護良親王転生記~南北朝時代の悲劇の皇子は異世界で魔法を極める~

二階堂吉乃

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悪魔の尋問

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       ◇


 老魔法士を生け捕るのに骨が折れた。殺す方が10倍楽だった。何とか地面に叩き落とし、意識が無い事を確認して影に放り込む。他の魔法士もリコリスがあらかた片づけていた。

 皇子が砦に戻ると、ミナミが伝話で話をしていた。王太子と捕虜の交渉をしているらしい。金の話は彼女に任せる。

「ヒナ。もういいぞ。録画を止めろ」

「はい」

 新入りだからと、ヒナには水晶球を持たせて見学だけさせたが、ミナミたちの活躍を興奮して見ていた。仲良くやっていけそうだ。

 皇子は老師に伝話をかけた。先ほど交戦した老魔法士の素性を知っているか訊く。

『ピアーデの宮廷魔法士じゃ。あの誘拐犯の同僚だ』

 これではっきりした。ピアーデ王国は黒だ。

『これからどうするつもりだ?乗り込む気か?』

「そう言ったはずだ。そちらはそちらで気をつけてくれ」

 5万の軍が壊滅したことを、ピアーデと通じた一派はまだ知らない。謀反を起こすなら今だ。

「ところで老師。第二王子派はどうしている?」

『沈黙を守っとる。あの大臣が逮捕されたことで大分勢力が衰えたからの』

 十分警戒をするように言って、伝話を切った。まずは捕らえた魔法士たちの尋問だ。

(女にさせる仕事ではないな)

 仲間たちは楽しそうにネズミを仕分けている。皇子は一人、影に潜った。


       ◆


 ミナミと捕虜の扱いについて話をしていた王太子は、違和感を感じて訊いた。

「ねえミーナ。もしかして、君たちはもう帰らないつもりなのかい?」

 捕虜の身代金をくれだとか、連絡を取りたければ老師と侯爵令嬢が伝話を持っているからとか。まるで旅立つ準備をしているようだ。

『え?当り前じゃないですか。ウチら、すでに犯罪者ですよ。今から国潰す極悪テロ組織ですって』

 あっけらかんと言われる。王太子は衝撃を受けた。慌ててそれを否定する。

「バカな!君たちは我が国の大恩人だ!断じて…」

『そんなの国際社会で通じるんですか?』

 冷静な声でミナミは言った。

他所よその国から見たら恐怖でしょ。ノースフィルド王国に逆らったら、速攻潰されるって』

 反論できない。平民である彼女の方が外交バランスを正しく理解している。

「…でもそれでは…あまりにも」

『だーかーらー。我が国とは関係ない連中が勝手にやったって、言っときゃ良いんですよ。表向きね』

「ミーナ…」

『暫く遠くで稼ぐつもりなんで。ほとぼりが冷めたら恩赦お願いします』

 彼女は伝話を切った。王太子は悔しさに震えた。友は自分と家族を守ってくれた。なのに自分は友を守れない。強くならなければ。彼は生まれて初めて力を渇望した。


       ◆


 闇の中の部屋。捕らえられた老魔法士は目を覚ました。

「起きたか。質問に答えれば生かす。答えなければ殺す。選べ」

 黒髪の若い男はいきなり選択を突き付けてきた。老人は拒否した。

「殺せ」

 己はこの若造に敗れた。生き恥を晒すわけにはいかない。自害しようと身に着けた毒を探るが、全て取り上げられていた。かくなる上は魔法でと、魔力を練るが、なぜか霧散する。

「なんだこの空間は。なぜ魔力が消える?時間が停止しているのか?」

 命乞いより魔法士としての興味が勝つ。矢継ぎ早に訊くと、若造は美しい顔を綻ばせた。

「さすがピアーデ王国宮廷魔法士団の団長殿だな。魔法狂いだ」

「なぜ儂の素性を?」

「お前の部下が吐いたぞ。尋問はお前が最後だ。言っておくが、お前の返答次第で部下たちの生死が決まる」

 老魔法士は驚いた。部下たちが生きていたとは。

「ノースフィルド王国への干渉は誰の指示だ?」

「…」

 己1人の命なら捨てられたが、部下を思うと迷いが生じる。老人の額に汗が滲んだ。

「部下の首を1つずつ落としてほしいようだな」

 美貌の悪魔が影から何かを取り出した。弟子の1人だ。悪魔は剣を抜き、その首筋に当てた。

「王だ。襲撃も誘拐も全て王命だった」

 老人は折れた。部下の首が並ぶ様を幻視したからだ。剣を納めた悪魔は、弟子を影に放り込んだ。

「理由は?」

「…分からん。王は病だと言う者もいれば、寵姫の入れ知恵だと言う者もいる」

 王は変わられた。凡庸だが平和な治世だった。だが2年前に東の国から来た女が寵姫におさまる。その頃から、王は戦闘魔法士の育成に力を注ぐようになった。多くの優秀な魔法士を抱え、宮廷魔法士団は絶頂期を向かえる。

 だが魔法に傾倒した歪な国策は不満を産む。相次ぐ反乱や暴動を魔法士が鎮圧し、王と配下による恐怖政治が行われている。それが今のピアーデ王国だ。

「さあ話したぞ。儂を殺せ。ただし部下は生かしてくれ」

 開き直ったように言い、老魔法士は首を差し出した。

「答えれば生かすと言った。死に急ぐな」

 そう言うと、若造は美しい天使のような微笑を浮かべ、何かの魔法を放った。老魔法士は意識を失った。


       ◇


 皇子は影から出た。やはりピアーデの王城まで行かねばならない。

「宮様!お戻りですか?」

 リコリスが出迎える。他の仲間は砦の食堂で戦勝祝いの宴をしているという。鎧を脱いで彼も向かった。

「あ、ヨッシー!どこ行ってたの?先始めちゃったよ」

「遅れてすまん。尋問をしていた」

 酒の杯をミナミに渡され、席に着く。ヒナが食事を取り分けてくれた。

「さあ皆さん!主役が戻ったよ!も一度乾杯!」「乾杯!!!!」

 酒も入っていないのに上機嫌のミナミの音頭で、砦の兵たちが乾杯を叫ぶ。明日には発たねばならないが、皇子はしばし仲間たちと宴を楽しむことにした。
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