護良親王転生記~南北朝時代の悲劇の皇子は異世界で魔法を極める~

二階堂吉乃

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外伝~トモと友~15 全母連

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          ◇



 大尉は昭和19年のk島に戻って来た。司令部の塹壕前に己の死体が転がっている。生きている味方はいない。戦闘は終わっていた。

『大尉』

 振り向くと部下の1人が立っていた。肉体から離れ、戸惑った様子だ。

『俺たち死んだんですか?』

『そうだ。他の連中はどうした?』

 続々と部下が集まって来た。まだ小銃の引き金に指をかけている者もいる。大尉は戦いは終わったことを伝え、武器を捨てさせた。

 死んだ時の姿のままの者もいる。手足がもげたり、頭が吹っ飛んだ者は治癒魔法で治してやった。

『天宮中隊、全員揃いました!』

 幽界の砂浜に大尉の部隊200名が並んだ。安徳帝が大きな船を出現させる。大尉は部下の前に立った。最後の訓示だ。

『残念だがk島は放棄する。これより本土に帰還する。全員、出身地ごとに乗船しろ』

 霊となっても悔しいものは悔しい。むせび泣く兵も多かった。

『皆、良く戦ってくれた。さあ、帰ろう。家族の元へ』

 大尉は1人1人に声をかけ、船に乗るように促した。あれは神々が乗る天鳥船あまのとりふね。生身では決して乗れない天上の乗り物だ。安徳帝が特別に用意してくれたのだ。

『殿下は?一緒に帰らないのですか?』

 全員が乗り終わると、若い兵が浜に残る大尉に訊いた。

『私は皇族だ。別の船で帰る』

『そうですか…』

『心配するな。行け』

 天鳥船はゆっくりと上昇すると、北の空に向かって飛び立った。大尉は見えなくなるまで見送った。

(終わった)

 そう思ったとたん、目の前が真っ暗になった。



          ◇



 目を開けると空が見えた。先ほどまでいた幽界ではなく、現実の戦場に転がっている。大尉の肉体はまだ生きていたらしい。すぐにでも死にそうだが。

「これで契約完了だよ。友久」

 安徳帝の声がする。姿は見えない。

「自分を犠牲にして200人もの魂を救うなんて。前代未聞だ」

 大尉は帰らない。このままこの島で死ぬ。そういう契約だ。

(ありがとう。お陰で皆を帰せた)

 もう声が出せないので念じた。安徳帝の気配が揺らぐ。やがて戦場の瓦礫の中には大尉1人が残された。

 走馬灯のように過去が思い出される。

 傍系の皇族、しかも三男。否応なく海軍兵学校に入れられた。軍人になったことを後悔はしていない。だがこの南方の戦場に送られたのには上層部の意図があった。一般の兵卒たちにとって大尉は雲上人だ。宮様、殿下と呼ばれる度に、罪悪感を感じていた。

 軍はとっくにこの島を見限っていた。大尉の派遣はそれを誤魔化すためだ。

(早く降伏していれば…)

 もしやり直せたら、戦争を止められるほどの地位に着いてやる。絶対だ。妙な野望が我ながら可笑しかった。

 意識が遠くなってきた。その時、親友の声が聞こえたような気がした。

「トモ!?」

 

          ◆



 安置室で治癒魔法をかけていたユリウスは、唐突に現れた女性に驚いた。長い黒髪にキモノと呼ばれる衣服。ミーナ妃に似た容貌をしている。女性はおっとりとした口調で話しかけてきた。

「あの。トモさんの旦那様かしら?」

 勇気の父親だが、トモの夫ではない。何と答えて良いか迷っていると、女性は伝話を取り出した。

「全母連の代表を務めます、建礼門院と申します。ユリウスさんを召喚に参りました」

「全母連?」

「はい。全世界の女神で構成される団体です。今回、副代表のミーナさんから要請がありまして」

 女神って。義母は何をやっているのだろう。女性は伝話の画面をユリウスに向けた。

「!!」

 そこから膨大な量のエネルギーが噴き出してきた。防壁を張る間もなく、ユリウスはその渦に飲み込まれた。

「トモさんの所に行ってください。全女神が応援します」

 気づくと、彼の身体は異世界に転移していた。見知らぬ浜辺は戦場のようだった。そこに、トモの魔力波を感じる。

「トモ!?」

 ユリウスは瓦礫の山に走り寄った。




          ◇



 死にかけた大尉を抱き起したのは、公子だった。穢れた戦場に舞い降りた天使。やはり幻覚だ。南国の強い日差しが公子の金髪を煌めかせる。海よりも碧い瞳が大尉を見下ろした。

(よく分かったな。今は男の姿なのに)

「分かるよ。魔力波が君だもの。これが…君の最期だったんだね」

(そうだ。覚えておけ。戦は始まったら、簡単には止められない。お前の国は決してこうはなるな)

 公子は涙を浮かべて頷いた。泣き虫なのが玉に瑕だ。

「帰ろうよ。トモ。結婚して一緒に勇気を育てよう。お願いだ」

 さらに血まみれの男に求婚する。変わった奴だ。

(やだね。ただの公子妃なんて。次は最高権力者になるんだ。王妃なら考えてやる)

 友久王からトモ王妃か。大尉は笑って瞼を下ろした。もう疲れた。それきり、大尉の意識は無くなった。

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