竜神の巫女~前世人間、今ドラゴン(♀)。拾った王子をとことん庇護します~

二階堂吉乃

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憩う

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            ◇



「ジョン」

 巫女が部屋に入ってきた。侍従は下がる。10年ぶりに2人は再会した。ルナは何一つ変わっていない。やはり人ではなかった。黒い喪服に身を包み、目に涙を浮かべて立っている。

「ルナ?」

 どうしてそんなに悲しそうな顔をするのだろう。王妃と面識はなかったはずだが。

「奥さんを亡くしたって聞いたわ。お悔やみを言いにきたの」

 そう言ってルナはジョンを抱きしめた。家族はいないが友はいた。ジョンは彼女の肩に涙を落した。侍従も護衛も気を使って入ってこない。優しい巫女は、いつまでも彼の背を撫でてくれた。



            ♡



 ルナは暫く王都にいることにした。ジョンは城に滞在するように勧めたが断った。ネッガー将軍邸に転がり込む。夫人は暖かく迎えてくれた。

「ノルドはどうしたの?」

 赤毛の少年が見当たらない。夫人が彼は騎士団に入ったと教えてくれた。

「そっか15になったんだね。大きくなっただろうなぁ」

「新入りなのに誰よりも大きいみたいなのよ」

 夫人は嬉し気に笑った。幸せそうで良かった。ルナはノルドに会おうと将軍に許可を求めに行った。

「相変わらずだな。巫女どの」

 少し老けた将軍が自ら案内してくれる。騎士団の廊下を歩きながら、この10年の事を聞いた。ノルドは目覚ましい成長を遂げたらしい。今に国一番の剣士になる。将軍は自慢した。幸せそうだ。

 非番のノルドを従者が呼んでくれた。騎士団の食堂で3人で語らう。

「ルナ様!お久しぶりです!」

「わー。大きい!2メートルいってる?」
 
 赤毛の少年は大男になっていた。まだ15歳だろうに。見た目は20代半ばだ。

「まさか。185センチです。でもまだ伸びてますから」

 最終的には巨人だな。彼は以前ルナが話した剣聖ソードマスターを紹介して欲しいと頼んできた。もうノルドに教えられる教師がいないそうだ。

「いいよ。お金払えば来てくれると思う」

 紙とペンを借りて、ルナはその場で紹介状を書いた。ノルドは驚いた。

「え?私が修行に出向くのでは?」

「険しい山で修行とか?今時無いわー。ビジネスだから。指南料は交渉してね」

 保証人を将軍にしようとして、フルネームを知らないことに気づいた。

「ネッガー将軍のファーストネームって何?」

「シュワルツだ」

 ペンが止まった。シュワルツ。息子がアーノルド。家名はネッガー。ムキムキの親子に笑いが止まらない。他の騎士たちに変な目で見られてしまった。



            ◇



 ジョン・シャルル王は書類の山から、次の紙束を取った。王子の養育に関する未決定事項が書かれている。乳母や侍女はいる。それを取り仕切る養育頭を決めねばならない。どの派閥にも属さない中立な人物が良いが思いつかない。

 疲れた王は立ち上がり、窓辺に近づいた。眼下の庭園にルナと赤毛の青年がいた。楽しそうに笑って散歩をしている。ジョンの胸に痛みが走った。輝くような若さが眩しい。この先、ジョンは国政に奔走しながら息子の養育にも気を配らねばならない。辛い未来しか見えない。

「ジョン?」

「わっ!」

 いつの間にかルナが窓から顔を出していた。窓枠に鉤が引っ掛けられ、縄梯子が垂れている。

「ルナ様ー!じゃあ俺行くんでー!」

 ノルドが大らかに言って去った。

「またねー!ありがとー!」

 ルナは手を振った。王は呆然とした。床に下りた彼女は縄梯子を引き上げ、丸めるとスカートの中に仕舞った。

「お仕事中?少し休憩しない?夫人が美味しいクッキー持たせてくれたの」

 またスカートから箱を出す。どうなっているんだ。

「陛下。お茶の準備が出来ております」

 タイミングよく侍従がワゴンを押して入ってきた。釈然としないままジョンはソファに腰を下ろした。毒見をすると言ってルナはクッキーを食べた。

「ルナ。どうして窓から?」

「ノルドに案内してもらってたら、ちょうどジョンが居たから」

 気軽だ。一応王なのだが。護衛も侍従も、彼女を特別扱いのようだ。ジョンは暫し休憩を取ることにした。ノルドの希望で剣聖を呼ぶことになったとか、平騎士の食堂にネッガー将軍が来たら皆緊張して面白かったとか、雑談をする。

「剣聖はまだ現役なのか?」

「結婚してからは指導で食べてるけど、まだまだ強いよ。半分仙人だから年も取らないし」

「…君もだろう?」

 さりげなく不老について訊く。ルナはしばたたいた。自覚が無いようだ。するとその美しい瞳が曇った。

「変?気持ち悪い?」

 ジョンは慌てて否定した。
 
「そんなことはない。竜神の加護なんだろう?素晴らしいことだ」

 話題を変えようと王子の養育係を探している件を話す。ルナがあっさりと答えを出してくれた。

「ネッガー夫人でいいじゃない。息子が出て行って暇そうだよ」

 このクッキーは暇つぶしの産物だった。しかし将軍夫人なら見事な中立派だ。王は早速、将軍に依頼をした。

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