聖女の拳は暗黒魔術

狼子 由

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三章 聖女、皇都で無双する

1.聖女、皇都へ向かう

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 領主は反省したが、すでに皇国へ送った酒は戻らない。
 つまり、俺はアルコールを摂取することができないまま、町を後にしたのだった。

「あーあ……まったくよう。骨折り損のくたびれ儲けとはこのことだよな」
「お前は好き放題うろついていただけだろうが」
「まあ、縄をかけられたり閉じ込められたりしましたからね、ご無事でなによりでした」

 俺の正面にアデル少年。隣にはルークん。
 ちっと密度があがった馬車だが、元がくそデカいので後五人くらい乗せても問題はなさそうだ。

 アデル少年が忌々しげに顔をしかめる。

「なぜお前がついてくる」
「第一衣冠さまのご指示ですので」
「セルジャックさまとて、リュイーゼさまの意向を無視してことを進めることは許されまい」
「とのことですが、リュイさま?」
「別にいんじゃね? ルークん、見かけによらずなかなか役に立つし」
「お前な!」

 激高したアデル少年が俺の襟を引く。耳元に口を寄せ、抑えた声で囁いた。

「……三組織に気を許すなと言っているだろう」
「まあまあ、そう言うなよ。ほら、使えるものは親でも使えって言うだろ」
「はあ?」
「あ、こっちの世界では言わねーのな。おーけーおーけー」

 とりあえずアデル少年との近すぎる距離の中間くらいで、ぐっと拳を握って見せると、気配に気づいた少年は即座に腹を引いた。よろしい。
 俺は笑顔のままルークんを振り向き、ちょいちょいと手招きする。

「少年がぶつくさ言うから、あんた、ちょっと良いとこ見せてくれや」
「私の良いところ、ですか?」
「大ブラムシェ皇国の皇都では、どんな難問をぶつけられると思うかね?」

 これまでの話と全くつながってないにもかかわらず、ルークんは表情一つ変えずに即答した。

「間違いなく、皇国議会に引きずりだされるでしょうね」
「皇帝との会談が目的で向かってるのに?」
「大ブラムシェ皇国では、皇帝など名ばかり。実質的にあの国を治めているのは大領主たちです」
「大領主だと?」

 ようやく気になってきたのだろう。アデル少年が身を乗り出してきた。
 ルークんはゆったりと頷く。

「海に面した北を除き、東西南と皇国の国境線を守護する、強大な権力を持った領主です。彼らと皇帝を中心に開かれるのが皇国議会であり、実質的な最高決定機関ですね」
「ふん。うちのんと似てるから、アデル少年にも状況はまあまあわかりやすいよな」

 宗教的なお飾り最高位にいる聖女と、政治的お飾り最高位の皇帝。
 会えば話も合って案外仲良くなれる――なら、話は早いんだけどなぁ。

「議会で、俺はなにを言わされんのかね?」
「皇国内の聖職者任命権を、皇帝に渡すことを求められるかと」
「あん? 皇国内の聖職者?」
「現在は、アジール聖教会で任命した聖職者が大陸各地に派遣されています。中でも領土の接する皇国へは多数の聖職者が派遣されています。なにせ、あの国の国教はアジール聖教ですから」
「はぁん……」

 ルークんの言いたいことも大体わかったが、それ以上にルークんの目的が――いや、その上司の第一衣冠の目的がはっきりした気がする。
 当然、俺がわかったということも、ルークんはわかっているだろう。

 こういうとき、賢い相手との取引は、下手にバカなやつと取引するよりも楽だったりする。
 お互いが最大の利益を手にするためにはどうすればいいか、その読みが妙な揺らぎや目先の欲望でぶれないからだ。

「つまり、あんたはその聖職者任命権を守るために、俺を見張りにきたわけだな」

 にんまり笑ってやったが、ルークんは微妙に頬を染めつつ両手を振っている。

「や、やめてくださいよ、そんな愛らしい微笑は……私も一応ハニートラップに対する訓練は受けておりますから。いえ、見張る程度でなく、実際に下働きさせていただくつもりでこうして同乗しております」

 妙に落ち着きがなくなっているのは、いいことなのか悪いことなのか。
 判断に困ってアデル少年に視線を向けると、そっちはそっちで両手で顔を覆っていた。

「お前……ほんと容赦ないな!」
「なにがだよ」
「所かまわず振りまくなと……まあいい。そこの上等冠の話を整理すると、つまり東西南の大領主たちを口説き落とせば、こちらに有利となる訳だな」
「なるほど、軽く殴るか」
「殴るな!」

 割と本気で怒られた。
 ありだと思うんだがな、最後の手段としては。
 領民も喜ぶし、俺もやりやすいし、一石二鳥じゃないか?

「いい示威行為デモンストレーションになるかもしれませんね」
「だろ?」
「公開処刑としては」

 ルークんも、どうやらアデル少年に同意らしい。
 味方の二人が二人とも反対するなら、仕方ない。殴る以外の方法を探さねばならないようだ。
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