異世界・魔法薬の魔女

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勇者、拾っちゃいました。

あなたは正義の勇者さま

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 豊かな自然に現実逃避をしても、目の前のリノレイは決して消えはしない。
 なんてったって水色の髪だ。否が応でも目に入る。
 改めて、彼に異世界に来てしまったことをどう説明するか考える。
 いや、私だって異世界トリップですけどね。何というか、魔法のない世界から魔法のある世界に行くから異世界感がより出るわけであって、元々魔法のある世界から魔法のある世界にトリップしても、そんな新鮮味ないじゃない? 
 この場合、新鮮も何もないのだけど、違いがあるから信じられるというか、何というか。元の世界とあまり変わらないからこそ、リノレイは自分の世界のどっかの片田舎だと思ってるみたいだしね。
 まず、ここが異世界だというのも信じて貰うのに時間がかかりそうだ。
 そういえば、彼は私の庭で凄い傷を負って倒れていたけれど、一体何があったんだろう?
 上半身が裸のままのリノレイの身体は、小さな傷跡から大きな傷跡まで様々なバリエーションで彩られている。
「なぁ、そういやあんたが俺を助けてくれたのか?」
「え、あぁ。まぁね?」
「そうか・・・・・・ありがとう」
 小さな声で礼を言うリノレイに、私は思わず微笑んだ。
 子供じみたお呪いも、この世界では結構役に立つものね。
「あんたの魔法は凄いな。あの怪我も、呪いもなくなった」
「呪い?」
 リノレイの口から、随分とキナ臭い言葉が飛び出してきて眉をひそめると、少しだけ後悔したように彼は笑った。
「そういや、ここは公用語も通じないし田舎だったな。俺の事も、本当に知らないようだし」
「え、リノレイって有名人なの?」
「俺は、聖王国に選ばれた勇者だ。魔王を倒す為に旅に出て、やっとの思いで奴を倒したんだが」
 は?
 いま、サラッと凄い事言った?
「魔王を倒す為に、力と引き換えに記憶を失う呪いにかかってて」
 「うんちょっと待ってパワーワードばかりでテンパるからちょっと待って」
「あ、あぁ」
  私がいっきに一息で言うと、その勢いに負けたリノレイが引き攣りながら頷いた。
 とりあえず、一呼吸。
「勇者なの?」
「一応な。精霊王に選ばれて、聖王国の勇者って言われてる」
「呪われてたの?」
「精霊王と契約して、全ての精霊魔法を使える代償に記憶を失くす呪いを受けたんだ」
「・・・・・・魔王は?」
「倒したよ。まぁ、相討ちみたいなもんだが。全ての記憶と引き換えに、奴を倒した」
 うぇーい、マジかよ。本物の勇者じゃん。
「俺は俺が誰だか分からなくなったまま、大怪我を負って倒れてたんだ。
 その瞬間は、まるで廃人のようだったよ。何の感情も湧かずに、ただ血を流して倒れていたからな」
 リノレイは自分の手をジッと見つめながら、話を続けた。
「俺は、ただ無感動に死ぬんだって思ってたけど、目が覚めたら知らないベッドの上だろ?
 それに、俺は俺を思い出してた。
 名前も、自分の地元のことも。辛かった旅路も。美しかった景色も」
「リノレイ・・・・・・」
「身体が飛び上がるほど、嬉しかったよ。正直、心が踊るなんて感動は、勇者になってからは殆どなかったからな」
「大変だったのね」
 勇者として選ばれて、強い力と引き換えに記憶を失う呪いを受けて、それでも魔王を倒したリノレイ。
 きっと、こうやって目の前で笑ってるのが奇跡なんだろう。
「大変だったが、まぁ、生きてた。ただ生きてるだけじゃなく、記憶もある。
 それだけで、充分さ」
そう言い切ったリノレイは、嬉しそうに顔をクシャクシャに歪めた。
 その笑顔に思わず目を奪われていると、何故か彼の吸い込まれるような緑の瞳がツヤツヤの葉っぱに隠された。
「え?」
「は?」
 突然の出来事に私もリノレイも固まっていると、リノレイの背中から美しい緑の巻き毛の少女がチョコンと顔を覗かせて、悪戯っぽく笑った。その拍子に、リノレイの目を覆い隠した葉っぱがカサカサと揺れる。
「せっかく良い雰囲気なのに、邪魔しちゃってごめんね」
 少女はクスクスと笑った。その笑い方はコノハさんそっくりで・・・・・・いや、まさか。
「どうしてもファーストコンタクトの人は拘束するルールがあるからね」
「なんだ!?あんた、誰だ??」
 リノレイが必死で視界を覆う葉を退かそうとしてるけど、まるでビクともしない。そしてその後ろで、少女はニコニコと笑っている。
 白い肌は不健康なくらい白いけれど、緑の髪は驚くほど豊かで、その瞳はメリアローズの瞳と良く似た土の色。
 ・・・・・・まさかとは思うけど。
「えっーと、もしかしてグリンダ様?」
「あぁ、セラサクヤ!久しぶり!メリアローズが世話になってるね」
 爽やかに笑うグリンダ様に、必死に拘束を解こうとするリノレイ。
 どんなにリノレイが力を込めても、その葉は動かないだろう。
 だってこの人、神様だもんね。
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