異世界・魔法薬の魔女

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勇者、拾っちゃいました。

真実は全て彼女と共に

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 グリフィン、というとまず思い出すのは有名な魔法学校の寮だ。
 獅子の身体に鷹の羽根。偉大なこの生き物は、全てを見通す千里眼の持ち主とも言われていたはず。
  四枚の羽根、というのは聞いた事がないけれど、そもそも私の世界では想像上の存在なのだから些細なことだろう。
 青い羽根を優雅に広げて、グリフィンはゆっくりと瞬きをした。その瞳の色はリノレイと同じエメラルドグリーン。
「・・・あら、リノレイ?」
「まさか、マリーナ?」
 目隠しをされたまま、リノレイが信じられないとでも言うように、マリーナと呼んだグリフィンに手を伸ばした。
 マリーナも驚いたように四枚の翼を動かし、伸ばされた手にそっと嘴を乗せる。
「あら、君、生きてるの?それともここ、死後の世界かなにか?」
「悪いが俺は生きてるし、魔王も無事に倒せたよ」
「あら、それは良かったわね。あたしを覚えてるってことは、精霊王の力を使わなくても済んだの?」
「いや、バッチリ使って死にかけた」
「あら」
 そこでマリーナはもう一度リノレイを見て、パチリと瞬きをした。
 「どうやら聞かなきゃ行けない事が沢山あるみたいだけど、取り敢えず、その目隠し何とかならないの?」
「それは、そこの神様とやらに聞いてみてくれ」
 リノレイの身長でスッポリと隠れていたグリンダ様は、肩を竦めて言うリノレイに笑ってダメだと首を振った。
「生憎、ファーストコンタクトでは拘束するというルールがあってね。ルールは絶対さ。
 貴女なら理解してくれるんじゃないかしら、異世界の精霊さん?」
「あら、ここは異世界なのね。通りで、精霊の気配を感じないわけだわ」
「驚かないの?」
 思ったよりも平坦な反応に私が思わず口を出すと、マリーナは不思議そうに首を傾げた。
「異世界の国のセラサクヤさん。例えここが何処でも、私にとって大したことはないのよ」
 名乗りもしていないのに、マリーナは私の名前と出自をなんてことのないように、軽やかやに笑いながら言った。
「お嬢さん、貴女に知識があるかそこまで私は見通せないけど、私は真実を見抜く目を持っているの。
 だから、ここが何処か知らない場所でも私には関係ないわ。だって、私は知ろうと願えばここが何処だか真実を知ることが出来るのだから!」
 翼を広げて笑うマリーナに、リノレイが更に肩をすくめた。
「このマリーナのせいで、俺は勇者に選ばれたんだよ。
 魔王の城に行くのに、マリーナの真実の瞳が必要だったからな」
「あら、私のせいじゃないわよ。あのクソ野郎が決めたんだもの」
「・・・・・・精霊王のことをクソ野郎って呼ぶなっての」
 リノレイの疲れた口調に、私は思わず空気を読んで黙った。聞きたいことは色々あるけど、聞くと長そうだから聞かずにおこう。うん。
「と、取り敢えず、積もる話はあると思うんだけど、マリーナは何でリノレイの身体の中に封印されてたの?」
 そう私が聞くと、マリーナはバサリと大きな音を立て、突然恥じらうように翼で顔を隠した。
「えーっと」
 その様子に、リノレイに助けを求めるように見たけど、生憎、彼とアイコンタクトを取るにはグリンダ様の手が邪魔だ。
「まぁ、君たちはこの世界で自由さ。後は好きに生きてくれ、と伝えたい所だけど、まずは魔王の所に行って生活手段を得た方が良いだろう」
 その中でもマイペースを崩さないグリンダ様は、ノンビリとした口調で爆弾発言をサラリと言った。
「魔王?えっ、この世界にも魔王がいるの?」
「なんだと!この世界にも邪悪な奴がいるのか!?」
 私とリノレイが同時に叫ぶ。
 それでも、グリンダ様は微笑みながら優しい口調で言った。
「そりゃ、人間を治める王がいるように、魔力を治める王もいるさ」
 悪い奴じゃないよ、とグリンダ様がウィンクする。
「つまり魔法使いの王ってことだから、セラサクヤも魔女として生活するなら一度くらい挨拶に行った方がいいだろう。
 暇なら、君も彼らと旅をすればいい。
 この世界は美しいよ?」
「旅かぁ」
 確かに、それは魅力的な提案だ。
そろそろ此処に住んで、1ヶ月。色んな土地を見て見たい気もする。
「でも、せっかく育てている子供達がなぁ」
 見知らぬ土地の見知らぬ花に、私の故郷の花達。いい感じになってきた庭を手放してまで、私は旅などしたくない。
「君、コノハの時もそう言って断っていたね」
 可笑しそうに笑うグリンダ様は、それでも何処か嬉しそうだ。
「君の植物は、私が責任を持とう。だから、安心すればいい」
「あとは、トムがなんて言うか・・・・・・」
 私は良いんですけどね。ウチのトム君は心配性だし、何かリノレイと揉めてたし、多分、というか絶対に旅なんて出してくれないと思うんだよね。
 メリアローズは何だかんだ言って何とかなる気がするけど、トムはなぁ。
「魔法の本に勝てない主人なんて、聞いたことないよセラサクヤ」
「ウチのトムは特別なんです。知ってるでしょ?」
「うん。実はそれを含めて、君は魔王に会いに行くべきだと思うんだ」
「え?」
 その意味が分からなくて、私は思わず聞き返した。
 先ほどまでと打って変わって真剣な顔で、グリンダ様は私を見る。
「魔法の本は本来、意思を持たない受動的なものだ。この世の知識を全て持ちながら、使い手次第で全能の力にもなるし、ただの漬物石にもなり得る存在さ。
 だから、異世界人に託す。彼らが必要な知識を必要な時にだけ使えるようにね」
 けど、とそこで一度、グリンダ様の優しい瞳が私を見据えた。
「トム君には意思がある。人格があり、己の意思で考え、発見し、感情を爆発させる。
 これって実は結構キケンなんだよね」
「はぁ」
「本来、模範しか出来ない彼が個性を見出してしまった。その葛藤で、彼の心のバランスが崩れてしまうかもしれない。
 そうなると、元が巨大な力だからね。危険だし、そんな事になる前に魔王の所に行って相談した方がいいと思うんだ」
  ちょっと何でそこで魔王が出てくるのかよく分かんないけど、トムはどうやら放っておくとヤバいらしいというのは分かった。
「つまり、今のトムは思春期真っ最中ってこと?」
 私の発言に、グリンダ様はちょっとだけ視線を彷徨わせながら、呆れたように笑った。
「・・・・・・君の言い方って時々、身も蓋もないねセラサクヤ」
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