44 / 51
勇者、拾っちゃいました。
あなたは正義の勇者さま
しおりを挟む
豊かな自然に現実逃避をしても、目の前のリノレイは決して消えはしない。
なんてったって水色の髪だ。否が応でも目に入る。
改めて、彼に異世界に来てしまったことをどう説明するか考える。
いや、私だって異世界トリップですけどね。何というか、魔法のない世界から魔法のある世界に行くから異世界感がより出るわけであって、元々魔法のある世界から魔法のある世界にトリップしても、そんな新鮮味ないじゃない?
この場合、新鮮も何もないのだけど、違いがあるから信じられるというか、何というか。元の世界とあまり変わらないからこそ、リノレイは自分の世界のどっかの片田舎だと思ってるみたいだしね。
まず、ここが異世界だというのも信じて貰うのに時間がかかりそうだ。
そういえば、彼は私の庭で凄い傷を負って倒れていたけれど、一体何があったんだろう?
上半身が裸のままのリノレイの身体は、小さな傷跡から大きな傷跡まで様々なバリエーションで彩られている。
「なぁ、そういやあんたが俺を助けてくれたのか?」
「え、あぁ。まぁね?」
「そうか・・・・・・ありがとう」
小さな声で礼を言うリノレイに、私は思わず微笑んだ。
子供じみたお呪いも、この世界では結構役に立つものね。
「あんたの魔法は凄いな。あの怪我も、呪いもなくなった」
「呪い?」
リノレイの口から、随分とキナ臭い言葉が飛び出してきて眉をひそめると、少しだけ後悔したように彼は笑った。
「そういや、ここは公用語も通じないし田舎だったな。俺の事も、本当に知らないようだし」
「え、リノレイって有名人なの?」
「俺は、聖王国に選ばれた勇者だ。魔王を倒す為に旅に出て、やっとの思いで奴を倒したんだが」
は?
いま、サラッと凄い事言った?
「魔王を倒す為に、力と引き換えに記憶を失う呪いにかかってて」
「うんちょっと待ってパワーワードばかりでテンパるからちょっと待って」
「あ、あぁ」
私がいっきに一息で言うと、その勢いに負けたリノレイが引き攣りながら頷いた。
とりあえず、一呼吸。
「勇者なの?」
「一応な。精霊王に選ばれて、聖王国の勇者って言われてる」
「呪われてたの?」
「精霊王と契約して、全ての精霊魔法を使える代償に記憶を失くす呪いを受けたんだ」
「・・・・・・魔王は?」
「倒したよ。まぁ、相討ちみたいなもんだが。全ての記憶と引き換えに、奴を倒した」
うぇーい、マジかよ。本物の勇者じゃん。
「俺は俺が誰だか分からなくなったまま、大怪我を負って倒れてたんだ。
その瞬間は、まるで廃人のようだったよ。何の感情も湧かずに、ただ血を流して倒れていたからな」
リノレイは自分の手をジッと見つめながら、話を続けた。
「俺は、ただ無感動に死ぬんだって思ってたけど、目が覚めたら知らないベッドの上だろ?
それに、俺は俺を思い出してた。
名前も、自分の地元のことも。辛かった旅路も。美しかった景色も」
「リノレイ・・・・・・」
「身体が飛び上がるほど、嬉しかったよ。正直、心が踊るなんて感動は、勇者になってからは殆どなかったからな」
「大変だったのね」
勇者として選ばれて、強い力と引き換えに記憶を失う呪いを受けて、それでも魔王を倒したリノレイ。
きっと、こうやって目の前で笑ってるのが奇跡なんだろう。
「大変だったが、まぁ、生きてた。ただ生きてるだけじゃなく、記憶もある。
それだけで、充分さ」
そう言い切ったリノレイは、嬉しそうに顔をクシャクシャに歪めた。
その笑顔に思わず目を奪われていると、何故か彼の吸い込まれるような緑の瞳がツヤツヤの葉っぱに隠された。
「え?」
「は?」
突然の出来事に私もリノレイも固まっていると、リノレイの背中から美しい緑の巻き毛の少女がチョコンと顔を覗かせて、悪戯っぽく笑った。その拍子に、リノレイの目を覆い隠した葉っぱがカサカサと揺れる。
「せっかく良い雰囲気なのに、邪魔しちゃってごめんね」
少女はクスクスと笑った。その笑い方はコノハさんそっくりで・・・・・・いや、まさか。
「どうしてもファーストコンタクトの人は拘束するルールがあるからね」
「なんだ!?あんた、誰だ??」
リノレイが必死で視界を覆う葉を退かそうとしてるけど、まるでビクともしない。そしてその後ろで、少女はニコニコと笑っている。
白い肌は不健康なくらい白いけれど、緑の髪は驚くほど豊かで、その瞳はメリアローズの瞳と良く似た土の色。
・・・・・・まさかとは思うけど。
「えっーと、もしかしてグリンダ様?」
「あぁ、セラサクヤ!久しぶり!メリアローズが世話になってるね」
爽やかに笑うグリンダ様に、必死に拘束を解こうとするリノレイ。
どんなにリノレイが力を込めても、その葉は動かないだろう。
だってこの人、神様だもんね。
なんてったって水色の髪だ。否が応でも目に入る。
改めて、彼に異世界に来てしまったことをどう説明するか考える。
いや、私だって異世界トリップですけどね。何というか、魔法のない世界から魔法のある世界に行くから異世界感がより出るわけであって、元々魔法のある世界から魔法のある世界にトリップしても、そんな新鮮味ないじゃない?
この場合、新鮮も何もないのだけど、違いがあるから信じられるというか、何というか。元の世界とあまり変わらないからこそ、リノレイは自分の世界のどっかの片田舎だと思ってるみたいだしね。
まず、ここが異世界だというのも信じて貰うのに時間がかかりそうだ。
そういえば、彼は私の庭で凄い傷を負って倒れていたけれど、一体何があったんだろう?
上半身が裸のままのリノレイの身体は、小さな傷跡から大きな傷跡まで様々なバリエーションで彩られている。
「なぁ、そういやあんたが俺を助けてくれたのか?」
「え、あぁ。まぁね?」
「そうか・・・・・・ありがとう」
小さな声で礼を言うリノレイに、私は思わず微笑んだ。
子供じみたお呪いも、この世界では結構役に立つものね。
「あんたの魔法は凄いな。あの怪我も、呪いもなくなった」
「呪い?」
リノレイの口から、随分とキナ臭い言葉が飛び出してきて眉をひそめると、少しだけ後悔したように彼は笑った。
「そういや、ここは公用語も通じないし田舎だったな。俺の事も、本当に知らないようだし」
「え、リノレイって有名人なの?」
「俺は、聖王国に選ばれた勇者だ。魔王を倒す為に旅に出て、やっとの思いで奴を倒したんだが」
は?
いま、サラッと凄い事言った?
「魔王を倒す為に、力と引き換えに記憶を失う呪いにかかってて」
「うんちょっと待ってパワーワードばかりでテンパるからちょっと待って」
「あ、あぁ」
私がいっきに一息で言うと、その勢いに負けたリノレイが引き攣りながら頷いた。
とりあえず、一呼吸。
「勇者なの?」
「一応な。精霊王に選ばれて、聖王国の勇者って言われてる」
「呪われてたの?」
「精霊王と契約して、全ての精霊魔法を使える代償に記憶を失くす呪いを受けたんだ」
「・・・・・・魔王は?」
「倒したよ。まぁ、相討ちみたいなもんだが。全ての記憶と引き換えに、奴を倒した」
うぇーい、マジかよ。本物の勇者じゃん。
「俺は俺が誰だか分からなくなったまま、大怪我を負って倒れてたんだ。
その瞬間は、まるで廃人のようだったよ。何の感情も湧かずに、ただ血を流して倒れていたからな」
リノレイは自分の手をジッと見つめながら、話を続けた。
「俺は、ただ無感動に死ぬんだって思ってたけど、目が覚めたら知らないベッドの上だろ?
それに、俺は俺を思い出してた。
名前も、自分の地元のことも。辛かった旅路も。美しかった景色も」
「リノレイ・・・・・・」
「身体が飛び上がるほど、嬉しかったよ。正直、心が踊るなんて感動は、勇者になってからは殆どなかったからな」
「大変だったのね」
勇者として選ばれて、強い力と引き換えに記憶を失う呪いを受けて、それでも魔王を倒したリノレイ。
きっと、こうやって目の前で笑ってるのが奇跡なんだろう。
「大変だったが、まぁ、生きてた。ただ生きてるだけじゃなく、記憶もある。
それだけで、充分さ」
そう言い切ったリノレイは、嬉しそうに顔をクシャクシャに歪めた。
その笑顔に思わず目を奪われていると、何故か彼の吸い込まれるような緑の瞳がツヤツヤの葉っぱに隠された。
「え?」
「は?」
突然の出来事に私もリノレイも固まっていると、リノレイの背中から美しい緑の巻き毛の少女がチョコンと顔を覗かせて、悪戯っぽく笑った。その拍子に、リノレイの目を覆い隠した葉っぱがカサカサと揺れる。
「せっかく良い雰囲気なのに、邪魔しちゃってごめんね」
少女はクスクスと笑った。その笑い方はコノハさんそっくりで・・・・・・いや、まさか。
「どうしてもファーストコンタクトの人は拘束するルールがあるからね」
「なんだ!?あんた、誰だ??」
リノレイが必死で視界を覆う葉を退かそうとしてるけど、まるでビクともしない。そしてその後ろで、少女はニコニコと笑っている。
白い肌は不健康なくらい白いけれど、緑の髪は驚くほど豊かで、その瞳はメリアローズの瞳と良く似た土の色。
・・・・・・まさかとは思うけど。
「えっーと、もしかしてグリンダ様?」
「あぁ、セラサクヤ!久しぶり!メリアローズが世話になってるね」
爽やかに笑うグリンダ様に、必死に拘束を解こうとするリノレイ。
どんなにリノレイが力を込めても、その葉は動かないだろう。
だってこの人、神様だもんね。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる