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二章 聖女、旅商人と出会う
6.聖女、邪悪なる勧善懲悪をする
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領主の悪行は、あっという間に明るみに出た。
だって、ぶん殴った誘拐犯がどれもこれも改心して、泣きながら俺に謝ってくるから。
いやあ、便利だな。聖女の力。
リュイリュイちゃんサマサマである。
「あんたらさ、なんで聖女を誘拐しようなんて思ったんだ」
「領主に言われた通りに動いただけですぅ……!」
「今となってはなんという愚行であったかと恥じ入っておりますぅ……!」
「こんなにも気高く美しく世界のために尽力する聖女さまを前に、大変申し訳ないことをしたと思っておりますぅ……!」
一列に並んで頭を下げる男たちを前にして、アデル少年が渋面を浮かべている。
「リュー……だから言っただろう。お前の力はえぐいんだ」
「こいつらからかかってきたんだぞ? 自分の悪行の報いは受けるべきだろう」
「一理もないとは言わないが、それにしてもひどすぎる。彼らがこの後どうなるのかわかっているのか?」
「どうなるんだ?」
「このまま自分の行為を後悔して泣き暮らし一生を終えるんだよ」
「はあ!? 一生このままなのか?」
「そうだ。ひどい場合は、罪の意識に四六時中さいなまれ飯も食えずに餓死する」
えっ、なんだそれ。怖すぎるだろ。
罠にはめて借金地獄に落とすようなもんじゃねぇか。
いや、俺は他人のことは言えないぞ? 言えないけど、そんな能力を持った人間が聖女ってのはちょっとアレなんじゃあるまいか?
「こ、こいつらもまさか餓死するパターンか?」
「いや、さして力がこもっていなかったようだ。このくらいならまあ……生涯かけて善行を積もうとするくらいで済むんじゃないか」
他人事ながら、ほっと安堵の息をついた。
最初からそのつもりでぶん殴ったならともかく、殴った勢いで相手が死ぬなんて交通事故みたいなもんで後味が悪すぎる。
「それはそうと、領主はなんで俺を狙おうとしたんだ?」
「皇国との取引のネタに使おうとしたのでしょうね」
黙って後ろで見ていたルークんが口を開いた。
それだけでアデル少年は、背後を振り向き射殺しそうな目でルークんを睨んでいる。
ついさっき俺を仲介に自己紹介し合ったばかりなのだが、アデルくんにとって、どうにもルークんは信用できないらしい。
「お前になにがわかる?」
「さあ……? ですが、あなたよりはよっぽどわかっていますよ」
「ルークん、あんたも変にあおるのやめろよな」
「失敬。いちいち突っかかってくるのがどうにも面白くて」
「貴様――」
「はい、ストップ」
間に割り込んで両手を突き出すと、拳の恐怖を知ってる二人は同時に飛びのいた。
「ルークん、マジでそういうのやめろよな。アデル少年も一言一句反応するの青いぞ」
「これは失礼しました」
「……お前に言われると腹立たしいな」
「ま、自力で反省できないならこの拳を使ってだなぁ」
さっきの話を聞いたうえで、知り合いに聖女の力を使う勇気はさすがにない。
が、そんな覚悟のない脅しでも二人は慌て始めたので、よっぽど怖いのだろう。
いや、俺ももし目の前に本物のリュイちゃんが現れて拳を構えたら、それだけで泣きながら土下座すると思うが。
「……で、ルークん。さっき言ってた話も少し詳しく教えろよ」
「皇国との取引ですか? まあ、簡単な話です。一つには、あなたの力がアジール聖教会全体にとっては非常に大きな宗教的権力の象徴であるから、隣国から見れば鬱陶しいんですよ」
「だからって、そんな簡単に誘拐しろなんて取引を、近所の領主とするか?」
「ええ、言いますとも。皇国からすれば成功すれば御の字、失敗しても自国はまったく痛くもかゆくもないですから」
「ふぅん。じゃあ、自国の権力者を差し出すことは、領主にどんなメリットがある?」
「そりゃ、領土の名産品を高く買い付けてもらうことでしょう。……例えば、米酒とか」
「――すべてお前の推測でしかないぞ。証拠はあるのか?」
アデル少年が冷ややかな声で口をはさんだ。
が、証拠なんて固める必要がないことは、俺が一番知っているのだ。
こうして、俺たちは領主の館に戻った直後、軽くぶん殴った領主の自白で、ルークんの言葉がすべて正しいことを証明したのだった。
改心した領主は、その後は心より民のためを思った善政をしいたという。
もうちょい力がこもってたら廃人になりかけてた訳で、俺としては割とハラハラする勧善懲悪であった。
だって、ぶん殴った誘拐犯がどれもこれも改心して、泣きながら俺に謝ってくるから。
いやあ、便利だな。聖女の力。
リュイリュイちゃんサマサマである。
「あんたらさ、なんで聖女を誘拐しようなんて思ったんだ」
「領主に言われた通りに動いただけですぅ……!」
「今となってはなんという愚行であったかと恥じ入っておりますぅ……!」
「こんなにも気高く美しく世界のために尽力する聖女さまを前に、大変申し訳ないことをしたと思っておりますぅ……!」
一列に並んで頭を下げる男たちを前にして、アデル少年が渋面を浮かべている。
「リュー……だから言っただろう。お前の力はえぐいんだ」
「こいつらからかかってきたんだぞ? 自分の悪行の報いは受けるべきだろう」
「一理もないとは言わないが、それにしてもひどすぎる。彼らがこの後どうなるのかわかっているのか?」
「どうなるんだ?」
「このまま自分の行為を後悔して泣き暮らし一生を終えるんだよ」
「はあ!? 一生このままなのか?」
「そうだ。ひどい場合は、罪の意識に四六時中さいなまれ飯も食えずに餓死する」
えっ、なんだそれ。怖すぎるだろ。
罠にはめて借金地獄に落とすようなもんじゃねぇか。
いや、俺は他人のことは言えないぞ? 言えないけど、そんな能力を持った人間が聖女ってのはちょっとアレなんじゃあるまいか?
「こ、こいつらもまさか餓死するパターンか?」
「いや、さして力がこもっていなかったようだ。このくらいならまあ……生涯かけて善行を積もうとするくらいで済むんじゃないか」
他人事ながら、ほっと安堵の息をついた。
最初からそのつもりでぶん殴ったならともかく、殴った勢いで相手が死ぬなんて交通事故みたいなもんで後味が悪すぎる。
「それはそうと、領主はなんで俺を狙おうとしたんだ?」
「皇国との取引のネタに使おうとしたのでしょうね」
黙って後ろで見ていたルークんが口を開いた。
それだけでアデル少年は、背後を振り向き射殺しそうな目でルークんを睨んでいる。
ついさっき俺を仲介に自己紹介し合ったばかりなのだが、アデルくんにとって、どうにもルークんは信用できないらしい。
「お前になにがわかる?」
「さあ……? ですが、あなたよりはよっぽどわかっていますよ」
「ルークん、あんたも変にあおるのやめろよな」
「失敬。いちいち突っかかってくるのがどうにも面白くて」
「貴様――」
「はい、ストップ」
間に割り込んで両手を突き出すと、拳の恐怖を知ってる二人は同時に飛びのいた。
「ルークん、マジでそういうのやめろよな。アデル少年も一言一句反応するの青いぞ」
「これは失礼しました」
「……お前に言われると腹立たしいな」
「ま、自力で反省できないならこの拳を使ってだなぁ」
さっきの話を聞いたうえで、知り合いに聖女の力を使う勇気はさすがにない。
が、そんな覚悟のない脅しでも二人は慌て始めたので、よっぽど怖いのだろう。
いや、俺ももし目の前に本物のリュイちゃんが現れて拳を構えたら、それだけで泣きながら土下座すると思うが。
「……で、ルークん。さっき言ってた話も少し詳しく教えろよ」
「皇国との取引ですか? まあ、簡単な話です。一つには、あなたの力がアジール聖教会全体にとっては非常に大きな宗教的権力の象徴であるから、隣国から見れば鬱陶しいんですよ」
「だからって、そんな簡単に誘拐しろなんて取引を、近所の領主とするか?」
「ええ、言いますとも。皇国からすれば成功すれば御の字、失敗しても自国はまったく痛くもかゆくもないですから」
「ふぅん。じゃあ、自国の権力者を差し出すことは、領主にどんなメリットがある?」
「そりゃ、領土の名産品を高く買い付けてもらうことでしょう。……例えば、米酒とか」
「――すべてお前の推測でしかないぞ。証拠はあるのか?」
アデル少年が冷ややかな声で口をはさんだ。
が、証拠なんて固める必要がないことは、俺が一番知っているのだ。
こうして、俺たちは領主の館に戻った直後、軽くぶん殴った領主の自白で、ルークんの言葉がすべて正しいことを証明したのだった。
改心した領主は、その後は心より民のためを思った善政をしいたという。
もうちょい力がこもってたら廃人になりかけてた訳で、俺としては割とハラハラする勧善懲悪であった。
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