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11 明日に向かって撃て!

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            ◇


 目覚めたドラゴンは騎士たちの匂いに気付いた。唸り声をあげて向かってくる。

「目標までの距離、およそ700!」

 観測係が叫んだ。いよいよ新兵器の力を試す時だ。副団長は対魔物砲の照準を、怪物の頭に合わせた。

「?」

 急にドラゴンが止まった。角が生えた頭が南を向いた。怪物はそちらに進み始める。

「どうしたんだ?来ないのか?」

 ジェラルドは砲を下ろした。すると“紅の狼”のリーダーが馬に飛び乗った。

「俺の女房がいる!キコもだ!」

 先に逃した女達に標的を変えた。何故だ。理由がわからない。ジェラルド達は走って後を追った。


            ♡


 ドラゴンのブレスを鍋で跳ね返す。角度が合えば奴に当たる。きよ子は段々上手くなってきた。昔、喫茶店でやったテーブルゲームの要領だ。

「エイドリアン!今よ!」

 自分が吐いた光線に焼かれ、ふらついた所をスタローン夫人が斬った。対魔物剣を以てしても、ドラゴンの鉤爪を払うので精一杯だ。

「だから違うって!アハハハ!」

 物凄くピンチなのだが、夫人は笑いながら剣を振るっている。

「あ!今の効いたみたいよ。もう一回」

「あいよ」

 夫人はトットットとドラゴンの体を跳び登り、喉に一撃を与えた。真っ黒な血潮が噴き出した。

「何やってんだお前ら!」

 スタローンが馬を降りて走ってきた。

「お袋!」

「女将さん!」

 息子や別方向に逃げていた女達も来た。“紅の狼”が集合した。

「キコがブレスを跳ね返す。薄い色の鱗を狙うんだ。刃が通るよ」

 夫人は仲間に教えた。スタローンは渋面で剣を抜いた。

「戦わねぇって言ったよな!?」

 仕方ないじゃない。向こうが襲ってくるんだから。きよ子はブレスを弾きながらぼやいた。冒険者達は流石の連携でドラゴンを攻撃し続けた。

 しかし倒れない。傷口は数分で塞がってしまう。何か決定打が欲しい。考えていたら、騎士たちが走ってきた。そういえば馬が無いんだった。哀れ徒歩の騎士だ。

「キコ!」

 若様が対魔物砲を持っている。あれだ。きよ子は叫んだ。

「若様!喉です!撃って!」

 スタローンも騎士らに言った。

「キコと若様を援護しろ!弱点は喉と色の薄い鱗だ!すぐに治っちまうから、切り続けろ!」

「了解!」

 騎士と冒険者は一斉に斬りかかった。さしものドラゴンも苦しそうな咆哮を上げた。


            ◇


 一流の冒険者は騎士に勝るのか。ドラゴンと対等に見える。

「若様!喉です!撃って!」

 呆然としていたジェラルドは、キコの声で正気に返った。部下達もリーダーの指示に従った。対魔物砲は続けて打てない。3分の冷却時間が要る。副団長は慎重に照準を合わせた。

「今です!」

 キコが跳ね返した光線が奴の額に当たった。頭が後ろに倒れる。ジェラルドの前から護衛が引き、彼は引き金を引いた。ドラゴンの喉に大きな穴が開いた。

「やったか?!」

 一発で空になった魔石を排出し、次弾を装填する。ドラゴンはよろめきながらジェラルドに向かってきた。まだ1分も経っていない。撃てない。

「若様っ!!」

 キコの悲鳴が響く。あんな大声、初めて聞いた。なんだか嬉しい。次の瞬間、ドラゴンの爪が鎧を切り裂いた。彼は後方に吹っ飛ばされた。

「副団長!」

「…次、行くぞ」

 後頭部を木にぶつけたが、動ける。今のうちにとどめを刺す。部下に起こされ、再び狙いを定めた。副団長は真下から奴の首を撃ち抜いた。どうっとドラゴンは倒れた。


            ♡


 きよ子は鍋を打ち捨てて、若様の下に走った。鎧がざっくりと切れている。身体に達しているかも。

「見せてください!」

「大丈夫だ。何でもない」

 切れ目から覗くと、鎧下まで切れているが、肌に傷はなかった。きよ子は深く息を吐いた。

「あ」

 破れたポケットからひらひらと紙切が落ちた。真っ黒に焦げている。それは地面で粉々に砕けた。かろうじて残った部分には押し花が見えた。

「これ…」

「君にもらったカードだよ」

 まだ持ってたんだ。というか持ち歩いていたんだ。若様は赤い顔できよ子を見下ろした。

「キコ。さっきは…」

「避けろ!来るぞ!」

 スタローンが叫んだ。倒れたドラゴンの口に光が見えた。喉を失ってまだブレスが打てるのか。鍋は捨ててしまった。奴の最後の一撃が放たれる。若様がきよ子を抱きしめて庇った。

(嘘よ。これで終わりなんて)

 走馬灯は見えなかった。ただ、若様の胸しか見えない。

(いやだ)

 2人をブレスが襲った。きよ子の意識はぷつりと途切れた。


            ◇


 いつまで経っても衝撃が来ない。ジェラルドは目を開けた。彼とキコは無事だった。ドラゴンを見ると、息絶えている。完全に死んだようだ。

「やったぞ!倒した!ドラゴンを倒した!」

 部下が歓声を上げた。

「おい!無事か!?」

 リーダーが走り寄ってきた。副団長は気を失ったキコを抱き上げた。

「ああ。いったい、何が何だか…」

 彼は周囲を見まわした。草木が溶けている。

「ブレスがお前らを襲った瞬間、もの凄い光がここらを照らしたんだ。そしたらドラゴンが死んでた」

「光?…おい、記録は撮ったか?」

 とりあえず勝った。分析は戻ってからしよう。副団長は神官に訊いた。神官は呆然と記録用の魔道具を持って立っている。

「どうした?大丈夫か?」

「…聖女様です」

 何故今そんな話をするんだ。ジェラルドは眉を顰めた。

「キコ様が聖女様だったんです!ああ!お姿が!」

 若い神官は膝を突いた。

「何を馬鹿な…」

 腕の中のキコが急に軽くなった。見ると、あの老婆が眠っていた。
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