 トムならせっかく助けた男の人に無体などしないだろうけど、私への説教が怖い。
「魔法の本は、男の世話をしているわ」
 別に放っておけばいいじゃない、と拗ねるメリアローズを抱きあげる。
 文句は出ないので、とりあえず機嫌は少し上昇したようだ。
 人助けとはいえ、トムにも心配をかけただろう。意識を失う前にみた顔は、泣きそうだった。
 これは、早めに謝るに越したことないと思い部屋を出ると、すぐ隣の客室から聞いたことのない男の人の怒声が聞こえた。
「トム!?」
 トムは姿が変わっても、声だけは変わらない。
 聞き覚えのない声は、おそらく私が助けた人だろう。
 慌てて部屋に飛び込むと、そこにはトムが見たこともない怒りの形相で立ち尽くしている。
 そして、目を覚ましたであろう男が、剣を持って構えていた。
 お互いに傷はない。戦った訳ではないのだろうけど、二人の間には酷い緊張感が漂っていて、私は声をかけることもできなかった。
「お前らは、誰だ?」
 男が喋る。
 その声には疲れが滲んでいるけど、死にそうではない。
 鎧は外されていて、上半身が裸だ。思ったよりも細マッチョなその身体に古い傷はあっても、真新しい傷はない。
 どうやら、私の魔法は上手く発動したらしい。あんな呪文、というなお呪い、大声で叫ぶのは嫌だけど、治ったなら良かった。
「ここは、何処だ?
 誰が俺の傷を治した?
 お前らは」
 誰だ?
 男がもう一度、トムに問う。
 けれど、トムは答えずに男を睨みつけたままだ。
「おい!!」
 返事をしないトムに痺れを切らしたのか、男が叫ぶ。
 そして、トムに向かっていた剣先が私に真っ直ぐ向かった。
 その途端、メリアローズが殺気立ち、トムの髪が逆立った。
 それでも、男は臆すことなく私を見つめる。その瞳の色は見たこともない深いエメラルドグリーンだ。
「もう一度、問う。
 お前らは誰だ?
 ここは何処だ?
 何の目的があって俺を助けた?」
「誰かを助けるのに理由がいるの?」
 吐き捨てるような言い方に、思わずそう答えると、男は驚いたように目を見開いた。
「あんた、言葉が通じるんだな?」
「どういうこと?」
「マスター、あまり喋らないで下さい」
 トムは警戒したように、私に言った。
「彼は異世界人です。それも、マスターとは違う方法できた、ね」
 私は思わず声を失って、目の前の異世界人を唖然と見つめてしまった。

 
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