19 / 134
魔法士の弟子
しおりを挟む
♡
次の日、さっそく紹介状を持って魔法士を訪ねた。おかみさんおススメの菓子折りを持参してだ。
元宮廷魔法士団長の住まいは王都の外れにあった。なかなか立派なお屋敷で、執事風の人が取り次いでくれた。玄関ホールで待っていると、階段の踊り場に飾られている大きな肖像画が目に飛び込んできた。
「ヨッシー!あれ見て!」
ミナミはあまりの驚きに指差してしまう。白銀の髪と水色の瞳の、ドレスを着た貴婦人の肖像画だ。
「おばーちゃんの若い時の絵だよ!」
間違いなく火葬の時に現れた美人だ。興奮して騒いでいると、二階から老人が下りてきた。白い髪に長い髭のいかにも魔法使いという感じのローブ姿だ。
「この婦人を知っておるのか?」
老人は厳しい表情で言った。この人が、騎士団長が紹介してくれた魔法士だった。
♡
「そうか…。彼女は亡くなったのか…」
魔法士のおじいさんは若い時、芸妓だった頃のおばあさんの大ファンだったらしい。応接室に通され、おばあさんの死を伝えると、がっくりと項垂れてしまった。
「で、お主らは魔法を習うために弟子入りしたいと?」
暫くして復活した魔法士は皇子とミナミを交互に見た。皇子は頷いた。
「ぜひお願いしたい」
「魔法を習得して何がしたいのだ?小僧」
少し意地悪な質問をされる。ミナミは魔法を習う理由を考えた。
(面白そうだからとかじゃダメかなー。お金儲けたいとか、もっとダメか…)
「魔法がどのようなものか、知りたいだけだ」
皇子はキッパリ言い切った。相変わらず気持ちが良いほど迷いがない。
「知れば使いたくもなろう。得た力を何に使う?」
「自由に生きるために使う」
「ほう…珍しい理由じゃな。してお嬢、お主は?」
魔法士は、今度はミナミに訊いてきた。迷ったが正直に話す。
「あたしは親も兄弟もいないんです。今はハンターで稼いでるけど、いつまでもできる仕事じゃないし。魔力が多めにあるって分かったから、魔法使えるようになりたいなって。あ、でも戦う系じゃなくて、誰かを笑顔にできるような仕事に使いたいです」
こんな将来の夢みたいなことを言ったのは小学生の時以来だった。ミナミは少し恥ずかしくなった。おじいさんは不思議そうに二人を見比べた。
「お主らは兄妹ではないのか?」
「違う。人種が同じだけだ」
王都でも黒髪黒目の人間は珍しいらしい。どこでも兄妹に見られる。
「もしやお主らは異世界人か?!」
何かに気づいたのか、おじいさんは二人の正体を言い当てた。思わず皇子とミナミは目くばせをすると、頷いた。バレたからには認めることにする。
「そうだ。俺たちはこちらの人間ではない」
「二人同時にか?転移時の状況は?」
おじいさんは身を乗り出すように訊いてきた。食いつきがすごい。
「儂の研究は異世界人についてなんじゃ!なんという僥倖だ!」
結構なお年寄りなのに、心配になるほど興奮して叫ぶ。皇子とミナミは呆気にとられた。弟子というより、研究サンプルにされそうな予感がした。
♡
結局、おじいさんの研究への協力を条件に弟子にしてもらえた。お屋敷に住み込みになったので、ぶち子とマダ男を連れて引っ越す。宿代が浮いて助かった。だが給料は出ないので、ハンターで稼ぐ必要はある。
「まずはお主らの魔力量と属性を調べるぞ」
おじいさん、もとい老師はタブレットのような黒い板を出した。
「神殿とは随分違うな」
皇子はあの光る神像みたいなやつだと思っていたらしい。
「あんなものでは正確に数値は測れん。ほれ、手を乗せてみろ」
「じゃあ、あたしから」
ミナミが先に測る。板に手を乗せると、すっと何かが引っ張り出される感覚がする。これが魔力らしい。
板の表面に数字と赤い丸と青い丸、茶色の丸が現れた。
「魔力量は670。属性は火、水、土だな」
老師は神官ほど驚かない。異世界人は大体魔力が多いらしい。
「属性以外の魔法は使えないのか?」
皇子が老師に質問する。
「基本的にはな。属性を付与された魔法具などを使えば、使えぬこともない」
次は皇子の番だ。神殿では像が光って目が潰れそうになったが、今回は大丈夫だろう。
「…魔力量10000…属性は…全属性」
皇子の測定結果を見て、老師の額に汗が滲む。桁違いの魔力量のようだ。
「いや、実質は測定不能か。さすがは異世界人というべきか…」
「全属性とは?」
皇子が全く動じずに問う。何やらぶつぶつ言っていた老師は、やっと自分の世界から帰ってきた。
「ああ、火、水、風、土、雷、光、闇 の7つの属性、全てを持つことじゃ」
(要するにチートってことね)
ミナミはある程度予想していた。おそらく、皇子は何をやってもずば抜けてできる。でも本人には自覚が無い。一切、優越感を感じないのだ。いつも淡々としていて、あんまり幸せそうじゃない。それはちょっと寂しいことなんじゃないか。
(魔法はきっと面白い。ヨッシーも楽しんで習ってもらいたいなぁ)
そう、密かに願う。
おばあさんは死ぬ間際、皇子にミナミを託した。それから彼女は皇子をうらやむことを止めた。チートだけど幸福感の薄い男と、いられるだけ一緒にいようと思い始めたのである。
次の日、さっそく紹介状を持って魔法士を訪ねた。おかみさんおススメの菓子折りを持参してだ。
元宮廷魔法士団長の住まいは王都の外れにあった。なかなか立派なお屋敷で、執事風の人が取り次いでくれた。玄関ホールで待っていると、階段の踊り場に飾られている大きな肖像画が目に飛び込んできた。
「ヨッシー!あれ見て!」
ミナミはあまりの驚きに指差してしまう。白銀の髪と水色の瞳の、ドレスを着た貴婦人の肖像画だ。
「おばーちゃんの若い時の絵だよ!」
間違いなく火葬の時に現れた美人だ。興奮して騒いでいると、二階から老人が下りてきた。白い髪に長い髭のいかにも魔法使いという感じのローブ姿だ。
「この婦人を知っておるのか?」
老人は厳しい表情で言った。この人が、騎士団長が紹介してくれた魔法士だった。
♡
「そうか…。彼女は亡くなったのか…」
魔法士のおじいさんは若い時、芸妓だった頃のおばあさんの大ファンだったらしい。応接室に通され、おばあさんの死を伝えると、がっくりと項垂れてしまった。
「で、お主らは魔法を習うために弟子入りしたいと?」
暫くして復活した魔法士は皇子とミナミを交互に見た。皇子は頷いた。
「ぜひお願いしたい」
「魔法を習得して何がしたいのだ?小僧」
少し意地悪な質問をされる。ミナミは魔法を習う理由を考えた。
(面白そうだからとかじゃダメかなー。お金儲けたいとか、もっとダメか…)
「魔法がどのようなものか、知りたいだけだ」
皇子はキッパリ言い切った。相変わらず気持ちが良いほど迷いがない。
「知れば使いたくもなろう。得た力を何に使う?」
「自由に生きるために使う」
「ほう…珍しい理由じゃな。してお嬢、お主は?」
魔法士は、今度はミナミに訊いてきた。迷ったが正直に話す。
「あたしは親も兄弟もいないんです。今はハンターで稼いでるけど、いつまでもできる仕事じゃないし。魔力が多めにあるって分かったから、魔法使えるようになりたいなって。あ、でも戦う系じゃなくて、誰かを笑顔にできるような仕事に使いたいです」
こんな将来の夢みたいなことを言ったのは小学生の時以来だった。ミナミは少し恥ずかしくなった。おじいさんは不思議そうに二人を見比べた。
「お主らは兄妹ではないのか?」
「違う。人種が同じだけだ」
王都でも黒髪黒目の人間は珍しいらしい。どこでも兄妹に見られる。
「もしやお主らは異世界人か?!」
何かに気づいたのか、おじいさんは二人の正体を言い当てた。思わず皇子とミナミは目くばせをすると、頷いた。バレたからには認めることにする。
「そうだ。俺たちはこちらの人間ではない」
「二人同時にか?転移時の状況は?」
おじいさんは身を乗り出すように訊いてきた。食いつきがすごい。
「儂の研究は異世界人についてなんじゃ!なんという僥倖だ!」
結構なお年寄りなのに、心配になるほど興奮して叫ぶ。皇子とミナミは呆気にとられた。弟子というより、研究サンプルにされそうな予感がした。
♡
結局、おじいさんの研究への協力を条件に弟子にしてもらえた。お屋敷に住み込みになったので、ぶち子とマダ男を連れて引っ越す。宿代が浮いて助かった。だが給料は出ないので、ハンターで稼ぐ必要はある。
「まずはお主らの魔力量と属性を調べるぞ」
おじいさん、もとい老師はタブレットのような黒い板を出した。
「神殿とは随分違うな」
皇子はあの光る神像みたいなやつだと思っていたらしい。
「あんなものでは正確に数値は測れん。ほれ、手を乗せてみろ」
「じゃあ、あたしから」
ミナミが先に測る。板に手を乗せると、すっと何かが引っ張り出される感覚がする。これが魔力らしい。
板の表面に数字と赤い丸と青い丸、茶色の丸が現れた。
「魔力量は670。属性は火、水、土だな」
老師は神官ほど驚かない。異世界人は大体魔力が多いらしい。
「属性以外の魔法は使えないのか?」
皇子が老師に質問する。
「基本的にはな。属性を付与された魔法具などを使えば、使えぬこともない」
次は皇子の番だ。神殿では像が光って目が潰れそうになったが、今回は大丈夫だろう。
「…魔力量10000…属性は…全属性」
皇子の測定結果を見て、老師の額に汗が滲む。桁違いの魔力量のようだ。
「いや、実質は測定不能か。さすがは異世界人というべきか…」
「全属性とは?」
皇子が全く動じずに問う。何やらぶつぶつ言っていた老師は、やっと自分の世界から帰ってきた。
「ああ、火、水、風、土、雷、光、闇 の7つの属性、全てを持つことじゃ」
(要するにチートってことね)
ミナミはある程度予想していた。おそらく、皇子は何をやってもずば抜けてできる。でも本人には自覚が無い。一切、優越感を感じないのだ。いつも淡々としていて、あんまり幸せそうじゃない。それはちょっと寂しいことなんじゃないか。
(魔法はきっと面白い。ヨッシーも楽しんで習ってもらいたいなぁ)
そう、密かに願う。
おばあさんは死ぬ間際、皇子にミナミを託した。それから彼女は皇子をうらやむことを止めた。チートだけど幸福感の薄い男と、いられるだけ一緒にいようと思い始めたのである。
10
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】
のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。
そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。
幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、
“とっておき”のチートで人生を再起動。
剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。
そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。
これは、理想を形にするために動き出した少年の、
少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。
【なろう掲載】
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる